国見ヶ丘の雲海
家から数十分ほどの距離に国見ヶ丘という雲海の名所がある。
標高が513mもある国見ヶ丘は雲海が出ていなくても町内を一望できる展望所として有名で、神話と紐づいて昔から観光客に親しまれてきた。
冒頭でも少し触れたが、雲海というものはおいそれと見られるわけではなく、いくつかの条件をパスしてはじめて出会うことができるものだ。
あくまでも高千穂町の条件かもしれないが、地元の人に聞いたりして調べたところ以下のような条件が雲海の出現には必要らしい。
【国見ヶ丘の雲海の出現条件】
・9月下旬~12月上旬
・昨日と当日朝の寒暖差が激しい日
・晴天、無風
・早朝
メカニズムは知らないが、ともかくとしてそういう条件があるそうだ。
そして、実際に見に行くためにはその日仕事が休みである必要があり(雇われのつらいところですね)、なおかつ早朝に起きる根性まで求められる。
地元の人間なので家からスポットまで数十分でたどり着くのがまだ救いだ。
僕は朝がダメでダメで仕方ないのに、雲海の画がほしくて何度か挑戦している。
それこそ4時や5時に目覚ましをかけ、寒さに耐えながら車を走らせたにも関わらず、一面が霧に覆われて何も見えなかったりする。地上からは見晴らしの具合がわからないのでそういうことになるのだ。
またあるときは大量のでかいヤスデが歩道中を埋め尽くしていたこともある。ああ、人間とは!
「兆し」を頼りに雲海を見に行く
冒頭にも書いたとおり、今回はじめて雲海が見られたのだが、そこには成功の兆しがいくつかあった。
雲海を見に行こうとする前日の朝、遠方から来たという男性と談笑していた折に「明日は絶対に雲海が見られるよ」と急に予告されたのである。これがひとつめの兆し。
確かに、天気予報を見ると昼と翌朝はかなり寒暖差があるようだ。それで雲海を見に行くことに決めたのだった。
そうして当日の早朝を迎える。
日の出は6時15分ということなので、その少し前に現地入りすることを考えれば5時半くらいに家を出たいところである。
がんばって4時台に目を開けるところまではいけた。でもめちゃめちゃ眠たい。二度寝してしまおうかな。このシチュエーションで寝るのが一番気持ちいいんだよ。
まあ、いったんトイレにでもいこうかな……。
ギャッ!!!
出たのである。床に。何とは言わないが、招かざるものが出たのだ。いつもは部屋が暗い時間帯だから油断して人前に出てきてしまったのかもしれない。虫系のあれが。
掃除機で吸い取って処分できる道具があったので、それで死合をした。早起きで朦朧とした意識のなかで勝利を得た。
戦いののち、アドレナリンか何かで目はバキバキに覚めていた。これがなければ二度寝していたかもしれない。ふたつめの兆しである。
それから準備を整えて外に出ると、その瞬間に雲海のようなものが遠くに見えた。これは兆しというかモロ出しだが、ともかくみっつめの兆しであった。
期待を膨らませて車で国見ヶ丘に向かった。
ついに雲海を見る
朝の5時台、普段なら車がめったに走っていない時間だというのに「わ」ナンバーの車が前方を走っている。雲海を見に行くのかもしれない。おっ、後ろの車もたぶんそうだ。ひとりじゃないな。
事故も事件もなく国見ヶ丘に着いた。雲海はみられるだろうか。
いや、変に話を作るのはやめよう。
実のところ、駐車場に向かっている途中の車窓からチラチラと雲海が見えていた。いまから突風でも吹かない限り確実に見られる。
いけ!!!
やった。苦節数年、空振ること数十回、やっと生で雲海が見られた。うれしい。
ほとんどが旅行者と見られる先客が50人ほどいた。各々がここだと決めた場所に陣取っている。みなが遠慮がちにヒソヒソ声で会話をしていて、神聖な雰囲気を壊すべからずという不文律が場を支配しているようだった。
この海のように見える雲の下でふだん生活していることがいまいち信じられない。ただきれい。写真じゃすべてを伝えられないのがもどかしい。
朝日を待ちながら
雲海さえ見られれば満足だったのだが、周りの人たちにあわせて山の向こうから日が登ってくるのを待つことにした。
標高が少し高くて秋口なので少しからだが冷える。季節の移ろいを肌で感じた。太陽は遅いし無風で雲は動かない。暇なので周りの会話に聞き耳を立てる。
「ワン、ツー、スリー、ほらほら、英語で言ってごらん」
孫娘とおぼしき幼子に英語で数をカウントさせようとする男性の声がひときわ大きく響いていた。なん、それ。
当の女の子は帰りたそうだった。まだ僕は彼女の方に共感できる。
日が登ってきた。
まんまるでまぶしいな、と思った。
ふと、今の自分はどんな顔をしているのだろうかと自撮りをした。
家を出る前に虫を退治したときの覚醒感は消え失せていて、めちゃくちゃ眠そうだった。
こんなにも雄大な景色を望んでいるとき、ドラマの登場人物だったらきっとこんな顔はしていないだろう。でもそんなドラマがあったらぜったいに好き。そんなドラマの登場人物です。
そのあと、記事で使うために格好いい写真を撮った。
劇場版のポスターみたいな画が撮れていてよかった。