糊から一味唐辛子の匂いがする!!
小学校高学年のころ、スティックのりはカッコイイという価値観が教室中に広まった。でんぷんのりや水のりより大人っぽい感じがしたからだと思う。当時は青いフタが目印の「PiT」と、赤い容器の「Pritt」がスティックのりの二大巨頭だった。
特にこだわりがなかった僕はそのふたつを使いまわしていたが、授業中に何気なくプリットの匂いをかいで衝撃を受けた。
「一味唐辛子の匂いだ!!」
嬉しくなって友達に教えてあげたものの反応は薄かった。なんたることか。分数の計算や漢字の書き取りなどの計画されたカリキュラムをうっちゃって糊の匂いに夢中になるのがゆとり教育の目指すところじゃないのか。おとなになった今はそのように正当化もできるが、当時はただ静かにガッカリした。
匂いに気づいて以来、もっぱらプリットを愛用している。糊から唐辛子の匂いがするって最高じゃないか。しかも容器が一味と同じ赤色をしているのだ。
いつ嗅いでも唐辛子の匂いだ
1970年ごろから販売されているプリットは今も現役の製品である。日本での販売会社は途中で変わったりもしたが、その香りはいついかなる時に嗅いでも唐辛子っぽい。
元号が変わり、硬貨のデザインが変わり、母校が統廃合で消滅しても、プリットはいつでも同じ香りを届けてくれる。プリットは帰るべきふるさとだ。ふるさとにしては少しだけ細長いけれど。
メーカーさんに聞いてみる
人生いろいろ、嗅覚いろいろ。プリットの匂いが一味唐辛子と本当に近いかどうかはさておき、甘美な香りを発しているのは真実である。これは偶然の産物なのか、はたまた香料を入れているのか。日本での販売・流通を担うプラス株式会社さんに問い合わせてみると、すぐに回答を頂くことができた。
なんと、プリットの香りは香料によるものだった!しかも世界共通の匂いだという。開発者が意図的にこの匂いを選んだという厳たる事実。きっと果てのない試行錯誤があったことだろう。周囲の反対を押し切ってたどり着いた答えが一味唐辛子っぽい香りだったのかもしれない。
勝手な想像が膨らむが、それはさておき、あなたの仕事は日本人の心をバッチリつかんでます!ありがとう…ありがとう!思わず謝辞を述べたくなる。
啓蒙活動をしよう
興奮冷めやらぬうち、一味唐辛子とプリットを用意して知人数名に嗅ぎくらべてもらった。ほら、唐辛子の匂いがしますよね。しませんか。するでしょう。
「わかる、同じ匂いがするよ!」
思いもかけず居合わせた4人全員が賛同するという結果になった。うれしい。主な意見を下にまとめておこう。
・唐辛子の匂いの強さを5としたとき、糊は2くらいの感じ
・温かいうどんに一味をふりかけて、立ち上る湯気をかいだときの印象(糊の匂いが)
・鼻に入ったときの爽やかさがかなり近い
・どちらも草刈りをしたときの匂いがする
・一味唐辛子はタバスコから酸味を取り除いた匂いだ(本件と関係ない!)
最初は半信半疑だった面々が、ひとたび匂いを嗅いだあとは堂々たる弁舌で感想を語りはじめておもしろかった。しかし議題は糊の匂いである。平和と博愛がそこにあった。
このたび、ひとつの文具を通じて他人同士が分かりあえた。素晴らしいことじゃないか。僕らが取り合った手は二度と離れないだろう。なんたって「しっかり貼れてはがれにくい!」とプリットの赤い容器に記されているのだ。
ということなので、今すぐ買ってきてください
プリットと一味唐辛子の嗅ぎ比べをするときのコツですが、糊は鼻に付くか付かないかのゼロ距離、一味唐辛子は鼻から2cmほど離して嗅いでみてください。
糊のほうが幾分か清涼感がありますが、ふたつの香りの近さを味わえば思わず頬がほころびますよ。