特集 2012年6月21日

街頭インタビューに街頭インタビューしてみる

取材クルーとの緊迫した駆け引き
取材クルーとの緊迫した駆け引き
テレビのニュースや情報番組などの街頭インタビューを、新橋や銀座で実際に収録しているところをよく見かける。

この「街頭インタビュー」に「街頭インタビュー」してみたらどうだろう?
こういう自己言及のパラドックスっぽいダジャレが大好きなのだ。(例:ちょうちん屋さんのちょうちん記事を書く

そんな軽い気持ちで取材を始めたのだが、実は今回のこの記事、原稿を落としかねない事態になりかけた。しかし、最後に大どんでん返しでなんとか盛り返すことができた。ぜひ、最後まで通してご覧頂きたいと思う。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

前の記事:練馬に県境が一目でわかる場所がある!

> 個人サイト 新ニホンケミカル TwitterID:tokyo26

一度でいいからインタビューされてみたい

新橋や銀座でやっている街頭インタビューを観察していると、インタビューアーに声をかけられても断っている人がけっこう多い。
あ、もったいない。ぼくだったらふたつ返事でインタビュー受けるのに。
なんかうらやましい
なんかうらやましい
いっそのこと「どんな人に声をかけてるんですか」って、こっちから街頭インタビューにインタビューしてみたい。

街頭インタビューの聖地、新橋へ

市議会議員のプロフィール写真みたいになった
市議会議員のプロフィール写真みたいになった
そんなわけで、街頭インタビューを街頭インタビューすべく、新橋にやってきた。
一応、新橋ということなのでサラリーマンを装ってスーツを着込んできた。これから街頭演説を行う立候補予定者ではない。
ここで街頭インタビューをしている取材クルーを探し出し、こちらから街頭インタビューをしてみたいと思う。

いた! けど……

新橋ならば、何時行っても、取材クルーのひとつやふたつ、いるんじゃないか。そんな見通しのもと、しばし駅前のSL広場をうろうろしてみる。
すると……。
あ、取材クルーだ!
あ、取材クルーだ!
いた!
さすが新橋SL前広場。さすが街頭インタビュー定番と言われるだけある。カメラマン、インタビューアー、音声、ディレクターの4人組のクルーだ。
さあ、街頭インタビューだ!

なんか緊張してきた

あれ、なんだか、きんちょう、してきたぞ。
あれ、なんだか、きんちょう、してきたぞ。
さっそく、街頭インタビュー! という段になって、耳たぶがカーっと熱くなりはじめた。
あ、緊張してる!
企画会議であれだけ偉そうに「街頭インタビューに街頭インタビューしてみたいんですよねー」なんてのたまっていたのにだ。
足が前に出ない。
「街頭インタビューじゃなくて、ただのロケかもしれない。とりあえず、様子を見よう」という、もっともらしい理由をつけてしばらくクルーの様子をうかがっていた。
「尻込み」という言葉はこんな時に使うんですよって子供に教えてあげたい。

どっかに行ってしまった

尻込みしてる間に行ってしまった
尻込みしてる間に行ってしまった
ぼくが尻込みしているあいだに取材クルーは風景を撮影を終えて駅に行ってしまった。
現場からの中継みたいな画になった
現場からの中継みたいな画になった
なんだか、みょうな安堵感を感じてしまった。
いやいや、ほっとしている場合ではない。これでは記事にならない。他の取材クルーを探さなければいけない。
とりあえず銀座に移動してみることにした。銀座四丁目交差点も新橋SL広場に並ぶ街頭インタビューの定番場所なのだ。

だんだん気が重くなってきた

銀座にやってきた。
なんか緊張してきた
なんか緊張してきた
街頭インタビューの聖地に、果たして街頭インタビューはいるのか!?
うわ、居た!
うわ、居た!
いきなり居た。さすが銀座、街頭インタビュー約束の地。石を投げたら街頭インタビューにあたるとぼくが勝手に言うほど街頭インタビューが多いというのは本当だ。
あの人達にインタビュー……
あの人達にインタビュー……
するのか……
するのか……
しかし、そんな状況とはうらはらに、ぼくの気持ちはだんだん重くなってきていた。
自分で言い出したにもかかわらず、いざこちらからインタビューすると「怒られないだろうか」とか「無視されるんじゃないか」とか、余計なことを考えて緊張してしまう。
緊張するから「だいたいこの企画って面白いか?」と、そもそも論から考えてしまう。

意を決して……

しかし、こんなところで逡巡をしている暇はない。インタビューしないとこの企画自体が成立しない。
えーと……
えーと……
緊張するなー
緊張するなー
「早くいけこの野郎!」とお感じの読者諸兄姉も多いと思う。その思いは、今原稿を書いているぼく自身も同じだ。
行ったかー
行ったかー
無理無理……
無理無理……
いい加減にしてほしい。「インタビューしたいとか言い出したのお前だろ!」と、自分自身に怒りがこみ上げてきてしまう。

ついにインタビュー!

ついにインタビュー開始……
ついにインタビュー開始……
そうこうするうちにどんどん時間だけ過ぎていく。
どうやら取材クルーのインタビューも一段落ついたみたいなので、腹をくくって近づいて街頭インタビューを試みる……。
街頭インタビューは無理だそうです
街頭インタビューは無理だそうです
はたして、街頭インタビューに街頭インタビューは断られてしまった。
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街頭インタビューは取材NGだった

「すみません、街頭インタビューをインタビューしたいんですが……いいですか?」と話しかけたところ、インタビューアーの人は目を見開いて「エッ!」という顔をした。
そのあとは何を問いかけても「すみません、無理です」「ごめんなさい、ダメです」と全く取り付く島もない。
街頭インタビューに挫折し、もういちど新橋へ向かう
街頭インタビューに挫折し、もういちど新橋へ向かう
「道ゆく人をわざわざ呼び止めてインタビューするぐらいなんだから、こちら側からのインタビューぐらい受けてくれるんじゃないか?」という考え方は甘かった……。

さて、どうする?

新橋に舞い戻ってきた。
さてどうしたものか
さてどうしたものか
たしかに、街頭インタビューの取材クルーは忙しそうだ。こちらからインタビューするのは難しいかもしれない。
ここは、「一般人を装い、向こうからインタビューされるのを待って、最後にこっちからの質問も聞いてもらう」という作戦に変更しよう。
あ、さっきの取材クルーだ
あ、さっきの取材クルーだ
新橋に戻ると、折よく最初に見かけた取材クルーが街頭インタビューを始めていた。
一般人を装い、間合いを詰める……
一般人を装い、間合いを詰める……

なかなか取材されない

こっちにこねーかなー
こっちにこねーかなー
しかし、待てど暮らせど、取材クルーはこちらに来ない。
あ、こっち向いた! こっち来るか!
あ、こっち向いた! こっち来るか!
手前のおっさんだった!
手前のおっさんだった!
でも、手前のおっさんは取材NG
でも、手前のおっさんは取材NG
うーん、ぼくに来てくれれば取材受けるのに! 取材クルーはなかなかこっちに来てくれない。なんだ? 怪しいオーラでもでてるのだろうか?

順調に無視され続ける

その後もインタビューされるべく「変な奴じゃないよー」という念波を発しながらひたすら立ち続けること、40分。
こっち来い!
こっち来い!
あやしくないですよー
あやしくないですよー
やっぱりこない。

なかなかこない

取材クルーを観察していると、サラリーマンだけではなく、若い女性や中学生など、さまざまな年齢層に声をかけている。
ぼくにも十分インタビューの可能性はある! はず……。さらにひたすら待つ。
取材される修学旅行生
取材される修学旅行生
修学旅行生が取材され始めた。くそー、なんかうらやましい。
帰った
帰った
修学旅行生のインタビューが終わると、学生と一緒に記念撮影をして、取材クルーは帰っていった。
えーと、記事どうしようかな……。
記事どうするかな
記事どうするかな

さすがにこのままでは終われない。

もう、街頭インタビューとかどうでもいい。そんなところにはこだわらない。正攻法で行くしかない。
赤坂にあるテレビ局
赤坂にあるテレビ局
仕方がない。ここは大人のコネクションを最大限に利用し、赤坂にあるテレビ局のディレクターの方をインタビューすることにした。
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街頭インタビュー答え合わせ

TBSのディレクター、小林さん
TBSのディレクター、小林さん
一体、ぼくの何がまずかったのか。TBSテレビ情報制作局 情報ニ部の小林祥子(さちこ)さんに話を伺うことにした。
小林さんは報道番組などを経て、現在は情報番組を担当されておられる、現役のディレクターさんだ。

--街頭インタビューについて、いろいろお話をお伺いしたいと思ってきたんですが
「はい、なんでもどうぞ! 今日はちょうどさっきまで街録(がいろく)してたんですよ」
--街録ですか?
「えぇ、街頭インタビューのことを「街録」って言うんですよ、おそらく「街頭録音」の略なんですが、ラジオ時代の名残でしょうね」
ラジオ時代の用語がテレビ局にも残っているのが面白い。Wordの保存アイコンがフロッピーディスクの絵のままなのとちょっと似ている。

--ところで、銀座で街頭インタビューに街頭インタビューしようとしたらにべもなく断られてしまいました……
「それはおそらく時間がなかったんじゃないかな? 特に報道は今日撮って今日オンエアなんてのが普通ですので」
--たしかに、カメラに「NEWS」って書いてありました。
「あと、テレビ局の名前を出してインタビューをお引き受けするのは、即座の判断は無理だと思います。所属会社も様々ですし、一個人の判断だけでは難しいかと……ちなみに、今回の私の取材は、会社に届出を出していますので大丈夫ですよ!」
うーん。まったく当たり前すぎて返す言葉もない。
街頭インタビューしてる人は忙しいのでこちらから声をかけるのはやめましょう
街頭インタビューしてる人は忙しいのでこちらから声をかけるのはやめましょう

インタビューされなかったのは?

--作戦を変更して今度はインタビューされようと新橋の広場でウロウロしてたんですが、まったく声がかかりませんでした
「新橋であればサラリーマン狙いだと思うんですが、スーツ着てました?」
--スーツ着てたんですよ、でも全く声かけられなかったです
「だとしたら『この人あやしい』と思われた可能性がありますねー(笑)インタビューする側の気持ちで言えば、ウロウロしてる人にはまず声かけないですね」
--インタビューに出たそうにウロウロしてるとダメ?
「そうですね、そういう人に「いつ放送なの? 絶対放送するの?」とか言われちゃうと、いろいろと難しいことになったりするので、申し訳ないんですが避けさせてもらうことが多いです、やはり普通に歩いてるひとになるべく声をかけるようにしていますね」
た、たしかに、自分の行動を振り返ると、ジロジロ見たり、変な間合いをとったりして、なんか面倒くさそうな人になってた! これは恥ずかしい!
インタビューされたい場合は、興味深そうにウロウロしてるとダメなのだ。
興味深そうにすると逆効果!
興味深そうにすると逆効果!

町のイメージ通りの場所でインタビューする

--やはり新橋だとサラリーマン狙いなんですね
「基本的にはそうなんですが、ただ最近は色々と厳しいので、例えばTBSの赤坂サカスにしても、街録しようと思ったら同じ敷地内でありながら使用許可とらないとダメなんです。ですからパッと行ってすぐ街録できる新橋や銀座に場所が固定化されている、という側面はありますね」
--なるほど、新橋だから必ずしもサラリーマン狙いというわけでもないんですね
「ただ、やはり町のイメージから街録場所は選ぶというのはもちろんありますね。新橋はサラリーマン、銀座はマダム、秋葉原はオタクと外国人、お年寄りは巣鴨、若者は渋谷、主婦は戸越銀座……といった感じで」
--秋葉原は外国人もなんですか?
「えぇ、最近は多いんですよ、中国などからの外国人観光客とか」
--あと、戸越銀座も言われてみればよく見ますね
「戸越銀座は親しみやすい下町系のおばちゃんとかで、セレブなコメントは求めに行かないですね」
セレブは期待していない銀座、戸越銀座(「東京と大阪の商店街くらべ」 より)
セレブは期待していない銀座、戸越銀座(「東京と大阪の商店街くらべ」 より)

酔っぱらいと関西人は取材しやすい

--新橋だと、酔っぱらいにインタビューしてることよく見ますけれど、酔っぱらいって大変じゃないですか?
「酔っぱらいは楽です。酔っぱらいと関西人は楽です。みんな止まってくれるから」
ーーそうなんですか!
「東京の人のほうが街録は難しいです。地方だとテレビがいることが珍しいって思うこともあるだろうし、特に関西人は基本的に人なつっこいので、ほんと大阪に行くとびっくりするくらい気さくです」
--酔っぱらいや関西人のノリは逆に面倒くさいのかなあと思っていました
「ですから『探偵!ナイトスクープ』みたいな番組が成立するのも関西ならではなんだと思いますよ」
酔っぱらいと関西人は街頭インタビューが楽(「何をやっても台なしになる方法」 より)
酔っぱらいと関西人は街頭インタビューが楽(「何をやっても台なしになる方法」 より)
関西人はシラフの状態でも、酔っぱらいのテンションに匹敵するほど街録が楽なのだそうだ。「酔っぱらいと関西人は街録が楽」というのはテレビ業界の人にとっては常識らしい。
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立ち止まってもらうための工夫とは?

街頭インタビューで、歩いている人に立ち止まってもらってインタビューするというのもずいぶん難しいのではと思うのだが、そのへんはどうだろう?
「ものすごい早足で歩いているひとには、もちろん声かけません。でも、例えば女性だと二人組は立ち止まってもらいやすいというのがありますね」
ーーたしかにインタビューで女性二人組はよくみますね
「インタビューいいですか?って聞いた場合、女性二人組だと『え?どうする?どうする?』ってなって『私はいいよ』みたいな流れでインタビューに答えてくれることが多いです」
女性二人組は心のハードルが低くなる
女性二人組は心のハードルが低くなる
「それから『んー、どうしようかな~』って迷ってる人にはもうこちらから『ありがとうございます!』と言っちゃってインタビューすることあります」
ーー相手の懐に飛び込んで、ちょっと背中を押してあげるんですね
「もちろんそれでダメだったらインタビューはしないんですけど、受けてもいいけど恥ずかしいなって思ってる方にはありがとう作戦ですね」
インタビューの成功率は日によって違うらしいけれど、100人に声をかけて半分答えてくれれば多い方なのだという。
あとは、インタビューする番組の知名度にもずいぶん左右されるらしい。
「始まったばかりの番組を担当していたときは、番組名を言っても『?』という顔をされることが多かったんですが、今担当してる番組はみなさんご存知なので『!』という顔でインタビュー受けてもらえることが多いですね」
よくインタビューマイクに付いている番組ロゴなども、そのへんの警戒心を解くためのアイテムなのだそうだ。
警戒心を解きほぐす工夫
警戒心を解きほぐす工夫

採用されるコメントとは?

かりに、街頭インタビューでインタビューされたとしても、そのコメントがテレビでオンエアされるかどうか?という問題もある。
「例えばこちらから質問を呈しますよね、で、答えが『はい』とか『いいえ』とか『そうですね』しか言わないひとは全く使えないんです。ですから、インタビューイーにそういう言葉しか答えさせないような質問をするインタビューアーは下手くそなんです」
ーーただ、道を歩いてて突然呼び止められて、インタビューされて、そこで質問に対して自分の言葉で意見が言えるっていうのは大変ですよね
「もちろん、事前に取材趣旨は十分説明して、数秒しか使わないものでも数分は撮ります。その中で例えば『コンビニはいろんなことができて便利ですが、どういう使い方しますか?』みたいな質問で、相手が『そうですね、演劇が好きなので、チケットの手配なんかをよくします』みたいな感想が出てくれば採用!って感じですね。」
インタビューイーが考えるヒントや、なにかを想い出すきっかけを誘導尋問にならない程度に質問に混ぜていくというのはたしかに難しそうだ。
新人のディレクターだと、撮り直し! となってしまう場合もあるらしい。

上手いインタビューアーは無言

「それから、上手いインタビューアーは無言というのがありますね」
ーーえ、それはどういうことですか?
「インタビューのコメントは、できればそのまま編集せずに使いたいんですよ、コメントの最中にインタビューアーの『なるほどー』とか『それはどういうことですか?』みたいな音が入ってると、視聴者は「お前誰だよ!」って思っちゃう。だから音が入らないように無言で大げさに頷いたり、大きく首をかしげたりして視線や身振りで意思表示するんです」
実際に自分でやってみるとよく分かるけれど、大きく頷くリアクションはわりと普通にできる。
なるほどー!
なるほどー!
しかし、無言で『それどういうことですか?』という意思表示するのは結構難しい。うっかりしてると目つきが悪くなって相手に不快な思いをさせてしまいかねない。
おい、ジャンプしてみろよ
おい、ジャンプしてみろよ
こんな表情になると失敗だ。
あくまで首はかしげつつ、目は笑う。
母親らしい慈愛に満ちた表情でかつ「それ、どういうこと?」と聞いている
母親らしい慈愛に満ちた表情でかつ「それ、どういうこと?」と聞いている
街録では大きなリアクションで頷いたり首をかしげたりするので、首が痛くなることも多いらしい。我々には考えが及びもしない職業病である。

ニュースの街頭インタビューを見るのが楽しみになってきた

ろくろ回しときますか? ときいたら「恥ずかしいからいいです」とのことだった
ろくろ回しときますか? ときいたら「恥ずかしいからいいです」とのことだった
当初の「街頭インタビューに街頭インタビューをする」という目的からは大幅に脱線してしまった感があるとはいえ、街頭インタビューをしたことある人にインタビューできたので個人的には満足している。
相槌を打つときの表情の作り方などは普段の会話の中でも実践してみたいと思う。慈愛に満ちた「なにそれ?」という表情ができるよう頑張りたい。

(撮影:地主恵亮)
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