楽しい手作りラーメンの会
製麺機を購入して以来、友人を呼んでラーメンを自分で作るという手作りラーメンの会を何度かおこなっている。まあ2回だけだけど。
前日に生地とスープをこちらで仕込んでおき、来た人に製麺機を回してもらって、自分が食べる麺を自分で作るというファンタスティックな体験をしてもらうのだ。
初対面でもみんな仲良くなれるツール、それが製麺機。
ユズを効かせた濃厚鶏ガラスープは、モチモチの太麺とよく合い、自画自賛だが絶品だった。
生地もスープも具も全部こちらで用意するとはいえ、製麺機で伸ばす作業を何回するか、生地の厚みを何ミリにするかで、麺の個性が違ってくるのだ。
もちろんみんな麺から手作りのラーメン作りなんて初体験だし、味に正解がある訳でもないので、自分の作ったラーメンを、おいしいおいしいと、それは愛おしそうに食べてくれる。
私のラーメンが絶対一番だと言い張る人。うれしい。
ラーメンを食べて顔がほころびまくる人。うれしい。
この体験をデイリーポータルZの収穫祭というイベントでやりましょうと提案したら、編集部から「できれば200人前、きびしかったら150人前」というオーダーが来た。
ラーメン200人前って、どこの繁盛店だ。今までが最大8人前くらいなのに。しかし10人とか20人を相手にするワークショップ形式よりも、食べたい人全員に振る舞える方がいいのは当然だ。やってやろうじゃないじゃない。
そうなるとさすがに製麺機1台ではどうにもならないが、そこは大丈夫。製麺機は2台ある。
同じ道具が2台並ぶとかっこいいよね。これぞ量産型っていう感じで。
一台目の製麺機を買った後も、なんとなくネットオークションを眺めていたら、今あるものよりもさらに程度がいいものが手頃な価格で出品されたので、これは保護せねばと、ついつい買ってしまったのだ。
ようやく2台同時に使う必要のある日が来てくれて、私はとてもうれしい。
200人前のラーメンを勘で仕込む
それにしてもラーメン200人前か。あくまで無料で配布する試食なので、そんなに1人前の量は多くなくていいとは思うが、ある程度の量がないと、製麺機を使った麺作りは面白くない。となると、半ラーメン程度というところだろうか。それでも多いと思うけど。
生地作りはどうにかなるとして、問題はスープである。イベントの舞台であるカルチャーカルチャーの客席で、ガスコンロを使ってガンガンと鶏ガラや豚足を煮込む訳にもいかないので、麺に醤油ダレと油を絡めて食べる『油そば』方式でいくことにした。
醤油ダレのベースは、めんつゆでいいかな。1瓶全部いれてしまえ。
オイスターソースも1瓶いれちゃえ。他にも酢やらナンプラーやら鶏ガラスープの素やら。
なんとなく不安なので、市販のタレも追加してしまおうかな。素直にこれを100%使えよっていう話なのかもしれないが。
干しシイタケや昆布と合わせて煮詰めてみる。これって何人分の量なんだろ。
少量の試作を重ねた上でたくさん作るのではなく、出たとこ勝負の一発勝負。こんな感じでいいかしらと、出来上がったタレを舐めてみるのだが、ものすごくしょっぱい。まあ薄めて使うめんつゆがベースだし、鶏ガラスープの素を一瓶丸ごと入れているし、当然といえば当然か。
でもこれくらい濃くても、麺と混ぜて食べるのであれば、量を加減次第でちょうどいいのかもしれない。
うーん、正解がまったくわからない。油そばを作ろうとしているのだが、私が油そばを食べたことが一度もないのが悪いのよね。今からでもラーメンをやめて、シンプルな釜揚げうどんにしようかと何度も思った。
しょっぺえ。
まあ醤油ダレの正解は考えてもわからないからこれでいいとして、もう一つの大切な味である油を仕込もうか。
サラダ油に大量のネギと干しエビを加えて、ラーメンだけに小麦色になるまで加熱してみた。ネギとエビの香りが素晴らしい。肌がペタペタしてきたけど。
本当はピリカラの油にしたかったのだが、子供も食べるだろうから唐辛子は入れなかった。
どれくらい必要なのかが全然わからないのだが、とりあえず中華鍋いっぱいに作ってみた。
迷いだらけのタレと油だったが、生地作りは迷いがない。決まった分量で小麦粉と水と卵とかんすいを混ぜるだけだ。
その決まった分量というのが、小麦粉9キロとかなのが難点だが。
まあまあ手首と腰は痛くなるが、嫌いではない作業だ。
特大のボールで3回に分けて作りました。
問題だらけの会場設営
イベント当日、誰よりも大荷物で会場でとなるカルチャーカルチャーへ車で向かう。
事故渋滞で1時間の遅刻となったのだが、カルチャーカルチャーの1階にあるライブハウスで、入り待ちをしていたVAMPSのファンに見守られての搬入となった。みんなもラーメン食べに来てね。
こういうとき、大型クーラーボックスって便利。
せっかく3つ買った麺を茹でて湯切りするザルが鍋に入らない!
会場で設営を進めるごとに、問題点が次々と浮き彫りになってくる。なぜならリハーサルを一切していないから。
まずIH卓上ヒーターの性能に対して、鍋が大きすぎてお湯が全然沸騰してくれない。そしてその鍋で3つの麺を同時に茹でる予定だったのだが、ザルが2つしか入らない。
沸騰しないお湯で2人前ずつ茹でるとなると、かなりお客さんの回転が悪くなってしまう。できれば太麺のモチモチ感を楽しんでもらい所だが、茹で時間短縮のため、ここは細麺にするしかないようだ。
とりあえず味が決まった
この調子だと本番はバタバタになりそうだが、開場時間はもう目の前。さっさとラーメンの味を決めなくてはならない。
油そばの味付けに関しては、自分の味覚がどうにも信用ならないので(食べたことがないから)、何人かに試作品を食べてもらい、適切なタレと油の量を決めていく。
「なんてもんを食わせてくれるんやー」 よくわからないが、好評のようだ。
お手伝いいただいたボランティアスタッフの方。せっかくのイベントなのに、仕事内容が純粋なラーメン屋のバイトで申し訳ない。
やはり自家製麺なので、麺自体のうまさというアドバンテージがあるので、味付けは大きくハズレでなければ大丈夫そうだ。
ちなみに一応具も用意している。さすがにチャーシューや煮卵のように手間の掛かるものは無理だったので、海苔と揚げたネギと煮たシイタケだ。
器にタレと油を入れておく。一応目安は10cc+5ccだが、量り方は超適当。
揚げネギを見たお客さんが、「これ、虫ですか?」と聞いてきたぞ。
揚げたネギは調味油を作ったときのもの、シイタケはタレを作ったときのもので我が家のラーメンでは定番の具。どちらもリサイクルだ。海苔は安物の刻み海苔。
麺にからみつく揚げネギの香ばしさと、味のアクセントとなるシイタケのしょっぱさが魅力的な一杯だ。この2つの具は数量限定となるが、海苔と胡椒だけでも、まあまあうまいと思う。
久しぶりに食べるけれど、やっぱり自家製麺っておいしい。
そしてお店がオープンした
とうとうやってきた開場時間。準備万端とは言い難いが、ボランティアスタッフの働きのおかげで、どうにかお客さんを迎え入れる用意はできた。
あとは一切練習をしていない、オペレーションがうまくいくかどうかだ。あー、不安だ。
ぱっと見て、なにをするブースなのかよくわからないな。説明のポップとかを作る余裕が全くなかった。
開場と同時にドドドっと流れ込んでくるお客さん。このブースにも、たくさん来てほしいような、そっとしておいて欲しいような。あー、超不安。
この日は300人以上が集結したそうです。ありがたや、ありがたや。
武骨なミシンみたいな機械が2台と、どうみても料理途中の小麦粉の塊が並んでいるという、なにができるのか見当もつかないブースなのだが、それでもお客さんは来てくれた。
ラーメンの味はしょっぱくないだろうか、茹で時間はちょうどいいだろうか、そもそもこの体験はおもしろいのだろうか、ついつい来てくれたお客さんを質問攻めにしてしまう。
記念すべき1人目のお客様。後ろでフォアグラを掘っているライター藤原さんと奇跡のマッチングだ。
茹で時間は90秒とした。セルフサービスなので、時間を計るのもお客さん。腕時計を見たり、スマフォアプリで測ったり、声を出して数えたり。
店主は器にタレと油を入れ、そこに茹でた麺をよそうだけ。「よく混ぜて!」と伝えるのが主な仕事。
肝心の製麺機は有能なボランティアスタッフに丸投げしてしまった。私の3倍親切な対応。
準備の時はどうなることかと思ったが、生麺なので沸騰しきっていないお湯でも茹で時間が90秒と短く、お客さんが混んでいる時間を避けて並んでくれたので、大きな混乱もなく対応できたと思う。
対応といっても、私は「麺をいれて90秒測って!」とか、「よく混ぜて適当にトッピングして!」といっているだけだが。
それでも結構疲れてしまって、「お湯を変える」という理由で、3回休憩を入れてしまった。
一日店長、楽しませていただきました
製麺機から麺が出てくるときに、何度も拍手が起こっていたようだし、肝心の味も評判が良かったようでなにより。
どうだい、俺の製麺機は力強いだろう。そう、これが言いたかったのだ。
味に関しては、やはり自分で麺を作るというアトラクション部分の加点が大きいと思う。
揚げネギよりも日焼けしている編集部の安藤さんが絶賛してくれた。
レバ刺しのハチマキ巻いて夢中でラーメンをすするライターのさくらいさんと、自家製麺二回目となる北村さん。
これ、なかなかおいしいよと目を大きくするライターの玉置さん(自分だ)。
車で来ているのでおとなしくジュースを飲んでいたら、目の前でうまそうに氷結を飲みだしたライターの斎藤さん。
5時間のイベントで出たラーメンの数は、どうにか目標達成といえる150杯。回転の悪さに試食を諦めたお客さんもいただろうが、来場者の約半数には食べてもらえた計算だ。
さすがに用意した200杯全部は無理だったが、極端な準備不足、経験不足を考えれば、十分うまくいった結果である。
ものすごく疲れたが、とても楽しかった。機会があれば、また出前をしてみたいと思う。B1グランプリ的なものの予選にでも出たいくらいだ。
でも製麺機のポテンシャルはもっと高いんだぜ
このイベントでは自分の実力を全部出し切った感があるのだが、出したラーメン自体の味でいえば、家で作る物の半分も出せていないと思う。
やはり200人分という給食のおばさんクラスの量を仕込む経験と、台所以外の場所で味を再現するための知恵が足りなかった。
もうこんな経験をすることはないだろうけれど、次は汁なしタンタン麺でリベンジだと、イメトレだけはやっておくことにする。
翌日、余った材料で太麺の汁ありタイプを作ってみた。このクオリティが出せればよかったのだが。