まとめ
何が何だか分からなくなってきたが、一部とはいえデーヴァナーガリーを扱うことができるようになれてよかった。手早く文章を書けるレベルを目指してこれからも練習を続けていきたい。
記事中のデーヴァナーガリー表記は自分なりに秩序だてたつもりですが、不出来な点についてはご容赦くださいませ。
僕がまだ学生だったころ、とある講義中に教授がこんなことを言った。
「サンスクリット語を覚えるためにデーヴァナーガリー文字で講義ノートを書いてたよ」
デーヴァナーガリーとはヒンディー語やネパール語、古代インドで用いられたサンスクリット語などの表記に使われる文字のことである。
デーヴァナーガリーで、ノート、取れるんだ…すげえ。10年近く経った今でも思い出すくらい強烈に印象に残る発言だった。
見慣れない異国の文字を自在に操れたらさぞ楽しいことだろう。ちょっとしたときにサラサラっと書けたら最高じゃないか。でも外国語を覚えるのは苦手だし面倒だ。
というわけで、文字だけ覚えて日本語を書き表せられるようになるまで練習しました。
ラテン文字で書かれた文章がすべて英語ではないことと同様に、デーヴァナーガリー文字で書かれた文章がすべてヒンディー語やサンスクリット語になるというわけではない。これが今回の特集のキモである。詳しいことは後述するとして、まずは目指すところを提示したい。
これがデーヴァナーガリーで書かれた文章である。読み方は知らなくとも、なにか神聖なメッセージが記されているという気はするだろう。
しかし書かれているのは、こちら側のどこからでも切れます、だ。
他の例も挙げよう。日常に根ざしたメッセージを書くこともできる。
よりにもよって角煮である。わざわざ言われなくても温めて食べるが、ここはありがたく気持ちを頂戴しておこう。
おなじみの桃太郎もデーヴァナーガリーで表記すれば『ラーマーヤナ』みたいになる。
ちなみに『ラーマーヤナ』とはラーマという王子が猿神たちの力を借りて悪鬼に挑むという古代インドの物語である。日本においては世界史を選択した受験生がタイトルだけ覚えさせられることで有名だ。
さて、ちょっとした文でもデーヴァナーガリーで表記すると不思議なおかしみが生まれることが分かってもらえただろうか。
デーヴァナーガリーは表音文字なので、日本語の発音を書き表すことも可能だ。仮名をラテン文字に転写する「ローマ字」の要領である。例の教授もその手法で講義のノートを取っていたのだと思う。
話が掴みづらいと思うので、Wikibooksの「デーヴァナーガリー文字/発音転写」ページに則って説明を進めたい。
デーヴァナーガリーには子音字と母音字がある。
たとえば「き」という日本語の音を表したいときには、ラテン字「K(子音)」、「i(母音)」に相当する文字を組み合わせればよい。
子音と母音を組み合わせるときには点線の丸部に子音を添える。母音は単体で用いるときと子音と結合するときで形が変わり、後者のものを半体という。母音は上記以外にも種類があるが、便宜的に一部を紹介した。
ここまでのことを踏まえて、日本語発音の「き」をデーヴァナーガリーで書くと上図右端の字になる。
この要領で文字を組み合わせれば日本語(の発音)の文章を作ることができるという算段である。文章は日本語と同じく左から右に読む。それにしてもデーヴァナーガリーを知っていてかつ日本語が分かる人にしか伝わらないという狭さに興奮する。はやく文字を覚えてスラスラ書けるようになろう。
上に引用したのはデーヴァナーガリーの主な子音字の一覧である。この中でも日本語の発音に用いるのは半分程度なので、たかだか数十字を覚えるだけいい。
机に向かって真面目に勉強をした経験があまりないので、ペンを走らせるだけで頭が痛くなってくる。ああ、ひらがなを書きたい。漢字を書きたい。意味のあることを書きたい。
はじめは気が入らなかったが、書き続けていると楽しくなってきた。使える文字が増えると語彙も一緒に増えていくのが嬉しい。はじめて言葉を覚える子どももこんな気分なのだろう。
各文字をひとまとめにする横線を「シローレーカー」といい、通常は下の文字を書き終わってから仕上げとして引く。シローレーカーをまっすぐ引くのが何より難しかったが、調べてみると一文字書くごとに横線を書き足していく方法もあるようだ。
スマホの設定を変えればデーヴァナーガリー文字を打ち込むこともできる。これはちょっとした空き時間に形を覚えるのに重宝した。ヒンディー語の単語を入力すればインターネット検索ももちろん可能だ。(結果はデーヴァナーガリーで書かれたページになる)
こんなにマニアックな文字のキーボードがあるのはすごい!と思ったが、世界的に見れば日本語を扱う人間というものも相当なマイノリティである。かな入力があるのだからそりゃデーヴァナーガリー入力もあるよな。なんとなく世界の広さを感じた。
Googleの検索窓にデーヴァナーガリーで数式を打ち込んでもしっかり計算してくれる。1が2みたいな形でおもしろい。
ノート5枚分ほどの量を書いたら必要な字を習得することができた。しかし覚えたのは一部の文字だけなのでヒンディー語の文章を読むことはできない。生きていく上でなんの役にも立たない技術である。
それでも使えるようになったのが嬉しくて、手始めに友人にメッセージを送ってみた。慣れないキーボードで10分くらいかけて書きあげた大作だ。窪田ですよ、ご機嫌いかがですか。季節の変わり目に体調を気遣うメッセージである。
「どうした」とだけ返事がきた。そっちこそどうしたんだ。大丈夫か。
そういえば住んでいる家に表札を出していなかったことを思い出した。名前を明らかにしておけば近隣住民とのコミュニケーションも円滑に進むだろう。お隣さんと仲良くなれば野菜なんかもらえちゃったりするかもしれない。郵便受けに名字だけ掲示しておくことにした。
何が起こるか分からない社会なので、デーヴァナーガリーで履歴書を書く練習をしておいても損はない。これなら街中で紛失したとしても個人情報は固く守られるのだ。拾ったのがインド人でもない限り。オリジナリティあふれる履歴書・ESを求められている就活生にオススメだ。
自分と好きな人の名前を相合傘の中に書くという甘酸っぱいおまじないも、呪術性と秘匿性を高めることができる。そう、デーヴァナーガリーならね。
横書き文字という特性上、ものすごく幅の広い傘が必要となるので注意したい。
家電ヨガをしている写真に言葉を添えてみると脳が理解を拒む写真になった。おもしろい!何はともあれ、めでたしめでたし!
何が何だか分からなくなってきたが、一部とはいえデーヴァナーガリーを扱うことができるようになれてよかった。手早く文章を書けるレベルを目指してこれからも練習を続けていきたい。
記事中のデーヴァナーガリー表記は自分なりに秩序だてたつもりですが、不出来な点についてはご容赦くださいませ。
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