クイを食いねぇ!
ということで、ネズミ年なのでクイを食べた。古くから食べられて来ただけあって、まずいみたいなことはなかった。クイアイスは日本人も食べに来る? と聞いたら、過去に2組来たと言っていた。もっとクイを食いねぇである。ダジャレだ。
ネズミ年である。2020年は日本でオリンピック・パラリンピックが開かれ、閏年であり、十二支の始まり「ネズミ年」だ。十二支の中には実在しない龍なども存在するし、半分くらい食べるには難しい動物も並んでいる。
ネズミはどうだろう。食べるには難しい気もするけれど、せっかくのネズミ年なので食べたい。そこで南米だ。南米ではネズミが食べられている。教会の壁画にも食べる様子が描かれていたりもする。
食文化は面白いもので、日本だけを見ても、地域によって様々。たとえば、お雑煮の味付けは違うし、入れるお餅の形も異なる。そもそもお餅を食べない地域すらある。そういうのは民俗学的に調べると理由があって面白い。
食文化を世界で見るともう様々がすぎる。日本では当たり前に食べるものが、食べられていなかったり、その逆も然りだ。その一つに「ネズミ」があるのではないだろうか。日本ではあまり食べると聞かない。
ネズミを食べると聞くとゲテモノ感があるかもしれないけれど、たとえば、南米・ペルーにある教会の壁画にはネズミが描かれている。最後の晩餐の壁画なのだけれど、そのメインに据えられている料理がネズミだ。
ネズミの丸焼きが最後の晩餐のメイン。それくらい重要な料理なのだ。ただ今回そのネズミを食べるのはペルーのお隣エクアドル。エクアドルでも同じようにネズミを食べる文化があり、しかもアイスにまでなっていると聞いてエクアドルを選んだのだ。
エクアドルやペルーで食べられているネズミは、こちらの言葉で「クイ」と呼ばれている。なぜ食べるようになったのか詳しいことはわからないけれど、壁画から察するに古くから食べられてきたのだろう。
クイは日本では「モルモット」と呼ばれている。厳密にはモルモットはネズミではないらしいけれど、天竺鼠ともいうので、今回はネズミと考える。クイと呼ばれているのは、「クイ、クイ」と鳴くから。スペイン語でそう説明されたので、自信はないけれど、鳴き声を聞くと確かに「クイ、クイ」鳴いているのでおそらく正解。
エクアドルでは普通にクイが食べられている。レストランに行ってもあるし、屋台のようなところでも丸焼きにしている様子が見えるように売られてもいる。適当に入ったレストランでは3000円ほどしたけれど、屋台では700円ほどだった。
焼いている様子を見ていたら、焼いてみな、と焼かせてくれた。炭火で太いポールに巻きつけられたクイを焦げないように回して焼いていく。だんだんと茶色くなる。元は真っ白な色をしている。
屋台によっては、人集りができているところもあるので、クイ自体は人気で間違いないのだろう。エクアドルに通っている知り合いの研究者は、クイが好きで行くと必ず食べると言っていた。人気なのだ。
食べる部分は正直そんなに多くはない。かぶりついて見ると、臭みもなく、癖もない。鶏肉に似ている。とても似ている。目をつぶって食べたら「鶏肉!」となって、目を開けるクイと目があって会釈してしまった。
本当に鶏肉。味付けはなんと言っていいかわからないけれど、鶏肉という感じ。実は以前、ペルーでも食べたことあるのだけれど、比べると香草風味が少なく、私にとってはより食べやすかった気がする。ヤマメとイワナくらいの違いで鶏肉なのだ。
クイをスーパーマーケットで売られているのは見なかった。そこで、動物市に足を伸ばした。牛や豚、ヤギや鶏などが売られている市場だ。オタバロという街の中心地からさらにバスで10分ほど走った場所にある。
売られているのは生体で、鶏などは袋に入れて持ち帰る人もいるので、袋がずっと動いていて、驚いたりもする。また闘鶏もその辺で行われ出して、人集りができていたりもする。基本的には自由な感じの市場だ。
クイを売っている人も多いので、何人かに値段を聞くと、「9ドル」、「5ドル」、「4ドル」と割と幅広い価格帯だった。大きさによって違うし、うちなら安くしたるで、という勧誘も多かった。ちなみに鶏も同じような値段。つまり味だけではなく、値段も「鶏=クイ」ということだ、きっと。
以前、メキシコにロバを買いに行ったことがあるのだけれど、今回はもちろん買わなかった。ちなみにメキシコのロバは人に預けている。エクアドルでは預ける人がいないのでクイはあきらめた。日本に一緒に帰るのはハードルが高いから。
今回、クイを食べる舞台としてエクアドルを選んだのは、クイのアイスを売っているお店があるからだ。アイスと言えば、ラムレーズンとか、チョコレートとか、ストロベリーとかあるけれど、エクアドルには「クイ」という選択肢もあるのだ。
世界的にも珍しいらしい。クイの成分を存分に入れてアイスにしているそうだ。ただそれだけだと獣臭いらしく、果物も一緒にしていると言っていた。スペイン語なのでたぶんだけど、そう言っていると思う。
見た目は全然クイ要素はないけれど、お店の看板からもわかるように、本当にクイだ。一緒に入っている果物は「グラナディージャ」。南米でよく見かける果物だ。このアイスはクイとグラナディージャを組み合わせた味ということだ。
グラナディージャの味は多くの人が思い描く「南国のフルーツだな」で間違いない。お手本のような南国味。それとクイが合わさってアイスになっている。クイだけだと獣臭いそうなので、グラナディージャを合わせるとその獣臭さがなくなるわけだ。
クイアイスは問題なく美味しい。素直に美味しいと言える感じだ。キチンと甘い。日本でもあまり肉がアイスになっているとは聞かない。でもエクアドルではアイスになっちゃうのだ。しかも、クイの。世界は広いということだ。
ということで、ネズミ年なのでクイを食べた。古くから食べられて来ただけあって、まずいみたいなことはなかった。クイアイスは日本人も食べに来る? と聞いたら、過去に2組来たと言っていた。もっとクイを食いねぇである。ダジャレだ。
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