プリンはかたい方がいい
プリンは卵と牛乳と砂糖とバニラで出来る素朴なお菓子。ケーキ屋に限らず、コンビニやスーパーでも各種販売されています。家庭でも簡単に出来ます。実に美味しいお菓子です。
しかし、そのプリンで最近どうにも納得いかないことがあります。それはやたらに「なめらか」や「とろける」とうたったプリンが多い事。日本人のアゴはいつからそんなに弱くなったんだ!
昭和生まれの私には、プリンと言えば弾力があり、スプーンからはみ出してもプリンの形が保たれるような硬プリン。なめらかプリンも味そのものはいいのですが、あれは柔らか過ぎて食べている気がしない。歯に、口の中にプリンを感じられる硬プリンがいいのです。
マーロウのプリン。かたくなければプリンではない…ではなくハードでなければ生きていけない優しくなければ生きていく資格がない、のフィリップマーロウが目印。
耐熱ビーカーに入った硬プリン。
神奈川在住の方にはかなり有名な店で、硬プリンが好きならこれだと前から勧められていたもの。一度食べてみたかった。
スプーンの圧力に対抗する頼もしい弾力。
スプーンで表面を押すと、崩れることなくそのまま沈みます。期待の出来る硬さです。
食べる前に硬さを測ってみます。今回は一定の重さの重りを表面に乗せて、その沈み込む深さで硬さを計測します。
金属の硬さ試験では、一定の力でダイヤモンドなどを押し付けてそれにより出来る跡の大きさで硬さを計測する方法があります。
バニラビーンズが沢山入ったプリンの表面に重りを載せるとこのぐらい沈みました。250gの重りを乗せても崩れることなく形を保っています。
分かりづらいですが、プリンに沈んだ部分だけ濡れて色が変わっています。この長さを測って硬さを比べる。
一家に一台デジタルノギス。
18.15mmの沈み量です。比較の為になめらかプリンにも同様のテストをしてみます。
舌に当るかたさと崩れて飲みこむ時の滑らかさ。このバランスが絶妙。卵の風味も濃厚でバニラの香りも甘く、マーロウのプリン超うまい!
軟弱者!
比較用に「なめらかプリン」と書かれた物を購入してきました。
耐えられるかな、この重さに。
あああぁぁぁっーーー!
重りは全てのみ込まれてしまうのかという程に沈みました。計測してみます。
なめらかプリンが付着していた部分までを沈み込み量としました。
およそ1.3倍重りが深く沈みます。この柔らかさでは確かな満足は得られません。
なぜこんな軟弱なプリンばかり増えてしまうのか…
味はいい。しかし、プリンとしての食べ応えが無い。食感も味の内だろ!これではクリームだ!
フランス語ではプリンの事をクレーム キャラメル(Crême Caramel)と言うそうですが、プリンはクリームではなくプルンとしていて欲しい。プリンの語源は英語のプディング(pudding)が変化したものと言われていますが、その感触を表現したという説もあるのだとか。私としては後者の説を強く支持したいところです。
硬プリンを作る極意をプロに聞く。
どんなに自分がそれを求めていても、世の中の流れがそうでないならば望むものは消えていく。しかたがないですね。ならばどうする。
自分で作るしかないでしょう。ということで、硬プリン作りの極意を教えてもらいました。
男性のみのお菓子教室
ということで自由が丘にやってきました。
今年41歳本厄のオッサンが甘菓子の森に入る。
昭和の香りがするぜ、昔プリン。ムック本「
男子スイーツ塾」に出てきます。
教室では昔ながらの硬さのあるプリン作りを教えてもらえます。参加は抽選でしたが運よく当選。こうしてプロから直接硬プリンの極意を聞く機会に恵まれたのです。
津田先生、よろしくお願いします。
プリン作りは簡単
教室ではまず先生の実演を見ます。
ほう、そうやってカラメルの色を調整するのですか。
最初はカラメル作り。水に上白糖を入れて加熱していくだけ。煮詰めて色がついてきたら鍋を水につけて色を調整。それをカップの底に流しいれておきます。かたよっていても焼いている間に広がるので構いません。
手早く作業が進みます。
続いてプリン液作り。卵に砂糖を混ぜてかき混ぜる。そこに砂糖が溶ける程度に温めた牛乳を入れて混ぜ合わせる。バニラエッセンスを入れてしばらく置いたら表面の泡をラップですくい上げる。
食い入るように見る参加者達。全員男性。みんな硬プリン好きだよな!
実習開始。実演ではザックリやっていたが、かき混ぜ器の使い方、混ぜ方などに細かい指導が入る。
あとはカップに注ぎ入れれば終わり。湯をはった容器にカップを入れてオーブンで蒸し焼きにすれば完成です。
卵、牛乳、砂糖、バニラエッセンスと非常にシンプルな材料。作業も基本混ぜるだけ。昔プリンは実に簡単に出来ます。分量は一応細かくレシピに書かれていましたが、割と大雑把でも構わないとのことでした。昔プリン、簡単です。
カラメルの乗り具合といい、絵に描いたようなプリンだ。
そして出来上がった昔プリンがこちら。確かに硬く昔懐かしい味でした。そして、硬さの中にも濃厚さと滑らかさがある。これがプロの作る味というものか。
ただ、このプリン。私の中では硬プリンと言うには若干滑らかさが強すぎました。私はもっと硬いプリンが食べたい。そこで手を挙げて聞いてみました。
「先生!私はかたいプリンが好きです!どうやればもっと硬くできるのでしょうか!」
先生の答えはこうでした。
先生、教えてください!
全卵を使うか白身の分量を増やせばいい。
そんな単純なことで硬プリン化出来るとは。白身の熱凝固の作用により硬さを作り出すことが出来るそうです。今回の教室のプリンでは卵黄を追加していたので硬さに満足いかなかったのか。なるほど。
この極意を聞いたならば、より硬いプリンを自分で作らねばなるまい。
かたいプリンを作ろう
それでは先生に教わった硬プリンの極意を使ってプリンを作っていきます。
卵、上白糖、牛乳、バニラエッセンス。卵、牛乳、砂糖なら家にいつでもあるのでプリンが作りたくなったらすぐ出来る。
より理想の硬さを求める為、今回は白身の量を変えて3種類ほど作ります。
カラメルは全部同じ。水と上白糖で作ります。少し焦げた方が美味しいとのことでした。
1つは全卵を3個。もう1つは全卵2個に白身を1個追加。更にもう1つは全卵1個に白身を2個追加しました。
暫くは家で食べるオヤツはプリンになるな。
細かい分量は以下の通り。
○白身レベル1
・全卵 3個
・上白糖 80g
・牛乳 250cc
・バニラエッセンス 適量
○白身レベル2
・全卵 2個
・白身 1個分
・上白糖 72g
・牛乳 225cc
・バニラエッセンス 適量
○白身レベル3
・全卵 1個
・白身 2個分
・上白糖 63g
・牛乳 195cc
・バニラエッセンス 適量
卵の白身は40g、黄身が20gとして砂糖と牛乳の量は調整しています。
材料を混ぜ合わせた後のプリン液に泡が残っていると食感が悪くなるので取り除きます。ラップをプリン液の上に乗せて中心から引き上げると取れます。
作り方は教えてもらった方法そのまま。卵に砂糖を混ぜた後に温めた牛乳を入れて混ぜ合わせる。バニラエッセンスを入れたら表面の泡を取り除きます。
今回は表面に重りが乗せやすい様に平たいグラタン皿を使用。面積が変わると強度に多少影響がでますが、そこは誤差ということにして無視
あとはカラメルを入れた耐熱容器にプリン液を入れて、天板に湯をはったオーブンに入れて150度で40から50分ほど蒸し焼きにします。
卵白だけ、卵黄だけ使うお菓子を作ると使わなかった部分が残るので使い方に困る。
串で刺して液が出てこないぐらいに中まで焼けたら取り出し、粗熱をとってから冷蔵庫に入れて冷やします。
押し返されるスプーン。確かな弾力!
大体同じように見えるが硬さは違うはず。
こうして3種類の分量のプリンが出来ました。卵白の率が高い物ほど表面がやや白っぽい以外、見た感じは同じです。
おおっ!確かな弾力!
では、各分量のプリンの硬さテストをしていきます。あと味のチェックも。
全卵3個。懐かしさのある硬プリン
それでは硬さのテストをしていきます。まず全卵3個の物。
さあ、どのぐらい硬いかね。
測定方法は同じように250gの鋳鉄の玉を置いて、その沈み込み量を測ります
明らかに今までの物より表面に浮き上がっている鉄玉。
マーロウプリンより少ない沈み込み量。
15.02mm。硬プリンとして取り寄せたマーロウのプリンよりも更に少ない沈み込み量です。明らかに硬くなっています。
スプーンからはみ出しても微動だにしないその硬さ。
スプーンを差し込もうとするとしっかりとした反発感。すくい上げるとプルンとゆれるも形は一切崩れず。確かな硬さと弾力です。
皿の上にそそり立つ硬さ。
食べてみると、噛んだ時に歯に心地よい反発力を感じます。口の中に塊のまま当たる存在感。そしてツルリと溶けて感じられる卵と砂糖の甘さ。たしかな満足、硬プリンです。どこかに懐かしさのある味で、実にうまいです。
全卵2個+白身1個分。硬さより強めの硬プリン
次々測定していきます。続いて全卵2個に白身1個。
全卵3個より若干だが沈み込みが少ない?
パッと見た感じでは全卵3個の時とあまり沈んだ量は変わらない感じがします。
沈み込み量が減っている!
しかし、測定してみると確かに沈み込み量が減っています。白身が増えることで硬さが増しました。
ゆるがない硬さ。
食べてみると確かに全卵3個よりも硬さを感じます。口の中へのアタック感が明確な輪郭をもって感じられる。確かな満足を得られる硬プリンです。
しかし、黄身が減った影響で溶けたときの滑らかさや卵の濃厚な味が薄まりました。スッキリとした味わいのプリンという感じです。全卵3個と比べてどちらがいいかと言えば、トータルバランスとしては全卵3個の方が私は好みです。
スッキリ甘く、しっかり硬いプリンを求めるならこの比率でしょう
全卵1個+白身2個分。プリンを離れ始めた硬プリン
続いて全卵1個に白身2個です。
かなり浮いている感じになってきた。
ここまでくると、沈み込み量が減ってきているのがなんとなく分かります。
更に沈み込み量が減った!
より沈み込み量が減りました。明らかに硬プリン化しています。
丸ごと1つスプーンで持ち上がりそうな硬さ。
食べてみると、かなりしっかりとしたプリンです。食べ応えは十分あり美味しいのですが、最後の方に少しボソッとした舌触りがあります。
そして黄身の量が少ないので、味はかなりスッキリとしています。ゼリーに少し近づいた感じです。
ライターの松本さんが白身のみのプリンを作ってゼリーのようだと言っています。その状態に近づいたという事でしょう。
概ね美味しいのですが、ここまで行くとちょっとやり過ぎか。
いずれにしろ、どのプリンも満足できる味だった。かたいプリン最高―!
かたいプリンよ、永遠に
かたいプリンは実に美味しかったです。このまま世の中になめらかプリンばかり増えても、もう自分で作ることが可能なので心配ないです。基本は全卵で。気分で白身増しのプリンを作ります。
しかし、買ってくるプリンはシンプルなのに自分で作った物とは違う1つも2つも上の美味しさがあります。それがプロの味。かたいプリンが市場から消えない事を祈ります。いや、今よりも増えて欲しいです。
最近はなんでもフワフワ、トロトロばかり。もっと歯ごたえを!
我が家ではかなり理想の硬さと味だった
C3(シーキューブ)のプリン。今回の記事で使おうかと買いに行ったら、もう取扱いを終了したということで買えず。復活してほしいものだ。あのプリンうまかったな。