とっつきやすい舞から紹介します
高千穂の夜神楽とはどういったものなのか、数ある演目のなかのひとつ「御神体(ごしんたい)」という舞を通じて紹介をしたい。
御神体の舞で活躍するのはイザナギ・イザナミという男女二柱の神々である。
高千穂の神楽には舞手が神面を着用するものとそうでないものがあるが、これは神面ありで舞われるものだ。ちなみに神面は面様(おもてさま)とも呼ばれ、神様そのものとして大切にされている。
この御神体の舞は、男女二柱の神が協力して醸した酒をともに味わい、男女の仲を更に深めていくという内容の舞だ。坂口安吾の言葉を借りると「交接を直接踊りにとりいれた痛快で陽気なもの」なのだ。
夜、アルコール、交接。ヤンマガ作品のようである。
神楽は神庭(こうにわ)と呼ばれる舞台のなかで舞うものだが、御神体の舞は少しイレギュラー。それぞれの神が舞台を飛び出して、好みの見物客とスキンシップをはかるのである。
御神体の舞で描かれる神様の姿はえらく人間的だ。なんたって目移りした異性に近づいたのがバレて怒られるのだ。週刊誌もSNSもない神代はよかったですね。
このときばかりは誰もが神楽を「高尚な文化」などとは捉えず、ただ会場一体となって笑うばかりである。
記紀で描かれる神様は絶対的な存在として描かれない。こちらの二神も、子作りがうまくいかずに別の神様に相談をしたというような親しみやすい描写が神話のなかにある。
…といった具合の舞が33種類あるのが高千穂の夜神楽だ。ひとつの舞で1時間近くを要するものもある。これを字面通り、夜を徹して舞うのである。
神楽を見たい人が会場に着くまでの話
それでは時間を少し戻して、神楽の会場に着くまでのことを書いておきたい。
まず日程の話から。シーズンの11月頃になると、町役場のホームページ等で日程表が配布されるのでそれをチェックして行くことになる。
高千穂の神楽はそもそも、氏神様を民家にお招きして奉納するもので、会場として選ばれた家は神楽宿と呼ばれている。高千穂に古くからある家は神楽宿として使える間取りであることが多いらしい。
今では民家での奉納が難しくなっていて、公民館が神楽宿になることがほとんどだ。行きやすさの面からは有り難いことだが少しさみしい気もする。
公民館は地域内で活用されるものなので、会場によっては車を停める場所に頭を悩ませることになる。駐車場探しでドギマギする、というのは神楽あるあるの王道である。
今回は知人の家の駐車場を駆使してなんとかした。
いまどき地元のツテを活用するのが最善手な文化も少ないだろう。役場や観光協会に電話してもグレーなことは答えられないだろうし、なんかそういうのって燃えるよな。
神楽の会場は出入り自由となっているが、拝観する我々も一日だけの氏子となるので、神様への奉納品として初穂料や御神酒を持っていくのが一般的である。
このあたりは駐車場の確保と比べると簡単なことだ。
神楽は秋の収穫感謝祭であり、冬の太陽復活の儀でもあり、春の豊穣祈念祭でもあると考えられている。要するに寒い時期に行われるので防寒対策は必須だ。寒さで帰りたくなってしまうのは残念だから。
以上、神楽を見るまでのアレコレをまとめました。