東京、えらいことになってた
こういうとき、よく雪国の人は「東京ってば、ちょっと降ったぐらいですぐ大騒ぎしちゃって」と鼻で笑う、という。
あれ、たぶん雪国の人はそんなこと思ってなくて、雪国出身の現東京在住の人が言っている気がする。あるいは雪国に赴任して帰ってきた東京人が。
東京でスタッドレスタイヤ常備している人ってどれぐらいいるんだろう。
ともあれ、今回の雪はほんとすごかった。まあ、おっしゃるとおり雪国にとってみればたいしたものじゃないんだろうけど、基本的に降らないのが普通の東京にとってみればびっくり事態なわけで。
それはちょうど、ふだん女の子に縁がない生活を送ってきた男子が、ちょっと親しい態度をとられて動揺する、というやつと同じだ。モテモテの人間から見たら「ちょっと声かけられただけでなに意識してんの(笑)」ってなものだろうが、こっちにしてみればびっくり事態なわけで。
喩えがおかしいですね。
環七の坂道でもたいへんなことが起こってた。
あとスパイクタイヤでないスノータイヤのことを「スタッドレス」って呼ぶの、変だよね。だって普通のタイヤだってスタッドはレスなわけで。
褐色の恋人も立ち往生。
鉄塔に雪積もってるの初めてちゃんと見た!たいへんだけどすてき!
ほんと、東京では珍しい。
そうそう、
知り合いの送電鉄塔好きに昔教えてもらったんだけど、鉄塔の腕の長さが違う理由は、電線に雪が積もってそれが落ちた時に反動で跳ね上がって(スリートジャンプというらしいです)上の電線にあたってショートしてしまうのを防ぐためとのこと。
コンビニ前の灰皿もこんなだ。
雪ってば、すきあらば積もるんだな!
とまあ、東京じゅうが慣れない事態に戸惑っているこんな日に、わざわざ出かけることもないのだが、総勢35名が目的地もないまま世田谷をぐるぐると歩き回ったのだ。たいへんだった。ここまでつらいことになるとは思わなかった。でも楽しかったけど。
なんのためにそんなことをしたのか。それは「GPS描き初め」のためだ。
「蛇崩ヘビ」という出来過ぎ
毎年年明けには「GPS描き初め」をやっている。
これはなにかというと、GPSロガーを持って街をその年の干支の絵になるように歩き回る、という遊びだ。
→
2011年ホンゴウサギ
→
2012年目黒タツノオトシゴ
で、今年はヘビ。
上記のように、これまで何回かDPZでこのGPS地上絵については記事にしているので、詳しい説明は省くが、とにかく地図とにらめっこして街のどこかにヘビが隠れていないかを探すのが年末年始のぼくの日課だ。
そしてできた「設計図」はこれ。苦労の甲斐あってかわいくできた!(
大きな地図で見る)
ヘビは今までになく難しかった。なんといってもこれといった形がない。かといってただぐにゃぐにゃしていればいいかというとそういうものでもなさそうだし。
きっかけは、ある日あたまの形状をみつけ、そこから「やはりとぐろを巻くべきだろう」と思い、試行錯誤を重ねた結果こうなった。毎回「もう無理。描けない」って思うが、こうやってなんとかできあがるのが自分でも不思議だ。
しかもできあがってみれば、なんと蛇崩川を横断するコースだ。なんという偶然。ぼくにはGPSの神様がついているに違いない。GPS衛星が文字通りそうであるように、まさに「天のお導き」である。
専門家にお墨付きをもらう
ところでこのヘビ、なんというヘビだろう。DPZでヘビと言えばふたりの人物が思い浮かぶ。
平坂さんと
伊藤さんだ。なんなんだ、DPZのこの有毒生物界の人材の豊富さは。
で、伊藤さんに訊いてみた。「これ、なんのヘビですか?」と。自分で描いといてなんだが。そうしたら。
とのこと。そうか、君はアオダイショウだったのか。
ともあれ、専門家にダメ出しをされなくてよかった。素人がてきとうに「団地ってこんな感じでしょ?」って描かれた絵がたいていなっちゃいないことを考えると、とても不安だったのだ(実は夢の中で伊藤さんに「こんなヘビあり得ないっすよー」って怒られる夢を見た)。よかったよかった。
お墨付きをもらい、胸を張って参加者を募った。実施予定日は1月14日。3連休の最終日。成人の日でもある。
12日、13日と東京はとても暖かくよい天気が続いた。14日があんなことになるとは。
誰も来ないんじゃないかと思ってた。
「酔狂」ってこういうことだったか
35人もの「酔狂」が集まった
当日朝起きてみて「これは中止かなあ」と思った。しかし、事前に参加表明をしてくれていた40名の方々のうち、誰も「中止ですよね?」「キャンセルします」と言ってこなかった。
みんなやる気なのか!
延期してもよかったが「描き初め」を謳うからにはせめて松の内にやりたい(地域によるらしいが、広義の松の内は1月15日まで。14日は休日として最後のチャンス)。
じゃあやるか!
今こうやって写真見返すと、ほんとどうかしている。
最終的に集まったのは35人。駒沢大学駅に集合し、スタート地点まで移動する間、その大雪っぷりにひるみ、なんど「やっぱりやめますかー」って言いそうになった。というか、誰かがそう言うと思っていた。
ところがみんなやる気満々だ。
「酔狂」って言葉の意味を初めて実感した。
地上絵設計がだんだん上手くなって、今回のヘビはかなりコンパクトにできたが(小さいほど難しい)、とぐろが災いして「行った道を引き返す」コースが非常に多く、結果的に全道のりは20kmほど。
そこで
2チーム「あたま組」と「しっぽ組」に分けて描くことにした。
スタート時点では「半分ぐらいは途中抜け脱落するだろうな」と思っていた。
それぞれ10kmほどの行程だ。
しかもただ「歩くだけ」なのだ。冒頭で言った「目的地もない」とは、こういうことなのだ。GPS地上絵はまさに移動することだけが目的なので、得体の知れない達成感と徒労感がある。
この大雪ともなればその「なにやってんだ、ぼくたち」感は半端ではない。
雪道素人
さて、ぼくが加わったのは「あたま組」。その「雪中行軍」の様子をごらんいただこう。
毎回各チームにひとりリーダーを置く。事前にプリントアウトした設計図地図を片手に慎重にナビゲーションする重責を担う。
あたま組におけるリーダーはもちろん伊藤さんだ。
「ヘビなんでお任せします」という乱暴な任命を行った。
頼もしい「蛇リーダー」を擁し、酔狂なテンションではしゃぎ始まった描き初め。最初はふつうに楽しかった。
しかし、きっと雪国の人がこの写真を見れば「甘いな」と思うのだろう。そう、傘だ。
10km歩くこと自体が、ふつうならたいへんなことだろう。しかし、今回じょじょに元気がなくなってくる原因はそこではなかった。まずは傘問題。
雪の重みと、電線から落ちてくる「雪爆弾」で傘がやられていく。でもまだ笑みが。
開始10分ほどでこのありさま。
いわゆるビニール傘で大雪の中を行こうというのが間違いなのだろう。雪があんなに傘に積もるとは知らなかった。こういうダメージが地味に効いてくる。
そして服も。
最後まで悩まされたのは「濡れてしまった」ことだ。
メンバーの中には雪国出身の方もいらっしゃったのだが「もう東京に来て何年も経ってるので雪への対応力は鈍っちゃいましたよ」とおっしゃっていた。
「常に鍛え続けなければならない級」のものなのか!雪、おそるべし!
GPSログが視覚化されている!
とまあ、たいへんだったことを挙げていけばきりがないのですが、ただ、ぼくがこの日感動したことがひとつありまして。それは「おお!GPSログが視覚化されているではないか!」ということだ。
まだ誰の足跡もついていない路地に、ぼくらの足跡だけが残っているさまを見て「あっ!」と思った。
仮にぼくら以外の人間が、この日誰も外出しなかったとすると、雪が積もった道路に残った足跡がそのまま地上絵になっているはずだ。
滅多に雪が降らない東京で、いままで雪の魅力とは「やわらかに覆い隠すこと」だと思っていたが、そうではなくて「ログが残る」ということなのかもしれない。子供の頃、車や人がさんざん通ってぐちゃぐちゃになった道路の雪を残念に思ったが、あれはみんなの通行ログ集積を生々しく表しているのだ。
なーんてね、こんなのは積もってもせいぜい数cmにしかならない東京だから言えるロマンチック戯言なんだろうね。
あと、歩きやすさのために、車が通ったあとを歩くようになるのが興味深い。
結果、縦列になっちゃって、あんまり会話ができないのが難点。
もくもくと歩いちゃう
今までのGPS地上絵だと「よそ見」も醍醐味だった。繁華街でもなんでもない、ふつう歩かないようなルートで行くと、いろいろ面白いものが見つかるもの。散歩として楽しいのだ。
だが、今回はよそ見があまりなかった。足は濡れてくるし、雪を歩くのって普段使わない筋肉使って(翌日は筋肉痛に悩まされた)疲れるし、もくもくと歩いちゃうのだ。
いつもだったらわくわくするこういう細い路地も、もくもくと。
なんとこのぼくが、団地をスルー!
でもこの号棟表示に雪が積もってるのはかわいいと思った。
で、この「余裕がない」結果、今までにないようなミステイクを起こしてしまった。道を間違えちゃったのだ。
痛恨のミス
GPS地上絵の面白くもあり厳しくもある点は「とりかえしがつかない」というところだ。
うっかり進んでしまった歩みは記録されてしまう。そう、ちょうど雪に踏み出した一歩が消せないように。
まあ、って言っても間違ったログデータは消せばいいし、雪は上からかぶせれば良いんだけどね。でも、なんかそれをやっちゃあ、って思うのだ。だって、データいじっていいんだったら、そもそも歩く必要ないもの。パソコンでデータ作ればいいんだもの。
だから、歩いた記録はそのまま使う、というのがGPS地上絵の基本ルールだと思うのだ。
って、偉そうなこと言っておいて、この日はミスをやらかしてしまった。しかも2度も。
「どうリカバーしたら蛇っぽくできますか?」って無茶な注文を蛇リーダーに求める。
あとで見ていただく完成ログにこのときのミスが如実に残っている。よりによってあたまの部分でやってしまった。
「蛇が威嚇している時えらのあたりが広がるので、それってことで」と伊藤さんのフォロー。
そこれもこれもこの大雪のせいだ。正直、地図を見るのもままならず、集中力も落ちていた。雪ってたいへんだなあ。
ただ、蛇リーダー・伊藤さんはさすがで、最後「舌」を描く時には現場のアドリブで「二手に分かれましょう」と采配をふるった。設計図にはなかった、ヘビの舌ならではの先が二つに割れた様子を表現したのだ。
こういうの、GPS地上絵の醍醐味なのよね。
などなど、だんだんしんどくなりつつも、ひとりも脱落者を出すことなく描ききったあたま組。しっぽ組はどうんなだっただろう?
なんと「運転見合わせ」
しっぽ組の最大の見所は、実は世田谷線にあった。
しっぽの上側は上町駅から若林駅までの3駅分、電車に乗ってログをとることで描かれる予定だった。徒歩だけではなく、あえて電車を使ってみたのだ。ぼくはこれを経験できない「あたま組」だったが、その報告と成果を楽しみにしていた。
ところが!
なにか、いやな予感がする。
なんと!運転見合わせ!
こういう掲示があるのね。
急きょ徒歩でのコースを検討。
今思えば「そりゃそうだ」なのだが、この大雪で世田谷線が止まってしまったのだ。
このことによる影響は2つある。ひとつは、歩く距離が増えてしまうこと。1kmちょっと増えてしまう。ふだんならまだしも、この大雪の中距離が伸びるのはけっこうしんどい。
もうひとつは、線路沿いに歩けるとは限らないということ。
「あれはたいへんだった」とあとでしっぽ組が述懐していたが、地図でもよく見えない細い道を探し探し、慎重に(間違えるとログが残っちゃう)ルートを探したそうだ。
運転再開の可能性に掛けて結構粘ったらしいが、ついには断念して歩くことに。
手前の傘がもうどうにもならなくなっている点に注目だ。
たいへんだったねえ。でも、写真を見ると、しっぽ組けっこう元気でびっくりした。タフなメンバーがそろっていたようだ。
なんか余裕だ!
なんか余裕だぞ!
坂こわい
もうひとつ、最後に普段とちがってこわかった点を。坂だ。
しっぽ組のコースの一部。雪道だと、これはこわい!
いつにもまして東京の凹凸に敏感になる。
また世田谷のこのあたりは多いんだよねー、坂。
あたま組も、特に眼の部分が急峻だった。
登ってすぐ降る。しかもコースの終盤で、けっこう体力的にきつかった。
怖いので蛇行。蛇だけに。
とまあ、たいへんだったことも楽しいエピソードもまだまだたくさんあるが、そんなこんなで両チーム歩ききったのだ。
両チーム、首のあたりで再開!今回はかなり感動した。
いつにもまして愛おしいログ
さて、ログを動画にしたものをご覧頂こう。
よくやった!よくやったよぼくらは!(GoogleEarthに表示したものをキャプチャ)
いつにもましてログが愛おしい。よく見れば、あたまの部分とアゴの下2ヶ所であたま組が道を間違えていたり、世田谷線に沿いきれなかった(道がなかった)しっぽの上側など気になる点はあるが。
ちょっと引いた鳥瞰。蛇の絵としては、おそらく世界最大。(同じくGoogleEarthに表示したものをキャプチャ)
地形図に乗せてみると、谷と峰とを頻繁に横断している。こりゃ雪の日にはつらいよ。(GoogleEarthで「
東京地形地図」を表示したものをキャプチャ)
ログを回収して、打ち上げ会場での場で表示。歓声が上がる。
いやはや、ほんと「なにやってんだぼくら」という感じだ。ほんとうにたいへんだった。ひとりも脱落しなかったのが、ほんとびっくりだ。
でも、やっぱりたのしかった。大の大人がこんなことに一生懸命になっちゃって、なんてすばらしい。
あと、ちゃんとした防水の装備を買っとこうと思った。
天気のよい日に改めて歩いてみよう
ほんと、写真で見るとどうかしている。途中、コンビニで休憩をとることを「ビバーク」と呼ぶなど、いつになく過酷なGPS地上絵となったが、それもこれもいま暖かい部屋で記事を書いている身としては、よい思い出。良い「描き初め」となりました。みなさんおつかれさまー。
打ち上げ会場では、炎で暖をとるために鍋を頼むという光景が。