特集 2020年6月28日

コウモリが見たい(デジタルリマスター版)

コウモリへの道は険しい

コウモリが見たい。

あいつら、ほんとにマンガで見たみたいに、逆さにぶら下がっているんだろうか。あと、どんな顔をしているのか。その姿を一度見てみたくて、探しに行きました。

 

2010年9月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載したものです。

インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

前の記事:効果音で怖くする

> 個人サイト nomoonwalk

とまってるところをみたい

といっても、東京にすんでいる僕にとってすら、コウモリってそんなに珍しい生き物ではない。夕方になるとどこからともなく飛んできて、空中を舞っているのをよく見る。

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昔は鳥だと思ってました

でも見かけるのは飛んでいる姿だけで、あれがどこから来ているのか知らないし、そしてどんな姿をしているのかじっくり見たこともないのだ。

調べてみると、その辺で見かけるのはアブラコウモリ(イエコウモリ)という種類で、どうも街中の民家や物陰に棲んでいるらしい。それなら見つけられるかも。

飛んでるところじゃない、オフのコウモリを見てみたくて、奔走しました。

 

駅前コウモリ

最初にやってきたのは、東急あざみ野駅。以前、このサイトの月間総集編でコウモリについて書いたことがあり、そのときに読者の方から情報をいただいたのだ。(どうもありがとうございました)

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この街路樹にいるらしい

ストリートビューで示された場所は駅を出てすぐ、交差点脇の街路樹。その場所はすぐに見つかった。

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ここだ

時刻は18時ごろ。日没を少し過ぎて、もうあたりは暗い。夜行性のコウモリは活発に動き回っている頃だろう。遅刻、遅刻ー!という感じでやってきたのだが。

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闇夜

頭上の空は深い闇が覆っていた。「シーン」という擬音語がよく似合う何もなさ。実際は駅前でにぎやかな場所ではあるのだが、僕の心は無音。

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今日はお休みですか

なにを隠そう、この企画、一年くらいずっと暖めていた企画なのだが、やらなかったのには理由がある。見つける自信がなかったからだ。

これから4ページにわたりいろんな場所を探しに行く予定だが、こういう手探りの企画は初日が大事で、初日に何も起きなかったら大抵ずっと何もおきない。最終日にギリギリ見つかりました!みたいなドラマチックなことはまず起きないのだ。

夜の暗がりに気持ちが飲まれたか、そんなことばかり考えていた。

 

 

写真に写らないアイツ

そんなとき、ふいに、頭上を何か黒いものが掠めた。

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いた!
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こっちも!

「いた!」とかいって全然写真に写ってない。ここはどうか信じてください、と哀願するしかないのだが、頭上3mくらいのところを鳥とは違うカクカクした翼の生き物が飛んでいた。鳥みたいにスイスイ飛ぶ感じではなくて、蝶や蛾みたいにバサバサと羽ばたいて飛んでいる。間違いない、コウモリだ。

 

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暗いわ速いわでまったく写りません

コウモリはだいたい2分おきくらいのペースで次々やってきては横切っていった。山手線くらいの頻度である。

どこから飛んできてどこへ行くのかはよくわからなかった。

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木の中にいるのか

 

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それっぽいものは照らしてみるとたいてい枯葉である

タレコミをいただいた木の中を捜索してみたが、それらしき動物は見当たらない。

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この写真は自分でも雰囲気よく撮れたと思っていますが肝心の被写体がいない
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人はなぜ上を向いていると口が開くのか

そうこうしているうちに雨がポツポツ降り出したかと思うと、見る見るうちに豪雨になった。

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不運のダメ押し

コウモリも最初は山手線くらいの感覚で飛んでいたのが、しだいに東海道新幹線くらいになり、ついにうちの実家付近のバス(つまりほとんどこない)くらいになったときに雨が降りだした。

雨が降ることを知っていたのか、それとも偶然か。どちらにしろ僕はもうずぶぬれなので、今日の捜索はこれで打ち切りである。

 

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人の手柄で記事を書く

二日目。同じ場所で見つかる気はしなかったので、場所を変えた。埼玉県のJR鴻巣駅の近辺。以前、知人がこのあたりに別の取材に来ていて、コウモリのすみかを発見したそうなのだ。今日はそこを見に行ってみることにした。

昨日より早い時間、日没前に到着したのだが、駅を出てまず驚いた。

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すごい数の飛行生物

ムクドリだった。木の中が鳥で埋め尽くされている。

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おとしもの

空を無数に飛び交っていたが、コウモリか!?とぬか喜びさせられることはなかった。鳴き声がすごかったからだ。ピヨピヨ、どころじゃなくピピピピピピピピピヨヨヨヨヨヨヨヨヨ、みたいな。細かすぎて電子音みたいになっていた。

そんなピピピピピピピピピヨヨヨヨヨヨヨヨヨ、に混じって、学校帰りの男子中学生の「バナナオレ買えよ」「買わねえよ」「絶対うまいって」みたいな会話が聞こえてくる、そんな埼玉の風景。

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そういや中学生ってバナナオレとか飲むよな、と思いながら件の場所への道を歩く
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この橋だ

目的地は徒歩5分ほどの場所にあった。

 

橋は夜

橋の裏側は昼でも暗くて、たしかにコウモリが潜んでいそうな場所だった。

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だってこれだもん
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絶対いることを確信した

上の右の写真の場所、目を凝らしてよくみると、橋と橋脚の間に、明らかになにかある。というか、いる。

俄然、興奮してきた。早くもコウモリの居場所を突き止めたのだ(見つけたのは知人だが)。しかしこの距離、そして暗さで、どうやって確認したらいいだろうか。ご心配なく。今日は、昨日暗くて木の中が見えなかった教訓を生かし、懐中電灯を持参したのだ。

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懐中電灯で照らす
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あれ

なんか、予想と違う。

ぶら下がってない。

コウモリって、実は休んでるときは地面に立っているのだろうか。それとも、何か得体の知れない、別の生物…。

フラッシュとズームで写真を撮ってみる。

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ハト!

撮った時点では正体がわからなくてどきどきしていたのだが、この直後、すごい羽音を響かせながら4羽が同時に飛び立って、心臓が止まるかと思った。ハトだ、とわかったのは飛ぶ姿を見てからである。

確かに、公園にあれだけいるハトも夕方くらいになるとどこかへ消えてしまう。夜になるとハトはどこに行くのだろう。実はこんなところにいたのだ。

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一部屋に一羽、ハトの団地みたいになっていた

スカイフィッシュの巣

ここへ来ればすぐにコウモリが見つかるかと思っていたのだが、ハトによる占拠という予想外の展開。夕暮れの空の下、途方にくれた。

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三脚を伸ばすのが面倒でローアングルから撮ったら青春っぽい写真になってしまった
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あれが全部コウモリだったりしないかなあ

あたりもだいぶ暗くなってきて、さっきまではその辺をたくさん歩いていた中学生も、いつの間にか姿を消した。

そしてだいたい6時前後くらいだろうか、急に空を黒いものが飛び交い始めた。

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でた!

 

撮影技術の関係でスカイフィッシュになってしまったが、そうではなくてコウモリである。橋のほうからこっちに向かって続々と飛び出してくる。

 

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また一匹
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どうもこの隙間にいるらしい

知人の言ったとおりだ。正真正銘、この橋がコウモリのすみかになっているっぽい。

ついにコウモリの巣をつきとめたぞ!(知人が)

が、しかし、更なる問題が立ちはだかる。

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橋が高い

そう、高さ的にちょっと背が届く位置ではないのだ。

橋の上から見てみようとしても

 

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歩道がない

反対側にしか歩道がなく、車がブンブン行きかっているので、あそこまで行って写真を撮るのは無理そうだ。

三脚持ってカメラだけ向けてみるというのも考えたが

 

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まったく届かず

というわけで、結局この日も、ぶら下がってるコウモリをこの目で見るのはあきらめることとなった…。

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ちなみに他にも巣がないかその後も結構探したのだが

 

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見つかったのはハトばかりであった

日が沈んですっかり暗くなると、またコウモリの姿は見えなくなった。あれだけ飛んでいたのに、だいたい30分くらいでいなくなってしまう。どこかへ移動してしまうのだろうか。

駅への道中は、部活帰りと思われる高校生とたくさんすれ違った。埼玉では、中学生→コウモリ→高校生といったぐあいで、時間帯ごとにうまくすみわけが出来ているなあと思った。

 

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旅の仲間

次に訪れたのは、平塚の平塚八幡宮。twitterで「コウモリいるところ知りませんか」ときいたところ、教えていただいたのがここだ。(ありがとうございました)

そして、今日は本気だ。強力な助っ人を連れてきた。

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編集部・安藤さん

この記事、コウモリの記事なのに、ちゃんと写ってるコウモリの写真が3ページ目まで1枚もないのだ。

これではいかんと思い、写真に強い安藤さんに助っ人をお願いした。しかも安藤さんは沖縄時代に一度コウモリの撮影に成功している。これは本当に強力な味方ではないか。

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ここがうわさのコウモリスポット

よせられた情報によれば「平塚八幡宮は有名なコウモリスポット」とのことだが、ネットで検索してもそんな話はどこにもなく、やや不安であった。ただ現地についてみると、いそう。すごくいそう。

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いそう

木造の建物はにコウモリの住みそうな隙間がたくさんあるに違いないし、樹がたくさんあるのもそれっぽい。(まだ発見した経験がないので雰囲気だけで言ってますが)

さっそく捜索を開始する。

意外に堅牢な木造建築

建物の軒下とか隙間みたいなところを、一つ一つ照明を当ててチェックしていく。どこかにコウモリがキキキッ、ブラーンとぶら下がっているはずだ。

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軒下は雨除けにもなって快適に違いない
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おみくじの隙間など絶好の隠れ場所ではないか

しかし、調べれば調べるほど、いそう→いるかな→いて欲しい…、という感じで自信を失っていく。

写真を見てもらうとわかるが

 

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コウモリがすむ隙間がない

木造の建物といっても意外と隙間がないのだ。特に人の住んでない物置なんかは木の組み方とかももっと隙だらけに作ってあって、そこをコウモリが我が物顔で陣取っている…、というイメージだったのだが、そううまくはいかなかった。

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なんかやぐらみたいなとこ、なし
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狛犬の足の間とか…
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「いないんじゃないですか」
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慰めるように安藤さんが見せてくれた「コウモリっぽい傘」

 

もうだめかもしれない

最初のページで「こういうのは初日で決まる」という旨のことを書いたけど、まったくそのとおりの結果となった。

そうこうしているうちに雨もどんどん強くなり、そのせいか空を飛ぶコウモリすら見かけない。写真撮影のために同行してもらった安藤さんだったが、被写体がない以上すっかり「安藤の持ち腐れ」という状態になっている。

「神社の中はあきらめて、ちょっと外周みてきましょうか」。

そんな話をしていた、そのとき!

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きた

 

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きたきた

「そのとき!」ももう3回目なのですっかり驚かなくなってると思いますが、空をコウモリが舞い始めた。

きたっ、とばかりにカメラを構える安藤さん。おかげでいままでで一番臨場感のある写真が手に入った。

 

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捉えた!

木があるせいか、コウモリがすごく高いところを飛んでいて、すっかりUMAみたいな荒い写真になってしまった。

安藤さんごめん、本当は飛んでるやつじゃなくて、どこかに止まってるコウモリを撮ってもらうはずだったんだ。僕がそれを見つけられなかったばっかりに、今日のクライマックスはこのUMA写真です。

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あとは木のうろの中を見たり

 

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床下を見たりしたけど
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やっぱりなにもおらず
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トボトボと帰りました

「今日、雨でしたからね」

「機動力も落ちますしね」

「この天気じゃ無理ですよね」

「飛んでるとこだけでも撮れてよかったですよ」

帰りがけにした会話はこうして文字に起こしてみると負け惜しみ感満載だが、こうやって悔しさを共有できるだけでも、仲間というのはありがたいものである。(と2日間の孤独な挫折を経て思いました)

 

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切り札

さあ、何の進展もないまま、いよいよこの記事は最終ページを迎える。はたして、向かう先はどこであろうか。

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バーン!

動!物!園!

…しょうがないよね、もういくら探しても見つかる気がしないもん。

ということで、確実にコウモリをみるべく、今日は動物園にやってまいりました!キャッハー!楽しみー!(ひらきなおり)

 

ついに出会えた!

パンフレットを見てみると、夜の森というところにコウモリはいるようだ。

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なぜかカッコつき
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ここが夜の森
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そしてコウモリ!

うおー、すごい!ガラスの向こうに無数のコウモリが飛び回っている!

っていまいち伝わってないのは例によって写真に写らないからだと思いますが、やっぱり飛んでるコウモリはここでもうまく撮れませんでした。しかし本当の目的はそれではない。今回やっと出会えた、そして写真にもちゃんと収めることができたこの光景をごらんいただきます!

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これだ!

やっと出会えた!コウモリ!ほんとに逆さにぶら下がってる!

毎晩、高速で空を飛びまわっていたコウモリたちは、こんなネズミみたいな顔をしていたんですね。

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無防備な感じで網にブラーンと
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換気ダクトにすごいいっぱい集まってた
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枝にもぶら下がってます。下向いてる

 

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ここにも4匹ほど

いやーかわいい。黒目がちの目といい、小さくたたまれた翼といい、小さな耳をピクピクしているところも、枝にぶら下がってブラブラ小さく揺れるしぐさも、申し分なくかわいい。そして、なによりこの3日間ずっと追いかけてたものにやっと会えたという、この思い入れでますますかわいい!

感動に浸っているうちに、コウモリはご飯タイムに突入。

 

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飼育員さんがやってきた
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枝に刺されたりんごに食らいつく!
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こっちは取り合い。えさはりんご、オレンジ、バナナ、キウイなどでした
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地面に落ちたりんごに5匹くらい集まってきて毛玉状態に
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吸うイメージでしたがかじりつくんですね
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独り占め
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最後は皮だけに!

大興奮でシャッターを押し捲っていたらいつのまにか1時間以上たっていた。

そんなわけで、動物園に来たらいとも簡単にコウモリを満喫することができた。そりゃそうだよな、動物を見る専用の施設だし。

持つべきものは専用の施設ですね。施設、すごい。


まだあきらめたわけじゃありません

あのコウモリはデマレルーセットオオコウモリという種類だそうで、僕が追っかけていたアブラコウモリ(イエコウモリ)とは違う種類。そういう意味では僕が本当に見たかったこうもりはまだ見られていないのだ。

そして、僕も不甲斐ない結末に満足しているわけではない。

もうすぐ冬が近づいてくるとコウモリたちは冬眠に入るようですが、また来年、必ずリベンジ企画をしたいと思います。

 

 

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