海外で書店や古本屋に行くのはおもしろい
言葉がわからない外国だからこそ、本屋や古本屋に行って、現地の本や書籍をながめていろいろと想像を巡らす。子供向けの絵本や、漫画、地図など、言葉がわからなくてもなんとなく意味がわかりそうなものをみて、日本とどう違うのか、なんの話なのか、想像の余地がデカイので想像しがいがあるのだ。
そして、つい買ってしまい、帰りの荷物が重くなってしまう。本は物理的に重い。
そんなことを繰り返している。
海外旅行で、現地の古本屋に行くのが好きだ。
もちろん、現地の言葉はおろか、英語でさえ「HELLO」と「HERO」の区別もつかないほどの英語音痴である。
それでも、現地で古本屋を見つけたら必ず行くことにしている。
先日、ミャンマーに行ったので、ヤンゴンにある古本屋を巡った。
ミャンマーは、今年(2018年)の10月より1年の間、30日間の観光ビザが、日本人(と韓国人)は免除になった。パスポートを持ってふらっと行けば、入れてくれる国になった。(とりあえず、1年間は)
で、せっかくなので、ミャンマーに行ってみることにした。
ぼくのミャンマーの予備知識は、アウンサンスーチーさんと、ビルマの竪琴。以上である。
『ビルマの竪琴』とは、肩にオウムを乗せ、竪琴をつまびく中井貴一に向かって「水島ぁ、一緒に日本に帰ろうー」というやつだが、伝わるだろうか。そういう映画が昔あったのだ。
少し前までミャンマーは軍事政権の国であり、民主化運動の大規模な反政府デモなどが発生するなどして、気軽に行けるというイメージはちょっとなかった。しかし、2011年ごろより、民政移管が徐々に進み、ついにノービザで入国できるまでになった。
ミャンマーには、巨大な涅槃仏や、壮麗なパゴダなど、日本ではまだあまり知られていない魅力的な観光資源がたんまりとある。
しかし、そういった観光地の話はひとまず置いておいて、今回はヤンゴンにある古本屋に行った話をしたい。
現地で案内してくださったミャンマー在住の日本人、Mさんに「ヤンゴンでどんなところに行きたいですか?」ときかれたので「古本屋があれば行ってみたいです」というと「古本屋なら行きつけのいい店があるんです」と、ノリノリで教えてくれた。
ヤンゴンのダウンタウンの一角にある古びた佇まいの古本屋。
実は、Mさんも古本屋で古本をあさるのが大好きで、休みの日などは、朝、古本屋に「出勤」して、古本をディグり、昼食でいったん抜けて、また戻って夕方までもういちど古本をディグる……ということをやっているらしい。
古本屋の中に入ると、まずその本の圧に圧倒される。
こんな感じの場所、なんだか前に行ったことあるな……国語辞典を6000冊持っている境田さんの家を思い出した。
境田さんの家も、ヤンゴンの古本屋も、ちょっと古めの紙のにおいがモワッとするのは同じだ。
ヤンゴンの古本屋で売っている本の背表紙をよくみると、茶色い紙にサインペンでわざわざタイトルが書いてあるものが多い。
同じシリーズとかではなく、どうやら一冊づつ別の本らしい。なんなんだこの統一感。と思い、手にとってみると、なんと、ボロボロになった本を保護するためのカバーが、ひとつづつとりつけられたものなのだ。
しかも、1冊、2冊ではなく、売り物の半分ぐらいの本がそういった形で補修してある。わざわざ補修してまで売るなんて、日本だとなかなかない。どういうことなのか。
Mさんによると、ミャンマーは軍政時代、本の出版が事実上不可能なほど非常に検閲が厳しかった。そのため新しい本がなかなか出版されず、みんなが市場に出回っている古い本を大切に何度も補修して読んだため、古本を補修して読むスタイルが定着した。
検閲は、1960年代から2012年ごろまで行われており、とくに1980年代後半、2000年代などは厳しい検閲が行われていたという。1980年代後半、2000年代ともに、ミャンマーで民主化運動が盛り上がった時期である。
現在は、検閲は行われてはいないものの、政府批判を行った記者が逮捕されるという事件も発生しているらしいので、完全に自由というほどでもないようだ。
ちなみに、ミャンマーのひとたちは、検閲が厳しい時代でも古本を繕って大事に読んでいたぐらいなので、本を読む人が多い。しかし、2015年ごろ、スマホが普及しだしてからは、みんなあまり本を読まなくなり、たくさんあった貸本屋が次々に店じまいしてしまった。
それと入れ替わるように、どんどん増えてきたのは、携帯アクセサリー屋だという。
さて、この古書店に置いてある書籍、どんなものがあるのか。目についたものをザクザクみていきたい。
店のひとが気を利かせて、日本語の本があるぞ、と勧めてくれたのがこちら。
こういった書籍は、どこの国の古本屋に行ってもあるものだが、ミャンマーのものはすごい年季が入っている。
よく見ると「佛」や「濱」などの文字をつかっているので、すくなくとも50年ぐらい前のものではないだろうか。
ぼくが、海外に行ってわざわざ古本屋に行くのは、外国語版のドラえもんを探して買って帰るためでもあるのだが、こんかいはビルマ語版のドラえもんをMさんがディグって探し出してくれた。
ドラえもんのあらすじは、おおよそ頭に入っているので、どこでどんなことを言っているのか、だいたい予想はつくが、合っているのかどうかはわからない。そもそも「ゴーゴー」はどのように訳されているのか気になるところだが。
外国の古本屋で楽しいのは、本の中身ではなく、表紙のデザインがかっこいいものを探すのも楽しい。
ビルマ文字は、じつにさまざまな書体が存在しており、それを眺めるだけでもおもしろい。上の医学書のタイトル、本来は丸っこい形のビルマ文字がQRコードみたいな形の書体でクールだ。
赤、黒、金というエネルギッシュな色使いが、ロシア・アバンギャルドを彷彿とさせる本。偉いお坊さんにまつわる本だろうか。
ところで、アウンサンスーチーさんのお父さんは、ビルマ独立運動で活躍したアウンサン将軍である。ミャンマーでは独立の英雄である。
独立の英雄なので、もちろんアウンサン将軍に関連する書籍も多い。上の本はまさに、そんなアウンサン将軍の本だろう。しかし、本の内容がいまひとつわからない。
短い詩のような文章と、将軍を称えるような絵、しかし、よくみると将軍の目がいっている。
将軍や国家を称える歌の歌詞集だろうか?
すべてビルマ語で書かれていたため、結局なんの本だったのか、わからなかったけれど、アウンサン将軍の人気ぶりはわかった。将軍は白目むいてても人気はある。
古書店の目の前の通りは、露天の古書ストリートでもある。
先程の店舗の古書店よりも、露天の古書店のほうが、さらに本が安い。
先程の店舗で売っていた古本は、だいたい安くて1冊1000チャットほど(約70円)から、高いものでも15000チャット(約1000円)程度だったが、露天の古本は2冊で500チャットほどである。2冊35円ほど。激安だ。
何が書いてあるのかさっぱりわからないので、なんとも言えないが、セクシーな女性のシルエットなので、もしかしたら、内容がかなりきわどい本かもしれない。が、中の紙質がすごい。
こんなにカラフルな再生紙、久々にみた。手触りが完全にわら半紙のザラザラしたやつを数倍にした感じだったので、謎の懐かしさがこみ上げてくる。こういう本も味わいがあってよい。
ミャンマーにも、コミック雑誌は存在している。
さまざまなものがあるが、表紙の絵柄の雰囲気から推測するに、恋愛もの、アクション、ホラーあたりが人気のジャンルのようだ。
どうも、表紙の絵柄にかかわらず、中の漫画は劇画調のものが多いようだ。
日本で例えると、表紙がキズナアイで、中身がゴルゴ13だったらおもしろいけど、そういうことかもしれない。よくわからないけれど。
言葉がわからない外国だからこそ、本屋や古本屋に行って、現地の本や書籍をながめていろいろと想像を巡らす。子供向けの絵本や、漫画、地図など、言葉がわからなくてもなんとなく意味がわかりそうなものをみて、日本とどう違うのか、なんの話なのか、想像の余地がデカイので想像しがいがあるのだ。
そして、つい買ってしまい、帰りの荷物が重くなってしまう。本は物理的に重い。
そんなことを繰り返している。
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