上質だからこその本気ビジュアル
製作は産地の漁協やメーカーによるものだったりいろいろあるのだが、なにしろかっこいいのだ。
テンションの上がる鮭です。
素晴らしいレイアウト。釣り上げられる魚が今にも動き出しそうな躍動感。
おいしいホッケを注文して、トイレで席を立ち、廊下や踊り場に貼られたポスターに遭遇すると、つい見とれてしまう。いいものを見た後のホッケの味はまた格別だ。
こんなに効いている「まさに」はそう見ない。
食用されているフグなど一部をのぞけば、有毒生物でこういったポスターは存在しない。
食べたら毒なのだから当たり前だ。大体何をPRするんだ。
ならばせめて手作りで、というのが情というやつではないだろうか。
かっこよさを解析しよう
この海産物ポスターを海産物ポスターたらしめているかっこよさとは何だろうか?
いろいろ見ていると次のような特長が見受けられる。
一粒一粒が浮き立つような見事な数の子
カニやばい!
板越かきのバックには播州赤穂の生島。ていうかオイスターシスターズなんているのか。
エビが光につつまれる。
カニも包まれる。下の空撮写真も効いている。
「羅皇(RAOU)」ですよ。思わず後ずさりする迫力
速水の瀬を駆ける関の男の熱い想い。それが関の一本釣り。
まず、この環境を誇りたい。
これらをふまえればなんでもかっこよくなる…気がするのだ。
さあプランニング(5分)
そのメソッドを元に早速ラフを書いてみた。
ようこそデイリーポータルへ。ざっくりしたラフが目印だ
ターゲットはイボがちな両生類
今回モチーフとする生き物は「イボイモリ」
主に沖縄諸島や奄美諸島の一部に分布するイモリで「生きた化石」と呼ばれる原始的な両生類である。
上野動物園では保全活動を紹介するパネルおよび飼育個体を展示中
その名の通り、イボがちなごつごつした体をしているが、これは発達した肋骨の先端が張り出してイボのように見えているためだ。なにそれ、仕様からしてかっこよくないですか。
敵に襲われると肋骨を大きく広げて威嚇して、肋骨や皮膚の毒腺から、皆さんお待ちかねの毒を分泌する。
恐竜を思わせる姿。見に行ったときはずっと物陰に隠れていた。
近年では開発による生息地の破壊や外来種の移入による捕食などで数を大きく減らし、1978年に沖縄県、2003年に鹿児島県で天然記念物に指定され、捕獲が禁じられている。
なので、ほっつき歩いているのを見つけて写真に撮るのみである。
他に「産地の景観」たるビーチ、シーサー、ハイビスカスなど、かっこいいポスターの素材を全て現地で集めたい。
本州ではまだ少し肌寒い4月の終わり。私は沖縄へと旅立った。
いきなりハブ博物公園いきましたけどね。
沖縄で素材集めグルグル
個人的には約8年ぶりとなる沖縄。キャッチアンドリリースしたキノボリトカゲは元気だろうか。
8年前のキノボリトカゲ。まあもう元気じゃないよね。
あの時は友人と旅行で訪れて、ひたすら沖縄そばばかり食べていた。
もうそばは飽きた。たまには違うものが食べたいと主張した友人の見つけた定食屋で、店のおばさんに「おすすめは何ですかね」と聞いたら「そば定食です」と即答され、おもわず2人とも「じゃあそれ」と答えてしまった。
今でも目を閉じれば聞こえてくる。7月の沖縄。カウンターの向こうでおばさんがこちらを見つめる中、男2人が無言ですするそばの音。
時空を超えて字数を浪費している場合ではなかった。
イボイモリは夜行性なので、昼はスポット探しと、周辺素材集めにかけ回る。
すなはちB.S.H(ビーチ、シーサー、ハイビスカス)である。
血だるま調でおそろしい「スベル」
美ら海水族館で有名な海洋博公園の近くにあるエメラルドビーチ。
白い砂浜にエメラルドブルーの海が映えて、この世のものとは思えない美しさ。
まあ、遠目から撮影しただけですが。
環境省が認定する「快水浴場百選」に選ばれたらしい。
磯で見つけたマダライモガイ。毒を持っているので要注意。
金武湾沿いのビーチにはメドゥーサ感のある海草がうち上げられていた。
雲で夕陽が隠れていたのが残念。
シーサーならこれしかないだろ!と八重瀬町は友寄へ。
こう見えて滑り台。解説よく見たら獅子舞だった…
さすが沖縄、ワンコインでシーサー。
かと思えばヤンバルクイナも。
そういえばアーケードの2階のウィンドウがこわかった。
結局ふつうのにした。
いわゆる南国情緒=ハイビスカスというしごく短絡的な考えである。
でもハイビスカスの醸し出す南国感やっぱすごい。
切り抜きしやすいかなーとかよこしまな事を考えて写真を撮る。
主役が見つからない…
さあ日がくれたらいよいよイボイモリだ。
※前述したように、イボイモリは沖縄県の天然記念物であり、捕獲が禁止されています。
生息場所の特定を避けるために、写真とキャプションは、適宣関係ないものに差し替えてお送りします。
ハンミョウ。オキナワハンミョウという亜種がいるらしい。メタリックでかっこいい。
バッタ(タイワンクツワムシ)とかも不気味
怖っ!パオンのクリームカラーなど投棄しおって!
イボイモリはいわゆるイモリと生態が異なり、水中生活をしない。
オタマジャクシのような幼生時代を過ごして陸に上がると、ほとんど水に入らず、林の中などで生活する。そういえば私も30代を過ぎてからほんと泳がなくなった。
辺土名商店街の武骨なゲート。
後ろの国頭スーパーもかっこいい。
沖縄で比較的多く見られるのは4月~5月、雨が降って湿気が増えた頃に繁殖行動で活発に動き回るという。
広告看板の圧迫感がすごいむつみ橋通り(那覇)
時期的にはわりとタイムリーだと思うのだが、いかんせん雨が降らない。
道ではミミズなどがひからびており、最近は雨が降っていないようだ。
イボイモリがどうというより、生き物の活性がイマイチな感じなのである。
カエルは少しいたのだけれど…これはシロアゴガエルか。
ご老人の助言「あと2日くらいここにいれたらイモリでそうだけどね~」
結局夜だけではあきたらず、昼間も林を歩き回るが、やはり気配も発見できず。
下を向きながらきょろきょろしていると、一人のご老人に声をかけられた。
「こんにちは。ハイキングか何かですか?」
「こんにちは。ええ、いや、実は、イモリを探してるんですけどね」
「は、イモリ?あの、黒くてのそのそ歩くやつ?」
「ええ、沖縄にしかいないやつを探しているのです」
ご老人のお話によると、ポイントは間違いではないが、とにかくここ何日かは雨が降っていないので、見かけないらしい。
「ちょっと降ればそこの溝とか歩いとるよ」と垂涎のコメント。
わかった。今、私がするべき事は探索じゃない。雨乞いだ。
「(東京から来たと聞いて)そうですか… 沖縄はいいでしょう、ほら、あれ、い、い…」
「イモリですか!?」
「いや、異国情緒が」
「あー、そうですね。いいですね。すいません、がっついちゃって…」
まいったのう(ヤンバルトゲオトンボ)
死せるイボと元気すぎるシリケン
結局、雨乞いも報われず(いや、祈った程度ですが)雨は降らず、沖縄滞在最後の夜を迎えた。
夕方になると厚い雲が空を覆う。局地的に小雨も降ったようだ。
期待を胸に、近くではばたくオオコウモリにびびりながら林道をさまよう。
オカヤドカリの一種かな?
ヒメアマガエル。やっぱちょっと生き物増えてるな。
と、その時、林道脇の側溝に黒い何かが!
イボイモリか?
駆け寄って見ると、おお!確かにイボイモリ!なのだが…
【死がい注意】ウワー遅かったー…(マウスオーバーでモザイクが消えます)
かっさかさのミイラ状態になった姿だった。
数日前に側溝に落ちて上がれなくなり、日差しなどから身を隠す場所も無く、落命したのであろう。
北部のやんばるを通る国道の側溝にはスロープのようなものが設置されていたが、多くの林道ではここに落ち込むと這い上がれずに死んでしまう。
この遺骸は彼らが直面している現実の一面を表している。
残念無念…
気を取り直して捜索を続けると、湿った土の上にまたもや黒い影!
これはみずみずしく、生気にあふれている。生きたイボイモリか?
お前かい!
オキナワシリケンイモリ。沖縄島、渡嘉敷島、渡名喜島に生息する(奄美大島にはアマミシリケンイモリという亜種が分布)しっぽの先が剣のように尖っていることが「シリケン(尻剣)」という名の由来となっている。
頭かくして尻剣隠さず。「尻剣」って書くとなんかいい。
「いわゆるイモリ」であるアカハライモリと似ているが、背中の金箔をまぶしたような斑紋で容易に区別することができる。(※ちなみにアカハライモリは沖縄には生息していない)
水中だと斑紋が映える。
この尻剣しっぽで刺したりして待望の毒を注入するわけではなく、皮膚や筋肉にフグと同じ猛毒、テトロドトキシンを持つ。
今回の探索ではわりと多くの個体に出会う事ができた。
これはこれでかわいい。
※ イモリは皮膚に強い毒を持っているので、さわった後は必ず手を洗ってください。目とかをこすると激痛に苦しみます(経験者)
いいたたずまい。
住んでいる地域によって体色が異なったりする。
「よし、ポスターこれで作ろう」
結局、生きたイボイモリは発見できず、200枚超のシリケンイモリの写真と共に帰京したのだった。君たちを(文字通り)輝かせてやるからな。
さあ、自分で文字書くぞー
ここからはデスクワークだ。東京でデスクワークだ。
背景やイモリ、ビーチや南国情緒などの写真素材は現地で入手したが、まだひとつ足りないものがある。
かっこいい筆文字である。
イモリ写真と共にポスターの顔となる、かなり重要な要素だ。
筆文字フォントくらいネットで楽に入手できるだろうと軽い気持ちで検索をかけてみたのだが…。
結構高いなあ…私はデザインを生業としているわけではないので、使用頻度は多くない。出費は最小限に抑えたい。
沖縄に行っておいて何を言ってるんだという感じだが、いい方法はないだろうかと沈思黙考した結果、ひとつの結論に達した。
「筆、買おう」
墨汁でおなじみの開明から太い筆ペンが!今写真見て思ったけど、下に新聞とか敷け俺。
あとは書くのみ。だからなんか敷け。
イモリよ光れ!あとシーサーも光れ
かっこよく「オキナワシリケンイモリ」と書く練習をする一方で、獲得した素材をグラフィックソフトでレイアウトする。
イモリを光で包み込む。
今まで近くて遠かった、ビーチとイモリの素敵な出会い。
もう一匹背後で光らせよう。(光らせ方をおぼえたのがうれしくて過剰になる)
失敗の山。妙な宗教みたいでこわい。
エメラルドにきらめくビーチそっちのけの黒さ かわいくて殺傷能力の高いテトロドトキシン
つい、イボイモリも作ってしまった(マウスオーバーでモザイクがとれます) 残波岬と合わせたらなんか泡盛っぽくなった。
プリントアウトして飾れば、味気ない我が家もすっかり海鮮居酒屋だ(どこが)
うちの毒はのたのた歩いてかわいいよ!
光に包んで、筆で書くと楽しいゾ!
達成感はあってうれしいんだけど、ディスプレイとにらめっこしいていろんな画像を切り抜いたり、光に包んだりしてたら、また沖縄に行きたくてしょうがなくなった。
イモリだけでなく、無機物でもこれらのメソッドを用いればそれっぽくなるのではないだろうか。
マンションなんかも光ってるし、なんかいろいろ作りたくなってきた。
結局筆文字フォントを買えということだろうか…
こういうのも光に包んだらかっこいいんじゃないですかね。 「バーベルクイナ」とか筆で書いて。