そうだフライの街だった
ところで当サイトは、ややもすると「ハニワ」を取り上げがちである。「
なごめ!ハニワセラピー」「
世にも珍しい笑うハニワ」「
青春ハニワ物語」等、ハニワから何か貰ってるのかと思うくらいだ。「ソーメン」の登場率と同じくらいだろうか。ということはさておき。
そこに新たに「作る」という次元が加わり、まさにこのサイトは“ハニワポータル”として磐石の地位を築くことになるだろう。ということもさておき。
今回訪れたのは、埼玉県は行田市。学校で習うあの有名な「埼玉(さきたま)古墳群」がある場所だ。
駅の観光案内にて「県名発祥の地」。そう、「さきたま」ですね。
新宿から湘南新宿ラインなど乗り継いで約1時間。駅まわりの情報量も少ない行田駅に着いて、まっ先に目についたのは「フライ」だった。いまやすっかりB級グルメとして名の知れ渡った、B級・オブ・ザ・B級の風格漂う「ゼリーフライ」、そしてただの「フライ」までもが、マスコットにまでなっていたとは知らなんだ。
関東B-1。B級グルメも細分化されたものだ。
そしてB級らしい2大食べ物のキャラ。丸いですな。
これから向かう場所の近くにも「ゼリーフライ」を出す店があるようなので、必ず食べて帰ることを心に誓う。ハニワよりよほどご執心だ。
さてそのハニワ作り、受付が午前9時から午後2時半と聞いて、当初は予約ナシで午前中くらいに行ってみようと思っていた。が、友人が念のため問い合わせたところ、午前中は団体の予約が入っているという。おお、危ないところだった。ということで午後イチにきっちり予約を入れておいたのだ。
そうか…ハニワ作りって、盛り上がっていたのか…。そうなると俄然、期待は高まってくる。
行田駅のレンタルサイクルを借りて、どこまでも平坦な郊外の風景の中を、「さきたま古墳公園」へと向かう。その公園の中に、ハニワを作れる施設、その名も「はにわの館」はあるのだ。
6月。初夏の陽気の中、自転車を20分ひたすらこぐ。
歩道のタイルが古墳とハニワだ。
もっと気になる直球過ぎる店名。そしてきのこ、汁、うどん。これ以上の田舎っぷりはない。
この広大さが、目的地に着いたことを示していた。古墳がボコボコありそうである。
駐車場に、狛犬きどりで馬のハニワ。
ハニワのペイブメント
広大な公園が、道路を挟んで両脇に広がっていた。その片方に入って行くとすぐに、三角屋根の建物が。「はにわの館」だ。
ハニワ作り専用の施設が用意されているのだ。
自転車を停めて館へ向かえば、玄関までの小道の両脇に、今までの生徒が残したと思われる実におおらかなハニワが並んでいる。あまりに自由なハニワの雰囲気に、思わずじっくり鑑賞してしまった。私たちも、これくらいのびのびとハニワを作りたいものだ。
1.5頭身ハニワ、かわいい・・・
恐竜ハニワ。ほとんどオーパーツだ。
トトロっぽいのとドラっぽいのもしっかりハニワ風。
鮎のハニワ!鮎かどうかわからんが、鮎カステラには激似だ。
館の中に入ってみると、今度は作家の作ったハニワがショーケースに並んでいる。こちらはどれもさすがにキレイな仕上げだ。自由なのもいいけど、こういうのも、作れるといいな・・・。
バンビ発見!
シリアナ発見!
優勝カップもハニワで。これに濁り酒入れて飲みたい。
ここにも爪あとが。
見るのとやるのは大違い
ます受付で講習料を払うが、「1kg600円、2kg1000円、どちらになさいます?」と聞かれ、皆でおおいに戸惑う。1kgってどれくらいですかー?と聞くと、けっこう十分な量の粘土の塊を見せられ、これで2時間くらいで完成させられるという。よって今回は1kgでお願いした。この値段に講習料と材料費が組み込まれてるなんて、深夜のTVショッピングよろしく「ちょっ、ちょっと待ってくださーい!」と言いたくなるのも無理はないでございましょアナタ(言ってないけど)。
キレイで広々とした教室。
乾燥中の作品がズラッと並んでいる。焼く前は灰色なのか!
ハニワ作り一式。ろくろ、ってなぜだかうれしい。
この時間帯は私たち3人だけのようなので、気兼ねなくハニワが作れそうだ。これから約2時間は、ハニワ制作のことだけを考えていられる(逆に言うと、逃げ場はない)。趣味の醍醐味ってこういう時間の使い方でもあるよなー、とまだ趣味にもなってないのに思う私である。
講師の女性がついて、いよいよ講習開始。まずはひととおり説明を聞く。非常に滑らかな進行で、見本となるハニワがずんずんと彼女の手からできあがっていくので、自分たちもこれくらいすんなり作れそうだとその気になるが、たぶんそれは錯覚に過ぎない。
長辺15cmほどのブロックで、1kg分。お得感満載。
先生のお手並み拝見。まずは練りからが基本。空気を入れないように。
ドーナツ状の土のひもを重ねる。割れるのでこれくらい厚みが欲しいとのこと。
つなぎ目をなくすため指でならす。内側も同様に。
下からかき上げてだんだんと高くしていく。
あれ、いつのまに手が生えた!
しまった、もうできちゃった。次は自分の番、という心構えがまだないうちにだ。傍観者から突如として当事者になってしまった。
とにかく練って、そしてドーナツを重ねて・・・ま、まあなんとかなるはず。まずは袋から粘土を出してみよう。
「木を見て森を見ず」制作法
ところで私事で恐縮だが、過去に2度も陶芸を始めかけて、2度とも初回の体験入門でやめたという苦い過去が私にはある。すぐ大作を作りたいのに最初は小皿、みたいなのがまどろっこしかったというしょうもない理由もあるが、第一の理由は「練りが大変」ということだ。自分は固い土をもりもり練る力が弱いので、とても難儀してしまうのだ。
でもこの土は軟らかく、難なく練れた。もちろんこれは、館の職員の方々がハニワ作りに合うように土を整えているからなんだが、これでこの講習、60%はこっちのもんだと決まった。
おお、土を練る久々の感触。群馬の田んぼから持ってきた土だそうだ。
手を動かしながら、なんということのない会話をするのもまた良きかな。
腰から上は少し細くして、と…。
あっ!2人ともあんなにできてる!
粘土を盛っていく「彫塑」が苦手なので、どうしてもいちいち細かいところから手をつけようとして、結局バランスが悪くなる。それが私のパターンだ。今回も、表面をツルツルにすることを優先事項にしてしまっていた。
うまい人なら、まず全体をざっと構築してバランスをとり、それから各論に入っていくのだろうけど、自分にはどうもそういう清々しさがない。じっとりと、気になったら気になった場所でずっと足踏みだ。
頭の穴を外堀から埋める。
乾いてきた表面を水+ブラシで荒らして、ベルトをつける。
熱が通りやすいように、脇に穴を開けておくそうな。
初めこんなふうに鳥っぽくしてみたが、やっぱり最初はオーソドックスなものをと、後からボツにした。
作っている最中、たまたま通りかかったと思われる若いカップルが、館内に入ってきてハニワ作りに興味を持ち、飛び入りで制作に参加した。やがて「この顔ヤバくね?」「まじ超集中するー」など断片的に会話が聞こえてくる。ハニワ作りは、今後マジで激アツになって来るのかもしれない。
たっぷり2時間をかけて、どうやら完成した。ポーズは3人とも、「踊るハニワ」だ。
見事に三者三様。理想的なお笑い芸人だ。たぶん右の人が歌い始めて漫談が始まり、左がボケで、真ん中がリーダー。
裏。時間切れで飾りを入れられなかった分、私のは頭がツルツルである。
私の能力全てを注ぎ込んだハニワ。・・・もっと遊ぶ余裕があったらと思うがまあ最初はこれで。
始まる撮影会。作品とはしばしのお別れなのだ。
2時間、手塩にかけて育てたハニワである。愛着のわいたところなのに、しばしお別れせねばならない。1ヶ月ほどここで乾燥させた後、窯で7時間もかけて焼き上げ、やっと完成となるのだ。
余談:ゼリーフライと古墳
ひとまず帰路に着く、その前にアレです。公園入り口に、お土産とゼリーフライの店があるのだ。必ず寄らねばなるまい。
ゼリーフライとは、おからやジャガイモをベースに小判型にまとめて揚げてある、いわばおからコロッケのようなものだ。なぜか行田市のみに普及した、これぞB級グルメというものである。
古くからやっているだろうその店には、おびただしい数の大小のハニワや、お土産屋にありがちなオモチャなどがひしめき合っている。その一角で、ゼリーフライを焼いていた。テレビ取材の履歴がもれなく壁に掲げられていた。
初めて食べる、ゼリーフライ…。
ゼリーフライの説明書きも、過剰なまでに掲示。
漠然とした不安を打ち消す美味しさ!おからに野菜たくさんで、本当にうまい。
抜かりなくハニワ菓子も。
足袋菓子!足袋は行田の名産だが、せんべいになってるとは。
ゼリーフライ食べながら、やっぱり古墳も見ないと。
ハニワ作るわ、憧れのゼリーフライ食べるわ、古墳も見るわで充実した1日だ。でもこのことを知り合いにメールするとしたらだいぶおかしな1日を過ごしたと思われるだろう。なにせハニワ・ゼリーフライ・古墳である。
1ヵ月後、出来上がりを指定された頃に、また行田へと赴いた。頃は7月上旬、史上初の高温注意情報が出された翌日である。
ペンギンが幼鳥の大群から我が子を見つけ出すように
再び行田へ。たぶん外気温は35度をとっくに超えている、その中を自転車で20分、はにわの館へ。
汗だくになって到着。
暑い暑いと繰り返す自分だが、いっぽうのハニワさんたちは1ヶ月もこの外気中で乾燥されつづけ、そして800度の高温で7時間焼かれるのだ。それに比べたら35度なんて何だというのだ。
自分の受講番号の前後のものが並べられた棚から、自分のハニワを探す。だいたいのハニワは踊るポーズをしているし、目や口はただの穴だし、すぐ見つかるかどうか…
みんなノリノリ。どれかな・・・あった!
一瞬で見つかった(前写真の真ん中)。おお、ちょっと見ないうちに小さく引き締まって…。
やっぱり、丹精込めて仕上げたツルツル頭、主張のないデザイン、見紛うことはなかった。焼いてちょっと小さくなったハニワは、コンパクトでかわいい。あの灰色の粘土が、見事にこんがりとレンガ色に、レンガの質感に置き変わっているのが不思議な感じだ。
この大きな窯で、月3回に分けて焼成するそうだ。
この日も3名、もくもくと大作を制作中。
この日、教室内にはあの日と同じく3名の受講者が。制作していた1人はリピーターで、今回は友人連れでの参加とのこと。館の方によれば、何十回も通っている「リピーター・オブ・リピーター」もいるというからハニワ熱の広がりはなかなかのものだと思う。小・中学生などの団体も春・秋などに多く訪れるそうだ。こうしてどんどん輪が広がり、今は年間4000人が訪れてマイハニワを作っていくという。
うちのハニワを新聞紙に丁寧に包んでもらい、割れないように注意しながら持ち帰る。改めてうっとり眺めてみよう。
ハーイ!
体の奥にある闇。
その闇に、アロマポットの電球を入れたらムーディな照明になるのでは?
と思って点灯してみたけど、いかんせん開口部が小さいのでこんな感じ。
草木をめでる。
今回は初めてということもあり、オーソドックスなハニワを目指してみた。今度は現代風に、iPhoneとか、いいちことか、ハシビロコウとかをハニワにしてみたい。
この「はにわの館」、最初の形ができたのは20年前と、意外と歴史がある。
少子化の影響からか学校関係の団体客は減ってきたいっぽう、最近は一般の方の来訪が増えたという。遠く関西からも、めったにないハニワ作りの場所を求めて、ここ行田まで足を運ぶそうだ。中には、2時間でも3時間でも半日でも制作に没頭している方もいるという(混みさえしなければ、閉館までずっと作っていられる!)
確かに、「ハニワ作りに行きましょう!」と誘われたのは初めてだし、あると聞いたら一度は作ってみたくなる。ゴールデンウィークと夏休みは混むそうなので、行くときは一度電話たほうがよいでしょう。
行田市はにわの館
(詳しくは
「はにわの館」Webサイトまで)
■住所 埼玉県行田市埼玉5239-2
■お問い合わせ先&電話番号 048-559-4599
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【告知】
東急ハンズ渋谷店にて、なんとあの
過去記事をベースに「地図に隠れた動物で地ズーを作ろう」ワークショップをやることになりました。
クリアファイルに地図をはさんで、見えた動物を上からマジックでなぞるという簡単なものです。夏休みの課題に、皆でシントコロザワギュウとかオオモリオオハシとか幻視しようぜ!
6Aフロア ヒント・ワークショップ
「地図に隠れた動物で地ズーを作ろう」ワークショップ
とき:8月5日13:00~18:00
ばしょ:東急ハンズ6Aフロア