特集 2013年3月22日

「外道」と呼ぶなかれ!あぶなくておいしい毒魚、ゴンズイ

 冬のゴンズイに舌づつみ!
冬のゴンズイに舌づつみ!
ヒレに鋭い毒のトゲを持ち、
釣り人に「外道」として嫌われている毒魚、ゴンズイ。
ごく一部の地域をのぞいて、魚屋で売られる事もなければ料理屋のメニューにも登場しない。

しかし、ゴンズイもフグやオニカサゴなどの毒魚達と同じく、かなりの美味らしいのだ。

決めた。食べます。釣り、はじめます。
1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

前の記事:トーキョー「ご当地バード」ウォッチング

> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

外道「ゴンズイ」とは

釣りをしない人は、ゴンズイは水族館で目にするケースがほとんどだろう。
ナマズの仲間で、体長は約10cm~25cm程、黒みがかった身体に2本の黄色いラインが走る印象的なデザインで、幼魚は「ごんずい玉」というナイスな名で呼ばれる群れを作る。
オフ会のような盛り上がり。
オフ会のような盛り上がり。
夜行性で、磯や堤防近くを回遊する為、夜釣りで群れにあたると ゴンズイばかりが大量に釣れだすという事態になる。

彼らは背びれと左右の胸びれに毒棘(どくきょく)と呼ばれる鋭い毒のトゲを持っており、刺されると、焼けつくような激痛に襲われる。
赤丸部分に毒のトゲを持つ。ベンチをバックにすましている場合ではない。
赤丸部分に毒のトゲを持つ。ベンチをバックにすましている場合ではない。
その恐ろしいトゲと、粘膜質の皮膚で夜の闇にぬらっと浮かぶ悪魔的なビジュアルから、多くの釣り人に忌み嫌われており、狙った獲物とは違う魚という意味で「外道」と呼ばれ、捨てられたりする。

死んだ後も毒棘は効力を保っているので、堤防に捨てられたゴンズイを誤って踏んだり(薄いスニーカー程度の靴底なら貫通する!)、知らない人が触って刺されるなどの事故が絶えないという。

釣りに行こう(わかる人といっしょに)

そんな嫌われ者のゴンズイを食べるには、まず釣る事。脂がのっておいしい時期は冬、寒ブリならぬ寒ゴンズイを味わうなら今(当時2月)だ。

しかし、釣りとカラオケが大好きな父を持ちながら、釣りというものをほとんどやった事がない。
当サイトで活動するようになってから、たしかに釣りに行く機会は増えたのだが…
バラムツ(深い)
バラムツ(深い)
カミツキガメ(こわい)
カミツキガメ(こわい)
ドチザメ(ざらざら)
ドチザメ(ざらざら)
世界最大の淡水エイ(でかい)
世界最大の淡水エイ(でかい)
うん、上がってないや。ふつうの釣りのスキルがちっとも。


前述のように、ゴンズイは堤防のそばを群れで回遊する為、釣るには竿にオモリとエサを付けたシンプルな仕掛けで下に落としてやればOK。
「ブラクリ」という、カサゴやアイナメなど、根に住み着いている(根魚)を釣るのに用いられる手法である。

というような事をこの人に教わった。
冬の湘南でミノムシを激写。
冬の湘南でミノムシを激写。
やっぱりね、と言われそうだが当サイトの生き物ライター、平坂さんである。

「ゴンズイを釣りたいのです。釣りから教えてください」
という虫のいいお願いに「いいですねえ、僕も釣りたいです」と快諾どころか、なんと、釣り竿までいただいてしまった。
ありがたいことだ、うれしい、という結末で記事を終わらせたいくらいだ。
釣り竿と、糸を巻き取る機械をゲット!
釣り竿と、糸を巻き取る機械をゲット!

身近な聖地、江ノ島へゴー

舞台はインターネットでゴンズイ釣果の報が続々と上がっている、神奈川県の江ノ島。
「何して遊ぶ?」ゴンズイ釣りに決まってるだろ!
「何して遊ぶ?」ゴンズイ釣りに決まってるだろ!
情報収集をかねて入った釣り具店で
「ゴンズイ釣りたいんですけど…どこで釣れますかね」とたずねてみる。
「は、ゴンズイ?」
そんな事聞いてくるやつは初めてだ、といった態で
「どこでも釣れるよ、あんなもん」と言われた。
「どこでも釣れるよ」「あんなもん」
耽美な響きだ。
私のような釣りのノウハウも、テクニックも持ち合わせていない素人を勇気づけるには充分すぎるコメントではないか。
場所はヨットハーバーそばの大堤防に決定。
場所はヨットハーバーそばの大堤防に決定。
「釣れすぎちゃったらどうしますかねー」
「剥製にして固めてリアルごんずい玉つくりますか」

などと余裕の軽口を叩きながら日が暮れるのを待つ。

かって毒グモを探した時に、「そこらへんにいるものほど、実は見つけるのがむずかしい」ということを学んだのではなかったか。
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夜釣り楽しいじゃないか

日はとっぷりと暮れ、さあ目覚めよゴンズイと夜釣りスタート。

ほどなくして平坂さんの竿にアタリが!
ゴンちゃん(もうあだ名)か!?
ドンコ(エゾイソアイナメ)だった。
ドンコ(エゾイソアイナメ)だった。
醸し出す不気味な雰囲気がゴンちゃんっぽかったので勘違いした。
これもかなり地獄感あるなあ…夜の闇のなせる技か。
これもかなり地獄感あるなあ…夜の闇のなせる技か。
引き続き平坂さんはカサゴを釣り上げる。
すごく絵になる。
すごく絵になる。
続いて私もドンコとカサゴを釣った。
くらべてこのぎこちなさ。頭光りすぎ。
くらべてこのぎこちなさ。頭光りすぎ。
私が釣った魚です(トレーサビリティな感じで)
私が釣った魚です(トレーサビリティな感じで)
カサゴかっこいい。釣り楽しい。本来の目的が木っ端みじんになりそうだ。

しかし、今回のターゲットはゴンズイである。しっかりとクーラーボックスに確保しながらも 自らに言い聞かせる。「こやつらは外道だ!」
まあ、この調子ならばゴンズイなど目じゃないぜと堤防からエサを落とす。

しかしその後、永遠のような時間が…

太古のように静かだ…
太古のように静かだ…
20時頃を境に、ピタリとアタリというか生体反応が止まった。
さっきのカサゴが、世界で最後の魚だったのではないか。

簡単に釣れると思ったので、手袋やカイロなど防寒装備を何一つ用意せずに来た2月の超寒波の中、つり竿の先端を見つめる。
寒い…
「これ、ぶっちゃけ死ぬんじゃないですかね」
「これ、ぶっちゃけ死ぬんじゃないですかね」
たまらず場所を変えたが状況は変わらない。
終電の時間を過ぎた。寒すぎていのちがあぶなくなった。
終電の時間を過ぎた。寒すぎていのちがあぶなくなった。
漆黒の海面を見つめながら2人でいろいろ話した。

日々の生活の事、これからの人生の事、デイリーポータルの事、 伊勢エビは無駄にでかくないだろうか(平坂さんいわく、「そんなことはない」)…

時間はたくさんあった。なんせ結局朝までたった一度のアタリすら無かったのだから。
最初のゴンズイチャレンジは惨敗に終わったのだった。
翌日のカサゴ汁のおいしかった事。
翌日のカサゴ汁のおいしかった事。

逗子でリベンジ!

これしきであきらめてなるものかと翌週、神奈川県内でもうひとつ有名な?ゴンズイスポットである、逗子の小坪漁港を訪れた。
バブリーでデコラーティブな複合施設、逗子マリーナに隣接した漁港。
バブリーでデコラーティブな複合施設、逗子マリーナに隣接した漁港。
江ノ島のように、釣具店で「ゴンズイを…」と訪ねると
「なに?ゴンズイを食べるだと…」
店主のおじいさんはこちらを見つめ、しばし沈黙したあと、感慨深げに言った。

「あんた、魚の事、わかってるねえ~」
「ゴンズイ食べるなんてのはね、魚の事わかってるやつの言う事だよ」

うわ、なんか過大評価されてしまった。

こうして、「魚の事をわかっている男」前提で小坪漁港における釣りのテクニックをいろいろ教わり(やはり吸収できず)、夜釣りスタート。い出よ、ゴンちゃん。
つりニュースの看板かわいい
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「わかっている男」あえなく小坪退散

この日もとにかく寒い。雨が降ってきました。
この日もとにかく寒い。雨が降ってきました。
なんなんだ。私はゴンズイ釣りたいだけなんですよ。
相変わらず釣れる気配はない。
相変わらず釣れる気配はない。
まばらにいた他の釣り客もこの寒さ、釣れなさ、とどめの降雨に耐えかねて皆帰ってしまった。

「だめだこりゃ。場所変えよう」
継続を断念。「魚をわかっている男」の五里霧中の決断である。
一縷の望みをかけて深夜に再び江ノ島の灯台に移動した。

激闘(寒さと)の末、ついに!

天候不順は変わらず、雨どころかあられが降り出した。
天候不順は変わらず、雨どころかあられが降り出した。
日付は翌日となり、もうやだ帰りたい、スタバ行きたいという気持ちと戦いながら竿を上げると…なんか重い!
かかってた!毒魚!うれしい!スタバも行きたい。
かかってた!毒魚!うれしい!スタバも行きたい。
ゴン、おまえだったのか。竿を重くしてたのは(新美南吉風に)
ゴン、おまえだったのか。竿を重くしてたのは(新美南吉風に)
時刻は深夜2時。丑三つ時に、夢にまで見たゴンちゃんとのご対面である。

危険な3箇所の毒棘をハサミでちょんぎって除去。
ヒレごと切り取る。ここは細心の注意が必要となる。
ヒレごと切り取る。ここは細心の注意が必要となる。
毒棘すげー。
毒棘すげー。
のこぎり状の返しがついており、刺さると容易に抜けない仕様になっているのが心憎い。
どこでおぼえたのだろうかそんなこと。

※ ゴンズイの毒棘は死亡してからも毒が消えないので刺さると大変な激痛を伴います。取り扱いは充分に注意してください。

その場で内蔵を取り除き、クーラーボックスへ。
外道でアナゴが釣れた。かっこいい。
外道でアナゴが釣れた。かっこいい。
結局釣れたゴンズイはこの一匹で朝を迎えた。
出会いの夜が明けた。
出会いの夜が明けた。

ゴンズイ汁がうますぎる!

やっと捕獲した一匹のゴンズイ。
代表的な調理法と思われる味噌汁、いわばゴン汁を作ってみる事にした。


作り方はいたって簡単。かぼちゃ(これが相性抜群なのだそうだ)
と、ぶつ切りにしたゴンズイを鍋に放り込み、味噌を加え煮る。
ゴンズイ本来の味を楽しむ為に余計な具は入れず、お好みでネギなどを加える。
これで一杯のゴン汁が完成。
ゴン汁一杯なのですが、よろしいでしょうか。って、うまそうじゃんか!
ゴン汁一杯なのですが、よろしいでしょうか。って、うまそうじゃんか!
うまい!うまい!なにこれ!
ゴンズイから出る脂がカボチャと絡まって絶妙なコクのある甘み。

さっぱりした上質の白身にうまみがしみ込んで、もう骨までしゃぶってしまう。小骨も少なく、気にならない。
魚体が小さいため、少しもの足りない。食べ終わるのが惜しい。
魚体が小さいため、少しもの足りない。食べ終わるのが惜しい。
ゴン汁すごい、テイスティ。毒ミシュランがあったら余裕の三ツ星だろう、
いや、毒食べてないんですが。(熱すると無毒化します)

ゴンズイシェフになりたくて

あまりのうまさに脳のどこかをやられた私は、翌週の夜、やはり夜の江ノ島に立っていた。
おお、なんか
おお、なんか
釣れ始めた!
釣れ始めた!
ぶきみでかわいい!
ぶきみでかわいい!
毒棘が怒っている。
毒棘が怒っている。
2回の釣行(2回も行ってんのかよ)で6匹をゲット。「煮たり揚げたりすりゃなんとかなるか」シェフの気まぐれゴンズイ料理のスタートだ。
ゴンズイのぼり。一番大きいので23cm程。
ゴンズイのぼり。一番大きいので23cm程。
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ゴンズイの煮付け

これはもううまいでしょう。
これはもううまいでしょう。
内臓をとったゴンズイを醤油、砂糖、酒で煮る。
鍋が小さくて縄文時代の屈葬状態に。
鍋が小さくて縄文時代の屈葬状態に。
調理はいたってシンプルだが、とにかく美味い。

さっぱりした白身にコラーゲンチックな食感の皮が
絡んで、もう、タンバリンを打ち鳴らしながら走りたくなるぐらいうまい。
上品な白身。いや、かなりびっくりする美味しさですよ。
上品な白身。いや、かなりびっくりする美味しさですよ。
ゴンズいで一番うまいといわれているところは実は頭。
さあ、目を閉じて。
さあ、目を閉じて。
口とヒゲのあたりからキスするようにしゃぶりつき、ゼラチン質の肉?をいただくのである。
ちゅぱちゅぱ、ちゅぱちゅぱと、味だけでなく「俺、なにやってんだ」という切なさも格別だ。

ゴンズイとアナゴの柳川風

ビジュアルがちょっとアレだが
ビジュアルがちょっとアレだが
一緒に釣れたアナゴも投入。誠実なまなざし。
一緒に釣れたアナゴも投入。誠実なまなざし。
ぶつ切りのゴンズイとおろしたアナゴをゴボウ、ニラと一緒に煮て、卵でとじる。
ちょっと煮込みすぎてたまごがしんなりした感はあるが、この「だらしなさ」もまたいい感じだ。
とろけるおいしさ!やっぱりあたまを吸う。ちゅぱっと。
とろけるおいしさ!やっぱりあたまを吸う。ちゅぱっと。

ゴンズイの唐揚げ 断末魔風

表情の断末魔感がすごい…
表情の断末魔感がすごい…
唐揚げも実に美味。ほっくほくでさっくさくである。私のボキャブラリーの貧困さもすごい。二度と唐揚げ記事の依頼はこないだろう。
歯がこわい…なんかこれは吸わなかった。
歯がこわい…なんかこれは吸わなかった。

おそろしくてかっこいいトゲを鑑賞

ゴンズイずくしの食卓を充分に堪能した。
次は持ち帰った毒のあれを沸騰したお湯に入れ、無毒化し、皮や肉を取り除く。
すでに毒抜きしたものをこちらに用意しております。
すでに毒抜きしたものをこちらに用意しております。
毒棘鑑賞である(食べませんよ、念のため)。
マクロで撮影。なんと精巧な造り、ゴンズイ工芸。
マクロで撮影。なんと精巧な造り、ゴンズイ工芸。
斜めの溝は毒腺(どくせん)の跡だろうか?毒棘を覆っている皮との間に毒腺があり、人の皮膚に刺さると、トゲから剥がれた毒腺が傷口から注入されるという仕組みだ。

そんなすばらしい機能美に敬意を表し、この毒棘で、水族館で買ったゴンズイのマスコットをリアルにしてみた。
ヒレに本物の毒棘を装備。こわかわいい。
ヒレに本物の毒棘を装備。こわかわいい。
なんだかんだ言って、これが一番やりたかった事かもしれない。
※ 毒はもう無いですが、ただ刺さってもそれなりに痛いので充分注意してください、っていうかマネしないでくださいこんなの。

(ゴンズイだけに)トゲの随まで楽しめる!

なんか気に入った写真。
なんか気に入った写真。

うまいうまいとは聞いていたが、想像を超える味だった。
脂が落ちてさっぱりするという春夏のゴンズイも賞味したいものだ。
取り扱いさえ(かなり)気をつければ、ゴンズイはかわいいし、ぬめぬめしてるし、おいしい。
外道からの復権を目指し、私はこれからも海に出て、ゴンズイを釣るだろう。肩を組み、さあ、唄おう、ゴンズイ讃歌を(ない)
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