特集 2012年8月30日

そのへんで拾った「サボ」を専門家に鑑定してもらった

これがいくらになったか
これがいくらになったか
そのへんに落ちていたゴミ。と思っていたものが、専門家に鑑定してもらったところ、びっくりするような値段になったので、その一部始終を報告したいと思う。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 新ニホンケミカル TwitterID:tokyo26

それ、(たぶん)高いぞ!

話は5月にさかのぼる。
「昔のグルメガイドで東京おのぼり観光」などの著作でおなじみの当サイトライター、地主くんの個人サイト「Web独り者」に「落ちているエロ本探し【赤羽編】」という記事がアップされた。
タイトル通り、落ちているエロ本を探しに赤羽に行ったという企画の記事だったのだが、
サボを見つけた感想「よくわからないものが落ちてた」だけ!
サボを見つけた感想「よくわからないものが落ちてた」だけ!
内容はともかく、ぼくは記事中にチラリと写っていた写真に目が釘付けになった。

あ、サボ! これ、間違いなくサボだ!
サボとはいわゆる列車の行き先表示板のことである。
その列車がどこへ行くのかを乗客に案内するため、列車の側面や出入口付近に取付けられる鉄板だ。
最近はLED表示などに変わってしまっているものが多いけれど、ぼくが子供のころは行き先表示はこんなのが多かった。
昔はこの部分が鉄板だった
昔はこの部分が鉄板だった
実はこのサボ、鉄道ファンの間ではけっこうな高値で取引されるコレクションアイテムである。
むかし、ちょっと欲しいな、と思ってヤフオクで検索してみたことがあるけれど、ぼくのような中途半端な鉄道好きがふざけて購入できるようなシロモノではなかったため、諦めたことがあった。

ところが地主くんは、草むらの中からこのお宝を偶然見つけたにもかかわらず「生垣の中によく分からない物が落ちていた」と一言で片付けており、全くその価値に気づいてない風であった。

しかも、記事中で「どうぞ拾いに行ってください」と言わんばかりにサボの落ちていた場所をご丁寧にマッピングしてあった。
当初はこの地図にサボが落ちていた場所もマッピングされていた。
当初はこの地図にサボが落ちていた場所もマッピングされていた。
ここで、ぼくは知らんぷりをして勝手に拾いに行ってもよかったのだけど、さすがにそれは人としてどうかと良心が咎めたため、いちおう発見者である地主くんにツィッターで報告してみた。
!
ネット越しなので分からないけれど、たぶん地主くんの眼の色は変わっていたと思われる。数分後、くだんの記事をリロードしたところ、サボの落ちていた場所の地図は消えていた。

捕らぬ狸の皮算用

翌日、地主くんが拾いに行くというので、ぼくもついて行ってみた。
ずっとこの調子
ずっとこの調子
赤羽岩淵駅で落ち合った地主くんはすでにこの顔。「捕らぬ狸の皮算用」ということわざが脳裏をよぎる。
たしか、このへんに……
たしか、このへんに……
記憶をたどりながら川岸の植え込みを探すと……あった。
あったー!
あったー!
たしかに、鉄道に対してなんの思い入れもないひとにとってはただのゴミ。鉄くずにしかみえない。しかし、この鉄くずを欲しがるひとはけっこういるのだ。
ゲヘヘへ
ゲヘヘへ
生垣の中から引き出してみるとそこそこの重量がある。しかも、何枚か束になっている。1枚だけじゃなかったのだ。
縛ってある紐をほどくと……
縛ってある紐をほどくと……
近くの公園で縛ってある紐を解き、中身を検分してみた。
お、お、おぉぉ~
お、お、おぉぉ~
頼んでないけどやったー! のポーズしてた。
頼んでないけどやったー! のポーズしてた。
全部で5枚。どれも年季の入ったサボが出てきた。
これはそれなりの場所に持っていってそれなりの鑑定をしてもらえばそれなりの値段がつくに違いない。
しかし、一体誰が、なんの目的で植え込みに、こんなマニア向けのアイテムを捨てたのかまったく想像がつかない。不思議だ。地主くんにも見解を聞いてみた。
なんであんな所にサボ落ちてたんだろう?
なんであんな所にサボ落ちてたんだろう?
なんででしょうねえ(笑)
なんででしょうねえ(笑)
わりとうわの空だった。

ちゃんと警察に届けた

さすがに拾ったものをそのまま……というのはもちろんマズイので、ここはしっかりと警察へ届け出た。
地主くんは警察に落し物を届けたのは初めてらしい
地主くんは警察に落し物を届けたのは初めてらしい
警察に届け出た拾得物は以下の5点。
新前橋<>大前、裏は高崎<>大前
新前橋<>大前、裏は高崎<>大前
新潟<>東京、裏は新潟<>上野
新潟<>東京、裏は新潟<>上野
福井行き(信越線経由)、裏は上野行(信越線経由)
福井行き(信越線経由)、裏は上野行(信越線経由)
作並行、裏は仙台行
作並行、裏は仙台行
団体専用
団体専用
おとしものの対応をしてくれた警察の担当のひとは、もちろん口には出さなかったけれど、「変なもの拾ってきたなー」という表情がアリアリと見て取れた。
これを? ひろったの? ふーん。
これを? ひろったの? ふーん。
少し前までは、拾得物の保管期間は6ヶ月だったが、現在は3ヶ月に短くなった。つまり、地主くんがこの拾得物を届けてから3ヶ月間持ち主が現れなかった場合、この拾得物の所有権は地主くんに移る。
すでに旅行の計画を立て始めていた
すでに旅行の計画を立て始めていた
そして、8月になった。
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終始ニヤケ顔で拾得物を引き取りに

8月中旬。
ついに保管期限が終わり、拾得物を引き取りに行く事になった。
飯田橋の遺失物センターにやってきた
飯田橋の遺失物センターにやってきた
今回は、拾得物(サボ)を拾得してから3ヶ月間、落とし主が現れなかたので、サボを拾った地主くんに所有権が移る。
やってきたのは飯田橋の警視庁遺失物センター。各警察署に集まった拾得物は、最終的に飯田橋の遺失物センターにまとめられる。
後ろ姿でも顔がニヤけてるのがわかる
後ろ姿でも顔がニヤけてるのがわかる
拾得物の受け取りをサインする地主くん。後ろから見てもニヤけてるのがわかる。

専門家に鑑定してもらった

所有権いただきました
所有権いただきました
手続きはあっさり完了。晴れてというのか、ついにといったほうが良いのかわからないけれど、このサボは正式に地主くんへ所有権が移った。
しかし、喜んではいるものの、このサボいったい具体的にどの程度の価値があるものなのだろうか? 皆目見当がつかない。
やはりここは餅は餅屋ということで、新橋の鉄道グッズ専門店に拾ったサボを持ち込んで鑑定してもらおう。
お手柔らかにお願いいたします
お手柔らかにお願いいたします
今回は、株式会社交通趣味ギャラリーの大谷さんにご協力いただいた。

鑑定結果に息を呑む

机の上に並べたサボを静かに鑑定する大谷さん。
テレビだと「鑑定中」のアイコンが画面の隅でぐるぐる回っているときである。
驚きの鑑定結果はこのあとすぐ!
驚きの鑑定結果はこのあとすぐ!
……しばしの時間が流れる。
西村(以下西)「それでは、一つづつ値段をお伺いしてもよろしいでしょうか? まずはこれ、高崎、大前ですが……」
大谷さん(以下大)「これは……3000円ぐらいですね」
地主(以下地)「3000円というのは中でも安いほうなんですか?」
大「そうですねー」
吾妻線のサボ。3000円
吾妻線のサボ。3000円
貸切列車用のサボはあんまり人気がないが、それでも3000円!
貸切列車用のサボはあんまり人気がないが、それでも3000円!
西「団体専用、これは……」
大「これも3000円ですね、団体専用はあんまり人気がないんです」
地「やっぱり行き先が描いてあるほうが人気あるんですか?」
大「ええ、やっぱりそうですね」
地「行き先も、人気のある場所とかあるんですか?」
大「そうですね、ローカル線のあまり無い駅だと人気がありますね、おっきい路線だと数が出てきますから」
状態の悪さと塗りのタイプが良くなくて3000円
状態の悪さと塗りのタイプが良くなくて3000円
西「この福井行(信越線経由)ってやつはどうでしょうか」
大「これも3000円ですね、これは状態があまりよくないですし、あと、塗り文字なので」
西「塗り文字ですか」
大「文字の書き方なんですけど、これはただ鉄板に塗ってるだけなんです。でも、この作並行みたいに掘ってあるやつがあるんですけど、それだとちょっと高い」
西・地「へー」
右が掘ってある文字、左が塗ってあるだけの文字
右が掘ってある文字、左が塗ってあるだけの文字
西「この作並行ですが」
大「これは……3万円ですね」
地「えっ!」
えーっ! のときの顔
えーっ! のときの顔
地方のあまり大きくない路線の駅なので貴重
地方のあまり大きくない路線の駅なので貴重
大「これは、仙山線(仙台と山形を結ぶ路線)のやつなんですけど、状態がよければもっとします」
地「これは使ってる時からこの状態なんですかね?」
大「もちろん、磨けばキレイにはなります。ただ、錆びてる部分とかはそのままなので、あとそのままの状態の方がいいっていう人もいます」
西「うーん、奥が深いですね」
人気のある特急列車のものなのでこの鑑定結果
人気のある特急列車のものなのでこの鑑定結果
西「最後ですが、この新潟、上野はどうでしょう」
大「これは30000円ですね」
3万円ですね
3万円ですね
地・西「ううーん……(すごい)」
大「これは差込式で、差込式のやつは一般的に安いんですが、これは『とき』という特急なので、人気あるんです」
西「差し込み式ってのは取り付け方の違いですね」
大「ええ、さっきの作並行みたいな吊り下げ式のやつは客車に吊り下げて使っていたものなので古いんですが、この差し込み式のやつは基本的に電車なので比較的新しいんです」
地「でも3万するんですね」
大「そうです、これは白地に赤の特急ですから、特急は人気あるんです」
西「『とき』だって見てわかるんですね」
大「見れば誰でも、少なくとも鉄道好きなひとはこれを見れば「あ、ときだな」ってわかりますね」
地・西「へぇー」

道で拾ったものが、約70000円になった!

地主くんのお父さんと弟の彼女にも現物を見てもらって、びっくりさせようと画策したけれど、けっこう正確に値段を言い当てられてしまって、値踏みの嗅覚すごいと思った。
地主くんのお父さんと弟の彼女にも現物を見てもらって、びっくりさせようと画策したけれど、けっこう正確に値段を言い当てられてしまって、値踏みの嗅覚すごいと思った。

以上、拾ったサボを鑑定してもらった結果はなんと70000円近い価値があるということがわかった。
そのへんに落ちていて、ゴミだと思っていたものがこんな値段になるなんて、そんなアメリカンドリームはいい加減にしていただきたい、という気持ちにもなってくるがドリームではなく、現実だ。
現実だけど、「こち亀」のエピソードみたいなウソっぽい話でもある。しかし本当のことだ。

地主くんは鑑定のあと「鉄道には一切興味はないけれど7万円ちかい価値があるとわかると、なんとなく愛着が湧いてきた」などと現金なことを言いはじめた。
拾ったサボ、どうするか尋ねたところ、とりあえずしばらくは家に保管しておくらしい……。
取材協力
交通趣味ギャラリー
http://www.tokyo-collection.co.jp/
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