今回は3人のひとの通勤についていってみた
前回は、東京近郊で通勤しているひとについていったわけだけれども、もちろん通勤してるひとは日本全国にいくらでもいるはずだ。
東京以外の都市に行けば、その都市ならではの通勤があるはず。そんなわけで、今回は大阪で通勤しているひとについていってみた。
(1)「地下鉄の方が便利なので……」
玉出(地下鉄四つ橋線)→ 江坂(地下鉄御堂筋線)
(2)
「ちょっと遅くても運賃の安い方を」大和西大寺(近鉄奈良線)→ 谷町四丁目(地下鉄谷町線)
(3)
「雨の日だけ電車で通勤します」
九条(地下鉄中央線)→ 四ツ橋(地下鉄四つ橋線)
玉出から江坂まで
トップバッターは、玉出から江坂まで通勤されている日下部さんの通勤についていってみた。
日下部さんの通勤ルートは、玉出駅から地下鉄四つ橋線に乗り、大国町で御堂筋線に乗り換えてそのまま江坂まで北上する、大阪市内を南から北へ移動するシンプルな通勤ルートだ。
東京でいえば戸越駅から都営浅草線に乗り、三田駅で都営三田線に乗り換えて西台あたりまで行く感じだろうか?
なぜか村上隆と勘違いしてた!
江坂の会社まで約30分の道のり
スーパーで有名なあの玉出です
日下部さんは、ぼくがツィッターで行った募集ツィートを、どこでどう間違ったのか、現代美術家の村上隆氏が「『通勤の観察』をしている」と勘違いした奥様に勧められて連絡をくださったらしい。
ぼくと連絡をとった後「あ、このひと村上隆じゃない!」と気づいて困惑したそうだ。
なんだか、ものすごく申し訳ない気持ちになってしまった。
ぼくですみません……村上隆氏はこんなお金にならない奇特な取材はたぶんやんないと思います……。
地下鉄を利用する理由
ところで、実は日下部さんの最寄り駅は南海高野線の帝塚山駅らしい。しかし、帝塚山駅は使用せず、わざわざ少し離れた玉出駅まで歩いて通っている。
より大きな地図で 帝塚山と玉出 を表示
帝塚山駅と玉出駅は1キロほど離れている
--帝塚山駅からなら南海電車で難波まで行って、御堂筋線乗り換えでもよかったんじゃないですか?
「私も最初そうするつもりやったんですけど、妻が地下鉄の方が使いでがいいっていうので、玉出まで歩いてるんですよ」
--たしかに、南海難波乗り換えで御堂筋線より、玉出から市営地下鉄に乗ってしまった方が、運賃も安いかもしれないですね。
「地下鉄の定期があれば色々と便利ですしね」
調べてみたところ、帝塚山から南海難波経由で江坂に行った場合、南海電車と市営地下鉄の運賃がかかるため片道470円なのに対し、玉出から大国町乗り換えで江坂に行った場合は市営地下鉄だけの利用になるので310円だった。
さすがに160円も違うと「玉出まで歩いて!」という奥様の気持ちも十分わかる。
他社路線の乗り換えをなるべく減らすというテクニックは、乗り換えの面倒くささを避けるためだけではなく、お金の節約にもなるのだ。
乗り換えを少なくするとお金の節約にもなる
超絶便利な大国町乗り換え
そうこうするうちに玉出から大国町に到着した。ここで、四つ橋線から御堂筋線に乗り換えである。
実はこの大国町駅乗り換えがものすごく便利で、同じ方向に向かう電車同士であれば、到着ホームの向かいのホームに来た電車にのるだけの簡単に乗り換えできる。前回の新宿駅の総武線と山手線の乗り換えの要領で乗り換えできるのだ。
降りたホームがそのまま乗車ホームに
新宿駅の総武線と山手線の乗り換えと同じしくみ
--大国町乗り換えはものすごく便利ですね
「便利なんですが、御堂筋線の電車は10両編成なのに対して四つ橋線は6両編成なんですよ。なので、最後尾車両の停車位置がずれてしまうんですよ。江坂では最後尾車両の方から降りたいので、もうすこし少し後ろに移動します」
車両の長さが違うので停車位置がずれる
さらに、御堂筋線では終日女性専用車両が設定されているので、乗車口の待機場所を間違えると大変なことになってしまうそうだ。
などと、乗車位置を移動しているうちに御堂筋線の電車が来た。
イケてない中津行きで座る
あー、中津行きですわ
「あー、これ中津行きですわ。でもこれに乗ります」
--中津ってたしか、梅田の一つ先でしたね?
「そうです、江坂まで行く場合、中津で乗り換えなあかんのですわ」
--ガラガラですね、土曜日だからですか?
「たしかに土曜日だからってのもありますけど、中津行きはイケてないから、わりとすいてますよ」
--イケてないんですか(笑)
「行き先は千里中央行きか、中津行きがあるんですけど、中津行きは途中で運転終了しちゃって新大阪まで行かないんで、イケてないんですよ。だからその人の考え次第で、中津行きに座っていって中津で乗り換えてまた座るのか、最後まで乗り換えなしで行くのか。人それぞれですね」
中津行きは途中で力尽きるのであんまりイケてない
来た電車が空いてて「ラッキー」と思って乗ったら途中の駅で運転終了だった。なんてのもよくあるシチュエーションだ。
そんなことを話していると、地下鉄はいつの間にか地上に出て、高速道路と並走しはじめた。
地下鉄が高速道路と並走するので面白い
江坂駅に到着
高速道路と並走する地下鉄なんて東京には無いのではないだろうか?
自動車と並走する感覚は、地下鉄が路面電車になったような雰囲気でちょっと面白い。
(※追記 この「新御堂筋」は、高速道路ではないそうです。ご指摘ありがとうございます。)
そしてしばらく走るとあっという間に江坂に到着。日下部さんとはここでおわかれだ。30分ほどのあっという間の通勤だった。
大和西大寺から谷町四丁目まで
次は今回一番の長距離路線。奈良県奈良市の大和西大寺駅が始発だ。
大和西大寺駅といえば、近鉄奈良線、京都線、橿原線が平面交差するため、無数のポイントがある駅として鉄道ファンにはおなじみの駅である。
とりあえず、写真を見ていただきたい。
ずどーん
平面交差のぐちゃぐちゃぶりもさることながら、架線の込み入りぐあいも素晴らしい。
どの線路の上を走ってるのかわからない
おもわず、我を忘れて線路を撮影するのに夢中になってしまった。平面交差の写真を撮りに来たのではない。通勤についていくためにきたのだ。
スペクタクルな生駒山越え
今回のこの通勤は大阪市内の会社に奈良県から通っている藤岡さんだ。
フリーランスだが、レギュラーの仕事がある会社に通勤されている
藤岡さんの通勤ルートは、自宅最寄り駅の大和西大寺駅から近鉄奈良線で大阪上本町駅まで行き、地下鉄谷町線に乗り換えて谷町四丁目までだ。
路線図で見るとこんな感じになる。生駒や長田がなぜ描いてあるのかについては後ほど説明することにしたい。
さて、この路線図をざっとみて、だだっ広い関東平野に住んでいる者にとっては途中、山地を越えて(トンネルなので突き抜けるのだけど)通勤するというのは、スペクタクルに感じると思う。
八王子駅から新宿駅に中央線で出かけるのに、三鷹あたりにでっかい山脈があるようなものだ。
例えがわかりにくかったかもしれないけれど、いずれにせよ、山越えして働きに行く。という感覚は山賊みたいで新鮮だ。(奈良県民が山賊という意味ではありません)
少し時間がかかる準急で大阪へ
じっと準急を待つ
--どの列車に乗るんですか?
「本当は快速急行に乗ると早いんですが、座れないんで大和西大寺駅始発の準急に乗ります」
--あぁ、始発ねらいですね
「ですね、快速急行はこの駅より前にある奈良駅始発なので、すでに人がいっぱい乗っていて座れないんですが、準急であればこの駅が始発なんで座れるんですよ」
通勤テクニックのひとつ「始発ねらい」である。始発の駅からであれば、座れる可能性が高いのだ。
始発駅のホームに滑りこむ誰も座ってない始発電車を見ると「うわぁ~どの席にどんなふうに座ってもいいのだ!(常識の範囲内で)」と、真っ白なキャンバスを与えられた画家のような気持ちになるのはぼくだけだろうか?
ちなみに「快速急行に乗らず準急に乗る理由」はまだ他にもあるのだが、それは後ほど説明したい。
意外と細かい乗車位置の指示
ところで、ホームにやたら見かける△や○のしるし。……おそらく電車の乗車位置を示すものなのだと思うけれど、さっぱり意味がわからない。
知らない人にとっては謎の記号
阪神線と近鉄線の快速電車の乗車位置ここです
--藤岡さん、このしるしって乗車位置のしるしですよね?
「そうですね、けっこうややこしいんですよ、赤が快速で、△が阪神線の車両で、○が近鉄線の車両なんです、乗り入れている阪神電車の車両と近鉄電車の車両の長さが違うんで、乗車位置が違ってくるんですよ」
--阪神線ってそうか、阪神なんば線で神戸とつながったんでしたね
「2年くらい前だったかな? 阪神なんば線が開通した当時は乗車位置マークの意味をしきりにアナウンスしてたんですが、最近はやってないな」
2009年、阪神なんば線の西九条から大阪難波駅までが開業し、近鉄線と相互乗り入れするようになったのだ。
東京だと、半蔵門線が押上まで開通し、東武伊勢崎線と東急田園都市線が繋がった話に似ている。
快速急行に乗らないもう一つの理由
首尾よく座席を確保
待つこと数分、始発の準急電車が入ってきた。我々はさくっと座席を確保する。
「電車に乗ったら、いつもは寝てしまうんですけど、じつは快速急行に乗らないもう一つの理由がそこにあるんですよ」
--え? なんですか?
「準急は大阪難波駅までなんですよ、だから寝過ごしても二駅で済むんですが、快速急行に乗って寝過ごすと、三宮まで行ってしまう可能性があるんで、快速急行には乗らないんです」
--あー、なるほど。
思わず唸ってしまった。そうか、もし寝過ごしても大丈夫とわかっていれば、心置きなくぐっすり寝られる。こういう通勤裏ワザ欲しかったんです。役には立たないけれど。
少しでも安い路線の定期を買う
--路線図を見ると、生駒でけいはんな線に乗り換えてそのまま中央線で谷町四丁目に直行するという方法もあるとおもうんですけど、どうですか?
「たしかにそれだといくらか早いんですけど、でもけいはんな線の運賃ってちょっと高いんですよ」
--あ、そうなんですか?
「定期にすると数百円の違いなんですけどね、あと、生駒で乗り換えると座れないんですわ」
--あー、それはしんどいですね
「だから上本町経由なんです」
乗り換え検索のサイトなどで、大和西大寺駅から谷町四丁目駅までを検索すると、生駒でけいはんな線に乗り換えて中央線で行くルートがよく出てくるけど、これに従っているとずーっと立ったまま移動するはめになるかもしれない。
検索結果に「席に座れるかどうか」という電車の混雑具合も教えてくれるような検索ソフトがあると、ものすごく便利なのになあと思った。
上本町に到着
上本町から谷九の連絡通路
ここからは地下道を使って地下鉄谷町線・谷町九丁目駅に乗り換えだ。
千日前線ホームを経由するわけ
千日前線のホームに入っていった
--これから、谷町線に乗り換えなんですよね?
「そうなんですけど、谷町線のホームに行くのに千日前線のホームを経由します」
--え? なんでですか?
「いや、実は谷町線の東梅田方面行きのホームに行くには階段を上り下りしなきゃいけないんですけど、千日前線ホーム経由だと下りも上りもエスカレーターがあって楽なんですよ」
--へー、よく気づきましたねそれ。
「多分、上本町から谷町九丁目に乗り換えするひとは誰でも知ってますよ」
千日前線のエスカレーター
エスカレーターを上りきると谷町線・谷町九丁目駅
ちなみにこちらは改札外の連絡通路、おじいちゃんに教えてあげたい!
こちらの
構内案内図をみていただきたいのだけど、たしかに上本町方面から谷町線谷町九丁目駅の2番ホームに行くには、千日前線のホームに入ったほうが、下りも上りもエスカレーターが設置してあるのに対して、改札外の連絡通路だと階段しかない。
大阪の地下鉄乗り換え事情に興味のないひとには目が上滑りするような解説だったけれど、
さすが、毎日利用している人でなければ気づかない通勤の裏ワザだ。
そして、谷町九丁目から谷町四丁目まで電車に乗り、ぶじ勤務先の最寄り駅に到着。
目的地「谷町四丁目」に到着
藤岡さんの通勤は山越えから乗り換えエスカレーターの裏ワザまでじつにエキサイティングな通勤だった。
九条から四ツ橋
続いて最後の通勤は九条から四ツ橋までの通勤だ。前の二つに比べてとても短い。いったいどんな通勤なのだろうか?
紳士!
九条から四ツ橋まで通勤しているのは大宮さんだ。大宮さんは昨年、転勤で東京から大阪に引っ越してきたばかりだそうだ。
いつもは、晴れてれば徒歩で30分かけて通勤しているそうで、本当は徒歩通勤についていくつもりだったのだけど、当日はあいにく雨が降ってしまったため、地下鉄での通勤についていくことにした。
徒歩通勤でやせた
大宮さんの自宅近くの交差点で待ち合わせてさっそく通勤開始。
アーケード万歳!
大宮さんの自宅付近から九条駅までの道にはうれしいことにアーケードがついている。雨の日の通勤に使う道にわざわざアーケードがついているのはとても便利だ。
--晴れてれば徒歩で通勤なんですよね?
「えぇ、このアーケードの道をちょうど逆方向にまっすぐ進めば会社のすぐ近くに着くんですよ」
--電車で通勤するのと徒歩で通勤するのと、どっちが早いですか?
「電車だと25分ぐらいですかね、徒歩だと30分ぐらい、5分ほどしか違わないんですよ」
--たしかに5分しか違わないのなら徒歩通勤も選択肢に入りますね
「毎日往復で1時間は歩いてますから、4キロ痩せましたよ」
--う、うらやましい……
結局、傘は開かなかった
大阪の券売機に感じる違和感
大宮さんは雨の日だけの地下鉄利用なので、切符を買わなければいけない。
--ICOCAやPiTaPaは持ってないんですか?
「買い方がよくわからないんですよね」
--たしかにPiTaPaはSuicaやPASMOみたいに気軽に買えませんね。
券売機に手こずる
「あと、大阪の券売機ってお金を入れてからじゃないと、画面が反応しないんですよね」
--あ、ぼくもそれ感じました。東京の券売機は目的地やチャージ料金を入力し終わって金額が出てから一番最後にお金を入れる方式ですけど、大阪の券売機は先にお金を入れないと画面が反応しませんね。
「その辺はいまだに慣れませんね」
エスカレーターの並ぶ場所のように、大阪で感じた違和感を共有できてちょっとうれしい。
乗車位置を間違えるとえらいことになる
本町で乗り換えやすくするため、最後尾車両まで移動して電車を待つ
--このホームではどのあたりに並ぶんですか?
「いちばん最後尾の車両ですよ」
--それは本町駅での乗り換えのために?
「そうです。本町駅の中央線のホームと、四つ橋線のホームはけっこう離れてるんで、中央線でうっかり先頭車両なんかに乗っちゃうと、中央線のホームを延々と歩かなきゃいけけなくなるんです」
本町駅は、東京でいうと永田町や大手町のようなホームの端っこで他の駅につながっているタイプの駅なので乗車位置がかなり重要なのだ。
東西線にくらべたらずいぶん楽だ
乗車した電車は座れないものの、立っている人同士はお互い触れることもなくつり革につかまれば十分読書などができるくらいの混雑だった。
余裕の表情
「いやー東西線の混雑に比べれば、天国みたいですよ」
--たしかに、そんなに混雑してませんね
「東西線だと立ったまま寝られますからねー」
--ハハ、たしかに。あれは人の波に身をゆだねるしかないですよ
おそらく、東西線の混雑を経験すればどこのどんな通勤に出くわしても耐えられるはずだ。東西線は修行なのだ。
本町で乗り換えてあっという間に到着
中央線本町駅ホーム
長い長い連絡通路
九条から本町駅までは10分もかからない。すぐ乗り換えだ。長い連絡ホームは人が集中している
連絡通路が一箇所なので人が集中する
中央線のホームから四つ橋線のホームまでけっこう離れている。実は昭和44年まで四つ橋線の本町駅は「信濃橋駅」と駅名が別だったほどなので、けっこう離れているのだ。
都心に住んでるから通勤が楽
本町駅を出発するとすぐ四ツ橋駅に到着。本当にあっという間だ。
ラッシュとは逆方向なので
余裕で座れる
この時間帯の四つ橋線本町駅から住之江公園方面行きの電車はガラガラだ。余裕で座れる。
西梅田から本町でどっと人が降りるためだ。
--四つ橋線、ガラガラですね。
「都心から都心に通勤してるんで、ラッシュと逆方向なんですよね、だから通勤は楽ですよ」
徹夜したら眠い。ぐらい当たり前のことだけれど、納得してしまった。うーむ、なんとも羨ましい。
あっという間に会社の近くに到着
8時に出発してちょうど25分だった
大宮さんの会社前で時刻を見たら8時25分。8時に待ち合わせて出発したので、本当に25分ピッタリだった。
知らない町の日常はぼくの超非日常
以上、大阪で3件の通勤についていってみた。
大阪の町については、ぼくはまったくなにも知らないので、本町の乗り換えがやたら面倒くさい、とか、生駒市は盆地にある、とか、帝塚山から玉出まで線路がやたらある……など、どんな小さな情報でも新鮮で面白かった。
ひとの通勤についていくだけでも、その町のいろんな側面を見ることができてとっても楽しいのだけど、それが全く知らない町であればなおさらだ。
今後もぜひ、いろんな町でひとの通勤についていって見たいと思う。