ビールを常温で飲むという文化は知ってる
「ビールを冷蔵庫に入れないなんて考えてもみなかった!」なんて無邪気に書くとビールの好きな方には笑われてしまうかもしれない。
分かってる。分かってるのだ、ビールには常温が美味しい種類があったり、そもそもキンキンに冷やすのではおいしくないのだよという考え方もあるということは。
冒頭で友人がいった「冬のあいだはさ、ビール冷蔵庫に入れて冷やすのやめてみなよ」というのは、そういった常温で飲んでもおいしいタイプのビールに対してではなく日常飲む缶ビールについてなのだ。
「ビールを冷蔵庫に入れないなんて考えたこともなかった」というのはそういう意味でである。
スーパーでもコンビニでも日本の缶ビールは今日も冷えている
冷蔵庫に入れていたのは「クセ」でしかない…?!
ビールなのだから買ってきたら今日飲む分は冷蔵庫に入れるというのは、私にとって当たり前のように完全に思考停止的に行っていた習慣だ。
ビールを冷蔵庫に入れない。あまりにもちょっとしたことなのに、いや、ちょっとしたことだからだろうか、大層に「その発想はなかった」と感心してしまったというわけだ。
そもそも東京のコンビニでは常温のビールはほとんど売っていない。小~中規模のスーパーでも常温は箱売りのみだった
ぬるいビールを飲め、というのではない
そもそもこのアイディアは体の冷えやすい私に「ビールは飲むときに白湯を一緒に飲むといい」というアドバイスをくれた友人がくれたものだ(白湯&ビールも楽しいです。
以前記事にもしております)。
あろうことかその友人に「ビール飲むとき白湯をくむのが面倒になってきた」とこぼしたことから、そんなら…特に冬場なんかはもう冷蔵庫にビール入れるのやめなよ、というノリで教えてくれたのだった。
ぬるいビールを飲めというのではなく、1℃でも2℃でもいいから、少しでも高い温度で飲むようにしてみる。そういうことだと思う。
今日は買ってきたビールをその辺に置く。これだけのことなのになんだかわくわくする…
ポイントは「ぬるいビールを飲めというのではない」。ここにつきる。冷蔵庫の外で、でも冷やすことは冷やすのだ。冷やしすぎない、というだけである。
冷えたビールを冷蔵庫に入れない日
さて、うちの近所でいうと、ビールはばら売りで常温で売っている店がはなかった(頼んで出してもらおうとしたが「うちはビールは入荷分全部冷蔵庫に入っちゃってるんです」と言われてへぇーと思うなどした)。
ケースで買う以外、ばらで買うとなると勢いビールは冷え冷えだ。
まずはこの冷えたビールを自宅に持ち帰って、その後冷蔵庫に入れないとどうか確かめてみたい。
ためしに暖かい居間にも置いてみた。なんだこの写真
実験会場は都内の隙間風の入る拙宅です
買ってきたビール3本は
・1本をいつも通り冷蔵庫へ
・1本を暖房を使わない台所へ
・さいごの1本は暖房を入れる居間へ
ばらばらに置き、さらに温度の違いを出すために3時間ほど時間をおいてみた。
ちなみに今回の実験は東京23区内、隙間風が入り寒いことで有名な拙宅で12月中旬に行っております。温度は地域や住宅によりまちまちだと思いますので参考程度にご覧ください(そういや、厳寒の地では外に出すと凍るからわざわざ凍らせないため冷蔵庫にものを入れることもあると聞いたことがある、事情はいろいろですよな)。
右が台所、左が冷蔵庫から出したもの(と言われてもあまりにもピンとこないこの写真よ!)
ビールと温度について
さて、いまさらではあるが飲み比べる前に軽くくらいはビールと温度について触れねばなるまい。
調べてみると日本の大手ビールメーカーが作っているような淡色の「ピルスナー」といわれる種類の適温は3℃~7℃(温度は情報元ごとに多少上下していた。もっと高い温度を適温とする情報も)なのだそうだ。
冷蔵庫から出したビールは7℃
台所(室温15℃)に置いておいたビールは14℃、居間(室温20℃)に置いておいたビールは17℃だった
冷蔵庫から出したビールは7℃。ザ、適温である。
そのほかの2本は14℃(台所)と17℃(居間)と温度だけ見るとぬるいように見えるがどうだろう。
冷蔵庫のビール、7度
・7℃って数字的にみるとそんなに低くない気もしたが、ちゃんと冷えてる
・きりっとしている、いつものビール
・餃子や焼肉に合いそう
台所のビール、14℃
・ぬるくない。まだ「つめたい」と感じられる。
・ぜんぜんアリだ。むしろ美味しい
・特に、料理と一緒に飲むのでなければこちらの方が冷え冷えよりもビールの味がきちんと感じられていいかもしれない
しっかり味わうため、つまみを用意しなかったためこのような写真が続いております
居間のビール、17度
・持つと缶が冷えていない感じ
・冷えていないビールを開けるのには罪悪感がある
・バーベキューで最後のほうに飲むビールの味をしらふで飲むのが不思議
・にがみ、深みを感じる
・にがみ、深みを楽しむための上等のビールを飲んでいると思い込めばまだ自分をだませるか
あまりにも載せる写真がないのも困るので、冷蔵庫でちょうど水切りしていたヨーグルトにブルーベリージャムをかけて食べたがまったくビールと合わず
温度によって全然違う!
飲みながら、ビールの温度、味の感じ方って飲んでいる部屋の温度とか体感温度にもかなり左右されそうだなとしみじみ感じつつ、1番驚いたのは温度によって味がぜんぜん違うことだ。
今日のように体験としてじっくり飲んでみると温度の低くないビールもちゃんとおもしろい味わいがあった。
ただ、17℃まで上がってしまうと若干「ぬるい」=「残念」というボーダーにぎりぎり触れてしまっている感はある。
温度マスターも絶賛、12℃ビール
私だけの感想では不安なので、鍛錬で物の温度を測らなくても体感で計測できるようになってしまったという温度マスター、斎藤充博さんにもビールを冷蔵庫で冷やさずに飲んでもらった。
「台所に放置していた常温ビール飲んでみました。
僕の体感ではこれ12度くらいだったと思います。
このくらいの温度でもおいしいです。
むしろ味がよくわかるというか、今まで飲んでたやつはビールじゃなくて冷たさそのものを味わっていたんだなーと思いました。もう、冬はビール冷やしません」
ビールじゃなくて冷たさそのものを味わっていた……! 確かにその通りだ!
ちなみにぬるぬるの常温状態(おそらく20℃くらい)のビールは、9℃の玄関に3時間置いたら12℃の飲みごろまで下がった
缶ビールは…
・冷たさを味わいたい場合→冷蔵庫(冬場はベランダなどでも)で7℃以下に冷やす
・冷たさにこだわらない場合→15℃以下の場所に置き14℃~12℃くらいで飲む
・20℃くらいの暖かい場所に放置して17℃を超えてしまうと若干残念な味になるが、意外にちゃんと味わうと愛おしいものがある
いっそ温めるのはどうか
今まで冷え冷え一本やりだった缶ビールに新たな選択肢が生まれて感激だ。
選択肢といえば今回「ビールのお燗」というのを勧められたのだった。ついでに試してみたい。
15年くらい前に料理屋でお燗番のバイトをやっていたが、ビールをお燗する日がくるとは
今日はビールに「あつっ!」というリアクション
ビールのお燗についてはお酒に詳しいライターの馬場さんから「炭酸の爽快感はなくなりますが甘さが増してそれはそれとして割と美味しく飲めます」と情報をもらっていた。
ホットビールという飲み物がドイツあたりではよく飲まれるということはちらっと聞いたことがあったが、通常は黒ビールのような種類のビールでやることだろう。
普通の淡色系の缶ビールでも本当にアリだろうか。
耐熱のグラスにうつして湯煎にかけて温めてみた。
ぼんやりしていたら温める側のお湯がぐらぐらに沸いて温度が急上昇、ビールも一時70℃まで上がってかなりアツアツに! あわてて写真もぶれぶれだ
甘くなくって温かいジンジャエールのような
70℃まで上がったものが、引き上げてグラスをふいてなどしているうちに65℃くらいに。飲んでみると、これがなんとおいしかった。「う、うめー!」と声が出てしまった。
しかもこの日はビールではなく我が家ではおなじみのリキュール(発泡性)1、「麦とホップ」を使っている。
「麦とホップ」でいいのか、ホットビールよ。
「麦とホップ」たちが集まって見守っているような写真
味だが、甘くなく味の濃いジンジャエールのようであり、飲み進めるとどこか焼酎のお湯割りのような酒感の力強さも感じる。
ビールの楽しみのひとつである「冷たさ」要素は一切ないわけだが、それがそのまま「熱い」という意外さに差し替わって、うん、結果的にはおいしいしよかったね、みたいにきれいなところに味も話もまとまってしまった。
何事かという風景ではある
結構みんな冷蔵庫に入れていないビールを飲んでいた
ビールを冷え冷えにしない&いっそ温める。ちょっとしたことなのにやけに新鮮な気持ちになれたし、おいしかった。
感心した今回だったが、周囲に聞いてみるとビールを普通に冷蔵庫に入れていないという意見も意外に相次いだので驚いた。
ライターT・斎藤さんは「ベルギービールのケース買いをよくやってまして、常温でもよく飲んでます。少し甘みがあるビールとかは、ぬるいほうがより甘い感じがしてうまいです」とのこと。
今回のテーマは日本の一般的な缶ビールだったわけだが、ベルギービールもこの際いろんな温度で飲んでもおいしそうだ。
そういや海外ではグラス1杯の量が多くて、ぬるくなってもみんな平気で飲むのだという話もよく聞く
驚いたのは編集部 安藤さん。
「実は普段けっこう常温で飲んでいます。あまり家では飲まないので冷蔵庫に入れておくと場所だけとってしまうじゃないですか。ダンボール箱で発泡酒を買って廊下に置いてあるので、飲みたいときはそれを取ってきてそのまま飲みます。別に普通にうまいと思っていました。夏場に冷たいのが飲みたい時は帰りにコンビニで買って帰ります。すみません。」
ベルギービールだとかそういうことじゃなく、普通に発泡酒を常温で飲んでいた。
私が日常革命だ! ときらきらしていたことを、日頃からやっていたのだ。
うむ、人の日常はいろいろである。
売り場でも常温コーナーに目がいくようになった
さらに、お燗ビールを教えてくれた馬場さんは日本酒の利き酒師の資格も持っているとあってビールに対する姿勢もさすがに丁寧だ。
「冷蔵庫の庫内温度は5度ぐらいになるので家庭用冷蔵庫だとビールは冷え過ぎる事が多いです。
保管は普通に冷蔵庫に入れて、飲みごろの温度にしようと思う時は飲む少し前に冷蔵庫から出しておきます」
ビールに対する態度は人それぞれの自由なはずだが、正解があるとすればこれなのだろう。
7℃~10℃くらいのキンキンすぎないビールを楽しむには冷やして→戻す。恥ずかしがっているような写真が撮れた
中国と常温ビール
今回のもとになった友人のアドバイスは、私の冷え性を心配してくれてのものだったわけだが、そういった体調管理の意味合いから中国では冷えたものを食べる習慣すらないという話は以前ちらっと聞いたことがあった。
ライターの大山さんはそれで冷えたビールが飲めなかったことがあるらしい。
「今ではどうかわからないのですが、2007年ごろ中国に仕事でよく行ってたときは彼の地で常温のビールをよく飲まされてました。
どうやら飲み物をきんきんに冷やして飲む、という習慣がもともとないようで(お年寄りはアイスクリームとか絶対に食べないと聞きました)、冷やす?なんで?みたいな感じでした。
あらかじめ『冷えたやつを!』と注文すると『OK!』と言って、やっぱり常温のが出てきます。『だから冷やしたやつだって!』と言うと 『あ、OK、OK!』と言って、やっぱりぬるいのが出てきます」
ぬるいビールに次ぐぬるいビール。昨日までの私だったら「そりゃあ地獄じゃのう」と思うかもしれないが、温度ごとにビールを楽しんだ今となってはやぶさかではないようにも思う。
ビールに対して心が広くなっている。
いろんな温度のビールがおいしくて楽しい
いままで缶ビールといえばギンッギンに冷たいビールが好きだった。今でも冷たいビールが好きなことには変わりない。
でも、同じようにそこまで冷えていなかったりアツアツのビールの味も知った。今回は好きなものが増えたという、そんな感じだ。
いろんな温度のビールがおいしくてうれしい。また少しばかり生きやすくなりました!