特集 2012年10月5日

十五夜に体長2.5kmのウサギの絵を描いた

じっと月を見上げるウサギを十五夜の日に。
じっと月を見上げるウサギを十五夜の日に。
「すげーたいへんだったんだから!」って主張するのはかっこわるい。

かっこわるいけど言いたいときがある。いやほんとにすげーたいへんだったんだから!

しかも別に誰に頼まれたのでもなく、好きでやったことがたいへんだった、ってなおさらかっこわるいことを、今回は主張してみよう。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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ぼくは世界に数人しかいない「地上絵師」なのだ

「GPS地上絵」という遊びがある。GPSロガーという、自分が移動した軌跡を記録してくれる機器を使って、地上に絵を描くものだ。デイリーポータルZでこれまで、何回か記事にしてきた。

体長2.5kmの馬の絵を描く
みんなでGPS描き初めをやった
全長6kmのタツノオトシゴの絵を描いた
3チームに分かれて、めいめいGPSロガーを持って馬込に馬の絵を描いた軌跡(体長2.5kmの馬の絵を描く
同じくこちらは2011年に干支にちなんで「描き初めた」絵(みんなでGPS描き初めをやった
これは今年の2012年の「描き初め」(全長6kmのタツノオトシゴの絵を描いた
地図上に、絵になりそうなルートを見つけて、GPSロガーを持って、その通りに歩くと、データ上ではこうなる。カーナビなどで使われている、あのGPSをこんな風に使って遊ぶことができるのだ。

すっかりこの遊びにはまってしまったぼく。おそらくこの「GPS地上絵」を定期的に行っている「GPS地上絵師」はぼくの他に数人しかおるまい。

いやまあ、だからなんだって話なんですけど。

でも楽しいよほんとに。みんなもっと地上に絵を描けばいいのに。

で、今回はウサギを描きました。十五夜の日に

今回、2012年の9月30日に墨田区を中心にウサギの絵を「描いて」みた。この日は十五夜。だからウサギってわけだ。

何はともあれ、その成果をご覧いただこう。
墨田区に、じっと月を見上げるウサギ。かわいく描けた。
地図をじっと見つめて、どこかにウサギが描けないかと探し続ける。そうしてあるときひらめいたウサギの設計図を元に、実際の道を歩くとこれができあがる。

一人で黙々と歩くのも楽しいが、せっかくなら、と、これまでと同様参加者を募って3チームに分かれて描いたウサギ。しかし今回は、その設計の「たいへんさ」をアピールしたい。すげーたいへんだったんだから!
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実は設計で達成感50%

って言っても、そもそもGPS地上絵自体がよく分からない趣味なので、その設計の苦労を主張されても何が何だかよく分からないと思う。

思うけど、まあ、お付き合いください。

まず、ひたすら地図をじっと見つめるのだ。話はそれからだ。道をうまいことつなげたらウサギの形になるのではないか。そういうルートをただひたすら探す。

できあがった設計図を元に「描く」(=歩く)のも楽しいが、実はこの「地図とにらめっこして絵を探す」という過程が労力的にも、またできあがったときの喜び的にも非常に大きいのだ。

…って、やっぱりわけわかんないよねえ。みんな一度やってみれば分かると思うんだけどなー。
オンラインの地図をキャプチャして、つなげ、大きな詳細地図を作るところから始まる。
オンラインの地図をキャプチャして、つなげ、大きな詳細地図を作るところから始まる。
道筋が見えやすいように画像編集ソフトであれこれいじる。
道筋が見えやすいように画像編集ソフトであれこれいじる。
そうしてできた地図をプリントアウトして、とにかくひたすら手がかりになりそうな道筋を探す!
そうしてできた地図をプリントアウトして、とにかくひたすら手がかりになりそうな道筋を探す!
GPS地上絵師の朝は地図作りから始まる。

「まだまだアナログにデジタルは敵わない」っていう月並みで薄っぺらいことは言いたくないが、ことGPS地上絵設計に関しては、残念ながらオンライン地図は紙に敵わない。認めたくないが。なんで認めたくないのかも分からないが。

いやー、だってさー、ああいう「アナログ懐古趣味」みたいな繰り言ってなんかいやじゃないですかー。だいたい「アナログ」「デジタル」って言い方自体がうさんくさいしー。

って何の話だっけ。

そうそう。つまり広範囲の細部と全体を同時に見渡せて、かつレスポンス良くあれこれ書き込める、という機能がまだ液晶画面には足りないのよねえ。認めたくないが。

なので、まず「この街に描きたい」と狙った範囲の紙の地図を作るところから始まるのだ。

で、暇さえあればそれを眺める。

とにかく眺める。

ひたすら眺める。

ただただ眺める。

ウサギが見えるまで!
食後に眺める!
食後に眺める!
牛乳を買いに行ったついでに眺める!
牛乳を買いに行ったついでに眺める!
就寝前のひとときに眺める!
就寝前のひとときに眺める!
入浴中に眺める!紙が濡れないように注意しながら(見苦しい写真なので小さめにお見せします)
入浴中に眺める!紙が濡れないように注意しながら(見苦しい写真なので小さめにお見せします)
暇さえあれば眺めること2週間。試行錯誤の末、「もうぜったい無理!」って何度も思った末に、あるとき突然ひらめいたりする。
なんか、こう、意味ありげな道筋を片っ端から線引きしてみる。
なんか、こう、意味ありげな道筋を片っ端から線引きしてみる。
なんとなく、手がかりがつかめそうな気もするが、ものにならず。
なんとなく、手がかりがつかめそうな気もするが、ものにならず。
なんか、異形の生き物が出現。ちがう。こうじゃない。
なんか、異形の生き物が出現。ちがう。こうじゃない。
おお!なんかウサギっぽいかも!と思うも、先が続かず。無念。
おお!なんかウサギっぽいかも!と思うも、先が続かず。無念。
「この街では無理かなー」ってあきらめかけた頃に、浅草の北側にふと放射状の道筋があって、そこに描き込んだ線と、東武伊勢崎線の曲線がひらめきを与えてくれた!
「この街では無理かなー」ってあきらめかけた頃に、浅草の北側にふと放射状の道筋があって、そこに描き込んだ線と、東武伊勢崎線の曲線がひらめきを与えてくれた!
実は今までのGPS地上絵の設計段階で、毎回必ず「ダメだ。今回はダメだ。無理」って思うのだ。今回もそう思った。

でもしつこく眺めて気になる道筋を描き込んでいると、あるときそれがひらめきを与えてくれる。

この瞬間を言葉で表すのは難しい。

とにかく、なんてことないある曲線が、ずるずるずるって繋がって、「あっ!」って思う瞬間を作るのだ。
なんか座って上を見上げるウサギが描けそうじゃない!?
なんか座って上を見上げるウサギが描けそうじゃない!?
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絵は描けないが、地上絵は描ける不思議

そうしてできたのがこのウサギ(大きな地図で表示
振り返ると、最終的な設計図に含まれているわけでもないささいな線を見つけて、「これは行ける!」って思い込んだら、あとはずるずるっと導かれるがままに描けちゃう。出来上がりを見ると、なんとも簡単に描けそうに見える。

自分で描いたのに、自分で描いた気がしない。不思議な感覚。

しかも、ぼく、絵が描けないのだ。なのに、こうして地上絵の設計はできる。不思議。たぶん白紙を渡されて「空を見上げているウサギの絵を描いて」って言われても、これほどの絵は描けないだろう。なんなんだろうか。

というように、自分の力によるものなのか、はたまた神の導きによるものなのかも分からないが、ともあれ設計図はできた。あとはこの通り歩くだけだ。

あとは楽しくみんなで!

ぼくがこのGPS地上絵をみんなで描くのは、この孤独な作業の反動なのかもしれない。そうして今回もまた、参加者を募って、この設計図に従って歩くことで「地上に絵を描く」のだった。
呼びかけに応じて集まったもの好きが20名ほど。
呼びかけに応じて集まったもの好きが20名ほど。
全道のり20kmほどなので、3チームに分けて描くことにした。名付けて「目組」「背組」「脚組」である(大きな地図で表示
「目組」はウサギの瞳を感じさせるぐるっとした道を行き、
「目組」はウサギの瞳を感じさせるぐるっとした道を行き、
「背組」は隅田川が描く背中のカーブを行き、
「背組」は隅田川が描く背中のカーブを行き、
ぼくが属していた「脚組」はいかにも下町っぽい路地をくねくねと行ったのだった。
ぼくが属していた「脚組」はいかにも下町っぽい路地をくねくねと行ったのだった。

決して寄り道はできない

さて、1ページ目冒頭の完成画をよく見てもらえば分かるが、今回のこのウサギの中心部には、話題のスカイツリーが建っている。

しかし、そこへは行けない。設計図通りのルートを歩かねばならないから。余計なところを行くと、その経路がログに残ってしまう。
背組のルート上、いたるところからスカイツリーが見えるが、決して近づかない。近づけない。
背組のルート上、いたるところからスカイツリーが見えるが、決して近づかない。近づけない。
「目組」もウサギの「額」である白髭橋からアレが見えるが、遠巻きにするだけで近づけない。
「目組」もウサギの「額」である白髭橋からアレが見えるが、遠巻きにするだけで近づけない。
「脚組」もスカイツリーはスルー
「脚組」もスカイツリーはスルー
ぼくはとてもあまのじゃくな性格をしているので、世の中がスカイツリースカイツリーと浮かれれば浮かれるほど「けっ!」って食わず嫌い的に冷ややかな態度を取ってしまう。あれだ、好きな子にわざと意地悪しちゃったりする小学生と同じだ。ダメな人間だ。

いや、好きじゃないし。ほんとにべつにスカイツリー興味ないし。いやほんとに。

今回の設計は狙ったわけではないが、結果的に見事にスカイツリーを遠巻きにするコース運びで、ざまあみろという感じである。誰に対してざまあみろなんだか分からないけど。
スカイツリーに近寄れないが、興味を惹かれる団地にも近寄れない…ああ…
スカイツリーに近寄れないが、興味を惹かれる団地にも近寄れない…ああ…
スカイツリーはともかく、各組、道中いろいろおもしろいものに遭遇した。各チームにログを取るのとほかに、写真も撮るようにお願いしたのだが、これを見ると実におもしろい。
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強制的な散歩の面白さ

背組が見つけた、医者の不養生。だいじょうぶか、院長。というか「骨折の為」は書かなくてもよかったのではないか。
背組が見つけた、医者の不養生。だいじょうぶか、院長。というか「骨折の為」は書かなくてもよかったのではないか。
目組が見つけた、なんとも不気味な共食いキャラ</a>。そりゃあ、仲間の肉を食えと宣伝させられればこんな表情にもなるだろうよ、と同情しつつ、脚を見ると「もしや中に人間が二人入っているのでは?」との疑惑も。
目組が見つけた、なんとも不気味な共食いキャラ。そりゃあ、仲間の肉を食えと宣伝させられればこんな表情にもなるだろうよ、と同情しつつ、脚を見ると「もしや中に人間が二人入っているのでは?」との疑惑も。
脚組が見つけた張り紙。なぜ語尾上げになった。そこは言い切ろうよ。
脚組が見つけた張り紙。なぜ語尾上げになった。そこは言い切ろうよ。
あと、なつかしいでっかい腕時計。なぜか屋外に。
あと、なつかしいでっかい腕時計。なぜか屋外に。
だから赤は使うな</a>とあれほど…
だから赤は使うなとあれほど…
「爬虫類製品全般」にぐっとくる。
「爬虫類製品全般」にぐっとくる。
まさかの縦に3連シャッター!
まさかの縦に3連シャッター!
三角コーンをそう使うか!
三角コーンをそう使うか!
GPS地上絵をやってみていつも思うのは「強制的に歩かされる」ことの面白さだ。今回のこのルートも、こんなことでもない限り、ふつう歩かない道筋ばかり。だからこそこういうおもしろいものに出会うのだと思う。この世はおもしろいものにあふれている。

なんともいえない達成感

さて、2時間半ほどかけて、とにかく決められたルートをそれぞれ歩いて、3チーム再集合。
目組と背組はウサギの耳の途中で出会うことでゴール
目組と背組はウサギの耳の途中で出会うことでゴール
脚組はシッポでゴール。
脚組はシッポでゴール。
まずは喉を潤し、ログデータを統合する
まずは喉を潤し、ログデータを統合する
「ふつうこういう歩き方しない」っていう移動の連続なので、描いている間は、おもしろいものを見つけつつも、コースを外れないように集中している。だから歩き終わると、けっこうどっと疲れがやってくる。

そこで一杯だ。

再集合して、各チームのGPSロガーからデータをパソコンに落とし、みんなでこの日の成果を鑑賞するわけだ。それが冒頭の動画というわけ。

これがね、なんだかけっこう感動するのよ。
持ってきたパソコンにログデータを落とし、その場でみんなに成果発表。なんかメーカーの新製品発表会みたいな手つきだ。
持ってきたパソコンにログデータを落とし、その場でみんなに成果発表。なんかメーカーの新製品発表会みたいな手つきだ。
現場に実際線が残っているわけでもない。ただのデータだ。言ってしまえば、設計データと見かけ上、なんら違いはない。

だけど、たしかに「歩いた!」って記憶は残っている。むしろ、それだけだ。この徒労感なんだか達成感なんだか分からない心持ちになるのが、このGPS地上絵の醍醐味だと思う。
あらためて完成図。かわいい。
あらためて完成図。かわいい。
引いて見た図。かわいいなあ。
引いて見た図。かわいいなあ。

またやりますよ

何回やっても楽しいGPS地上絵。また近々やろうと思います。そろそろ誰か設計にもチャレンジしないかなー。
帰り道、見事な十五夜満月が。ウサギのように見上げた。
帰り道、見事な十五夜満月が。ウサギのように見上げた。

(記事中の写真は、@miyaho さん、@R_Kanomata さん、@gonzke さん、@futograph さん、いけともさん、に提供いただきました。ありがとう!)
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