上野公園の入口に並ぶ師弟の作品
上野駅の公園口を出ると、まず目に飛び込んでくるのが昭和36年(1961年)に建てられた東京文化会館である。
日本の現代建築に大きな影響を与えた建築家、前川國男(まえかわくにお)の代表作だ。上野公園の玄関を飾るにふさわしい、立派なたたずまいのモダニズム建築である。
直線的でありながら丸みを帯びた風貌が印象的
日除けのスリットが格子みたいで上品ですな
また東京文化会館の向かいには、これまた極めて上質なモダニズム建築、国立西洋美術館本館が建っている。
日本唯一のコルビュジェ作品、国立西洋博物館本館
東京文化会館を建てた前川國男は、モダニズム建築の巨匠として知られるフランスの建築家、ル・コルビュジェの元で建築を学んでいた経歴がある。いわば師弟関係なんですな。
国立西洋美術館本館はそのル・コルビュジェが設計を行い、弟子の前川國男らによって昭和34年(1959年)に完成されたものだ。2007年には重要文化財に指定された。
宙に浮いた箱のような外観が特徴的だ
以前、コルビュジェの最高傑作と称されるサヴォア邸についての記事を書かせていただいたが(→
参照)、改めて見るとこの国立西洋美術館本館、やはりサヴォア邸と共通する部分が多いですなぁ。
フランスのパリ郊外に建つサヴォア邸
もちろん、コルビュジェの理念は弟子の前川國男にも受け継がれ、前述の東京文化会館にもその要素が随所に盛り込まれている。
現代の建築に大きな影響を与えた師弟の作品が並ぶ上野公園の入口。それだけでも、わくわくさせられるじゃないですか。
公園の隅に建つ、日本初の音楽ホール
さて、続くは上野公園の北西部、東京芸術大学のキャンパス近くにひっそりたたずむ木造の旧東京音楽学校奏楽堂だ。
こちらは明治23年(1890年)、山口半六(やまぐちはんろく)と久留正道(くるまさみ)という二人の建築家によって建てられた、日本初の本格的西洋式音楽ホールである。こちらもまた重要文化財。
落ち着いた雰囲気の洋風建築
デザインも色使いもシックで素敵
日本初とか、そういう響きに弱い私としては、なかなかに興味をそそられる建築である。中も見てみたいと思ったが、残念ながらこの日はホールが使用中との事で、拝観は叶わなかった。
まぁ、音楽堂として建てられた建物が今もなお音楽堂として使われているのは素晴らしい事である。
国際子ども図書館の建物は大人な雰囲気
旧東京音楽学校奏楽堂のすぐ北には、国際子ども図書館がある。“子ども図書館”という名前の施設ではあるものの、その建物はあまりに荘厳な、ルネサンス様式の洋風建築だ。
それもそのはず、元は帝国図書館(現在の国会図書館)の建物として明治39年(1906年)に建てられたもので、平成10年(1998年)までは国会図書館の支部、上野図書館として利用されていたという。
ででーんと建つ、国際子ども図書館
過剰になりすぎず、さりげない装飾が色っぽい
避雷針もいちいちデザインが凝ってる
国会図書館から児童書の図書館へと用途が変わった今、ここには親子連れの客が絵本を読みに来たりするのだろう。
子どもがこの建物を見たら、普通の町では見慣れない建物の荘厳さにびっくりするんじゃないだろうか。いや、あるいはヨーロッパのお城みたいと喜ぶのかもしれない。
京成本線、博物館動物園駅の入口もちょこんと残る
国際子ども図書館から、廃止された博物館動物園駅の入口跡を横目に見つつ戻る。
お次は上野を代表する、いや日本を代表する博物館、東京国立博物館へ突入だ。
東京国立博物館はやっぱり凄い
上野公園の北側に堂々と立つ東京国立博物館(以下、東博)。言わずと知れた、日本最古の博物館にして日本最大級の規模を誇る博物館だ。
その敷地は広く、本館を始めとする複数の建物で構成され、600円払えばすべての建物の常設展を見る事ができるという、古いモノ好きとしては楽園のような場所である。
開館から閉館までいても見切れない、凄い博物館です
歴史がある博物館なだけに、その建物も非常に立派だ。
博物館の中心を担う本館は、5年の歳月をかけて昭和12年(1937年)に完成したものだ。鉄骨鉄筋コンクリート造ながらも外観は和風のデザインでまとめられた帝冠様式と呼ばれるスタイルで、重要文化財に指定されている。
本館の外観は和風だけど――
内部は洋風でそのギャップが面白い
日本を代表する博物館なだけあって、凄いものだ
このロビーを見るだけでも入場する価値あると思う
時計もレリーフによって飾られている豪華仕様
――とまぁ、非常に見応えのある建物である。もちろん、展示されている品々も素晴らしく、しかも個人利用に限っては写真撮影も原則OKという大盤振る舞いっぷり。国宝も重要文化財も撮り放題である(ただし、撮影マナーは守りましょう)。
さて、東博は他にも気になる建築が存在する。本館の西側に建つ表慶館もまた凄いのだ。
表慶館は現存する本館よりも古い明治42年(1909年)に建てられたもので、ネオバロック様式とこちらは完全洋風建築だ。当然ながら重要文化財。
物凄い存在感でどどんと建つ表慶館
白い建物に銅板屋根の緑色が上品に映えますな
あまりに印象的なドーム屋根
こちらもまた外観と共に内部が素晴らしいのだけど、残念ながら2013年3月現在、休館中で内部を見る事はできなかった。
ちなみにこの表慶館を設計したのは片山東熊(かたやまとうくま)という宮内省(現在の宮内庁)の建築家で、赤坂にある旧東宮御所(現在の赤坂迎賓館)を建てたのもこの人だ。
赤坂に建つ旧東宮御所はさらに(というか飛びぬけて)豪華
こちらは2009年、国宝に指定されました
さて、話を東博に戻そう。個人的に東博の建物といえば本館と表慶館が二大筆頭だが、東博には他にもまだまだ魅力的な建物が存在する。
今度はそれらを見てみようじゃないか。
新しい建物も良いものだ
東博は古い建物ばかりでなく、割と最近に建てられた現代建築もまた質が高く、注目に値する。
平成11年(1999年)に建てられた平成館と法隆寺宝物館は、どちらも水の使い方が印象的な建物だ。
建物の前に大きな池が広がる平成館
こちらはさらに建築と水辺が一体化した法隆寺宝物館
ロビーは開放的で明るく、暗い展示室と対照的
どちらもまだ建って日が浅いものの、50年後には文化財になるだろうポテンシャルを秘めている。さすがは東博の建造物、と言ったところだろうか。
江戸時代以前の、より古い建物もある
東博は数えきれないくらいの古いモノを所蔵しているだけあって、その敷地にあるのはなにも近代建築、現代建築ばかりでない。
法隆寺宝物館の近くには、二棟の古建築が移築展示されている。博物館建築という趣旨からは若干ずれている気がするが、せっかくなので紹介しておきたい。
江戸時代末期に建てられた立派な門だ(重要文化財)
鳥取藩池田家の江戸屋敷門を移築したものである
屋敷門というか、こりゃもう城門ですな
木々の中にひっそり建つ、旧十輪院宝蔵(重要文化財)も必見だ。時代を一気に遡り、鎌倉時代前期に建てられたものである。
これは東博に行った事がある人でも、見た事あるという人はそれほど多くないんじゃないだろうか。
法隆寺宝物館の北側に小ぢんまりと鎮座している
東日本で見る事ができる貴重な校倉だ
私は校倉造りの建物が好きで、過去には三角鉛筆で校倉の模型を作ってみたりもした(→
参照)。
故にこれを見た時にはもうドキドキが止まらなかったのだが、残念ながらあまり注目はされていないようで、私の他に見学者は無かった。
元は奈良にある十輪院の境内にあった校倉だそうで、明治時代に遥か東京にまで移築されてきたのである。
明治時代に移されるまでは奈良の十輪院にあった
校倉としては小さいものではあるが、その木材の質感からは鎌倉時代の風格が感じられる。
床下には仏像画が刻まれた石板がはめられており、その点でも珍らしく貴重なものだ。
小さくとも、しっかり校倉してますな
床下にはめられた石板がまた凄い
トドメの日本庭園
さらに本館の裏手には、日本庭園が広がっている。上野公園はかつて寛永寺の敷地であり、この庭園はその当時からの名残りである。
園内には日本各地から移築された茶室も建っており、十分なまでに日本庭園の風情に浸る事ができる。
大きな池を中心とした庭園だ
絵になる茶室も多い
ちょうど梅が見ごろで、大変よろしゅうございました
上野はホントにおもしろい
……とまぁ、なんだか東博特集みたいになってしまったが、事実、東博は収蔵品だけにとどまらず見るべきものが数多い。
そこには多種多様な日本の文化があり、東京でてっとり早く日本文化を知りたいと思ったら、ぶっちゃけ東博を見ればそれで事足りるんじゃないかと思ってしまうくらいである。
上野には他にも数多くの面白い建築があるし、この春には花見に出かけるついでにそれら上野の多種多様な建築を見るのも良いんじゃないでしょうか。