特集 2024年6月25日

ウズベキスタンでは鍋がデカすぎて観光地になる

中央アジアの国、ウズベキスタンの名所のひとつに「大きな鍋」がある。鍋がデカいということだけで、観光客が呼べるのか?呼べるのだ。人だらけだった。

海外旅行とピクニック、あとビールが好き。なで肩が過ぎるので、サラリーマンのくせに側頭部と肩で受話器をホールドするやつができない。

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> 個人サイト つるんとしている

色彩豊かな中央アジア

中央アジアというのは文字通りユーラシア大陸の中央あたり、カスピ海と中国に挟まれたあたりの国々をさす。むかしからシルクロードの中継地点としてさかえ、タイムスリップしたような古い街並みや、美しい草原など観光資源には事欠かない。

美しいイスラム建築が多数残っており、街が丸ごと世界遺産になっている

また美食の数々も、中央アジアの人々が誇りとするところだ。この地は砂漠性の気候で、目に映る景色の9割は砂ぼこりけぶるカーキ色だけど、食べものはハッとするほど色彩豊かで美しいから不思議だ。

羊の串焼きに羊の蒸し餃子、トマト風味のうどん、ふかふかで食べ応え抜群のパン、乾燥した空気から身を守るためにぎゅっと甘みを蓄えた果物。この地の名物を一つずつ挙げたらきりがない。

 

蒸し餃子はしっとり。羊の脂のがつーんとしたパンチに、ディルとサワークリームで爽やかな風味。世界中の餃子のたぐいでいちばんうまいと思う

 

串焼きは炭火でぱりっと焼きしめる。ジューシーな肉にたっぷり添えられた生たまねぎがよくあう

 

トマトベースのスープに、肉と野菜の盛りが良すぎて隠れているが、どんぶりの底では素朴な小麦麺が汁につかっている
以前に人んちでおもてなしを受けた際の様子。この鮮やかさが中央アジアの食卓!
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キング オブ ウズベク料理

さてこのゴールデンウィーク、そんな中央アジアの国 ウズベキスタンに旅行に行ってきた。5年ぶり、これで4度目の渡航である。

なんども同じ国にいって飽きないのか?自分でも不思議に思うけど、なぜか飽きないんですね

久しぶりの訪問ということで、仲良くしてくれているウズベク人の友人たちに会うのは何より楽しみだし、何度も通った飲食店で食べる懐かしい一皿も待ち遠しい。ただ今回の旅行では、いままで素通りしてきた名店も、きっちりと”履修”しておくことをミッションのひとつに掲げていた。

今回目星をつけた名店の一つが、馬鹿みたいにでっかい鍋で調理する「プロフ」の名店である。ただのレストランではあるものの、鍋がでかすぎるがゆえに観光地化しているのだという。ちゃんとガイドブックにも載っている。

プロフというのはたっぷりの羊の脂を煎りだして、肉と野菜とコメを一緒に炊き上げる炊き込みご飯のことである。先にいろいろと中央アジア料理を紹介したが、地元でもっとも愛される料理は間違いなくプロフだ。

塩、脂、スパイス、野菜の甘み。うまさにおぼれるような体験ができる
この写真は数年前に知人が調理する様子を撮影したときのもの。この鍋も日本の物差しで考えれば破格といえる大鍋で、ざっと100人前あるが、くだんの名店はそんなものではないらしい

世の中には、大量に作ったほうがおいしいと言われる料理がある。科学的な、あるいは栄養学的な根拠はわからないが、大胆に大量が仕込まれているさまは見ていて頼もしく、いかにもおいしそうに見えるというのはよくわかる。100人前でも十二分にうまいプロフは、その名店で食えばもっとうまいのだろうか。

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音に聞こえるプロフセンター

その店は、ウズベキスタンの首都 タシュケントの北東エリアにあり、BESH QOZON(ベシュカザン)という。

 

 

店名はベシュカザンだけど、通称はプロフセンター。観光客の間では後者のほうが通りはよい

2024年現在、ベシュカザンは市内に3店舗あるが、人知を超えて大きな鍋があるのは北東エリアの本店である。

なおこんなことを言い出す時点でお察しの通り、筆者は間違ってまんまと西部エリアにある支店に飛び込んでしまった。上の店内写真も、市街西部にある支店のものだ。店員さんに「ねえ、ガイドブックで有名なでっかい鍋はどこにあるの?」と聞いた時の、

「アッ…」

というもの悲しい顔は忘れられない。もし訪ねようという方がおられたら、くれぐれも同じ轍を踏まないよう注意されたい。

まあ支店でも十分、度肝を抜くサイズの鍋があるのだけど。風呂か?

 

気を取り直してこちらが正真正銘、本店に鎮座しているモンスター級のでかい鍋である。

遠近感が狂うんだよな
大のおとなが腕に青筋立ててコメをよそっている

 

小学校4年生のとき、少年野球チームに地元のプロ野球選手が教えにきてくれたことがある(斎藤隆だ)。スター選手の登場におれたちガキどもはぎゃあぎゃあ群がっていたが、おれは密かに恐ろしく思ってもいた。見上げると首が痛いほどの身長。うちわみたいに大きな手のひら。そしてぶ厚い臀部。初めて間近で見るプロアスリートは、父や先生たちと同じ人間とは思えなかった。

鍋の前で、あのときと同じ感想が自然と口をついた。
でかすぎる。

寄りで見ると異様さが際立つ

いやはや。さすがは音に聞こえる名店である。これはすごい。というかなんかうっすら怖い。そこにあるはずのないものがある不気味さだ。シュールレアリスムだ。何も知らない人が見たら、食事を作っているようには見えないだろう。

テニスコートほどもある調理場には揃いのポロシャツを着た料理人が30人あまり。一目見ただけで、分業制で効率的な作業がおこなわれていることがわかる。薪をはこぶ者、肉を切る者、サイドメニューをつくる者。きわめて工業的な風景だ。

やっぱり大鍋を任される仕事が花形なのだろうか
薪割り1年、肉切り3年、鍋前一生、みたいな

 

ちなみに調理場には屋根はあるけど壁はない。ここで飯を食う客は調理の様子を自由に見学できるようだ。今日も世界中のインフルエンサーがここで自撮りし、この店の存在を再拡散しているのだろう。現代的なビジネススタイルだ。

スタッフよりも多い客がうろつく調理場。団体観光客向けに旗を振るガイドの姿もあった
ちゃんとインスタ映えスポットも用意されている
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プロフは朝から食うのがうまい

ちらっと聞こえてきた感じでは、この大鍋は1000人前がつくれるらしい

調理場の様子に圧倒されっぱなしだが、客席もすごい。テラス席はずーっと先まで続いており端が見えない。立派な2階建ての客席も含めて、席は8割がた埋まっている。

恐ろしいことにこのときまだ、午前10:40である。鍋の周りを取り囲むギャラリーはほとんど観光客風だけど、席を見ると大半は現地の人たちが食べに来ているようだ

 

客が注文するのはもちろんプロフ。厨房からつぎつぎに大皿のプロフが客のもとに運ばれ、同じスピードで空の皿が返ってくる。食べ終わったらはい、お支払はあちらの窓口へどうぞ。席が空くタイミングを見計らったかのように、腹をすかせた観光客を満載したバスが駐車場に飛び込んでくる。

この店全体が、脂と米をヒトの腹に効率的に送り込んでいく、巨大システムのようだ。筆者ももちろんそのシステムに加わってみる。

といいながら再びすみません、この写真は支店で食べたやつです

名店の実力か、5年ぶりに本場のプロフを味わう思い出補正か。確かにバシッとうまい。ただ一番大事なのは、時間帯のような気もする。鍋の底にはたっぷりの脂が溜まっており、米が次第に脂でくどくなっていく。プロフを味わうなら、午前中の早い時間にいただくのが一番だ。

いやでもこれは本当にうまいな…
 
ささやかなおまけ
「鍋」も売っている

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