ぼくが勝手に「ザクの埴輪」と呼んでいる埴輪がある
鳥取県の湯梨浜町には平成の大合併まえまでは、羽合町(はわいちょう)という町があった。
奇しくも常夏の楽園、ハワイと同じ呼び方だったため、夏になると町役場の職員がアロハシャツを着て勤務する様子が毎年ローカルニュースになるなどしていた。
あと、羽合町に住んでいる人の「ハワイに住んでいます」という冗談は、鳥取県中部地方に住む人たちにとって定番だ。
さて、そんなハワイ町に長瀬高浜遺跡という遺跡があり、そこから出てきた埴輪がどうみても『ガンダム』に出てくる一つ目のモビルスーツ、ザクの埴輪にしか見えない。
ザクはこれです
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で、こちらが「ザクの埴輪」だ。
ちょっと分かりづらいので、正面からの写真を見てほしい。
ガラスケースの反射でちょっと分かりづらいけれど、一つ目の埴輪というなんとも言い難い、不思議な形の埴輪だ。
この埴輪は、湯梨浜町にある「湯梨浜町羽合歴史民俗資料館」に展示してある埴輪だ。
ガラスケースの中に入ったものしかないのかと思っていたところ、二階の展示室にオープンな感じで展示してあるザクの埴輪もあった。
普通、武人の埴輪というと、国宝の埴輪を思い出す人も多いかもしれない。
昔の200円切手でおなじみ、群馬県出土の武人埴輪には、ちゃんと目鼻が付いているので、違和感はない。
しかし、ハワイにある埴輪はモノアイという思い切ったデザイン。
面白さ、不思議さ、不気味さ、怖さがないまぜになった、なんとも言えない気持ちになってくる。一体、これはなんなのか?
謎の多い遺跡
このザクの埴輪が出土した長瀬高浜遺跡は、1974(昭和49)年に下水の浄化センターを建設するさいに、土中というか、砂中から発見された。砂中というのは、このあたりは北条砂丘という砂丘地帯であたり一面が砂地だからだ。
鳥取県には、鳥取砂丘だけでなく、北条砂丘や弓ヶ浜半島といったでかい砂丘地帯が広がっている。
その長瀬高浜遺跡から、1980(昭和55)年、大量の埴輪が出土した。このザクの埴輪だけでなく、家形埴輪、盾形埴輪、蓋(きぬがさ)埴輪などのさまざまな埴輪がどっさりと出土している。
ふつう埴輪は古墳の周りに置かれており、埴輪は古墳から出土するのが一般的だ。しかし、この長瀬高浜遺跡の埴輪は、古墳ではないところから大量に出土した。これはかなり珍しいことらしく、出土した埴輪は1986(昭和61)年に国の重要文化財に指定された。
長瀬高浜遺跡あたりは、弥生時代から古墳時代にかけてかなり大きな集落があったらしい。当時は海が東郷池のあるところまで入江になって入り込んでおり、水上交通の要衝となっていた。
近畿地方や朝鮮半島の特徴をもった土器も出土しており、他地域との交流もかなり盛んだったことがわかる。
古墳ではないところに大量の埴輪があったのは、他地域から運んできたのか、あるいは他地域へ運ぶために集められていたか、どちらかではないかと考えられており、いずれにせよ、この遺跡があった場所は山陰地方でもかなり栄えた場所だったということらしい。
一つ目の理由
ぼくが勝手に「ザクの埴輪」と言っているのは甲冑型埴輪という埴輪で、古墳時代の甲冑をかなり正確に、しかも実物大で再現しているという。
細かな部分は大胆に省略しているものの、線形で甲冑の特徴を正確に表現しており、実際に甲冑をよく知っている職人が作ったのではないかと考えられている。
で、どうしても気になる一つ目である理由だ。なぜ一つ目なのか?
たまたま資料館にいらっしゃった職員の方に質問してみた。
――よく質問されると思うんですが……甲冑型埴輪、一つ目なのはなぜなんでしょう?
職員の方 あの穴、他の埴輪にもあるような透孔(すかしあな)という穴なんですよ。
――あ、確かに他の埴輪にも穴空いてますね。
職員の方 甲冑型埴輪はあくまで甲冑の埴輪であって、人型ではないんですよ、だから、顔の部分の孔は目じゃなくて、透孔ということですね。
――なるほど、目鼻のないマネキンたまにありますけどあんな感じか。
職員の方 ただ、透孔はなんのために開けられたのかはよくわかってないんですね、焼くときに空気を抜く孔として使ったとか、デザインで入れたとか、いろいろ言われていますけど……。
というわけで、謎は残ったものの、ザクの埴輪の一つ目は、実は透孔という穴であった。ということが判明した。
言われてからよく眺めてみると、確かに腕や足がないので、甲冑の埴輪なんだな。ということに気づく。
なんだそういうことか。という気持ちになるわけだけど、でもやっぱり一つ目の埴輪に見えるな……という感想はやはりどうしても譲れない。どうみてもザクの埴輪だよこれ。
アムロ・レイ(ガンダムに登場する主人公)が鳥取出身という裏設定があるらしいけど、なにか関係を妄想したくなってしまう。
以上です。
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