特集 2024年12月11日

高千穂の夜神楽を観てきた

宮崎県の高千穂町では秋から冬にかけて各集落で夜神楽(よかぐら)が奉納される。神楽とは神様に奉納する歌舞のこと。そう聞くと堅苦しいものを想像しがちだが、高千穂の神楽は地元住民が舞手になるということもあって身近に親しまれている。

移住者の私は観にいっても「寒い・眠い・長時間座ってられない」の三拍子で返り討ちにあってきたが、今年は違う。神楽経験者の知人と一緒に行く約束をしたし、顔見知りの舞手の方々も増えてきた。楽しむ準備は万全なのだ。万全なので行ってきました。

1993年生まれ。京都市伏見区出身、宮崎県在住。天性の分からず屋で分かられず屋。ボードゲームと坂口安吾をこよなく愛している。

前の記事:まるゆで定食

> 個人サイト もがき続けて100年生き抜くブログ

とっつきやすい舞から紹介します

高千穂の夜神楽とはどういったものなのか、数ある演目のなかのひとつ「御神体(ごしんたい)」という舞を通じて紹介をしたい。

御神体の舞で活躍するのはイザナギ・イザナミという男女二柱の神々である。

赤い面の男性神、イザナギと
白い面の女性神、イザナミが舞い踊りながら登場

高千穂の神楽には舞手が神面を着用するものとそうでないものがあるが、これは神面ありで舞われるものだ。ちなみに神面は面様(おもてさま)とも呼ばれ、神様そのものとして大切にされている。

いったん広告です
ゆったりとした動きのなかで、おもむろに拝観席を物色しはじめるイザナミ

この御神体の舞は、男女二柱の神が協力して醸した酒をともに味わい、男女の仲を更に深めていくという内容の舞だ。坂口安吾の言葉を借りると「交接を直接踊りにとりいれた痛快で陽気なもの」なのだ。

夜、アルコール、交接。ヤンマガ作品のようである。

夫神がよそ見をしている間に好みの男性を見つけるイザナミ

神楽は神庭(こうにわ)と呼ばれる舞台のなかで舞うものだが、御神体の舞は少しイレギュラー。それぞれの神が舞台を飛び出して、好みの見物客とスキンシップをはかるのである。

舞台を飛び出して筆者のところにきてくれた!
イチャイチャしてると夫神がそれに気づいて引き剥がしにくる。抱きつかれるのは有り難いことなのですが、なぜか照れて顔をしかめています(中身は男性)
さいごは浮気の代償としてドツかれる(このへんアドリブ)
そうかと思えば男性神が女性の手を握り、今度は女性神が怒って……を繰り返す

御神体の舞で描かれる神様の姿はえらく人間的だ。なんたって目移りした異性に近づいたのがバレて怒られるのだ。週刊誌もSNSもない神代はよかったですね。

このときばかりは誰もが神楽を「高尚な文化」などとは捉えず、ただ会場一体となって笑うばかりである。

そのあと舞台上にもどり、まじめに酒を仕込む神様
できあがった酒を勧めあい、それぞれに一気飲みをする

記紀で描かれる神様は絶対的な存在として描かれない。こちらの二神も、子作りがうまくいかずに別の神様に相談をしたというような親しみやすい描写が神話のなかにある。 

そのあとは酔った勢いで愛し合ったとさ(けっこう直接的な表現で)

…といった具合の舞が33種類あるのが高千穂の夜神楽だ。ひとつの舞で1時間近くを要するものもある。これを字面通り、夜を徹して舞うのである。

神楽を見たい人が会場に着くまでの話

それでは時間を少し戻して、神楽の会場に着くまでのことを書いておきたい。

まず日程の話から。シーズンの11月頃になると、町役場のホームページ等で日程表が配布されるのでそれをチェックして行くことになる。

日程表を印刷したもの

高千穂の神楽はそもそも、氏神様を民家にお招きして奉納するもので、会場として選ばれた家は神楽宿と呼ばれている。高千穂に古くからある家は神楽宿として使える間取りであることが多いらしい。

今では民家での奉納が難しくなっていて、公民館が神楽宿になることがほとんどだ。行きやすさの面からは有り難いことだが少しさみしい気もする。

日程表には駐車台数も載っている。甲斐さん宅30台ってすごいな

公民館は地域内で活用されるものなので、会場によっては車を停める場所に頭を悩ませることになる。駐車場探しでドギマギする、というのは神楽あるあるの王道である。

知り合い等のツテを頼って駐車場を確保しよう!

今回は知人の家の駐車場を駆使してなんとかした。

いまどき地元のツテを活用するのが最善手な文化も少ないだろう。役場や観光協会に電話してもグレーなことは答えられないだろうし、なんかそういうのって燃えるよな。

いったん広告です
公民館に神様を招いて神楽を奉納する

神楽の会場は出入り自由となっているが、拝観する我々も一日だけの氏子となるので、神様への奉納品として初穂料や御神酒を持っていくのが一般的である。

このあたりは駐車場の確保と比べると簡単なことだ。

一緒に見に行った人が用意した酒。地域柄、焼酎が多いかな。熨斗をつけていくと会場に名前を掲示してくれたりもする。
ぼくは楽だし現金派です
会場がほぼ外同然みたいなところもあるので、防寒だけはしっかり

神楽は秋の収穫感謝祭であり、冬の太陽復活の儀でもあり、春の豊穣祈念祭でもあると考えられている。要するに寒い時期に行われるので防寒対策は必須だ。寒さで帰りたくなってしまうのは残念だから。

以上、神楽を見るまでのアレコレをまとめました。 

⏩ 神楽の楽しみ方・神面をじっと見る

▽デイリーポータルZトップへ つぎへ>
20240626banner.jpg
傑作選!シャツ!袋状の便利な布(取っ手付き)買って応援してよう

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ