特集 2015年6月11日

日本最南端の麺文化「八重山そば」

石垣島で食べた八重山そばには、沖縄そばともまたちょっと違う食文化が詰まっていました。
石垣島で食べた八重山そばには、沖縄そばともまたちょっと違う食文化が詰まっていました。
沖縄県の石垣島へいくことになったので、なにかおもしろい食べ物はないかなと調べてみたら、『八重山そば』というものがあるらしい。

八重山そばとは、具志堅用高でおなじみの石垣島や有人島としては日本最南端の波照間島などを含む八重山列島で食べられている麺類で、沖縄そばとも少し違うものらしい。

日本最南端の麺類文化とは一体どんなものなのか、石垣島で食べ歩き、その歴史を咀嚼してきた。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

前の記事:カキの味がする葉っぱ、オイスターリーフ

> 個人サイト 私的標本 趣味の製麺

沖縄には大きく分けて3つの麺類文化があるらしい

縁があって石垣島へと旅行に行くことになったのだが、沖縄県自体が初めての旅。はたして八重山そばの正体はなんなのか、現地でその謎をといてやろうと、あえて下調べはしていないし、多少知っていたことも全部忘れてきた。

直行便の飛行機チケットが高かったので那覇空港経由にしたのだが、その空港内のお土産屋さんで、沖縄そば、宮古そば、八重山そばが『沖縄そば巡り』というセットが売られており、うっかり答えを知ってしまいそうになった。
細かい文字を自分が読み取ってしまわない距離で撮影。
細かい文字を自分が読み取ってしまわない距離で撮影。
とりあえず、沖縄そばとは別のものとしてお土産になるくらい、八重山そばとしての特徴がなにかあるようだ。

沖縄県には、本島を中心とした沖縄そば、宮古列島の宮古そば、八重山列島の八重山そばの3種類がある。

今回は旅の中でわかったことを、赤字で書いていきます。

『なかよし食堂』にやってきた

八重山そばの謎を解くには、とりあえず一杯食べてみなければとやってきたのは、昔ながらのそばを出してくれるという噂の、なかよし食堂さんだ。

ちなみに噂の出所は、あとで登場する島内の製麺所である。八重山そばとは何かという下調べは極力しないようにしたのだが、どうしても製麺所の話は聞きたかったので、アポをとるついでにおすすめの店を聞いておいたのだ。
『なかよし食堂』というネーミングと、その書体がかわいい。
『なかよし食堂』というネーミングと、その書体がかわいい。
店の看板には『八重山そば専門店』と書かれているが、メニューにはゴーヤちゃんぷるやカツカレーもある、地元に愛されている感じの食堂だった。

日本蕎麦の例で例えれば、老舗と呼ばれるような食通御用達の店ではなく、どの街にも一軒はある馴染みの店という感じ。
わかりにくいですが西新井とかではなく石垣島に来ています。
わかりにくいですが西新井とかではなく石垣島に来ています。
カツカレーも気になるが八重山そばを注文。
カツカレーも気になるが八重山そばを注文。

これが石垣島の八重山そばだ

この店のスタンダードメニューであろう八重山そばの大サイズ500円を注文して、ちょっとトイレで小をすませてササっと席に戻ると、もうテーブルに用意されていた。

早いな。
これが八重山そばなのか。
これが八重山そばなのか。
青い縁取りがされた白い丼に、透明感のある薄茶色のスープ。麺は黄色っぽくて断面が丸いタイプの中太麺は、腰の強さはないけれど、この優しい物腰があっさりした汁と合う。

ずっと島内を徒歩でうろうろして疲れていたので、こういうさっぱりしつつもボリュームのあるものが食べたかったんだよと、ついつい膝を打ちたくなる味付けだ。

八重山そばの特徴を伺ってみた

さて外観的な特徴は見てわかるのだが、この一杯を食べただけで、スープのダシがなんだとか、具の肉の部位がどこだとかがわかるほど、私の舌は利口ではない。

そこで店員さんに正解を教えてもらったのだが、まずスープは豚の骨を2時間くらい煮たシンプルなもので、それを醤油などで味付けしたものだった。豚骨なのに極あっさりタイプというのがおもしろい。

そして具は皮付きの豚肉とカマボコを細切りにして、砂糖醤油で甘じょっぱく煮たもの。別メニューにあるソーキ(骨付きアバラ肉)や三枚肉(皮付きのバラ肉)のそばは、ラーメンでいうところのチャーシュー的なもので、ベースとなるスープと麺は同じらしい。
煮込まれたカマボコって初めて食べるかも。
煮込まれたカマボコって初めて食べるかも。
もちろん初めて食べる味だけど、石垣島に数時間でも滞在していれば、スッと体になじむような味。

うまいとかまずいとかの問題じゃなくて(うまいんだけど)、さっき飲んだオリオンビールが特別おいしく感じられたように、この島ではこういうタイプの麺料理が合うのだろう。泡盛飲んだ後のシメ、あるいは二日酔いの体で摂取したい。

地元の埼玉でこってりしたラーメンを食べた翌日にこれを食べたら、どこか物足りない感じがするかもしれないが、この島で食べるならこの味がいいのだろう。
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金城製麺所にやってきた

この島で食べるからこその八重山そばの味がすっかり気に入ったところで、次にやってきたのは1972年に開業した老舗製麺所、金城製麺所さんだ。『かねしろ』ではなく、『きんじょう』と読む。

八重山そばの麺について調べるには、やはり製造元である製麺所で話を伺うのが一番だろう。せっかくだから製麺所を見学したいしね。
金!小売りやネット通販もやっています。
金!小売りやネット通販もやっています。
ここの三代目である金城秀信さんによると、麺の材料は沖縄製粉という会社が出している専用粉をベースにブレンドした小麦粉と、塩とカンスイ。麺の色が黄色いけれど、卵は入っていない。基本的にはラーメンと同じ材料である。

昔の八重山そばの麺は、カンスイ(元々はモンゴルなどでとれるアルカリ性の塩水)がなかなか手に入らなかったので、カジュマルという木の灰を水に浸けた上澄みを使っていたのだとか。
沖縄らしい顔立ちの金城製麺三代目。ガレッジセールのゴリに似ていると観光客から100回くらい言われていそう。
沖縄らしい顔立ちの金城製麺三代目。ガレッジセールのゴリに似ていると観光客から100回くらい言われていそう。
これがガジュマルの木。そこらじゅうに生えてます。
これがガジュマルの木。そこらじゅうに生えてます。

八重山そばはストレートの細い丸麺

麺の材料は沖縄県内だとだいたい同じようだが、その形状は微妙に違う。沖縄そばが太い平麺を手もみで縮れさせたものなのに対して、八重山そばはストレートで細い丸麺が主流。そして宮古そばはストレートで細い平麺。ということは、僕の髪質は沖縄そばが近いのか。

八重山そばの丸麺をはじめたのは金城さんのおじいさんが最初で、それがこの地で気に入られて、八重山そばといえば丸麺になったそうだ。

丸麺と平麺の違いがピンとこないのだが、そこにこだわるお客さんも多く、平麺(あるいは丸麺)しか残っていないと買わないで帰るという常連さんも多いのだとか。
丸麺が主流だけど平麺もある。豆腐の木綿と絹ごしみたいな感じかな。
丸麺が主流だけど平麺もある。豆腐の木綿と絹ごしみたいな感じかな。
工場内にはまるで障害物競走かピタゴラスイッチのようにそれぞれの機能を持った機械がクネクネと並んでおり、ここを小麦粉が一周すると、麺になってパッケージされる仕組みになっている。
まずはミキサーで小麦粉と水と塩とカンスイが混ぜられる。
まずはミキサーで小麦粉と水と塩とカンスイが混ぜられる。
奥から手前に何段階ものローラーを通って、生地がだんだんと薄くなっていく。
奥から手前に何段階ものローラーを通って、生地がだんだんと薄くなっていく。
おじいさんが修行先から引き継いだという年代物の製麺機。ローラーの幅を調節する歯車を眺めながら泡盛が呑めるな。
おじいさんが修行先から引き継いだという年代物の製麺機。ローラーの幅を調節する歯車を眺めながら泡盛が呑めるな。
丸麺用の切り刃。この刃を変えることで、麺の太さや形状を選べる。
丸麺用の切り刃。この刃を変えることで、麺の太さや形状を選べる。
粉から麺を作るまでの流れは、以前に山形で見学させていただいた製麺所とだいたい同じだが(こちらの記事)、ここから先が沖縄系のそばは大きく違う。

できあがった麺を、なんと製麺所で茹でてしまうのだ
いま茹でたら食べるころには伸びちゃうのでと思うけど、そうじゃないらしいです。
いま茹でたら食べるころには伸びちゃうのでと思うけど、そうじゃないらしいです。
うどんや日本蕎麦だと茹でた麺は冷水でしめるが、八重山そばの場合はジェットエンジンみたいな機械の中で油をまぶし、扇風機の風を当てながら手で広げて冷ます

これを袋詰めしたものが、八重山そばの麺なのである。
左が油をまぶす機械。文句なくかっこいい。
左が油をまぶす機械。文句なくかっこいい。
麺というものは茹でたらすぐに伸びてしまうイメージだが、この製法だと、ただ伸びたのとは明らかに違う、あの独特の食感を持った麺となるそうだ。ただし4、5日しか日持ちはしない。

八重山そばがラーメンの一種だと思うとピンとこないが、うどんや日本蕎麦なら茹で麺もスーパーなどで売られているので、その系統なのかと納得できた。

この麺はすでに火が通っているため、サッとお湯をくぐらせて油を落とすくらいで食べられるというメリットもある。あ、なかよし食堂で頼んだ八重山そばが一瞬で出てきたのは、そういうことだったのか。

『からそば』という食べ方もある

石垣島には昔から、海などの食堂や店がない場所へ行く際に、お弁当として麺を持っていく『からそば』という食べ方もあるそうだ

必要なのは八重山そばの麺、醤油、そしてサバやシーチキンの缶詰だけで、鍋も火も皿も不要。箸はあった方がよかったかもしれない。
せっかくなので『からそば』を作ってみることにしました。
せっかくなので『からそば』を作ってみることにしました。
この麺の袋にお好みの缶詰を入れて、醤油で味付けをして、よく揉んでそのまま食べるというのが、『からそば』なのである。

八重山そばが茹で麺だからこそ可能な、ワイルドかつ合理的な食べ方だ。ラーメンバーガーを軽く超える衝撃である。
ものすごく常識から逸脱した、もしかしたら罰当たりなことをしている感じがとても楽しい。
ものすごく常識から逸脱した、もしかしたら罰当たりなことをしている感じがとても楽しい。
麺が450グラムもあるから、缶詰はサバとツナを両方入れた。lこれ3人前くらいあるぞ。
麺が450グラムもあるから、缶詰はサバとツナを両方入れた。lこれ3人前くらいあるぞ。
いくら茹で麺とはいえ、さすがにこれはどうかなと思いつつ食べてみたのだが、なんと好みの味だった。この雑な感じ、大好きだ。

山形などにもサバの缶詰でうどんを食べる文化があるくらいだし、この組み合わせは悪くない。麺にかぶりついて食べるという違和感が隠し味になっている。食べにくさはモスバーガーに近い。

もちろんちゃんと湯通しした麺の方がうまいのだが、このゴワゴワした感じも冷やごはんみたいでおもしろい。麺のおにぎりという感じだろうか
うまーい!
うまーい!
わざわざ家で作ろうとは思わないけれど、石垣の美しい海に行った時などには、作る楽しさを含めて最高においしく感じられそうだ。

金城さんの話では、最近は島内にもコンビニなどが増えたので、この『からそば』を食べる人も減ったそうだが、観光客にとってはどんな沖縄料理よりもテンションが上がるメニューとなるかもしれない。
からそばという食べ方を残そうと、金城製麺所では専用のタレをつくったそうです。豆腐やサラダに掛けてもうまい。
からそばという食べ方を残そうと、金城製麺所では専用のタレをつくったそうです。豆腐やサラダに掛けてもうまい。
石垣島初のハトナイトがおこなわれた『島野菜カフェ リハロウビーチ』には、メニューにからそばがあった。うますぎて別物だが、冷たい八重山そばの可能性を感じる。
石垣島初のハトナイトがおこなわれた『島野菜カフェ リハロウビーチ』には、メニューにからそばがあった。うますぎて別物だが、冷たい八重山そばの可能性を感じる。
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『まつむとぅ家』で八重山そばの原点を知る

次にやってきたのは、石垣島らしい古民家を改装した食堂『まつむとぅ家』だ。釘を使わない伝統的な建築技法で作られているそうで、屋根の赤瓦がチャーミング。

建物は古いが、オープンしてからまだ3年目。元々住んでいた4代目家主である直吉さんが亡くなり、思い入れのあるこの家をどうにか残して欲しいという生前からの遺志を受け継ぐために、食堂という形にしたそうだ。
庭や縁側がある石垣島の伝統的な平屋住宅。こういう建物が残っていて、そこでご飯が食べられるのは観光客としてもうれしい。
庭や縁側がある石垣島の伝統的な平屋住宅。こういう建物が残っていて、そこでご飯が食べられるのは観光客としてもうれしい。
ここに来るためにネットで見つけた住所が間違っていた上に、オフシーズンということで営業時間が短くなっていたため(なんと3月の話です)、どうにかたどり着いたのは閉店直後。

しかし事情を説明すると、そばは出せないが話ならできる、お腹減ってるなら具だけでも食べてみるかと、やさしく対応していただいた。
「まつむとぅ」は昔からの屋号で、名字は松本じゃなくて平田さん。
「まつむとぅ」は昔からの屋号で、名字は松本じゃなくて平田さん。
沖縄の麺文化は明治時代に中国から伝わってきたものであり、それが石垣島に広がり、現在の八重山そばへと進化していったのだが、店主の世代やそのちょっと前の石垣の人にとっての八重山そばとは、意外なことにお店で食べるものではなく、あくまで家庭料理の一つであり、麺を手打ちする人も多かったそうだ。

昔はどの家でも豚を2、3頭飼っていて、それを出荷した際に、売り物にはならない骨や脂身をもらってくる。それを近所に配ることもあるだろう。また戦後はアメリカの統治下だったので、メリケン粉(アメリカ産の小麦粉)の配給があった。そしてカンスイの代用となるガジュマルは、そこらじゅうに生えていた。

豚骨、メリケン粉、ガジュマルという、この島で手に入りやすい材料が結びつき、八重山そばが各家庭でつくられるようになったのだ
ラーメンで言うところのチャーシューとして人気なのが、三枚肉と呼ばれる皮付きの豚。甘辛くてうめー。
ラーメンで言うところのチャーシューとして人気なのが、三枚肉と呼ばれる皮付きの豚。甘辛くてうめー。
テビチと呼ばれる豚足を乗せたそばは女性を中心に人気だそうです。トロットロでうめー。
テビチと呼ばれる豚足を乗せたそばは女性を中心に人気だそうです。トロットロでうめー。
今ではさすがに家で麺から作る人は減ったけれど、石垣島の家庭料理であることは変わりなく、自作スープにこだわる人はまだまだ多い。

本州などから里帰りで戻ってきた人に何が食べたいかと聞けば、「まずはそばが食べたいね」と、10人に8人が応えるそうだ。
八重山そばのスープのベースとなる豚の骨は、今でもスーパーや肉屋などで売られている。
八重山そばのスープのベースとなる豚の骨は、今でもスーパーや肉屋などで売られている。
そんな成り立ちの料理なので、元々は豚の骨だけでスープを作ることが多かったが、島内に鰹節工場がたくさんあったり、昆布をよく食べる食文化だったため(北海道から中国へ輸出する際の中継点で、二級品の昆布をたくさん食べた)、だんだんとダシに鰹節や昆布などを加えることが多くなったそうで、この店でも複数の食材からスープをとっているそうだ。
元民家だけあって、ひとんちっぽくて素敵。家庭料理であった八重山そばを食べるのには最高の雰囲気だ
元民家だけあって、ひとんちっぽくて素敵。家庭料理であった八重山そばを食べるのには最高の雰囲気だ
具はなかよし食堂で食べたとおり、三枚肉とカマボコを甘辛く煮たものが昔からの定番で、これが沖縄そばになると、紅ショウガと煮てないカマボコとなるそうだ。宮古そばは贅沢を隠すため、麺の中に具を隠し入れるのだとか。

ちなみに石垣の人は沖縄本島のことを「本島」ではなく「沖縄」と呼ぶくらい、あくまで別の文化圏であるという意識があるようだ。
翌日の営業時間中にやってきて、ようやく食べられた八重山そば。しみじみうまい。
翌日の営業時間中にやってきて、ようやく食べられた八重山そば。しみじみうまい。

石垣島独自の香辛料、ピパーズ

八重山そばはあっさりした味付けだけに、食べる人が自分好みにカスタマイズすることも多いそうで、そこで必ず登場するのが、石垣島独自の香辛料であるピパーズだ。

ピパーズとは、ヒハツモドキというコショウ科の植物の実を乾燥させて粉状にしたもので、八重山そばにはつきものだが、沖縄そばではまず使わないらしい。

この店ではピパーズと呼んでいるが、ピパーチだったり、ヒハチだったり、地域によって呼び方が微妙に異なるそうだ。ヴォジョレーヌーヴォみたいである。
普通のコショウかと思ったら、ちょっと違う香辛料のようです。
普通のコショウかと思ったら、ちょっと違う香辛料のようです。
まつむとぅ家の自家製ピパーズ。お土産用に購入してみた。
まつむとぅ家の自家製ピパーズ。お土産用に購入してみた。
どんな味なのかと舐めてみると、コショウの仲間だけあってピリっとした刺激があり、一つの材料だけなのに、八角だったり、シナモンだったり、唐辛子だったり、柚子胡椒皮だったりを思わせる、複雑でどこか陽気な風味が加わっている。

実は心のどこかで八重山そばのやさしい味に物足りなさを感じていたのだが、これを一振りすることで、心の隙間が一気に埋められた。

深いな、八重山そば。
最初からドバドバではなく、途中で追加するスーパーサブ的な扱いがいいような気がする。
最初からドバドバではなく、途中で追加するスーパーサブ的な扱いがいいような気がする。

ピパーズは石垣島の石垣に生えている

ピパーズは石垣などの壁をよじ登るように生える植物なので、石垣には事欠かない石垣島では、とても身近な植物だ。

この店でも自家製のピパーズを出しているだけあって、そこらじゅうにピパーズが生えていた。
写真中央に生えているのがピパーズ。葉っぱはジューシーという炊き込みご飯に使うそうです。
写真中央に生えているのがピパーズ。葉っぱはジューシーという炊き込みご飯に使うそうです。
まだ未成熟の実があった。熟すと赤くなるそうです。
まだ未成熟の実があった。熟すと赤くなるそうです。
石垣で育つ香辛料が味の決め手なんて、なんだか出来過ぎた話だが、八重山そばという食文化のパズルが、次々と埋まっていく感じがして気持ちいい。
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栄福食堂で濃いおっちゃんと出会う

今回の石垣島旅行では、八重山そばという私にとっては未知の料理を調査したおかげで、普通の旅では絶対に会わないであろう人とたくさん話せた。

基本的には旅先だろうと知らない人とは余計な話をしないタイプなのだが、こういう名目というかお題があると、話下手の私でも聞くことがあるので会話が成り立つ。そしてその話は全部おもしろい。

最後に紹介する店は、石垣島でたくさん出会った人の中で、一番濃かった人の店だ。
夜の街をウロウロしていたら、深夜営業の八重山そばの店を発見。
夜の街をウロウロしていたら、深夜営業の八重山そばの店を発見。
その店の名前は栄福食堂。またの名をトニーそば。自分のことを『おっちゃん』と呼ぶ店主の存在が、料理よりも思い出に残るタイプの店だった。

店主がトニーなのではなく、トニーと呼ばれた赤木圭一郎という21歳の若さで死去した役者さんが好きだからトニーそばらしいのだが、お客さんがおっちゃんのことをトニーさんと呼んでおり、おっちゃんもそれに返事をしているので、もはやおっちゃんがトニーということなのかもしれない。本名は通事国浩さん。
石垣のトニーさん。マグロ漁師として世界を6周した男。
石垣のトニーさん。マグロ漁師として世界を6周した男。
長期滞在者やリピーターが何度も立ち寄る店のようです。壁一面に貼られている写真がトニーこと赤木圭一郎。
長期滞在者やリピーターが何度も立ち寄る店のようです。壁一面に貼られている写真がトニーこと赤木圭一郎。
ヤギそばも気になる。
ヤギそばも気になる。
メニューを見ると、トニーそばと八重山そばというのがあり、どう違うのかと聞いてみたら、外国人客に八重山そばを説明するのが難しいのでトニーそばと書いただけで、中身は同じとのことだった。本当は違うかもしれないが。

そんなファンキーな感覚が外国人に受けているのか、トニーそばはロンリープラネットという海外のガイドブックにも載っているそうだ。
豚骨のスープが白濁しているけれど極薄味という未体験の味。八重山そばではなくトニーそばだな。
豚骨のスープが白濁しているけれど極薄味という未体験の味。八重山そばではなくトニーそばだな。
この店では例の香辛料を『ピパチ』と呼んでおり、そばだけではなく、コーヒーやチャイにも、シナモンのように一緒に出していた。

おっちゃんは具志堅さん的な独特のしゃべり方で、あぁ遠くまで来たんだなという旅愁を抱かせてくれる人だ。
チャイにピパチ、とても合います。きっとインド人もびっくり。
チャイにピパチ、とても合います。きっとインド人もびっくり。
おっちゃんはこのピパチを自分で育てているそうで、ちょうど収穫のタイミングだから明日の昼間に見せてくれるそうだ。

あと明日の夜に手漕ぎボートでタマン(ハマフエフキ)を釣りに行こうと誘われた。ぶっこみ釣りだそうだ。どうしよう。
はい、酔っていました。
はい、酔っていました。

ヒハツモドキの栽培の様子

そして翌日、僕は約束通りやってきた。

この店を先に見かけたのが昼間だったら、たぶん入らなかっただろうなとちょっと思った。
何屋だ。
何屋だ。
ピパチはコーヒーよりもチャイがおすすめだそうです。
ピパチはコーヒーよりもチャイがおすすめだそうです。
おっちゃんのピパチは店のすぐ裏に生えていて、ブロック塀や建物の壁を這うようにずんずんと伸びて、細長いイチゴのような赤い実をつけていた。確かにこれは石垣が似合う植物だ。

島内をよく観察してみると、ヒハツモドキはそこらじゅうに生えているよ。
僕が本当にまた来たことにちょっと驚いているおっちゃん。
僕が本当にまた来たことにちょっと驚いているおっちゃん。
こんな感じで地面から生えている。
こんな感じで地面から生えている。
茎の途中から根を出して、壁にへばりついているのか。
茎の途中から根を出して、壁にへばりついているのか。
これが若い実。花が咲いた状態なのかな。
これが若い実。花が咲いた状態なのかな。
こんな感じで真っ赤に熟す。
こんな感じで真っ赤に熟す。
唐辛子のように空洞ではなく、イチゴのように種が表面にあって中身が詰まっている。
唐辛子のように空洞ではなく、イチゴのように種が表面にあって中身が詰まっている。
もちろん辛い。胡椒入りの柚子胡椒といった味。
もちろん辛い。胡椒入りの柚子胡椒といった味。
おっちゃんのピパチは屋上までズンズンと伸びていた。
おっちゃんのピパチは屋上までズンズンと伸びていた。
よく見たらオリジナルのTシャツですね。
よく見たらオリジナルのTシャツですね。
天日で乾かして、粉末にしたらおっちゃん特製ピパチのできあがり。
天日で乾かして、粉末にしたらおっちゃん特製ピパチのできあがり。
おかげさまでピパチことヒハツモドキのことが、とてもよくわかった。おっちゃん、ありがとう。

この日は夕方から風が吹いてきてしまったので、結局タマン釣りにはいかなかった。

好奇心が満たされました

私が地元の方から聞いてまわった話は、あくまでそれぞれの個人的な考えであって、偉い人がまとめた八重山そばの定義や歴史とは、もしかしたら少し違うものかもしれない。それを知りたいだけならネットで検索した方が早いだろう。

それでも現地で直接聞きた話には、人づての話ではないからこその重みや説得力があり、僕の好奇心を十分満足させてくれた。八重山そばの謎解きという課題が、そばに振りかけたピパーチのように、この旅に適度な刺激と緊張感を与えてくれたのだ。なんてうまくまとめてみましたが、どうでしょうか。
これは石垣島で食べた日本最南端の味噌ラーメン。自分が今どこにいるのかわからなくなって楽しい。
これは石垣島で食べた日本最南端の味噌ラーメン。自分が今どこにいるのかわからなくなって楽しい。
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