特集 2012年9月21日

会社帰りに懐中電灯で境界線を描く

林の中に、目黒区と品川区の境界を描きました。
林の中に、目黒区と品川区の境界を描きました。
以前「地図には描いてあっても、実際にはないものなーんだ?」という問いから始まった、大人たちの夜の遊びをレポートした【→「境界線を懐中電灯で描く」】。境界線をライトペインティングする、という試みだった。

とても楽しかったので、またやってみた。会社帰りに、林の中で。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

前の記事:「マイ橋」に夢中

> 個人サイト 住宅都市整理公団

週明け平日の会社帰りに集まった大人たち

これが日本の大人だ!
これが日本の大人だ!
前回記事冒頭で書いたが、上記のクイズの答えは「ぜんぶ」。地図に示されているのは約束事であって物理的な事実ではないのだ。

その代表が境界線だ。地図には必ず描かれているが、現地にはもちろん線はない。それを、夜に長時間露光しているカメラの前で懐中電灯で地面を線状に照らすことで実現しよう!という試みだった。

これをまたやろう、というわけだ。なぜなら楽しかったから。
Twitterでいきなり募集したのだ。そしたら平日の夜なのにみんな集まってくれた。
Twitterでいきなり募集したのだ。そしたら平日の夜なのにみんな集まってくれた。
で、週明けのいそがしい平日。いきなり呼びかけたのだが、11人もの「ボーダーズ」が集まった。境界線を描くチームなので、ボーダーズだ。
今回の舞台は街中ではなく、公園だ。
今回の舞台は街中ではなく、公園だ。
前回は東京は神田駅に集合して、中央区と千代田区の境界を描き上げた。今回は目黒区と品川区の境界にチャレンジだ。

なぜこの2つの区境を選んだのかというと、ある公園内を横切っている部分があるからだ。

林試の森公園という公園の中を奇妙な形で走る境界線。魅力的!(大きな地図で表示
街中ではたいていの境界線は道路と一致している。確かに線は描かれてはいないのだが、言ってみれば道路それ自体が境界線だ、と見ることもできる。

それよりももっと「まったく境界線が見えない」場所に描いてみたかったのだ。だから公園を選んだ。
公園の入り口にある案内看板に注目するボーダーズ。
公園の入り口にある案内看板に注目するボーダーズ。
ここに境界線があるはずだが、この案内には示されていない。いいのか!いいか、べつに。
ここに境界線があるはずだが、この案内には示されていない。いいのか!いいか、べつに。
境界線が真ん中を突っ切る「出会いの広場」に、まずは向かう。おそらくこの「出会い」は目黒区と品川区の邂逅のことを指しているのだろう。けだし名ネーミングである。
境界線が真ん中を突っ切る「出会いの広場」に、まずは向かう。おそらくこの「出会い」は目黒区と品川区の邂逅のことを指しているのだろう。けだし名ネーミングである。
公園内のどこで描くか迷ったが、まずは描きやすそうな「出会いの広場」というひらけた場所を選んだ。ほかのエリアは木々がうっそうと茂っていて、むずかしそうだったから。

聞けばこの「林試の森公園」はその名の通り元・林野庁の林業試験場だったそうだ。へー。そりゃ木が多いわけだ。

そしてなんでこんなに奇妙な形で公園内およびその周辺を走っているのか。古地図とか見てみたが、いまひとつはっきりしない。これに関しては今後の課題としたい。まずは描くことに集中しよう。

思ってたより難しい

さて、まずは腕試し。カメラの絞りを絞るだけ絞って、30秒間シャッター開けっ放しにして、その前を境界線に沿って地面を照らしながら歩いてもらう。行け!ボーダーズ1号!
さて、まずは腕試し。カメラの絞りを絞るだけ絞って、30秒間シャッター開けっ放しにして、その前を境界線に沿って地面を照らしながら歩いてもらう。行け!ボーダーズ1号!
広場の真ん中に真っ直ぐこういうふうに照らして進めばいいのだ!
広場の真ん中に真っ直ぐこういうふうに照らして進めばいいのだ!
上の写真加工してみて、なんか現場で苦労しなくてもこうやって画像に線を描き加えれば結果は一緒なんじゃないかという気がした。

いや、そんなことはない!ぼくらの思い出に残っているぞ!

さて、ともあれ前回一度やって、なかなかうまく描けたこともあり、状況は違えどまあそんなに手こずりゃしないだろう、と高をくくっていたが、これが大間違いだった。

曲がっちゃうのだ。
広場のむこうまで30秒間地面を照らしながら歩いた結果の写真。面白い!面白いけど、曲がってる。そして懐中電灯からの直接光が写ってしまっている。
広場のむこうまで30秒間地面を照らしながら歩いた結果の写真。面白い!面白いけど、曲がってる。そして懐中電灯からの直接光が写ってしまっている。
ひらけている場所で、なんのガイドもなく真っ直ぐ歩くのは難しい。しかも夜でまわりは暗い。
曲がらないように真っ直ぐ前方を見据え、懐中電灯は後ろ手に足元を照らせばいいのでは、というアイディア。さて、どうか?
曲がらないように真っ直ぐ前方を見据え、懐中電灯は後ろ手に足元を照らせばいいのでは、というアイディア。さて、どうか?
いったん広告です

境界問題の難しさを実感

真っ直ぐだ!だけど…
真っ直ぐだ!だけど…
後ろ手作戦は確かに有効だった。しかし、ご覧の通り、照らされたふくらはぎが写ってしまうのだ。これはいかん。すてきな女性のふくらはぎの写真だったらやぶさかではないが、これは会社帰りの男性のもの。そんなものは照らさなくていい。というか、女性のものであってもそれは別途お願いしたい。いまはいい。
ではこうしたら、という提案もいただいたが、いろんな意味でそれはない。というか、服装がすでにボーダー!
ではこうしたら、という提案もいただいたが、いろんな意味でそれはない。というか、服装がすでにボーダー!
「数打ちゃ当たる」を繰り返すうちに、なんとかきれいな境界線を描くことができた。
「数打ちゃ当たる」を繰り返すうちに、なんとかきれいな境界線を描くことができた。
これといって決定的な手法を編み出すことはできなかったが、みんなで何回か描いているうちに、なんとか真っ直ぐな区境をライトペインティングすることができた。

さて、ここでもうひとつやりたいことがあった。

破線にしたい

次は点線を実現するのだ!
次は点線を実現するのだ!
前回の記事でいただいたご指摘で、なるほどごもっとも、と思ったのが「どうして破線ではないのか」というものだった。

そうだ。地図にある境界線を現場で実現するのならば、破線にしなければ。だって、区境はそれで示されているのだから。
おお!おもしろい!だけどもっと長めの破線がいいかなー。そしてやっぱり曲がっちゃうなー。
おお!おもしろい!だけどもっと長めの破線がいいかなー。そしてやっぱり曲がっちゃうなー。
試行錯誤に熱がこもるボーダーズ(会社帰り)。
試行錯誤に熱がこもるボーダーズ(会社帰り)。
おお、これはそれっぽい。でもやっぱり曲がる…
おお、これはそれっぽい。でもやっぱり曲がる…
ご覧の通り、懐中電灯を点滅させて歩く、という方法でやってみた。しかしただでさえ曲がるのに、懐中電灯のON/OFFを気にしていると、なおさらだ。

ここで別の点滅方法を提案してきたボーダーズメンバーがいた。前回も見事な境界線を描いた手練れである。
スイッチに気を取られることなく、直進性に集中できるのでは、というもの。
スイッチに気を取られることなく、直進性に集中できるのでは、というもの。
スイッチはそのまま、手で隠せばいいのでは、というアイディアだった。おお、やってみよう!
さらに地面への効率的な照らしを実現すべく重心を下げる。さすがだ。
さらに地面への効率的な照らしを実現すべく重心を下げる。さすがだ。
期待が膨らむ。
期待が膨らむ。
ああ…手が…
ああ…手が…
手のひらを太陽に すかしてみれば 真っ赤に流れる ぼくの血潮

とはよく言ったものだ。というか、懐中電灯が強力すぎて(前回記事参照。8000円ぐらいするすごいやつ買ったのだ。このために)、手が写っちゃうのだ。むむー。
ボーダーズによる、この「出会いの広場」での試行錯誤のムービー。
「まあ、ここはこれぐらいにして、別の場所行きますか」
「そうですねー」

このあきらめの良さもボーダーズの魅力である。
いったん広告です

木々の間でやってみたかったのだ

せっかくの元・林業試験場だ。出会いの広場だけで出会っていてはもったいないというもの。もっと、こう、木々の間に境界線!ってやつを撮りたかった。

場所はここ。って分からないか。(大きな地図で見る
公園内を流れる川の横の茂みを選んだ。ここだとちょうど境界が走っている木々の間を、その川を越える橋の上から収めることができるのだ。

ところが。
「出会いの広場」のネーミングはダテではなかったな、というぐらいの薮。
「出会いの広場」のネーミングはダテではなかったな、というぐらいの薮。
本来の使い道をするとは思わなかった、懐中電灯。
本来の使い道をするとは思わなかった、懐中電灯。
地図と見比べても境界がどこだかよく分からない。
地図と見比べても境界がどこだかよく分からない。
「道路がない場所で描きたい」と選んだ今回のロケーションだが、ちょっと極端すぎたか。地図と照らし合わせても確信が持てない。
もたもたしているうちに体中がヤブ蚊に刺される。ぎゃー!
もたもたしているうちに体中がヤブ蚊に刺される。ぎゃー!
実は今回もデイリーポータルZライター仲間の西村さんが参加してくれていた。東京と埼玉の一目で分かる県境を記事にするなど、ボーダーズメンバーになるべくしてなった人物だ。

この薮の中でも西村さんの的確な指示にずいぶんと救われた。

そしてなんとかまずは実線で描けたのが、これだ。
木がたくさん生えている公園ならではの、こういう風景を実現したかったのだ。すてき。
木がたくさん生えている公園ならではの、こういう風景を実現したかったのだ。すてき。
続いてメンバー・ @JUNICHIWATANABE</a> さんによるかわいい点線。
続いてメンバー・ @JUNICHIWATANABE さんによるかわいい点線。
「まあ、こんなところですかね」
「なかなかきれいに描けたんじゃないですか?」
「そうですね、いいですね!」

なんて話していたところ、西村さんが「ああ!」と声を上げた。なになに?!
暗闇でいきなり声を上げた西村さん。なに!
暗闇でいきなり声を上げた西村さん。なに!
暗くて気がつかなかったけど、区境の標識が!
暗くて気がつかなかったけど、区境の標識が!
裏にはちゃんと「目黒区」ぼろぼろだけど。
裏にはちゃんと「目黒区」ぼろぼろだけど。
さっきの写真を見返すとちゃんと写っている!
さっきの写真を見返すとちゃんと写っている!
すぐそばにあるのに気がつかなかった。暗いってこわい。

良い線行っていたが、ちょっとずれていたので再度描きなおした。
うん!満足!
うん!満足!
薮の中でのチャレンジの様子。ほぼ真っ暗でよく分からないですが、こういう感じでがんばってました。ヤブ蚊に悩まされながら。
さて、あとはやっぱり曲がり角をやっておきたいよね!
いったん広告です

サラリーマンの悲哀


この鋭角を描きたかった(大きな地図で見る
この林試公園周辺と公園の中で、境界線は複雑にかくかくと曲がりくねっている。ここに来たからには、角を描かないわけにはいかない。前回も直角に曲がっている部分を描いたのがハイライトだった。今回ももうひとがんばりしよう。
どうアングルを決めるか悩むボーダーズ。
どうアングルを決めるか悩むボーダーズ。
なにせビルとかに遮られるわけではないので、へたに位置を決めるとずーっと無効まで線を引かなくてはならなくなる。
なにせビルとかに遮られるわけではないので、へたに位置を決めるとずーっと無効まで線を引かなくてはならなくなる。
位置を決め、リハーサル。
位置を決め、リハーサル。
余念がない。
余念がない。
前回の曲がり境界の描画でみごとな脚さばきを見せた @miyaho さんにお任せすることにした。さきほどの低い重心でのプレイもすばらしかった。念入りなリハに期待が高まる。

まずは実線で。どうだ!
どうだ!おおー…ん…
どうだ!おおー…ん…
悪くない。足運びはさすがだ。本番ではきっとうまくいくだろう。が、しかし、ここで本記事のタイトル「会社帰り」が効いてくる。

うっすらと見えるのは彼のワイシャツだ。そうなのだ。白い服着てると写っちゃうのだ!これがサラリーマンの悲哀か。

と、そのとき。
ここにフリーのだめな感じの人がいました!ぼくです!
ここにフリーのだめな感じの人がいました!ぼくです!
まさかここで平日の社会人としてはだめな感じのかっこうが効いてくるとは思わなかった。

よし、首謀者でもあることだし、さいごはいっちょ描き上げてみるか!

どうだ!
まあまあうまくいった!
まあまあうまくいった!
みんなありがとう!
みんなありがとう!

またやりますよ!

なんともその楽しさが伝わりづらい遊びだが、どうだっただろうか。またやるので、興味ある方は参加してみてください。あなたもボーダーズに!

(今回の記事中の写真は @gonzke さん、 @R_Kanomata さん、ライター西村さん、そして動画は @mechapanda さんにいただきました。ありがとう!)
前回と今回のボーダーズの活躍の様子を早回しダイジェスト
▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ