特集 2013年8月6日

きびだんごの袋こそ「袋」なのではないか

ただもう「袋」としか言いようのない袋を作りたい
ただもう「袋」としか言いようのない袋を作りたい
袋。ふくろ。モノを入れるモノである。

あまりにも有名なので説明したら逆に分かりにくくなってしまった。

モノを入れるという行為や状態が人間の生活において頻発することから、紙袋、ビニール袋などなど袋のあり方はとんでもなく多様化しておりその呼び名もさまざまだ。さまざますぎて純粋に“袋”となにかを呼ぶことって、ない。

と、思っていたら絵本で見つけたのだ。「桃太郎」のきびだんごを入れるアレである。

再現し、もはや概念もある「袋」を純粋なるモノとして堪能した。
東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

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> 個人サイト まばたきをする体 Twitter @eatmorecakes

もはや袋とは呼ばれない、袋

袋という言葉というと身近なところでは紙袋やビニール袋が上がるだろうか。

言葉を追っていくと浮き袋や手袋、胃袋なんてのも出てくる。何かしらのものを入れる、という機能の需要の高さにはっとする。

人の生きる道で折々に登場する「ものを入れる」というシーン。気づけばそこに袋がある。袋、袋、袋。袋に次ぐ袋。そんな世の中である。

しかしどうだろう。手にはあふれるほどの袋があっても、呼び名としてただ「袋」と呼べるものはあるだろうか。

冷静に袋、ということばを頭に浮かべれば今や真っ先に指すのは「お袋」、つまりお母さんのことだという意外なことに気づく。
袋(左)
袋(左)
意味合い的に「袋」とならぶ広義な言葉に「箱」があるが、箱としか呼べない箱、というものは世の中結構あるように思うのだ。

一方の袋だ。ああ、袋だな袋だなあもうこれ、と思うものってそんなにないのではないか。
全部袋だが、袋、とは呼ばない
全部袋だが、袋、とは呼ばない

絵本で出会った、THE 袋

袋としか呼びようのない袋。そんなものを一度見てみたい。と、しかし私は唐突に駆られたわけではない。

絵本で見てこれはと思ったのだ。「桃太郎」である。
袋……!
袋……!
以前当サイトで「このきびだんごだったら家来になる」という、絵本「桃太郎」を読み漁っておいしそうなきびだんごを探す内容の記事を書いた。

その際にきびだんごだけでなくこの「袋」としかいいようのない袋が気になったのだ。

だってほら、ものすごく袋、としかいいようがないのだこの袋。
袋……だねえ
袋……だねえ

実は絵本では巾着袋が優勢

とはいえ、上のようなTHE袋が登場したのは調べた「桃太郎」絵本21冊のうち数冊で、きび団子を入れる袋は概ねひも付きの巾着袋として描かれていることが多かった。

桃太郎伝説がさまざまな形で伝承されているため描かれ方もさまざまなようだが、私が「袋としか呼べない袋」といっているものも巾着の紐を略すまたは見えない状態として描いているだけというのが正しい見方かもしれない。

それでも、どうだろう。私の頭のなかではもはや「きび団子入れ」といえば巾着袋ではなく、あの袋、になってしまった。
袋、袋よ……!
袋、袋よ……!
もしかするとマンガ「ドラえもん」のひみつ道具「桃太郎印のきびだんご」の影響も大きいかもしれない(このひみつ道具も紐ありだったり紐なしで描かれているようだ)。

いいかげん縫ってみます

袋について日々から語り足らずに興奮してずいぶん文字数がかさんでしまった。何しろ今日はこの袋をぜひ手にとってみたいというわけなのだ。

勇んで昔ばなしっぽい布地を買ってきた。赴いた「ユザワヤ」では「コスプレフェア」が実施中であり、私のやろうとしていることもうっかりコスプレグッズ製作であることにふと気づかされたりして今日も元気である。
さすがユザワヤ、もはや派手であるといってもいいくらいに過度に地味かつ昔話的な生地を見つけることができた
さすがユザワヤ、もはや派手であるといってもいいくらいに過度に地味かつ昔ばなし的な生地を見つけることができた
桃太郎の絵本の袋を見るとこの袋、形状としては下部が丸く持ち手の部分がすぼまっている。布で作った一輪刺し、といったところだろうか。

もしくは、手でぎゅっとつかんでいるだけで首はすぼまっていないのかもしれない。
しつこいですが、これです
しつこいですが、これです
なにしろポイントとしては、底を丸くすることであろう。

イラストを見ると縫い目が一切見えない。もしやゴム製かなどとも思いたくなるが、これは単にあれだアニメ「ルパン三世」の峰不二子のポロリシーンに(シリーズによっては)乳首の書き込みがないのと一緒だ。乳首同様、実際には縫い目もあるのだろう、ということで6枚の布を縫い合わせて底の丸みを出すことにした。
底の面を丸くするため、6枚の布を縫い合わせて作る布ボールを参考に型紙を作った
底の面を丸くするため、上の図のような6枚の布を縫い合わせて作る布ボールを参考に型紙を作った
ストンとしたものと
ストンとしたものと
袋の首がすぼまる2タイプ。うまく立体になるか
袋の首がすぼまる2タイプ。うまく立体になるか
布ボールは赤ん坊のおもちゃとしてよくあるもので、自分の子が小さかったときにいくつかいただいたのだ。その経験がまさかここで生きてくるとは。

赤子の遊んだボールを思い出しながら、布のパーツをミシンで縫い合わせていく。
まずは首ありタイプから。3枚縫い合わせたところ
まずは首ありタイプから。3枚縫い合わせたところ
壺?

あ、いや違う違う違うぞ、袋だ。早くもきび団子入れの風情が出てきたのではないか。色合いが功を奏したか。平行して首なしタイプも無心で作業した。
首なしタイプ。6枚縫い合わせたところ。おお、袋じゃ袋じゃ
首なしタイプ。6枚縫い合わせたところ。おお、袋じゃ袋じゃ
形状的に最初に袋の口を処理するのが良かったのかもしれないが、お裁縫スキルのなさからまず筒部分を縫い付けてしまった。

もろもろの不手際がありつつも概ねはさくさくと作ることができた。
で、できた!
で、できた!
 こちらも完成!
こちらも完成! 口の処理が適当すぎるのは完成を急いたためである

二つの袋がわが手に

ふ、袋である。手にもってわははと豪快に笑ってしまった。袋としかいえないのだ。「なんなんだこれ」と思って「あ、袋か」という。自分内コール&レスポンスががっちり決まった。

2つの袋が、いまわが手に。

「2つの袋」と書くと例の結婚式のスピーチ「3つの袋」のようだが私が手にしているのは給料袋でも堪忍袋でももちろんお袋でもない、純粋な袋なのである。
と、袋だ! と思うと同時にひっくり返してみると…帽子?
と、袋だ! と思うと同時にひっくり返してみると…帽子?
あ、わかったこれ頭巾だ!
あ、わかったこれ頭巾だ!

畳み掛ける昔ばなし感

なんとかぶってみたら頭巾になった。

持てば袋、かぶれば頭巾。なんだろうこの奇妙な昔話的汎用性の高さは。

ふくろだあ~!
でも持つと、どうだろうこの圧倒的な袋感といったら
頭巾トラップを経て感慨もひとしおである。桃太郎伝説は子どもに勧善懲悪を伝えた大変な物語だが、21世紀のこの世で「良き袋をありがという」といった形で感謝されていることをここにに爪あととしてしっかりと残しておきたい。

何を入れようか。やはりきびだんごか

さて、袋はなにかを入れてはじめて袋たるものだろう。

となるときびだんごを作らないわけにはいかない。きびだんごいうと岡山や北海道のお菓子が有名だそうだが、今回はほぼ100%きびを使ったきびだんごを作ってみましたよ。
きび。雑穀売り場に普通に売ってるんですな。お米のようにきびにも、“もち”と“うるち”の品種があるそうな
きび。雑穀売り場に普通に売ってるんですな。お米のようにきびにも、“もち”と“うるち”の品種があるそうな
作り方はシンプルそのもの、炊く、突く、丸める。である。
水分を多めに炊いてしてしまったためまとまるまで水分を飛ばしつつ突くのが大変だった
水分を多めに炊いてしてしまったためまとまるまで水分を飛ばしつつ突くのが大変だった
きなこをまぶしたら一気に味が決まったぞ
きなこをまぶしたら一気に味が決まったぞ
炊いたきびには砂糖を混ぜて突いた。食べてみるぼんやりと薄甘い。水を大目に炊いてしまったこともあり失敗かなと思ったのだが、最後にまぶしたきなこで一気に味がまとまってぐんとおいしくなったのだった。きびだんご、おいしいですね!

袋を作る上で団子の美味しさを知る。一から事情を話さないと何がなにやらである。
ひよって袋のなかにビニールの袋を入れてからきび団子を投入
袋に直に入れるのが本来のあり方かもしれないが、ひよって袋のなかにビニール袋に入れてからきび団子を投入
これが有名な、お腰に付けるあの袋…
これが有名な、お腰に付けるあの袋…

子どもたちに食べさせました

作ったきびだんごは行きがかり上自分の子どもらに食べさせた。

朝いちばんで自宅でこさえていたら食べたい食べたいとせがむのだ。
鬼のせいばつについてくるなら
鬼のせいばつについてくるなら
あげましょう
あげましょう
我が家には猿、キジはもちろん犬すらも残念ながらいないなあと思っていたところであり、欲しがるのならと食べさせた。

心の中で、これでもうしばらくはお母ちゃんについてきてくれよなと思ったのだった。

2人ともおいしいおいしいというので作った分全部あげた。

いい話ストップ!

だんごをおいしいと食べる子に目を細める母を描写してどうする! みんなまどわされないで! 今日の本丸は袋、袋である!

きだんごが思った以上に簡単に短時間でおいしく作れることには驚いたがそれをいうなら「袋」だ。製作時間はわずか2時間弱であった。

概念でしかないと思われたものを具現化するにしてはなんとお手軽な。あまり布でひとついかがでしょうか。
氷嚢みたいでもある
氷嚢みたいでもある
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