・ジャージを着ている
・エナメルバックを持っている
・粉のポカリを水で薄めて水筒にいれている
・後輩が作ったフェルトのお守り(大会前)
・朝練
・休日の遠征
「運動部だった人はなんとなくわかる」と友人が言った。
中学、高校と帰宅部だった私には、運動部的オーラがないらしい。
でも、「帰宅する」という行為自体は間違いなく運動であるはずだ。運動部的な要素を取り入れて帰宅すれば、もはや運動部なのではないだろうか。
運動部とは一体なんなのだろうか。
私が考える「運動部っぽさ」を思いつく限り挙げてみよう。
・ジャージを着ている
・エナメルバックを持っている
・粉のポカリを水で薄めて水筒にいれている
・後輩が作ったフェルトのお守り(大会前)
・朝練
・休日の遠征
とりあえず、用意できる運動部のイメージを集めることにした。
なぜ運動部はこのバックを使っているのだろうか。逆に文化部はなぜあまり使わないのだろう。
アディダスは運動部しか身にまとってはいけないという法律はないはずだ。
改めてみると、防水性だし、ポケットもあるし、使いやすそう。
しかし、現役運動部の男の子に、
「その水筒の大きさは運動部ではありえない」
と指摘された。
確かに。500㎖だもんな……。
早速身にまとってみよう!
周りの元運動部の友人たちから
「袖をまくった方がいい」
「気持ち腰パンにした方がいい』
「エナメルバックの紐をもう少し長く」
など細かい指示を受けながら撮影した。
運動部っぽさとは、非常に繊細なのだな。
「運動部っぽいもの」をいろんな人に聞いて、少しずつアップデートしていこう。
運動部の概念を身にまとい、さっそく職場から家まで帰宅してみよう!
おおむね運動部になれた気でいたが、現役の運動部の学生に駅ですれ違うと、
「なんか違う気がする」
という気持ちが湧いてきた。
運動部っぽい学生を見かけるたび、観察するようにしていると、一人の子が、バックからシーブリーズをとりだすのを見た。
シーブリーズ!!
周りの運動部はみんな持っていたやつだ!!
薬局に行きシーブリーズを探した。
薬局でシーブリーズを手にした瞬間、
「あぁ、私は今、運動部だな」
と確信した。
ジャージでシーブリーズを探し、エナメルバックから財布を取り出してレジに行く。
この一連の流れの全てが運動部だと感じた。
これを運動部と言わずになんと呼ぶのか。
いつか汗をかくこともあるかもしれないので、バックのなかに入れておくことにしよう。
帰宅部の活動といえば、「家に帰る」の一つのみ。
筋トレとか、走り込みとかは必要ない。
朝練をするとなれば、「家に帰る」しかないだろう。
仕事が始まる前に、職場に行き、1回帰ってからまた職場に行こう。
※なお、私はもう社会人であるため、厳密にいうと「(中高生を指す)帰宅部」でもないことを白状しておく。しかし毎日帰宅しているという意味では広義の帰宅部といえるだろう。
家から職場まで、片道1時間はかかるため、行って帰ってまた行くとなると、始発の電車に乗らなければならない。
朝5時、ジャージに着替え、家を出た。
自転車で駅まで向かうも、まだ風が冷たく肌寒い。
いつもは空いている場所を必死で探すくらいなのに。
いつもと同じ道なのに、早朝に通ると新鮮に感じる。
また職場に来るのに、なぜ1回帰らないといけないのか。
就業時間まで、ここでのんびりしてたらいいのではないのか。
今までこんなに家に帰りたくないと思ったことは一度もなかった。
台風の日もちょっと思ったが、今日にくらべたら比じゃない。
むしろあの日は帰りたかった。
でも、早く家に帰らないと、仕事に遅刻してしまう。
もう職場にいるにもかかわらず、遅刻の危機が刻一刻と迫っている。
メビウスの輪のような、ねじれた空間に迷い込んでしまった。
この世界の出口はどこだ。
これは帰宅部の朝練なのだ。
運動部ならば、ときには辛い練習にも耐えなければいけない。
そのとき、ガラガラっとドアが開き、掃除のおじさんが部屋に入ってきた。
「え?なんでこの時間にいるの?」
と、きょとんとした顔をされたが、今はくわしく説明している暇はない。早く家に帰らなければ。
「ちょっと用事があったんですが、終わったので一回帰ります。またあとで来ます」
それだけ伝えると、足早に職場を出たのだった。
家に帰ると、「やり遂げた」という謎の達成感があった。
しかし達成感に浸っている暇はない。早く職場にいかなければ。
私服に着替え、何食わぬ顔で再び出社した。
先ほど会った掃除のおじさんに遭遇すると、
「……もしかして、朝バレーボールの練習とかやってるの?」
と言われた。
第三者から運動部認定された瞬間である。
他の人にも
「朝ジャージで来てたんだって?」
と言われ、職場にある程度のざわめきを生んだようだった。
運動部といえば、休日の遠征だ。
特に出る大会もないので、いつもより遠くから歩いて帰ることにした。
渋谷で用事があったので、そこから立川まで歩いて帰ってみよう。
飲み会の誘いがあったが、
「帰宅部の活動があるから」
と言って断わった。
私はこの日のために、運動部として万全の準備をしていたのだ。
頑張って家に帰るぞ!という気持ちがふつふつと湧いてくる。
円陣を組む人がいなかったのでハチ公と組んでみたが、そういえばハチは家に帰らないタイプの犬であった。
そしてなんと、このあとすぐに傘とか意味ない系の豪雨が降り始めた。
撮影に同行してくれた友人が雨具を持っていなかったこともあり、いったんバーガーキングに避難することにした。
友人「今日中に帰れるかなぁ。明日の朝までにやらなきゃいけない作業あるんだけど」
とりもち「え!帰ってからやることあるの!?」
友人「本当は吉祥寺ぐらいから帰りたいけど、でも渋谷からでもいいよ。記事として面白くなる方にしよう」
この懐の広さはどこで培われたのだろう。
「One for all All for one」の精神が異常だ。
ちなみにGoogleマップの表示だと、渋谷からだと30km(6時間)、吉祥寺からだと17km(3時間半)だ。
友人「出来るだけ早く帰りたいなぁ」
私より遥かに帰宅部らしい発言をする友人を見て、はっとした。
そうだ。私は早く家に帰るために帰宅部になったのではなかったのか。
運動部になろうとするあまり、初心を見失っていた。
学生の頃の私は他の誰よりも早く、家に帰りたかったはずだ。
1.5ℓのお茶と、500㎖のポカリが入ってることもあり、手でアシストしないと肩が耐えられない。
運動部が持っているエナメルバックって、もしかして運動に向いていないのではないか。
少し汗をかいてきた気がするので、シーブリーズもやってみよう!
本当に運動部の学生がこれをつけているのだろうか。
匂いが強すぎて試合に集中できなくなったりしそう。
風が当たるとスースーして心地よい感覚は理解できた。
駅にたどり着くたび、
「電車乗りたいな……」
という気持ちになったが、今日は歩いて帰ると決めたのだ。
絶対にやり遂げるぞ!!
疲れてきたら、頭の中でマツケンサンバを歌うと良いと妹が言っていた。やってみよう!
サビしか覚えておらず20秒で終わった。
長旅から帰ってきたときのような安堵感が私を包んでいた。
落とし物をして一駅戻るなどのハプニングがあったこともあり、結局6時間ぐらいかかってしまった。ちなみに歩数は38775歩である。
渋谷からじゃなくて本当に良かった……!
この後家に帰るも、疲れすぎて床で寝てしまった。
この日の私は、完全に運動部であり、同時に帰宅部でもあった。
学生の頃は、学校が終わると家に帰っていた。
今だって仕事が終わったら家に帰る。私は学生の頃から今日に至るまで、ずっと帰宅部を続けていたのではないか。
そうなると、ほとんどの社会人は帰宅部である。
人は皆、高校3年の夏に部活を引退するのではない。帰宅部に入部したのだ。
そして帰る家がある限り、永遠にみんな帰宅部なのではないだろうか。
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