特集 2024年9月6日

迷走した台風10号 長すぎた「最大風速18m」~気象予報士増田さんの天気解説9月・前編

8月下旬は、迷走した台風10号にてんやわんやしました。

ネット上では「屋久島に勢力をそがれた」とか「温泉地をめぐっていた」なんて言われた台風ですが、プロの目から見て、その説は正しかったのでしょうか?

気象予報士増田さんに聞く今月のお天気トピックは

・秋は高気圧同士の前線バトル
・台風、屋久島で弱まったは本当か?
・台風は、迷って迷って生きてる
・台風の進路は、気象庁の担当者が「ここかな?」と線を引いている

「最近、夏の天気予報が当てにならないな~」と思うことが増えたかもしれませんが、増田さんも気象庁も、とっても苦労しているようで……。(ここの文章と構成・岡田有花)

1977年滋賀生まれ。お天気キャスター。的中率、夢の9割をめざす気象予報士です。 好きな言葉は「予報当たりましたね」。株式会社ウェザーマップ所属。
ツイッターでも気象情報やってます。(動画インタビュー)

前の記事:東京よりハワイのほうが涼しい~気象予報士増田さんの天気解説8月

> 個人サイト ウェザーマップ・増田雅昭 ツイッター @MasudaMasaaki

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秋の気配がしてきました

林:
今日(9月4日)は涼しいですよね。
増田:
大陸からの湿度が低い秋の高気圧が北海道には来ているんです。北海道とか東北、青森の方は、カラっとした風を感じていらっしゃる。

高気圧は時計回りに風が吹き出していて、東北の太平洋側や関東にも秋の空気のおこぼれみたいなのが来ています。
林:
大陸からの高気圧は湿気が少ないということですよね。モンゴル上空とかの乾いた空気がそのままやって来る。
増田:
海から遠ければ遠いほど空気は乾いているので。モンゴルも含めて、大陸の奥から乾いた空気がやってくるのが秋の正体です。
林:
でも大陸と日本の間に日本海がありますよね。海の上を通っても湿気ないんですか?
増田:
海の上に長く居座らないので、乾いたままやってきます。フリーズドライです。
ただ、底の方が海に接した状態で長い時間いると、質は変わってきますね。「気団変質」と言いますが、気団の性質が変わっていくことはあります。

反面、夏の高気圧、太平洋高気圧は海の上に長くいるので湿っていく。だから夏は蒸し暑いんです。

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秋は高気圧同士の前線バトル

林:
このままスーっと涼しくならないかなと期待しているんですが、今後、夏の高気圧がグッと日本に上がってくることはありますか?
増田:
いくらでもありますね。天気・季節は、突き詰めると波なんですよね。日本の場合は海vs陸という感じ。陸からやってくる乾いた空気、涼しい空気が勝つか、海から来る夏の太平洋からやってくる空気が勝つのか、そのバトルです。

違う高気圧同士のバトル、それぞれの陣地の最前線が前線です。前線は、空気のいちばん前ですが、前線あたりで天気がぐずつきやすい。

前線の付近では、空気同士がぶつかって地面にもぐれないので、行き場がなくなる。すると上空に上がるしかないので、上昇気流がうまれます。そこで雨雲ができますので、前線付近には雨が降りやすくなる。それに加えて、前線の上で風が渦を巻くと、低気圧が発生するので、雨が降りやすいというわけですね。

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高気圧バトルで天気がぐずつく

林:
高気圧バトルの真ん中らへんに日本がいるんですね。高気圧は天気をよくすると思われがちだけど、ぶつかると雲ができて、天気が悪くなるわけですね。
増田:
そう。天気を悪くしてるのは最前線の人たちじゃなくて、実は後ろでどーんと指令を出している、高気圧なんですよね。

季節の変わり目は天気がぐずつきやすくなる。雨が続くようになってきたなと思ったら「季節が変わるんだな」と考えていただけるといいのかなと思います。
林:
それって秋雨前線ですか?
増田:
そうです。大陸からの高気圧がどんどん成長して、太平洋高気圧に勝っていくと、夏を追いやるということです。

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温暖化が影響していると言わざるを得ない

林:
今年の長期予報だと、まだまだ太平洋高気圧が強いみたいですが。
増田:
ひと昔前だったら、その状態になるのが8月の終わりぐらいまでだったんですが、近年は、南の熱い空気がまだまだ強いので、なかなかスムーズに秋になってくれないですね。

9月に南の高気圧が粘るということが起こっていて。例えば今日いったん秋の高気圧が現れて涼しくなったなと思っても、すぐにまた南の夏の空気が「おうおう、またやってきたか」っていう。
岡田:
海水温の上昇……みたいな話なんですか?
増田:
海水温も高いし、気温も高いのでなかなか冷めないから、夏がなかなか終わらない状態に徐々になりつつあります。みなさんも実感されていると思いますが。

それを一言で言っちゃうと「温暖化の影響」ってなっちゃう。でも、なんでもかんでも温暖化のせいにしたくないんですよね。天気はそんなに単純じゃなくて、いろんな要素が絡んでいるので、細かいところを丁寧に解説したいんです。

ただ、大元を突き詰めると、温暖化が影響していると言わざるを得ないですね。

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夏台風は迷走しやすい

林:
台風10号の話をさせてください。台風10号はすごくフラフラしていて、迷走したと言われていますが、なぜだったんでしょうか。
増田:
「夏台風は迷走しやすい」と昔から言われています。秋には、上空の強い西風、偏西風とかジェット気流がだんだん現れるようになるんですが、夏は西風が日本から離れた北の方を流れているので、台風は(西風に乗れず)フラフラ動くことが多い。

例年なら、9月に偏西風がもっと南を吹いていてもよかったんですが、気温が高くなっていて、偏西風が日本に下りてくれない。そうすると、流れに乗れずに迷走する台風が、これから増えてもおかしくない
林:
偏西風が下りてくれないのはなぜですか?​​​​​​​
増田:
偏西風は、熱い空気と涼しい空気の境目にあるんです。前線の上空の高いところに偏西風が吹いている。ぶつかりあい押し合っていて、その上空では空気がぎゅっと挟まれて、ビュッと吹いてくるのが偏西風。

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前線の上空に偏西風が流れている

林:
太平洋高気圧の熱い空気が強いから、偏西風も北の方に流れると。​​​​​​​
増田:
そうです。熱い空気が粘っていると、偏西風もなかなか下りてこない。​​​​​​​
林:
偏西風が北の方を流れていることと、高気圧が張り出していて、その隙間に入れなかったというのは原因が同じ話なんですね。夏の高気圧が居座ってるから、偏西風も下りてこられなかった。​​​​​​​
増田:
そうですね。

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高気圧は大きく強く、台風は小さく弱い

林:
高気圧はなんでそんなにずっと居座っているんですか?​​​​​​​
増田:
南の夏の空気がいっぱいあるから。もっと秋の空気がやってきてもおかしくないのに、なかなか夏の空気を押しやれないという感じですね。全体的に温度のベースが高くなっているから。​​​​​​​
林:
温暖化ですね。​​​​​​​
増田:
そうですね……。今後も、ふらつく台風が秋まで増えるのもあるだろうし、台風シーズンが後ろに伸びるというのもあるだろうし。​​​​​​​
林:
基本的に、高気圧はすごく大きくて強くて、台風は小さくて弱い存在。​​​​​​​
増田:
そうです。台風はすごく強く見えるけど、高気圧の前では子ども以下。台風10号は半径200~300kmぐらいでしたが、高気圧は1000~2000kmレベルです。夏の高気圧はもっと大きくてハワイまであり、中心は太平洋の真ん中にある。

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⏩ 台風はもっと早くに消滅していた?

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