気象庁の人もネット言説に悩まされている?
増田:
台風情報はあくまでも速報値だから、後で解析したら「台風がなくなったのはもっと前でした」というのもあります。
梅雨も一緒ですね。先の天気が読み切れないときに、みんな「晴れてる晴れてる」っていうから「じゃあ梅雨明けにしよう」みたいな気持ちがどこか働くこともあるんじゃないでしょうか。でも、後で、9月の頭に、修正というか確定させるんですけれど。
林:
それにしても、聞けば聞くほど、人ですね。
増田:
人ですし、気象庁の人もネットの情報を見ているはずで。芸能人やアスリートの方々が、ネットの情報を見ないようにしても、見てしまうのと同じ事が起きているんでしょうね。
西村:
一応、そういうのに影響されずにやっているという建前ですよね。
増田:
どうでしょう。僕たちには聞きづらいので、是非皆さんで……。
林:
いま、アメリカやヨーロッパなど、世界各国の予報機関の予報を見ることができます。海外の予報だとこうなっているとかあれは信頼していいんですか? 日本から遠いから、日本の台風そんなに真剣に解析してるのかな? と思うんですけど。
増田:
日本の……というか世界、地球の全体のシミュレーションをしてるんです。地球は一つ。
使っているデータは、地球上あらゆるところで観測されたデータ。さらに、1時間後、3時間後、12時間後……と、分析していく。データ自体は世界で共有されたデータですが、今現在の表現の仕方、データの重み付けが違いますから、結果も変わってきます。
熱帯の予報官は苦労している
林:
台風が九州に接近していたころ、関東の天気予報が毎日変わっていて。あの時期の予報は大変だったんですか?
増田:
自分で自分が嫌になるような予報でした。何時にどれだけ降るかを24時間ぴったりと当てられる人もコンピュータもいないんだろうなと思うくらい難しい期間でした。
熱帯低気圧の雨なので、熱帯の空気による雨ですね。熱帯の予報官はこんな感じで、苦労しているんだろうなと。
林:
水蒸気がたくさん流れこんでいて、いつ落ちてくるかわからない、「大気の状態が不安定」っていうやつですか?
増田:
とも表現します。熱帯・亜熱帯の天気がやってきたという感じですね。
林:
シンガポールとかで、ドバって雨が降る……。
増田:
そうですね。ザーって降ったりするような空気を台風が持ち込んだことで、擬似的・一時的に熱帯・亜熱帯的な天気になった。
林:
上空に水蒸気みたいな塊がわーっとあって、いつそれが落ちてくるかわからない、間欠泉みたいな感じですかね。何のきっかけで落ちてくるんですか?
増田:
どれだけたくさん上空に水蒸気があるかですね。塊の下で雨が降りやすいので、どこにたくさん水蒸気が集まってくるかという。
今回、一時的にそういう熱帯の天気になりましたが、これから気温が年々上がったりすると、こういう予報と付き合うことが増えるのか、と……。
低気圧の雨雲はゾウ、熱帯の雨雲はアリ
増田:
暑い時期の細かい予報もだんだん当てられるようになってきているんですが、せっかく当てられるようになったのに、暑い期間が延びると、外れやすい期間も延びる。全部が全部当てられないので。やだなあって思います。
日本の夏は亜熱帯じゃないかと言われていて、一昔前は「7月の終わりから8月まではしょうがないよね」と言われてた、9月もそうじゃないか、みたいになっていくと、当てづらい細かい雨雲たちと戦う日々が続くのか、と。
岡田:
雨雲が細かいから当てにくいんですね。
増田:
低気圧の雨雲は本州サイズで、塊で来てくれるから天気予報も当たりやすいんです。ゾウ1頭の動きなら、いくらでもあてられる。でも、どっちに動くか分からない細かい雨雲はアリみたいで、完璧には当てられないんです。アリ1000匹は当てられない。
林:
アリの間には降らないわけですね。
岡田:
最先端のスパコンと予報システムでも難しいんですね。
増田:
観測システム進化のお陰で、だんだん、馬の大群ぐらいまでなら当てられるようになっていますが、アリの大群になっちゃうと……どうしましょうね。これから増えてくるんだろうな。
西村:
5月ぐらいからそんな感じですよね。
増田:
梅雨に入ると戦いのゴングが鳴る、みたいな。
林:
今の見通しだと、9月いっぱいはまだ難しいですよね。
増田:
10月の上旬ぐらいまでは秋雨シーズンが続き、秋と夏がせめぎあっています。ただ、10月の上旬でも30度を超えたりすることがあるので、暑い夏の空気が残ってると「あれ、10月上旬なのに まだ急に降ってくる亜熱帯的な空気が残ってる」となる。
運動会とかも10月の下旬以降にした方がいいですよ。 10月の上旬は暑かったりとか、急に降ってきたりとか、まだ台風のリスクもあるし。そうすると、10月の下旬から11月ぐらい、がいいんじゃないかな。
林:
日本のベストシーズンは10月の下旬から11月かもしれませんね。
増田:
そうですね。本州だと11月ぐらいがからっとしているし、台風のリスクも減ってくるし。
クイズの正解・2024年8月に日本国内の最高気温を観測したのは桑名!
正解:桑名(三重県)40.4度(8月9日)
林:
8月の記事は8月10日に出したんですけど、そのまえにおれの予想は外れてました。
その時点での最高気温が桑名(三重県)で8月9日に観測された40.4度。その後もどんどん暑くなるのかなと思ったら9日で打ち止めでした。
このグラフは東京ですけど、8月16日に台風が接近してガクンと下がった日以降は、順調に下がっています。
増田:
一度ガッツリ雨が降ると、地面も空気も冷めるんです。この台風の時も、熱が冷めているという匂い、夕立のときのような匂いがしました。「ここから少しずつ気温が下がっていくな」と思いましたもん。
林:
クイズの予想は冷静に「8月9日の桑名で終わりです、打ち止めです」という方が2人。「更新してほしい」と40.7度を予想した人もいましたが。
ぷりんぐみん | 桑名 | 40.4℃ もうこれ以上の気温は出ないでという祈りを込めて |
オザワ・イチンノロブ | 桑名 | 40.7℃。さすがに40.4℃は超えないでしょうと思わせておいて桑名が自己記録を更新してほしい |
ぷりんぐみんさん、おめでとうございます!
台風7号のフェーン現象で気温が上がると予想した人が2人います。
ツトミちゃん | 愛知県豊田市 | 台風7号の進路が影響して中部地方が暑くなりそうかなと思いました。ちなみに40.6℃で。 |
メロポン | 静岡市 | 40.6℃ 台風7号が接近しています。台風が通り過ぎた直後、台風を追いかける西から南西の風がフェーン現象により気温が上昇するのではないかと思いました。その頃、関東平野でも南風で気温が上昇しそうですが、山越えの風にならず、40℃超にはならないと考えました。 |
林:
桑名は珍しいですよね。海が近い。ハマグリのところですよね。西風が吹いて暑かった。
西村:
海風が入らない状態で。
林:
8月9日の天気図では、桑名が暑くなるってさっぱり分からないな。
増田:
夏は天気図は役に立たないことがあります。線が少ないと分かりにくいんですよね。夏は気圧の差があまりないので、線が少なくて。
天気予報の仕事を始めて最初にびっくりしたのは、夏の天気図は細かい予報をするにはあまり意味がないこと。「上空の天気図(高層天気図)をみるんだよ」と先輩に言われました。
9月の問題
回答はこちらから(締め切り:2024年9月13日23:59)
林:
8月のクイズで、最高気温は記事を公開する前にピークになる可能性があると気づいたので、9月の問題は「最低気温」にしまししょう。
最高は、もう40度にはならないですね。9月は油断してもいいですよね。
増田:
過去には9月に40度になったこともあります、2020年9月3日には、フェーン現象で新潟県で強制的に40度にさせられた。9月の上旬が夏に浸食されはじめているということですね。
これから40度を超えることも増えるんでしょうね。9月の全国の気温トップ20にとうとう40度台がでてきましたけど「いつの間にか40度で占められてきたね」という風に変わるんでしょうね。
林:
今年はどうですか?
増田:
あるとすれば、台風が日本海に入って、熱帯の熱い空気が持ち上げられ、南風でフェーン現象が起きる時。それが起こるとしたら、日本海側の可能性が高いですね。
林:
じゃあ、最低気温は……。20度は当然切るけど、15度ぐらいになったりしますかね?
増田:
余裕であるんじゃないですかね。
去年9月の東京都心で一番低かったのが18.5度、2022年は16.5度、2021は16.8度、2020年は14.7度……2010年に13.9度でした。近年は下がり切らないですね。
林:
寒くなる原因って何ですか?
増田:
まず秋雨前線で雨がけっこう降って、空気が冷めるというのが一つ。その上で、秋の空気が勝ち切る。秋の空気は高気圧なので晴れる、晴れた日は雲がない。お布団がない状態なので、夜は地球の地面の熱が宇宙に向かって逃げ放題、放射冷却が強まる。となると結構冷える。
秋雨がしっかり降って、秋の空気にスッと変わったら、意外と気温が下がるかもしれない。東京は1年でみると雨の量が一番多いのが9月ですので。
西村:
僕は15.5度ぐらいで。
増田:
今、9月20日ぐらいまで予想が出ていますけど、最低気温が22度ぐらいです。
林:
西村さんが15度で行くなら、おれ、ちょっと高めの方で。18.8度です。「地球おかしいですねー」みたいな。
増田:
これで20度を下回らないなんてことが出たらけっこうヤバいですけどね。
林:
今年の夏は去年と同じで一番暑かったと見ました。
増田:
そこに関しては去年のほうが暑かったですけどね。あ、これもヒントになるか。
あらためて今月の問題です。何度まで下がるでしょう?!
回答はこちらから(締め切り:2024年9月13日23:59)
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