ブレ・ボケ・枝と生きていく
※参考:ヤマケイハンディ図鑑7 新版 日本の野鳥 山溪ハンディ図鑑 Kindle版(叶内 拓哉/山と溪谷社)
ブレる、ボケる、枝がかぶる。鳥を撮影するたびに大量に発生する失敗写真に日の目を見せてあげたい。
鳥は近づくとこちらを嘲笑うように空に逃げるし、そうでなくとも枝から枝へ素早く動いたりキョロキョロあたりを見回したりて微動する。そんなのを遠くから写真撮ろうとするもんだからブレるわボケるわで大参事である。
雄壮に空を舞うトビやタカも、水際で冷徹に魚を食らうサギも私の写真フォルダーの中では大半がブレて二重に見えたり、手前の枯れ草にピントがあってただのぼんやりした背景になっている。
野鳥たちは書籍やネットで羽毛の一本一本まで解像した美しい画像で鑑賞されがち(がちじゃねえよ)だが、あえて自らの下手をさらけ出すショットを見つめる事で、なにか伝わるものがあるのではないか。ユーミンだって「目にうつる、すべてのことはメッセージ」と歌っているではないか。
60年代末から70年代にかけて、中平卓馬や森山大道ら「プロヴォーグ」の写真家たちにより、それまでの写真美学に抗うかのような荒れた粒子、ピントのボケやブレによる不鮮明な作品が発表され、その手法は「アレ・ブレ・ボケ」と呼ばれ脚光を浴びた。
かっこいい、私も抗いたい。ただし鳥の場合は「アレ・ブレ・ボケ」ではなく、「ブレ・ボケ・枝」である。
でかい望遠レンズが重たくて重たくて震える、被写体がちゃんと撮らせてなるものかと素早く動く。ブレの原因は様々だがこの撮影者と被写体の息の合わなさこそが生の証なのではないか、ブレは生きることの素晴らしさを謳いあげる讃歌なのだ。
全長21cm程、海岸、河川、農耕地の他に街中でも割と見られる。頭頂から背にかけて黒く、この写真ではわからないが白い顔に目を通る黒い線(過眼線)がある。繰り返すがこの写真ではよくわからない。
全長14cmほど、繁殖期は山林、非繁殖期には樹木の多い公園などでも見られる。写真だとわかりにくいが頭から背にかかけての鮮やかなブルーと脇腹のオレンジが美しい。
一眼レフカメラを使いはじめた頃で、シャッタースピードが無謀なまでに強気である。初期衝動だ。
全長22〜24cm、里山や雑木林などで活動。中国等からペットとして輸入されたものが逃げたり放されたりして定着した外来種で特定外来生物に指定されている。体色は地味な茶褐色だが目の周りから後ろに伸びる白い紋様がアクセントとなっている。しかしこの写真ではもはや鳥かどうかもわからない。
全長14cmほど、平地から山地の林などで見られる。名前の通り木の幹を素早く駆け上る。写真から得られる情報はほぼないが、背は褐色と白のまだらで腹は白い、クチバシは細く、下に湾曲している。
全長24cmほど、海岸、港、河口や湖沼、池などで活動する夏鳥。
頭は黒く白い顔にも黒い線が入る。写真ではワープでもしそうな感じになっているが、長い翼を伸ばし、シャープなフォルムで高速滑空する姿がかっこいい。
背景をぼかした技法はボケ味がいいねえとか魅力的な写真のファクターみたいに言われるがここで語られるのは被写体そのもののピンボケである。デジカメのシャープな画像による眼精疲労にやさしいぼんやりしたかわいい世界である。ピンボケはやさしい。
全長57cmほど、海岸や河口、湖沼、河川などで行動する。主食は魚。水中に足から飛び込んで、よく見えないとは思うが写真のようにするどいツメで魚を捕らえる。
全長14cmほど、平地から山地の林で見られる。腹が全体的に黄色いのが特徴だということがかろうじてわかる。しかし、ピンぼけするとぼわんとした黄色い何かになってとてもやさしい、やさしさの丸焼きじゃないかという、この鳥の隠れた魅力を引き出した1枚ではないだろうか。
全長33cmほど、平地から山地の林で活動。成鳥は頭が白いが写真は北海道に生息する亜種ミヤマカケスのもので頭は茶色っぽい。また、翼の鮮やかなブルーと黒、白が織りなすCGのような模様が美しいがいずれもこの写真ではぼんやりしてわかりにくい。
全長24cmほど、平地から山地の林で木をがんがんつついているいわゆるキツツキ。黒い翼と帽子のような赤い後頭部が特徴。
ドラミングはハイスピードで、高橋名人のシューティングゲームのごとく1秒間に16回ほど叩くといわれているがこの写真は特にそんな事をしていないのにボケている。
全長89cm、北海道では冬鳥。見るからにボケているのではなく、撮影してカメラのプレビューを見た時はああ、撮れているなと思って後で拡大してみると絶妙にボケているという写真はなにげに撮影者に与えるダメージがでかい。
一見「技」に見えるが「枝」とは鳥に見事に枝がかぶりまくる現象である。幾重にも重なった枝の向こうに隠れて鳥たちはどんな顔をしていたのだろう。どこかエロス味のある妄想を掻き立てる、これが失敗写真のわけがない(ある)
全長17cmほど。留鳥または漂鳥(国内で季節によって住む場所を替える)で、平地や山地の草原、農耕地、川原などで見られる。
全体的に茶褐色で腹は淡い茶色、オスは白い顔に二筋の濃く太い黒線が入っており、それで和名のように頬が白く見える、というような鳥が枝の向こうにいると思っていただきたい。
全長15cmほど、平地から低山の草原や湿原、灌木林などで見られる。オスの成鳥、特に夏羽はその名の通り全体的に紅色で数々の枝に遮られながらもその美しさがなんかわかる、それだけで充分ではないですか。
全長14cmほど平地から山地の林で見られる。レンガ色の腹とブルーグレーの翼の配色が素晴らしい鳥だがこの写真ではそんなことはわからないので手前の枝の樹皮の良さを愛でたい。
全長25cmほど、平地から山地の林、公園などでも見かける冬鳥。頭部と喉はシブい灰褐色、個人の感想だがシロハラといっても少し茶色がかっていて言う程真っ白な腹ではないようにも思う。いずれにせよこの写真ではぜんぜんわからないがネットで検索すると画像ががんがん出てくる。すごいぞ集合知。
※参考:ヤマケイハンディ図鑑7 新版 日本の野鳥 山溪ハンディ図鑑 Kindle版(叶内 拓哉/山と溪谷社)
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |