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きたよこれ。
暗闇の中にネオンをたいたビルのような物が浮かんでいる。これがクィーンメリー2なのだ。さすが洋上の宮殿、1200メートル先からでもすごいということだけはわかる。失礼だがようやく「本物だ」と思った。
船はさらに近づく。
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まだまだ近づく
アナウンスはさらに我々をあおる。
「現在12時の方向、約900メートルの距離で併走中です。」
1キロを切ってもこちらの船は相変わらず狂ったようなエンジン音が足下からがんがん響いている。どこまで寄る気なのだろうか。逆に心配になってきた。
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このくらい近くなると船上はもう大騒ぎだ。うそだ、そんなに大騒ぎはしていない。しかし乗客は静かながらもみな同じ方向に熱い視線を送っている。
これはライブだ。アーティストが現れた瞬間にヒートアップする会場、今僕はライブ会場の熱気の中にいるのだ(船の)。今手元にタオルがあれば振りたいところだ。
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まだ近づく
日の出の時刻が近づくにつれ、夜の闇に青味がさしてきた。
ブオオオ!
急激にエンジンが猛る。クィーンメリー2が速度を上げたのか、我々の船も引き離されまいと必死に追跡している様子だ。距離が近いだけに相手の小さな動きがこちらにとっては大きな舵取りにつながる。何度も角度を変えながらクィーンメリー2の航路に沿って併走しながらその間を詰めていく。
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間近でみるクィーンメリー2は圧倒的な迫力だった。正直これほど接近できるとは期待していなかったので、ちょっと怖くすらある。
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運営側の苦悩
客船に最大限近づき、船内が落ち着いた隙にアナウンスを担当していた方にお話を伺った。
「正直我々も不安でいっぱいでした。客船と併走するっていうのはどこのツアー会社もやったことがないですし、タイミングを逃したら出航したもののまったく見られないかもしれないと思いました。」
今日の出航を直前に30分早めたあたりにも担当者の不安と迷いが見てとれる。それはそうだろう、何もかもが実験的なツアーなのだ。担当の部長は前日にクィーンメリー2に先に行かれる夢を見たと言っていた。ノイローゼだ。
しかしここまできたらこの企画、間違いなく成功といっていいだろう。巨大な客船をこれほどの近くからじっくりと見られたのは併走ツアーならではのはずだ。