高雄市のテナガエビ釣り堀へやってきた
テナガエビの釣り堀とやらは、首都の台北を中心にいくつかあるようだが、今回やってきたのは台湾南部の高雄市にある明星釣蝦育樂広場。
特にこだわりがあってという訳ではなく、泊まったホテルから近かったから。
にぎやかな夜市で夕食を食べ、ほろ酔いで路地を抜けて辿りついた異国のエビ釣り堀。まさに私が夢見た最高のシチュエーションである。
釣り堀といっても屋内型施設で、ゲームセンターが併設されている。
「これがエビの釣り堀かー」という感動は、昼のうちにきた下見ですましてあるのだが、これから実際に釣ると思うと、やっぱりドキドキしてくる。
釣り堀にはゲームセンターが併設されており、昭和のボーリング場やバッティングセンターみたいな感じ。
なんとなくここは夜が似合う遊び場という気がするので、やはりこの時間で正解だよねと、同行いただいた小松さんと頷きあう。
公衆浴場のようなタイル張り。
日本でテナガエビ釣りは何度もやっているし、フナやコイが釣れる釣り堀にも何度もいっているが、テナガエビを狙う釣り堀というのは初めて。
釣り方がイメージできないので、受付で「アイアムシュリンプビギナー、プリーズレクチャー」みたいなトークで初心者をアピール。
料金は1時間150元(600円くらい)で釣り放題、道具やエサ代は全部込みのようだ。
竿や仕掛けはサービスで貸してくれるし、ハリが切れたら替えバリももらえる。
なぜかエビが渡されて、試食かと思ったら釣りエサだった。ザリガニ釣りみたいに共食いで釣るのか。
台湾のテナガエビ釣りって一体どんな仕掛けなんだろうと思ったら、日本のテナガエビ釣り寄りではなく、完全にフナやコイを釣る道具だった。釣りをしない人にはなにがなにやらで申し訳ないが、ざるそばを頼んだらスガキヤのラーメンフォークが出て来たみたいな話なのだ。
日本のフナ・コイ釣り堀文化が台湾にやってきて、釣る対象だけがエビに入れ替わったのだろうか。
謎の名人に釣り方を習う
受付のおねえさんに仲介していただき、台湾流のテナガエビ釣りを教えてくれたのは、デニムのシャツが似合うおじさんである。
日本の釣り堀にも100%いるタイプのおじさんで心強い。市ヶ谷フィッシュセンターなら常に3人はいるタイプだ。きっと名人。
受付のおねえさんの紹介なのだが、この名人が店員なのか常連客なのかは謎だ。
テナガエビは池の底を歩いているので、この釣りはエサが底スレスレを漂う高さにエサを合わせるのが肝らしい。
まずはウキのポジションを調節し、ベストなタナを見極めるところから始まる。
ハリにオモリをつけて、ちょうど良い位置にウキを合わせる名人。
竿に輪ゴムが止めてあるので、それで竿尻から底まで測り、ウキの位置を合わせるという方法もある。
日本でテナガエビ釣りといえば、極小サイズのハリを使うのだが、ここのハリは25センチのフナが似合うサイズ。そう、でかいのだ。
このハリで釣れるということは、それだけここのエビがでかいということなのか!
これが日本で釣ったテナガエビ。大きくても体が人差し指くらいのエビなんですよ。
エサはエビを米粒サイズに切ったものをハリの先にチョコンとつけるそうだが、そういえばこのエビがブラックタイガーくらいでかいじゃないか。
ならばこのハリのサイズも納得がいくというものだ。
カミソリでエサのエビを小さく切る。
ハリ先を隠すように付けるのがポイントのようだ。
竿とウキは、まるっきり釣り堀のフナ・コイ用。
ハリは2本と、練りエサを使うヘラブナ釣りのスタイル。
魚のように一気にエサを食べる訳ではなく、まずハサミで掴んでから移動しつつ口に運ぶので、合わせるタイミングが何よりも肝心。
ウキが沈んでもすぐには合わせるなと言っているのだと思う。
ピュッと素早く合わせるよりも、ゆっくり大きく合わせろと語っているはず。
名人から、ウキが動いてからしばらく待って合わせるようにというようなことを説明してもらっているはずなのだが、全然違ったらどうしよう。
この旅を通じて、もっとも己の語学力の無さを悔いた場面だ。
名人がエビを釣った!
名人の釣り教室をじっと見守ること約20分が経過。予想以上に釣れないもんなのかなと不安になり出した頃に、ウキの動きに合わせて竿をヒョイっと持ち上げた。
すると日本のテナガエビとは明らかに別種の、立派なテナガエビが上がってきた。名人の腕をもってしてもなかなか釣れず、重めの微妙な空気が流れ始めていたところでの渾身の一匹である。
こういう時って教える側の方が緊張しますよね。
我々の期待に応えて見事にゲット!
あの大きなハリが口にしっかりフッキングしてる。ハリを外すためのピンセットを持参するのがよさそうだ。
実にグラマラスなボリューム感。目の間から伸びた角がノコギリザメみたいでキュート。そして手の青さに感じる異国情緒。
なるほど、これは楽しそうだということで、さっそく我々も挑戦。
遠い異国の路地裏で、水面に揺れるウキをじっと眺めるという、とても贅沢な時間である。
人生の最後に見るという走馬灯に加えたいワンシーンだ。
どうにかテナガエビをゲット!
先程名人が1匹釣るのに20分掛かっているのでもわかる通り、この釣りはそうポンポンと釣れる釣りではない。
素人が貸し道具でヒョイとやって、アタリがあるのは10~20分に一回程度。そしてその待望のアタリでうまいこと合わせられないのが、この釣りの奥深いところ。
「まだまだ、まだまだ、よし今だ!」と期待して持ち上げた竿先が、軽く持ち上がってしまった時の虚しさたるや。
池の水はわざと黒くしてあるのか、底の様子は全く見えないため、ウキの動きだけが頼りとなる。
合わせが早すぎてもだめ、遅すぎても食い逃げされる。人生の縮図がここにあるのだ。
名人はこの仕掛けで釣ったけれど、やっぱりこれはヘラブナ用の仕掛けだよな。日本から仕掛けを持ってくればよかったか。いやでも郷に入れば郷に従えで、この仕掛けで釣ってこそだよな、それよりも昼にエサのミミズでも掘っておけばよかったなとか、延々と頭の中で狭い範囲の考え事がフル回転。
そうこうしていると、ウキがフッと水中に沈み、そのままゆっくりと横に動き出した。今までにないダイナミックなアタリである。
これはもう間違いない。そこからゆっくりと5つ数えて竿先を上げると、何とも言えない心地よいエビの重さが伝わってきた。
釣ーれーたー!
やばいね。この釣りはやばい。釣れた時の多幸感がすごい。いやどんな釣りもだいたいそうなんだけど、特にやばい気がする。
釣りなのに魚じゃなくてエビっていうのがいいんだろうな。釣りはフナに始まってフナに終わるなんて言うけれど、甲殻類釣りはザリガニに始まって台湾のテナガエビに終わるな。
これが家の近所だったら絶対に通う。2000キロ以上離れた片思い。でも台湾まで来たからこその悦びなんだろうな。
同行の小松さんも見事にゲット。
釣れたエビはビクに入れておく。ここに溜まっていくのがうれしいのよ。
楽しいから時間を延長します
そんなこんなで早くも1時間近くが経過。ここまで私と小松さんの釣果は1匹ずつ。
当初の予定では1時間で切り上げるはずだったが、もちろん延長である。
最低でもあと一匹釣るまでは、ホテルに、いや日本に帰らない勢いだ。
21時43分からスタート。料金は後払い制。
もう一時間を超えたが、全然釣り足りない。
あまりアタリのない釣りなので、あたりを見回す余裕はいくらでもある。周りのベテラン勢は我々の数倍のペースでポンポンと釣っている。なぜだ。
よく見ると道具を一式持参しており、エサもエビに何か魔法のパウダーをまぶしたりと、一工夫も二工夫もしているようだ。さらにいえば釣り方もちょっと違う。
ウキの大きさがまず違う。手前が私のウキで、奥の小さいのがベテラン勢のウキ。
ちょっと専門的な話になるが、ベテラン勢が使うウキはとても小さく、仕掛けを持ち上げるだけの浮力がないタイプ。仕掛けは底に付けて、ウキが水面ちょうど合う位置に合わせて、エビに違和感を与えることなくエサを食わせ、微妙なアタリをとっているらしい。
また仕掛けも各自が工夫したヤジロベエのような道具で二つのハリを分岐させており、日本のテナガエビ釣りともちょっと違う、独自の進化があるようだ。
初心者は縁に固定された塩ビパイプに竿を置くのだが、ベテランは当然のように竿立てを持参。
ウキに変化があるとすぐに竿を持ち、糸を張らず弛まずのゼロテンションで構える。ところで彼は立石に住んでいる友人に似ている。
レンタルの道具でも釣れるのだが、やっぱり自分で一式用意してこそ一人前のテナガエビ釣り師なのだろう。
小松さんの2匹目。目線の先にあるウキを追いかけて見てください。合わせるタイミングが全然わかんないんですよ。
意外な方法でテナガエビを大量ゲット!
あたりはたまにあるけれど、なかなか釣れてくれないモヤモヤを抱えて1時間半が経過。なんとここで奇跡が起こった。
奥で釣りをしていたベテランの一人が、帰り際に私の肩を軽く叩いて、エビのたくさん入った網を渡して、そのまま向かいのホテルへと消えていったのだ。
え、え、え!おにーさーん!どういうことー!
一瞬何が起こったのかわからなかったが、どうやら見るからに初心者の日本人観光客に、釣ったエビをくれたようだ。さすが親日の国、台湾。
あの紳士はきっと出張でたびたび高雄に来ている釣り好きのエリートビジネスマンで、もうエビは食べ飽きているのだろうと勝手にプロファイリング。かっこいいぜ。
これで食べる分のエビは十二分に確保したのだが、やっぱりもう1匹くらい自分で釣りたいとラストスパート。再延長する手前で無事に2匹目をゲット!気持ちいい!
でもハリが口に掛かってなくて微妙!
釣ったエビを塩焼きにする
さてこのエビをどうやって食べればいいのだろうと悩んだが、ここでも受付のおねえさんが一通り教えてくれた。
台湾でエビを釣らない限りは縁のないハウツーだが、ここに記録として残させていただく。
まず水道の水とエビを洗面器に入れる。
もう一つの洗面器をかぶせて、ガシャガシャ振って水を切る。
そこに塩をドサッと投入。
それをファーストキッチンのポテトのようにシャカシャカと振る。
長い金串を頭側と尾側に刺して固定。
釣り堀とはいえ、釣れたてを自分で調理できるという贅沢がたまらない。
これをグリルで焼いたら完成。
もちろんビールの販売もある。
なんだここは、天国か。
そうか、エビ天なのか。
エビの天国、エビ天。でもメニューは塩焼き。
日本だとニジマスの釣り堀がこんな感じで塩焼きにして食べられるけど、エビというのは新鮮だ。青かったエビが赤く変わっていく変化をうっとりと眺めてしまう。
ここで通りがかった店のボスっぽいおねえさんが、「エビ、オイシイ!」と自信満々に日本語で一言。そりゃうまいだろうよ。
とびきり新鮮だけど、しっかりと火を通すのが美味しく食べるコツ。たぶん。
うまそうに焼き上がったエビがこちら!正月っぽい!
向かいで釣っていたお兄さんが、金串の外し方を教えてくれた。ワイルド。
台湾のテナガエビ、すげーうまい!
焼き上がった釣りたてのテナガエビだが、これが予想以上にうまかった。やっぱり甲殻類は鮮度が命だね。
あらためましてドーン!
殻ごと尻尾にかぶりつくと、プリップリの噛みごたえが待ち受けている。このボリューム感が嬉しいというのはもちろんだが、しっかりと旨味も備えているのだ。
続いて頭部に詰まった味噌をすすってみると、これが濃厚で期待以上にうまい。これが俺のレッドロブスターだ。
うっま!テナガエビ、うっま!
「もう一本ビール買ってきます!」
このアメリケーヌソースのような味噌が、エビの味をワンランク引き上げてくれるのよ。
焼いた場所でムシャムシャと立ち食いしていたら、そんなとこで食べてないでテーブルで食べなよと誘導された。いい店だー。
あの紳士からエビをもらっていなかったら、もっと食べたいからと、再度釣竿を握っていたかもしれない。テナガエビ、うまいよ。
この日はまだ旅の序盤。翌日以降もテナガエビを釣ろうと思えばそのチャンスはあったのだが、またレンタルの竿でやるのもなと考えてやめておいた。
どんな釣りなのかがなんとなくわかったので、今度は出発前にベストであろう釣り道具を一式用意して、台湾各地のエビ釣り堀を回ってみたいと思う。けっこう本気だ。