特集 2012年11月6日

このきび団子だったら家来になる

もっとも「家来になりたい!」とおもわせるきびだんごを、絵本から探した
もっとも「家来になりたい!」とおもわせるきびだんごを、絵本から探した
まさに知らぬ人などいないだろう、昔話界の不動のエース「桃太郎」。

突然だが今日はその「桃太郎」の、きび団子について注目したい。

というのも我が家にある絵本の挿絵のきびだんごが、その、やけに美味しくなさそうだったのである。
東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。(動画インタビュー)

前の記事:きなこねじりブームの謎に迫る

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でかい桃から男児が飛び出すという話

まずは改めて「桃太郎」だ。我が家には1冊だけ絵本がある。子どもにとお下がりをいただいたものだ。

“でかい桃が川上から流れて”き、しかも“その桃から男児が飛び出す”という考えられない開始早々からの畳みかけ、”鬼をこらしめるために動物を団子で手なずける”という意外すぎる展開など、一旦座って静かに読むと驚きのエピソードの連続で構成されている。
我が家にあるのはこれ。よくある昔話をシリーズで刊行しているタイプ
我が家にあるのはこれ。よくある昔話をシリーズで刊行しているタイプ
これを読んでストーリーのとんでもなさに改めて感心するのと同時に、え、と驚いたのがきびだんごの描かれ方だった。
日本一のきびだんご…
日本一のきびだんご…
アニメ絵で子どもに親しみやすく描かれたかわいらしいキャラクターとは対照的に、このきび団子は、どうだろう、いってしまうとまずそうなのである。

きび団子は美味しそうであって欲しい

そもそも「桃太郎」でいうところのきび団子とは“黍団子”であろうという見方が一般的なようだ。実際は塩味でそれほど美味しいものではないと断言した文献もあった。

しかしそれでは自分が犬やら猿だったら家来になるのは渋ってしまいそうだ。
黍団子、郷土料理の本に探してみたがみあたらず。これは静岡のとうもろこしの粉を使ったものでいわゆる“黍”とは違うものらしい。ワイルドとしかいえない製法
黍団子、郷土料理の本に探してみたがみあたらず。これは静岡のとうもろこしの粉を使ったものでいわゆる“黍”とは違うものらしい。ワイルドとしかいえない製法
「ぐりとぐら」のフライパンケーキや「ちびくろさんぼ」のホットケーキだってまずそうだったら絵本一冊まるまるだいなしだ。続刊もなかったと思う。

実際の黍団子はともかく、せめて絵本に出てくる食べ物といえば美味しそうで憧れる存在であって欲しいじゃないか。

食いしん坊も行くところまで行くと絵本の挿絵に口出しをはじめるのだな、といま自分を俯瞰して思った。

きび団子が美味しそうに描かれている絵本を探す

というわけで、数ある絵本の「桃太郎」のなかから、最もおいしそうにきび団子を描く1冊を探したい。これが今日のテーマだ。

これをもらったら家来になるしかないと思わせるほどのきび団子の挿絵を見つけたい。
おいしそうなきび団子を探すべく
おいしそうなきび団子を探すべく
図書館をまわって「桃太郎」を借りまくった
図書館をまわって「桃太郎」を借りまくった
納得のいくきび団子像を見つけるべく、全部で20冊の「桃太郎」の絵本を借りた。正確に言うと借りては挿絵にきび団子を探し、返してまた別の「桃太郎」を借りてはきび団子を探すという作業を1日繰り返した。職質されたら説明しづらい仕事であるが、カッとなってやった。
借りても借りても新たな「桃太郎」が出てくる
借りても借りても新たな「桃太郎」が出てくる
さすがの力を見せ付けられた
さすがの力を見せ付けられた

「桃太郎」が面白い!

それにしても20冊である。そんなに種類があるものかと思うが、各地の伝承の違いや作家の語りなおしなど1冊1冊が個性的だ。

きび団子以前にちょっとまて、と驚く「桃太郎」も多かったので寄り道をして紹介したい。

今からみんな絶対驚くことを言うぞ。

あらかじめ生まれている桃太郎がいる

なんと、桃から生まれない桃太郎も世の中にはいるのだ。
赤座憲久・文、小沢良吉・絵の「ももたろう」
赤座憲久・文、小沢良吉・絵の「ももたろう」
表紙のたたずまいからして一筋縄ではいかないエッジを感じさせるこの桃太郎。

桃から生まれない、つまりどういうことかというと、こういうことなのだ。
あらかじめ生まれた状態で桃を持ち桶に入った状態で流れてくる
あらかじめ生まれた状態で桃を持ち桶に入って状態で流れてくる
えっ。

である。

これが「アメトーーク」だったら芸人さん総立ちの集中砲火だぞ。ここがデイリーポータルZでよかったな桃太郎よ。

川で生まれちゃう桃太郎もいる

それだけじゃない、桃の状態で川に流れてきたはいいものの、そこから先が急な桃太郎もいる。
絵、文・本多豊國「ももたろう」より
絵、文・本多豊國「ももたろう」より
なんとお婆さんに拾われるのを待たずして勝手に割れて生まれちゃうのだ。

こんなにも「ちょっとまってくださいよ」としかいえないシチュエーションが他にあるだろうか。

退治以前はプー太郎

さらに、これはある地方では有名な桃太郎伝説のようだが鬼退治に出る以前はなまけ者である桃太郎は意外に多い。
なかなかにショッキングな桃太郎の態度(瀬川康男・絵、松谷みよ子・文「ももたろう」より)
なかなかにショッキングな桃太郎の態度(瀬川康男・絵、松谷みよ子・文「ももたろう」より)
食っちゃ寝をして友人が誘っても遊びに出ず成長しても仕事に行かないのだ。老夫婦に育てられながらのこのニートぶりにはふるえる。

テイストでも発揮する

内容だけじゃない。20冊とここまで数が多いと、いかにも昔話風だったり逆にいま風のアニメ絵風だったりといったテイストもいろいろだ。

そんな中で、そうきたかという「桃太郎」もあった。
ムンクっぽくうまれる桃太郎(水谷章三・作、スズキコージ・絵「ももたろう」より)
ムンクっぽくうまれる桃太郎(水谷章三・作、スズキコージ・絵「ももたろう」より)
ブルーナ風の鬼(わらべきみか作「ももたろう」より)
ブルーナ風の鬼(わらべきみか作「ももたろう」より)
鬼が島がまたすごくブルーナぽくて良い
鬼が島がまたすごくブルーナぽくて良い
ひとつひとつ上げていったらきりのない見所の多さなのである。

もう「桃太郎」の生まれ方や育ち方の話だけで飲み会1回はできそうだ。きび団子の話は2次会でしよう。

2次会も長くなりそうなのでとりあえずここでページを分ける。次のページへどうぞ。
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「分類・月見団子型」

ようやくここからが本題だ。基本的にはおいしそうなきび団子を探すだけなので2次会はゆるっとした気持ちで読んでいただければと思う。マスター、お茶。濃い緑茶。

20冊の絵本を読んだところ、きび団子はある程度分類できることが分かった。

一番多かったのが月見団子のようなきび団子だ。月見団子型と分類しよう。
さきほどブルーナ風と紹介した絵本のきび団子。 ほとんど月見団子である。おいしそう。
さきほどブルーナ風と紹介した絵本のきび団子。 ほとんど月見団子である。おいしそう。
絵本の「桃太郎」というとこの絵本を思い浮かべる方も多いのではないかと思う、松居直・文、赤羽末吉・画の「ももたろう」でも描かれているのは月見団子のようなまんまるのお団子だった。
絵本「ももたろう」の定番
絵本「ももたろう」の定番
これぞきび団子というたたずまい
これぞきび団子というたたずまい
さらに今回の調査のきっかけになった我が家にある絵本と同タイプの昔話をシリーズで刊行するような絵本でも月見団子のようなきび団子が登場していた。
今回借りてきたもの(左)、自宅のもの(右)
今回借りてきたもの(左)、自宅のもの(右)
分かりやすく月見団子型
分かりやすく月見団子型
うちの絵本も素直に月見団子風でよかったのでは
うちの絵本も素直に月見団子風でよかったのでは
ちょっと話が違ってしまうが、きび団子といえば「ドラえもん」の「桃太郎印のきびだんご」を忘れてはいけないだろう。

あのきび団子もまん丸の月見団子型だった。やはり「桃太郎」の世界におけるきび団子は月見団子型が勢力としては優勢のようだ。見た目にも美味しそうで良いと思う。
サルも文句なしで付いてくる(さいとうまり・絵「ももたろう」より)
サルも文句なしで付いてくる(さいとうまり・絵「ももたろう」より)
若干サイズが大きめだが、月見団子分類でいいだろう(こわせたまみ・文、高見八重子・絵「ももたろう」より)
若干サイズが大きめだが、月見団子分類でいいだろう(こわせたまみ・文、高見八重子・絵「ももたろう」より)
ちなみにこちらの絵本では桃のお尻っぽさが随一であった
ちなみにこちらの絵本では桃のお尻っぽさが随一であった

「分類・温泉まんじゅう型」

続いて多かったのが茶色っぽい温泉まんじゅうのようなタイプ。

茶色いと"団子”ではなく"まんじゅう"に見えるというのは発見である。
たんまりと(さくらともこ・再話、せべ まさゆき・絵「ももたろう」より)
たんまりと(さくらともこ・再話、せべ まさゆき・絵「ももたろう」より)
五味太郎「ももたろう」より
五味太郎「ももたろう」より
馬場のぼる「ももたろう」でも温泉まんじゅう型
馬場のぼる「ももたろう」でも温泉まんじゅう型
ちなみにこの馬場のぼるの「ももたろう」は出生シーンが超かわいいのでおすすめです
ちなみにこの馬場のぼるの「ももたろう」は出生シーンが超かわいいのでおすすめです
見せ方にもよるが、ちょっと前に流行した10円まんじゅうの風情でもある。どちらにせよ美味しそうだ。

しかしこれは団子なのだから食べると中にはあんこが入っていないのだよなあと思うと急に寂しくなるのが難点か。
西本鶏介・文、高橋信也・絵「ももたろう」より
西本鶏介・文、高橋信也・絵「ももたろう」より
話がずれるが、きび団子は概ね巾着に入れていることが多い。

だが、巾着ではなく場合によって「ふくろ」としかいえないふくろに入れている挿絵も多々あり興味深かった。
ふくろ(上と同じく西本鶏介・文、高橋信也・絵「ももたろう」より)
ふくろ(上と同じく西本鶏介・文、高橋信也・絵「ももたろう」より)

「分類・肉団子型」

さて、ここからは少数派だ。色が茶色くても、温泉まんじゅうには見えないきび団子がちらちら見かけられた。

今回のきっかけになった我が家の絵本のきび団子もその一種だろう。
点々が打ってあってぼそぼそしたテクスチャを感じさせる
点々が打ってあってぼそぼそしたテクスチャを感じさせる
このぼそぼそごつごつした感じ、見ようによっては肉団子のようじゃないか。

このようなきび団子を肉団子型と分類したい。
松岡節・文、ニ俣英五郎・絵「ももたろう」より
松岡節・文、ニ俣英五郎・絵「ももたろう」より
料理上手そうなおばあさんのたたずまいとあいまって、急に美味しそうに思えてきた。
舟崎克彦・文、石倉欣二・絵「ももたろう」より
舟崎克彦・文、石倉欣二・絵「ももたろう」より
肉なら上のように犬ががっついてぜひ家来にというのもうなずける。いや、うなずいたところで肉団子ではなくきび団子なのだがのう。

「分類・でかい」

ここまで紹介したものもそうであったし、きび団子といえば手のひらサイズで小さいものがたくさん、というイメージがある。そんな中、でかくて数が少ないパターンもいくつかあった。

これらのきび団子はでかいということ自体も意外だが、その持ち方にまた注目せざるを得ないものがある。
穴をあけて直に腰に装着(瀬川康男・絵、松谷みよ子・文「ももたろう」より)
穴をあけて直に腰に装着(瀬川康男・絵、松谷みよ子・文「ももたろう」より)
そう持つか。なるほどまさに、童謡通り「お腰に着けたきび団子」である。「そう持つか、そう持つか~、お腰に着けたきび団子」と歌えばゴロも合っている。

かと思えば、お腰につけることを完全に無視した挿絵もあった。
吊るして掲げる(松谷みよ子、和歌山静子著「ももたろう」より)
吊るして掲げる(松谷みよ子、和歌山静子著「ももたろう」より)
鮭かという持ち方。

髪型や服装は完全な桃太郎にもかかわらず、きび団子の持ち方で意外性をぶつけてきた。「桃太郎」を読むにあたる気の抜けなさを表したイラストだと思う。

大きさ的にはこれでもまだ序の口だ。行くとこまで行くとこうなる。
もはや雪だるまを作るかのように(水谷章三・作、スズキコージ・絵「ももたろう」より)
もはや雪だるまを作るかのように(水谷章三・作、スズキコージ・絵「ももたろう」より)
なにか引き返せないものを感じるサイズである。

ちなみにこの絵本では桃太郎が老夫婦を凌駕する大きさに成長したという流れになっており、桃太郎が持つ上ではきび団子は普通サイズということになっていた。のだが、それにしたって限度があるぞ。

「分類・蒸しパン、くし団子型」

まだあるのかと思われそうだが、以上の枠にどうにも分類しづらいきび団子が2冊の絵本で確認さえれた。

ひとつはこちら。月見団子といってしまえばそれでよいのだが、蒸しパンぽいなと思ったらそうとしか思えなくなってしまったのだ。
みんなでじゃんじゃん食べるというのも独自(どんちゃかくらぶ「ももたろうとなかまたち」より)
みんなでじゃんじゃん食べるというのも独自(どんちゃかくらぶ「ももたろうとなかまたち」より)
もうひとつは、前段で紹介した、おばあさんに拾われずして川で生まれちゃった例の桃太郎のきび団子。

この桃太郎、結局おじいさんおばあさんにはめぐり合わないのだ。勢い、きび団子も自分で作る。どうなったかというと、串団子になった。
自力で作ったきび団子は串刺し(絵、文・本多豊國「ももたろう」より)
自力で作ったきび団子は串刺し(絵、文・本多豊國「ももたろう」より)
独立心がきび団子をよりポータブルにしたということかもしれない。

「分類・見えない、ない」

絵本の数だけきび団子の形もあると書いたが、その形が見えない絵本もまたあった。

出てこないのだ。きび団子の絵が。
袋に入ったまま最後までその姿が現れない
袋に入ったまま最後までその姿が現れない
ふくろから推測するに、かなり小さいきび団子のようだ。この感じからすると飴くらいのサイズかもしれない。だとしたら衝撃の小ささである。見たかった。

見えないだけではない、そもそもきび団子というものが物語上に存在しない桃太郎もあった。

あらかじめうまれた状態で川から流れてくる桃太郎がいるのだ。こういうことがあってももう驚くまい。
あべのぼる・作「ももたろう」より
あべのぼる・作「ももたろう」より
きび団子はないが、犬、猿、雉はその正義感だけでふわっと集まってくる展開になっている。

高いモチベーションがあれば報酬はむしろ不要なのだ。おっさんが幕末の志士をモデルにビジネスを語る気持ちがよく分かった。

ベスト美味しそうきび団子は

まずそうなきび団子なんていやだ! と泣きながらはじめた20冊分のきび団子レビューだったが、思った以上にどれもおいしそうでうれしい。

最後にそんななかから今回の一番を紹介しよう。

これがまた、ここまでで紹介したいずれのジャンルにもいまだ属さないタイプである。
その絵本は新・講談社の絵本、斎藤五百枝・絵「桃太郎」
その絵本は新・講談社の絵本、斎藤五百枝・絵「桃太郎」
これだ
これだ
美しくたまご色にかがやく半月型のお団子。

「のちの仙台銘菓、萩の月である」

といわれたら、ほほう……とひげをなぜるよりほかないルックスである。

「おいしそう」というのは主観だ。おしつけるものではないが、私にはこれが抜きん出ておいしそうに見えた。どうでしょう。だって萩の月ですよ(違う)。
萩の月が、こんなに!
萩の月が、こんなに!
今回はタイトルを、ゴロが妙だが「このきび団子だったら家来になる」とした。まさに上の挿絵のようなきび団子をもらったら私はある程度のご相談はお受けするんだろうと思う。

むかし勤めていた会社の上司で大変に尊敬していた方が、よく帰省のお土産で萩の月を買ってきてくれたのだったが、あの尊敬は萩の月をくれたための忠誠だったのかと今気づいた。

昔話、面白いなあ

きび団子きっかけではじめた今回の企画だが、「桃太郎」というよく知っている物語を20冊の絵本で再読する楽しさが想像を完全に越えて驚いた。

次回は一番おいしそうな竜宮城のごちそうを調べようか。食べ物きっかけなら腰も軽い。
最後に紹介した絵本の桃太郎、うまれてすぐ産湯の桶を持ち上げていた。かっこよすぎる
最後に紹介した絵本の桃太郎、うまれてすぐ産湯の桶を持ち上げていた。かっこよすぎる
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