特集 2018年12月18日

大阪万博の開催予定地・夢洲さんぽ

夢洲のエッセンスが凝縮された風景

2025年の万博開催地が大阪に決まった。しかも場所が「夢洲(ゆめしま)」だという。

「あんなところで万博やるのか~」というのが正直な感想だった。大阪の人なら分かるであろう、この気持ち。それほど今の夢洲には「特に何もない」という印象しかない。

でもきっと、これから目まぐるしいスピードで生まれ変わるに違いない。きたるべき2025年に向けて動き出す、2018年の夢洲を散歩してきた。
 

1983年徳島県生まれ。大阪在住。エアコン配管観察家、特殊コレクタ。日常的すぎて誰も気にしないようなコトについて考えたり、誰も目を向けないようなモノを集めたりします。(動画インタビュー)

前の記事:押入れの中にある引出し……の中にある押入れ

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夢洲を散歩する

夢洲は、大阪市の港湾部にある人工島である。さかのぼると2008年の大阪オリンピックで選手村になる予定だった……のだが、誘致に失敗。いまだに島の多くが空き地になっており、事あるごとにニュースなどで取り沙汰される場所である。

地図を見ても、清々しいまでに何も書かれていない

が、そんな政治経済まわりの話はひとまず置いておこうじゃないか。散歩好きの私としては、ただ純粋に夢洲を散歩したい。きっとこれから大規模な開発が行われて、島の風景は一変してしまうだろう。その前に、2018年の夢洲をこの足で歩きたいのだ。行こう。

夢洲へ上陸する方法

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夢洲に通じる道は2本ある。北側の「舞洲」から架かる夢舞大橋と、南側の「咲洲」との間を海底で結ぶ夢咲トンネルである。本題とは関係ないが、この国鉄的な命名規則はわりと好き

ただ、これらのアクセス方法には致命的な問題がある。いずれも「歩行者・自転車通行禁止」なのだ。つまり車がないと島に入ることすらできない。私たち散歩者に課せられた最初の試練である。

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そんな歩行者通行禁止の夢舞大橋がどうなっているのか、舞洲側から見に行ってみると、
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こうなっていた。歩道は一応あるけれど、その前に進入禁止のバリケードが立ちはだかる
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反対車線もこの通り封鎖されていた
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長年使われていないため、歩道は荒れ放題である

実は数年前までは、この時点で完全に詰んでいた。車かバイク以外に上陸する手段が本当になかったのだ。でも去る2015年、なんと夢洲内にバス停が設置されたのである。

つまり2018年の現在においては、路線バスを使って気軽に上陸できてしまう。文明である。今回は、ありがたくそのバスを使わせてもらうことにした。

と、その前に……

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せっかくなので、対岸から夢洲を望む。目に入るのは、おおむねコンテナとキリン(ガントリークレーン)だ
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あとは橋そのものも味わっておきたい。夢舞大橋は世界初の「浮体式旋回可動橋」であり、見慣れない大がかりな設備の迫力がとにかくすごい

この橋、有事の際には開くのである。それも東京の勝鬨橋みたいに「ハ」の字になるのではなく、

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舞洲側を支点にして、橋全体を旋回させるのだ。ちなみに橋ができてから今まで16年間、訓練以外で開閉した実績はないらしい

この特殊な橋を見られただけで、すでに満足である。が、まだ目的地である夢洲には上陸すらしていない。先を急ごう。

バスに乗って、いざ上陸

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夢洲へ向かうバスには、この建物の前から乗車できる

……こういうのにいちいち反応していると、残念ながらいつまで経っても島へ行けない。幸い当サイトでは、以前にこちらの記事で周辺物件をまとめて紹介している。気になる方は是非そちらをどうぞ。

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ようやくバスに乗った。ここからが本題である
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歩行者通行禁止の橋を何事もなく渡りきり、
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乗車時間5分で、島内唯一のバス停「夢洲コンテナターミナル」に到着した。厳密にはもう一カ所バス停はあるのだが、そちらは現在すべてのバスが通過するダイヤになっている。なので、実質ここで降りるしか選択肢はない

ようやく島内に足を踏み入れることができた。さて、散歩するか。

行く場所がない

バスを降りて、まず目に飛び込んできたのはこの光景である。

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フェンスが崩壊している。まあ、そういうこともあるよな

いきなり歩道が通行できなくなっていた。車がバックで突っ込んだのだろうか。こればかりは仕方ないので気にしないことにして、回れ右をして反対方向に歩きはじめる。

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だいたいこんな風景である。それにしてもトラックの圧がすごい

さすがコンテナターミナルだけあって、そこらじゅうコンテナを積んだトラックだらけである。そして右手を見ると、

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そう、コンテナである

これでもかと言うくらいコンテナである。最初は「ふむふむ」とコンテナのある風景をかみしめていたのだが、その後も目に入るのはコンテナしかない。だんだんイヤな予感がしてきた。

まず、歩いている人なんて一人もいない。まわりは大型トラックとコンテナ(何回コンテナと言えば気が済むのか)ばかりである。

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車道に目をやると、でかいトラックが絶え間なく行き交っている。普通車すら走っておらず、ほぼトラックオンリーの世界である。その低く響くエンジン音に包まれていると、生身の人間がいかに無力かを思い知らされる

もちろん信号や横断歩道もなく、向こう側に渡ることも叶わない。そのうえ強烈な排ガスが私の体を襲う。

いきなりの島の洗礼に、散歩を開始して5分で早くも挫けそうになってきた。でも「こういう場所も滅多に来ないから、たまには良いかもなあ」と無理やりポジティブに振る舞って、とりあえず(そこしか歩ける道がないので)歩道を進んでいく。

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いやあ、コンテナですなあ(だんだん感想も尽きてきた)

しばらく歩いていると、視線の先でトラックの交通整理をしているおっちゃんが手を振ってくる。必死に何かを伝えようとしているそのジェスチャは、明らかに「こっちは通れんから引き返せ!」だった。

よく見てみると、その先には歩道がなかった。

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オーケー、整理しよう。夢洲唯一のバス停と、その周辺の状況である。これは……いきなり詰んだ

もうダメだ。私はただ夢洲を散歩したかっただけなのに、その現実はあまりにも厳しかった。まさか都会の真ん中で、秘境駅のときと似たような状況に陥るとは……。
一気に「散歩に厳しい島」ナンバーワンに認定せざるを得ない事態となった。

それでもセブン-イレブンを目指したい

正直このまま島にいるのは心理的にも辛いし、排ガスの影響で身体的にも辛い。諦めて帰ろうかと迷っていた。だが「島内に唯一あるセブン-イレブンに行きたい」という目標があったため、逡巡のすえ道を渡る決断をした。

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慣れた様子で行き来するおっちゃんの動きに合わせる。歩ける範囲はくまなく見てきたが、渡れそうな場所はここしかなかった

そしてトラックが途絶えるわずかなタイミングを狙って……渡りきった。

現時点では「万博」のバの字も感じない、というよりも「コンテナ」と「トラック」以外の印象がない夢洲である。セブン-イレブンに行けばこの気持ちも変わるだろうか。いや変わらんだろうな。とりあえずせっかく道を渡ったのだから、行ってみよう。

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先ほどの道路を渡ることさえできれば、目的地は目と鼻の先である。実際100メートルほどしかないのだが、そのわずかな距離が果てしなく遠くに感じた
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着いた。というか駐車場、広すぎやしないか。奥に小さく見える建物がセブンイレブンである

Twitterでは「なんでこんな何もない島にコンビニがあるの?」「客来るの?」って感じの書き込みを見かけた。自分も全く同じ感想だった。

でも現地の様子を見てしまうと、その立地に納得するしかないだろう。ここでもやはり、キーワードは「トラック」なのであった。ちなみに夜は夜で、各地から走り屋が集まってきて賑わっているらしい。

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そしてこちらが本体。買い物もしてみたけど、見ての通りごく普通のセブンイレブンだった。特に感想はない
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ちなみにセブン-イレブンの前が、島内最大の交差点になっている。島で唯一の信号や横断歩道もあって、ここだけは生身の人間に優しい。それでも道を渡るときは緊張するけれど

さて、ひとまずの目的地としていたセブン-イレブン訪問も果たした。正直なところ、あとは何も目指す場所がない。気を取り直して、ここからは気ままなぶらり散歩を始めるとしよう。

島をぶらりと歩く

セブンイレブンから先は、北側の夢舞大橋を目指すか、南側の夢咲トンネルを目指すかの二択になる。ぶらり散歩とは言ったものの、それしか選択肢がない。

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島の西側にも道はあるのだが、例によって信号も横断歩道もないため、事実上わたることができなかった
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島の幹線道路ということもあり、この通りトラックの大行列なのである。さすがに危険をおかしてまで渡る意味はないだろうと一瞬で諦める

ひとまず歩道を南へと進んで、「夢咲トンネル」を目指してみることにした。

ところで散歩を通じて得られる楽しさって、「何もなさ」とはほとんど相関がないと考える。つまり、何もなくても面白い場所はいっぱいあるし、逆に物であふれるような場所でも全く面白くなかったりもする。ではこの夢洲はどうだろうか。

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南へ延びる道はこんな感じ。直感的に「あっ、これは引き返して別の道へ行こう」ってなるタイプの散歩風景である

何もないところに面白さを見つけるのは得意な方だと自負しているが、この夢洲は相当難易度が高い。どうしたらいいのか分からない。散歩趣味の人たちで集まって、この道を一緒に歩いてみたくなった。他の方がこの風景を見てどう感じるのか、純粋に知りたい。

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だんだん「面白がり」のしきい値も下がってくるため、道に醤油が落ちているだけで「おっ!」と思うようになってきた。たぶんコンビニ弁当に醤油が付いてなかったので、仕方なくこのサイズのを買って使い捨てたのだろうと想像する
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進むにつれて、通行禁止の看板が何度もあらわれ始める。トンネルは歩行者だけじゃなくて、原付も通れないらしい
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しばらく行くと歩道が未舗装になったり、
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まわりを見わたすと手つかずの空き地があったりしつつ、
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やがてフェードアウトするように歩道が終わった

なるほど。

何がなるほどなのか自分でも分からないが、出てきた感想は「なるほど」であった。

……気を取り直して、北側の夢舞大橋の方へ行ってみるか。

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夢舞大橋の歩道は、同じくバリケードで封鎖されていた(突破されているが)
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反対側には歩道がなく、近づくことはできなかった。ただ遠目にもおかしなことになっているのは、矢印の部分である。橋の歩道が途中でぶった切れているのが分かるだろうか
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これはまだ歩道に近づけた頃(2010年)に撮影した同場所である。バグったゲームみたいな光景だけど、8年経ってもこのバグ状態を維持していた。なんでこんなことに……

そんなこんなで、1時間ほどかけて安全に歩ける場所はすべて歩き切ることができた。時間が経つにつれだんだん感想もなくなってきて、心は「無」に近づいていった。

夢洲は殺風景かと言うと、それもちょっと違う。実際にコンテナターミナルとして機能している島であるし、交通量もかなり多い。でも強い疎外感があるのは、やはり歩行者が存在しない島だからだろう。

先ほどのぶった切れた橋にも象徴されるように、歩道はとりあえず存在しているものの、断片的で動線ができていない。とにかく車に最適化されている。生身の人間には辛すぎる環境であり、歩き回った結論として「散歩には不向き」であることは確かなのであった。

夢洲ビューポイント

ただネガティブな感想だけで終わるのもなんなので、最後に島内で眺めの良かった場所を3つ選んでみた。

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(1) コンテナターミナル島ということで、この風景は欠かせないだろう。散歩中に一番目にした光景でもある
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(2) 今回立ち入れなかった島の西部は、まだほとんど開発されていない。そんな空き地のまわりに街灯と電柱だけが立ち並んでいて、妙に魅力的な風景になっていた。これ絶対に、夜景が格好いいやつだ
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(3) 最後にトップ画像にも使った、島内を端的にあらわす光景。トラック、コンテナ、セブン-イレブン……。そしてひときわ異彩を放っているのは、橋の向こうにそびえるゴミ処理場の煙突である
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それぞれ、矢印の方に向かって見える光景である。なにせ行動できる範囲が狭いので、3箇所ともほぼ同じような場所ではあるけれど

島を後にする

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さて、バス停へ戻るためには、またあの道を横断しないといけない。正直、これが一番辛いのは間違いない
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バスは時刻通りにやってきた
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そうして徒歩では近づけなかった夢咲トンネルをくぐり抜け、ノンストップで夢洲を後にしたのであった

夢舞大橋の無骨さ

いろいろ歩き回ったものの、見応えがあったのはやはり最初に見た「夢舞大橋」である。夢洲側から見ても、たいへん良いものであった。
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この今にも動き出しそうな感じ。実際、動くのだけれど
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