パチンコ屋みたいな外観
JR土浦駅から歩いて3分ほどの場所に「つちうら古書倶楽部」はある。
ここか?
どうみてもパチンコ屋……というか「1Fパチンコ・スロット」と思いっきり書いてある。大丈夫かしらと中に入ると「古本市開催中!」の文字、よかった、間違ってなかった。
よかった、やってる!
店内に入ると、その広さにまず圧倒される。古本屋好きなら卒倒するかもしれない。
ひろーい!
だって、BOOKOFFでも三省堂でもない古本屋なのになにこの広さ! すごい。
古書店ならではの品揃え
「大規模な古書店ならBOOKOFFがあるじゃないか」とお思いの方もいるかもしれない。しかし、古書好き……すくなくともぼくにとってはBOOKOFFはあくまでリサイクル本の店で、品揃えに関してはやはり「古書店でないと」と思うことも多い。
例えば、こういった一枚物の古地図はBOOKOFFではまず扱っていない。
BOOKOFFには古地図がないんだよなー
日本でけえ!
また、つちうら古書倶楽部は、古地図だけでなく、鉄道ものにも強いらしく、鉄道関係の品揃えも充実している。
鉄道ジャーナルもどっさり
雑誌や書籍類はもちろんだが、古書店がいいのは関連するグッズも取り扱っているところだ。
サボはBOOKOFFじゃ売ってないんだよなー
これは珍品なんだろうか?
切符のコーナーには、高橋留美子のキャラクターが描かれた1990年の京葉線の記念切符があった。
あとで調べたら、このキャラクターは「マリンちゃん」という京葉線のキャラクターらしい。すでにこの頃から「鉄道むすめ」みたいなことはやっていたのだ。
路線図まである!
なんだ、なんだここは。目につくもの見かけるものすべてに「あ、なんだこれ?」とか「へーこんなのあるんだ」といちいち引っかかるので時間がいくらあっても足りない。
みてるだけでも楽しい
他にも気になった古書を紹介したい。
ビンビンくるでしょこれ
昔の絵本。絵本といっても立派な古書、一冊1000円程度はする。で、やはり気になってしまうのはのりもの。
小松崎茂タッチのイラストがたまらない
昔の乗り物の絵本は、今の絵本とは違い写真をあまり使わず、イラストをわざわざ描き起こしているものが多く、独特の雰囲気をたたえている。
どれもこれも古くて鳥肌がたつ
この絵本は、乗り物を50音順にひとつずつ紹介していくという趣向の絵本だ。
しかし、この絵本で注目したいのは、すべてのひらがなから、ひとつずつのりものをひねり出すのが苦しかったとみえ「ね」で「ねこぐるま」を登場させるなど、もはや乗り物かどうかも怪しいものを堂々と登場させている点だ。
車輪か?
ネコ車はどちらかと言うと乗り物ではなく、運搬器具のような気がするが、これはあれか、車輪があればいいのか? と納得しかけた矢先「え」の「えれべえたあ」を発見し混乱に拍車がかかった。
これをのりものに分類するか!
エレベーター、確かに人乗ってる。 そういう意味ではネコ車より乗り物っぽい。
……などと、商品をみているだけでも時間がどんどん奪われていく。
この古書店はぼくのために店開いてくれたんですか? と思わずにはいられない。
そう、これ、こういうことなんです「古書店じゃなきゃいけない」ってのは。
古本市システムで大規模古書店を開店
ところで、こんなに大規模な古書店が土浦にあるというのは一体どういうことなのか? 店主の佐々木さんにお話を伺った。
この道30年の佐々木さん
――ちょっとこの広さ、圧倒されちゃったんですが。ふつう古書店でこれほど広いのはなかなかないですよね。
「そうですねぇ。少なくとも関東では最大級だとおもいますよ」
よく古書店があつまった古書街ってのは神保町をはじめいくつかあるけれど、1店舗でこれだけ広いのは珍しい。
――古書店って狭くてみっちりしてるイメージありますけど、通路の幅も広いし、古本ばっかりあるのに新刊書店と変わらないってところが面白いですね。
「もともとパチンコ屋だったんですけどね、去年改装して古本屋にしたんです」
“もともとパチンコ屋”の部分でおもわず「でしょうねぇ」と相槌しかけたが、こらえた。
「ほら、そこ足元の丸い跡、パチンコ屋の椅子のあった跡ですよ」と足元を見てみるとたしかに丸い跡が本棚の前に並んでいる。
もしかしてこの跡は……
佐々木さんは、もともと大きな規模の古書店をやりたいと10年以上構想していたのだが、昨年、店舗をかまえていたイトーヨーカドーが閉店し、撤退を余儀なくされたのを期に、知り合いの古書店主十数人に声をかけ、空き店舗となっていたパチンコ屋を改装し「つちうら古書倶楽部」を昨年オープンさせたのだという。
――ということは、しくみとしては何店舗かの古書店が集まって品物を販売しているということですか?
「そうです、シマごとに各古書店の本をまとめて陳列してあるんです」
よく、新橋や池袋でいくつかの古書店が集まって行う古本市があるが、ここではそれを通年やっているようなものだ。
古本市でテンションが上がるぼくみたいな者にはエル・ドラードにしか見えない。古本の理想郷は土浦にあった。
もともと学生向けの古書店だった
佐々木さんは30年ほど前、脱サラしてこの古書店業界に飛び込み商売を始めた。
「昔は土浦駅の近くに学校がたくさんありましてね、学生の数がものすごかったんですよ。で思ったんです、こういう人たちにマンガや文庫本を売ったら儲かるだろうなって」
古書店の経営はすぐ軌道に乗り、その時に2店舗目をヨーカドーに出店したのだ。
学生向けにマンガと文庫本が充実していた
しかし、少子化で子供の数は減り、店舗を構えていたヨーカドーが土浦から撤退することに。
「もう、昔と同じやり方でやっててもやっていけないなってのは前から考えてて、それでこういった大規模な古書店を開くことを思いついたんですよ」
なんだか、テレ東のドキュメンタリー風通販番組だと、このあと佐々木さんが青汁を飲み出しそうな雰囲気になってきたが、飲みません。
最近はネットで古本の相場が崩れた
佐々木さんが言うには、最近はネットの発達で古本の相場が崩れてしまったらしい。
確かに、本のタイトルをスマホに入力して検索すればその本がどの程度のものなのか、たちどころに検索できてしまう。
「だから、ネットの価格を気にしつつ、いちいち値段をつけ直ししないといけないから大変なんですよ」
――相場を見誤って損したことありますか?
「ありますよー、むかし3000円で売った本を、次の日に図書館に持って行ったら30万円で買い取ってくれましたよ! ってわざわざ報告しにきてくれたお客さんとかいましたけど……でもまあそれは自分が悪いわけですし、3000円で売ってるってことはそれ以下で仕入れたんだから、損してるってわけでもないんですけどね」
金八先生の漫画版だ!
古本屋の間口を広くしたい
――やはりマニアの方とかたくさん来られますか?
「もちろん、いろんなお客さんが来られます。ただ、、いままでの古本屋にありがちな“入りにくい”というイメージは無くしたいんです。ですから、普段あまり古本屋にこないような人にこそきて欲しいですね」
古本屋初心者に向けての注意書き
つちうら古書倶楽部は、マニアが喜ぶようなプレミアのついた高価な古本だけでなく、普通の本好きな人が読むような文庫やマンガももちろん充実しているし、レシピ本などの実用書もたくさんある。
「そういうのを雑本っていうんですけど、その雑本こそが重要だと思ってるんです、将棋で言ったら歩みたいな。雑本があって稀少な本もある、とにかくいろんな人にきてもらわないとだめだと思ってます」
うっかり、佐々木さんの古書店経営に対する熱い思いを聞き出してしまった。しかし、ここまで佐々木さんを熱くさせるのはやはり古本の面白さあってのことだ。
古本には、いい年したおっさんを熱くさせるなにかがあると思う。
やはり面白い本が多い
いくら雑本が多いといってもやはり古書店。おや?っと思う商品は山ほどある。最後にざっと紹介したい。
教科書に載ってたやつだ、アララギ派、ほんとにあるんですね……
みなさんまだ仲良かったころのやつ……ちなみにレコードは一枚200~300円ほどだった
大正~昭和にかけての教科書もどっさりある。教科書だけではなく、使用済みノートまで売っている。教育学の研究をしている人などが購入するらしい
もってけドロボー状態のこけし。ちゃんと値段がついてるので、実際に持っていくと怒られる
戦前に流行った「家族合わせ」というカードゲーム
ネーミングセンスが完全にハイスクール奇面組
むかしの中高生向けの雑誌の付録についてたミステリー小説の豆本、カブトムシ殺人事件、怒るレコード、悪魔はおまえだ……など、気になるタイトルが多い
以上、まだまだ他にも面白い本はたくさんあったのだけど、きりがないのでこれぐらいで終わりたい。
がんばれ古本屋さん
古書店としては、少数の専門的なマニア相手の商売は、ネットの発達で厳しくなってきた。
そこで規模を大きくし、入りやすい雰囲気の店舗で雑本からマニア向けの稀少本まで扱う。
古本好きとしては、こういった古本屋のビレッジバンガードみたいなものが増えると楽しいのでどんどん広まれば面白いと思う。
思わず昔の地図帳ときのこの図鑑、雑誌のキングを買ってしまった