これがスタンダードではないです
かっぽ鶏づくりはワイルドで楽しかった。たまには屋外で火を囲むというのもいいものだ。段取りをしてくれたおじいちゃんにはただただ感謝である。
通常はコンクリートブロックを砕いたりしませんので、お試しの際には他のサイトの記事を参考にするといいかもしれません。火の取り扱いには気をつけてくださいね。

宮崎県の高千穂町に伝わる郷土料理に「かっぽ鶏(どり)」というものがある。
青竹をくり抜いて作った筒のなかに鶏肉や野菜を詰め、その竹ごと火にかけて蒸し焼きにする料理だ。具材には竹の風味がうつり独特な味わいとなる。
一度だけ振る舞ってもらったことがあるが、とても美味しかった。また食べたい。ということで作ってみました。
「かっぽ」とは高千穂の言葉で竹のことを指す。かっぽ鶏を食べるためにはまず若い竹が必要だ。幸いにして僕のおじいちゃんの家の裏山には竹がたくさん生えている。お願いして一本だけ切らせてもらうことにした。
80歳とは思えない速度で山道をぐんぐん進むおじいちゃん。裏山には杉やヒノキの巨木をはじめ種々の植物が生い茂っている。蚊が手足にまとわりつく。
草木をかき分けながら歩いていると、まだ青い栗のイガに頭をぶつけた。けっこう本気で痛い。どうやらこれは遊びじゃないな、と思った。
山に入ってから10分ほど歩いた先で目的の竹を見つけた。なんでも、白っぽくなっていない若い真竹は油を多く含んでいるのでかっぽ鶏に向いているとのことだった。
「僕にも切らせてください」と声をかける間もなく竹は切り倒されてしまった。おじいちゃんは張り切っている。左官屋として30年働いた経験を持つ職人の血がたぎっているようだ。のこぎりを扱う姿は迫力がすごくて笑うしかなかった。
かっぽ鶏の味付けは家によってまちまち。レシピを調べてみると「竹の中に鶏を入れればあとは自由」といったような投げやりな説明を見つけることができるし、「竹は土鍋で代用可能です」という一文すらある。味付けが自由な上に竹も使わなくていいのだ。これぞ宮崎のおおらかさ。
おじいちゃんに聞くと「今は焼肉のタレがあるからそれで味付けすればいいっちゃが」と言う。革新的すぎる。竹の風味が焼肉のタレを超えるとは信じがたいので、味付けは自己流にすることにした。
【かっぽ鶏レシピ/分量はすべて適当に】
・鶏肉
・しいたけ
・ニラ
・にんにく
・濃口醤油
・みりん
・塩こしょう
・砂糖
具材はすべて一口サイズに切り、適量の調味料に漬け込む。あとは竹に詰めて蒸し焼きに。
インターネット上で見かけるレシピでは砂糖がまったく使われていない。しかし、刺身ですら甘い醤油で食べる宮崎県民が味の組み立てに砂糖を用いないというのは不自然である。
昔は貴重だったから使えなかったのだという勝手な憶測のもと、砂糖をドバドバ入れて甘めの味付けにした。結果からいうと大成功だった。
具材は切る前に写真を撮って分かりやすくお見せする予定だったが、目を離した隙に母が全部切ってしまった。反抗期の子どもなら「勝手に余計なことすんなよ!」となるところだが、もういい大人なのでありがたく受け入れた。
具材を漬け込んでいる間に竹を加工して鍋にする。この工程でも張り切ったおじいちゃんに活躍してもらうとなお良いだろう。
加工時間は5分に満たなかった。職人っぷりたるや。くり抜いた竹の部品は鍋のフタとして使用するので残しておく。
そして、竹の中身が美しすぎるということも伝えておきたい。かぐや姫が居を構えたというのもうなずけるだろう。これはもう新居だ。夢のマイホームだ。誰かが越してくる前になんとかしないと!
ここまでくれば竹で作った鍋に具材を詰め込んで火にかけるだけである。かつて調理工程にノコギリ・ノミ・カナヅチが登場する郷土料理があっただろうか。ここまででしこたま笑ってしまった。
あとは普通だろう。多分。それではさっそく火をおこしていきましょう。
手押し車の上で炭に火を入れろと祖父は言った。従うほかなかった。熱でパンクするかもしれないので、定期的にジョウロでタイヤに水をかけるという奇怪な工程が加わることになった。
調理器具に一輪車とジョウロとコンクリートブロックが加わっていよいよ何が何だか分からなくなってきた。
それにしても祖父の技術力と道具選びの奔放さには感心させられる。人間はもっと自由でいいんだ。そういうメッセージなのかもしれない。どうなんですか。じいちゃん、今は何を思っているのですか。
「孫(僕のこと)は小せえときのがよかったわい。コンビニで花火買ってくれば誤魔化しがききよったき。今は竹切ったりどしたりせないかん」
もう、素直じゃないなあ。
炭火が弱いせいか、なかなか鶏肉に火が通らない。もてあました時間でおじいちゃんにかっぽ鶏の話を聞いた。
――これ手間がかかりますけど、日常的に食べるものじゃないですよね
「そうじゃな。前は親戚が帰省したときなんかに作ってやりよったっちゃ。そんなもんかの。昔は竹をつこうて山で茶を沸かしたりしとったき、それがかっぽ鶏ん始まりじゃろな」
――神社の祭りの日とか夜神楽のときに作ったりはしないんですか?
「今はどうか知らんけんどん、昔は祭りんときに肉を食わんかったきな」
――身を清めるために食を慎むということですね
「うちにある古文書には『興梠家は肉食すると子孫が絶える』って書いてあるとぞ」
※興梠家=僕の母方の家系
――ええ?!笑
「それを型破りしたのは親父たい。郡役所の小使(こづかい)しとるときに役人から牛肉を食え食えって食わせられたわけたい。じゃき親父がうちの家系で一番先に牛を食ったっちゃの。
『食えっちゅうもんじゃき食ったら、そりゃ美味しかったですわね~』
って親父がラジオに出演したとき言っちょったわ」
――その型破りのおかげで今はお肉が食べられるんですね
肉食・オア・アライブ。本筋から大きく逸れてしまったが、おもしろい話が聞けてよかった。家を滅ぼす覚悟で肉を食い「そりゃ美味しかったですわね~」と笑って済ませるひいおじいちゃんにはシビれる。そして現時点で血筋が途絶える予定はない。いい事ずくめだ。
竹筒を火にかけて1時間ほど経ったころ、ようやくフタの隙間から湯気が上がりはじめた。それとともに醤油とニンニクの香ばしい匂いがしてくる。中を見てみるとしっかり火が通っていた。
僕は主に見ていただけだが、竹を切るところから作ったので喜びもひとしおである。さっそく食べてみよう。
竹の油分が具材によく絡んでいて、他の料理では味わったことのないねっとりとした舌ざわり。それでいて油っこいわけでもない。口に入れてすぐは調味料とニンニクの強さが際立つが、咀嚼を続けると椎茸の旨味がほんのりとあらわれ、最後の最後に竹の風味としか形容しようのない優しい香りに気づく。
かっぽ鶏はそのワイルドな調理方法を忘れさせるほど上品な味わいで美味しいかった。これはいいものだ。
竹筒で温めた酒を「かっぽ酒」というが、これもアルコールの刺激が抑えられて飲みやすくなり非常に美味だ。竹筒で酒を注ぐときに「かっぽかっぽ」という音が鳴ることから、竹のことをかっぽと呼ぶようになったらしい。有益な情報でした。
かっぽ鶏づくりはワイルドで楽しかった。たまには屋外で火を囲むというのもいいものだ。段取りをしてくれたおじいちゃんにはただただ感謝である。
通常はコンクリートブロックを砕いたりしませんので、お試しの際には他のサイトの記事を参考にするといいかもしれません。火の取り扱いには気をつけてくださいね。
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