夢洲を散歩する
夢洲は、大阪市の港湾部にある人工島である。さかのぼると2008年の大阪オリンピックで選手村になる予定だった……のだが、誘致に失敗。いまだに島の多くが空き地になっており、事あるごとにニュースなどで取り沙汰される場所である。
地図を見ても、清々しいまでに何も書かれていない
が、そんな政治経済まわりの話はひとまず置いておこうじゃないか。散歩好きの私としては、ただ純粋に夢洲を散歩したい。きっとこれから大規模な開発が行われて、島の風景は一変してしまうだろう。その前に、2018年の夢洲をこの足で歩きたいのだ。行こう。
夢洲へ上陸する方法
ただ、これらのアクセス方法には致命的な問題がある。いずれも「歩行者・自転車通行禁止」なのだ。つまり車がないと島に入ることすらできない。私たち散歩者に課せられた最初の試練である。
実は数年前までは、この時点で完全に詰んでいた。車かバイク以外に上陸する手段が本当になかったのだ。でも去る2015年、なんと夢洲内にバス停が設置されたのである。
つまり2018年の現在においては、路線バスを使って気軽に上陸できてしまう。文明である。今回は、ありがたくそのバスを使わせてもらうことにした。
と、その前に……
この橋、有事の際には開くのである。それも東京の勝鬨橋みたいに「ハ」の字になるのではなく、
この特殊な橋を見られただけで、すでに満足である。が、まだ目的地である夢洲には上陸すらしていない。先を急ごう。
バスに乗って、いざ上陸
……こういうのにいちいち反応していると、残念ながらいつまで経っても島へ行けない。幸い当サイトでは、以前にこちらの記事で周辺物件をまとめて紹介している。気になる方は是非そちらをどうぞ。
ようやく島内に足を踏み入れることができた。さて、散歩するか。
行く場所がない
バスを降りて、まず目に飛び込んできたのはこの光景である。
いきなり歩道が通行できなくなっていた。車がバックで突っ込んだのだろうか。こればかりは仕方ないので気にしないことにして、回れ右をして反対方向に歩きはじめる。
さすがコンテナターミナルだけあって、そこらじゅうコンテナを積んだトラックだらけである。そして右手を見ると、
これでもかと言うくらいコンテナである。最初は「ふむふむ」とコンテナのある風景をかみしめていたのだが、その後も目に入るのはコンテナしかない。だんだんイヤな予感がしてきた。
まず、歩いている人なんて一人もいない。まわりは大型トラックとコンテナ(何回コンテナと言えば気が済むのか)ばかりである。
もちろん信号や横断歩道もなく、向こう側に渡ることも叶わない。そのうえ強烈な排ガスが私の体を襲う。
いきなりの島の洗礼に、散歩を開始して5分で早くも挫けそうになってきた。でも「こういう場所も滅多に来ないから、たまには良いかもなあ」と無理やりポジティブに振る舞って、とりあえず(そこしか歩ける道がないので)歩道を進んでいく。
しばらく歩いていると、視線の先でトラックの交通整理をしているおっちゃんが手を振ってくる。必死に何かを伝えようとしているそのジェスチャは、明らかに「こっちは通れんから引き返せ!」だった。
よく見てみると、その先には歩道がなかった。
もうダメだ。私はただ夢洲を散歩したかっただけなのに、その現実はあまりにも厳しかった。まさか都会の真ん中で、秘境駅のときと似たような状況に陥るとは……。
一気に「散歩に厳しい島」ナンバーワンに認定せざるを得ない事態となった。
それでもセブン-イレブンを目指したい
正直このまま島にいるのは心理的にも辛いし、排ガスの影響で身体的にも辛い。諦めて帰ろうかと迷っていた。だが「島内に唯一あるセブン-イレブンに行きたい」という目標があったため、逡巡のすえ道を渡る決断をした。
そしてトラックが途絶えるわずかなタイミングを狙って……渡りきった。
現時点では「万博」のバの字も感じない、というよりも「コンテナ」と「トラック」以外の印象がない夢洲である。セブン-イレブンに行けばこの気持ちも変わるだろうか。いや変わらんだろうな。とりあえずせっかく道を渡ったのだから、行ってみよう。
Twitterでは「なんでこんな何もない島にコンビニがあるの?」「客来るの?」って感じの書き込みを見かけた。自分も全く同じ感想だった。
でも現地の様子を見てしまうと、その立地に納得するしかないだろう。ここでもやはり、キーワードは「トラック」なのであった。ちなみに夜は夜で、各地から走り屋が集まってきて賑わっているらしい。
さて、ひとまずの目的地としていたセブン-イレブン訪問も果たした。正直なところ、あとは何も目指す場所がない。気を取り直して、ここからは気ままなぶらり散歩を始めるとしよう。
島をぶらりと歩く
セブンイレブンから先は、北側の夢舞大橋を目指すか、南側の夢咲トンネルを目指すかの二択になる。ぶらり散歩とは言ったものの、それしか選択肢がない。
ひとまず歩道を南へと進んで、「夢咲トンネル」を目指してみることにした。
ところで散歩を通じて得られる楽しさって、「何もなさ」とはほとんど相関がないと考える。つまり、何もなくても面白い場所はいっぱいあるし、逆に物であふれるような場所でも全く面白くなかったりもする。ではこの夢洲はどうだろうか。
何もないところに面白さを見つけるのは得意な方だと自負しているが、この夢洲は相当難易度が高い。どうしたらいいのか分からない。散歩趣味の人たちで集まって、この道を一緒に歩いてみたくなった。他の方がこの風景を見てどう感じるのか、純粋に知りたい。
なるほど。
何がなるほどなのか自分でも分からないが、出てきた感想は「なるほど」であった。
……気を取り直して、北側の夢舞大橋の方へ行ってみるか。
そんなこんなで、1時間ほどかけて安全に歩ける場所はすべて歩き切ることができた。時間が経つにつれだんだん感想もなくなってきて、心は「無」に近づいていった。
夢洲は殺風景かと言うと、それもちょっと違う。実際にコンテナターミナルとして機能している島であるし、交通量もかなり多い。でも強い疎外感があるのは、やはり歩行者が存在しない島だからだろう。
先ほどのぶった切れた橋にも象徴されるように、歩道はとりあえず存在しているものの、断片的で動線ができていない。とにかく車に最適化されている。生身の人間には辛すぎる環境であり、歩き回った結論として「散歩には不向き」であることは確かなのであった。
夢洲ビューポイント
ただネガティブな感想だけで終わるのもなんなので、最後に島内で眺めの良かった場所を3つ選んでみた。