日曜を選んだのは失敗だったか
代官山。言わずと知れたお洒落タウンだ。やはり、お洒落なお酒が出てくるのだろうか。
日曜の夜7時
代官山といえば、2011年にオープンした蔦屋書店も有名だ。
一度だけ行ったことがある
それにしても、洋服屋と美容室ぐらいしか見当たらない。日曜を選んだのは失敗だったか。
お洒落の彼岸を思わせるディスプレイ
1LDKのお家賃16万5000円
小一時間ほど歩き回った末に、気になる店を見つけた。
代官山の「代官」
豊臣秀吉の「秀」に明治時代の「治」
さらに歩いて、ようやく開いているバーを発見。雰囲気も良さそうだ。
「CAFE STREAMLINE」
ブリキを基調とした内装
店内はゾウアザラシの話で盛り上がっている。マスターに声をかけた。
若林秀治さん(42歳)
「豊臣秀吉の『秀』に明治時代の『治』です」。自己紹介も洒落ている。聞けば、お祖父さんが駒込の名前占いの人のところに行って、勝手に名付けたんだそうだ。
「宝の地図」的な風合いのメニュー
店のオープンは3年前。凝った内装は5カ月かけて自分で作ったとのこと。
「近未来の乗り物の融合体のようなイメージですね。でも、場所や時代はあえて曖昧にしてあります」
自作のブリキグッズ
存在感のある食品サンプル
古き良き「代官山」の香りがする
さて、本題を切り出す。「マスター、代官山という街のイメージでお酒を作ってください」。すると、こんな答えが。
「それならちょうどいいかもしれません。この通りだけ、住所が『代官山町』なんです。あとは、恵比寿とか鉢山町になっちゃう」
銀座の有名店「白いばら」のマッチ
ひとしきり考えたのちに「同潤会アパートがあった頃の代官山が好きなので、そのイメージで作りますね」。
さあ、楽しみだ。途中、「レモンかと思ったら玉ねぎでした」というお茶目な一面を覗かせつつも、「代官山」は手際よく作られていく。
こちらは玉ねぎ
「お待たせしました」
これが「代官山」だ!
昭和13年から販売されている「ニッカ・アップルワイン」というリキュールに、隠し味として桃のリキュールを加え、炭酸で割ったものにレモンスライスを添える。
ひと口飲むと…
おお、おいしい。ふだん、カクテルは飲まないが、すっきりとしていて確かに古き良き「代官山」の香りがする。
せっかくなので名前を付けましょうよ、と水を向けると、「じゃあ、『75(ナナゴー)館』にします。ここの番地が代官山町7-5なので。同潤会の棟名のイメージですね」。
値段は750円。美しい。
マスターいわく、「昔の代官山はスイーツ店とかはなくって、エッジの効いた大人が洋服を買いにくるような街」だったそうだ。
居酒屋やスナックはたくさんあるものの
代官山と「代官山」を堪能した。お次は蒲田である。代官山と対極の雰囲気を持つ街という意味合いで選んでみた。
「蒲田行進曲」でもおなじみ
品川駅から3つめ。JRに東急池上線と東急多摩川線が乗り入れ、近くには京急蒲田駅もある。
下町の繁華街である
自転車も大量に撤去される
いざ歩いてみると、居酒屋やスナックはたくさんあるものの、いわゆる“バー”がない。しかし、毎夜の鍛錬で身につけた嗅覚で、よさそうな店を探し当てることに成功した。
どうだろうか
店の名は「Bar Seed1」。表に料金表も貼り出してあり、明朗会計だ。
標準的な価格設定
ライムを絞る力加減で味が違ってくるの
扉を開けると、カップルがちょうどお会計をするところだった。マスターは物腰の柔らかい人物だ。
千種寿さん(43歳)
ちぐさひさしさん。ずいぶん縁起の良さそうなお名前だ。よく、「芸名?」と聞かれるとのこと。
オープンは昨年2月。24歳から8年間、大森で店をやっていたが、そこを閉めた後にいろいろとあって、今回2度目の独立を果たしたという。
さっそく、「蒲田」を注文する。「じゃあ、店の売りになっているジントニックにしましょう。私のはパンチが強いんです」。
これが「蒲田」だ!
ひと口飲むと…
おお、こちらも美味しいではないか。
「ジンの量もよそより多いけど、何といっても決め手はライム。絞る力加減で味が違ってくるの」
いかに周囲に飛び散らさないかで頭がいっぱいで、絞る力加減のことは考えたことがなかった。
高校は受かったけど行かず、15歳からこの世界で働いているそうだ。なるほど、含蓄のある言葉が出るわけだ。
「最近ハマってるの」と言って出してくれた
マスターの実家は羽田。夏の祭りには神輿も出るが、大波に揺れる舟のように左右に大きく振る「ヨコタ担ぎ」という独特の担ぎ方なんだそうだ。
「一度だけやりましたが、2、3日は肩が使い物にならなかったわね」
こういう話が聞けるのも、飲み屋の醍醐味である。
「マンゴスチン」と読む
上のお酒は常連客からのお土産で、「ホントまずいから」と繰り返し言うので、気になって味見させてもらった。いや、割と飲める味でしたよ。
どちらも1店目でこころよくOK
というわけで、「代官山」と「蒲田」を味わえたよき夜である。じつは断られることを想定して、それぞれの街で数軒ハシゴする覚悟をしていたが、どちらも1店目でこころよく受けてくれた。そして、自分が店を出している街の話になると、やはり思い入れが強いようで、数々の面白い話を聞くことができた。さて、次はどこへ行こうかしら。