あぶなく忘れるところだった平成を思い出す 2019年4月27日

平成の「テレビ番組本」を振り返ってコンプライアンスに思いを馳せる

3冊合わせるとシリーズ累計800万部越え

テレビ見ないっていう人、多いじゃないですか。

いろいろ理由はあるのだろうけど、思えばネットが広く浸透するまえ、平成のはじめごろまでは「昨日見たテレビを学校や会社で話題にする」という風景があったと思う。

そして番組から生まれた書籍がベストセラーになったりしたのだ。みんな同じ番組を見て盛り上がっていた時代が確かにあった。

そんな代表的な「平成のテレビ番組本」を振り返っておきたい。

※この記事は2019年のゴールデンウィークとくべつ企画のうちの1本です。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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みんな見てた「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」

今じゃできないだろうなぁ、という平成のテレビ番組の代表格といえば、『進め!電波少年』(日本テレビ系列)だろう。

松本明子&松村邦洋がアポ無しで著名人に突撃したり、無茶な海外ロケで数々の芸人が死にかけたり、年またぎ特番で新年カウントダウンをわざと2分フライングして視聴者の抗議が殺到したり、「コンプライアンス」のコの字も存在しない大暴れぶりだった。

その『電波少年』の人気を一気に押し上げたのが、当時無名だったお笑いコンビ猿岩石(有吉弘行、森脇和成)による「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」だ。 

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『猿岩石日記 Part1 極限のアジア編』。コンビ名の由来は二人の中学時代の彼女のあだな「猿女房」「ほくろ岩石」から。

 

香港を出発し、ヒッチハイクでロンドンを目指すという、無茶すぎる大型企画。その道中を二人が記したのが『猿岩石日記』(日本テレビ放送網)である。

「極限のアジア編」「怒濤のヨーロッパ編」がシリーズ累計250万部の大ヒット。平成8年(1996年)の年間ベストセラー6位になっている。ちなみにこの年の1位は『脳内革命』だ(以降、ベストセラーランキングはトーハン「年間ベストセラーアーカイブ」を参照しています)

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上段が有吉さんパート、下段が森脇さんパート。同じ日にそれぞれ何を考えていたかわかる仕組み。初日の4月13日は「ふざけるな」「だまされた」と文句が続く

所持金10万円は早々に底をつき、ハノイではビザが出るまで3日間絶食&野宿、タイではわけも分からず留置所に入れられ、インドでは成り行きで出家までしてしまう。

そうそう、そうだった! 着てる服を売ったり、ストリートで空手ショーをしたりして日銭を稼いでいたっけ。

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21日目。ハノイ。絶食で極限状態の有吉さん。ここから20年後、有吉さんがこんなに売れっ子になるとは想像もしていなかった。
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48日目。インド。「俺について来い!」という男についていったら、ガンジス川で身体を清めさせられ、髪を剃られて、あげく出家させられてしまう。そんなことある!?

そういえば、「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」はゴール直後に「実は飛行機を3回使っていた」ことが判明して、ちょっとした問題になったんですよ。

ルート上には内戦などで治安の悪い地域があり、安全を考慮すると飛行機を使わざるを得なかった。でも番組は「全行程をヒッチハイクでゴールした」ように見せていたのだ。今だったらヤラセ批判で炎上案件かもしれない。

その飛行機ルートのひとつが、バンコク(タイ)~ヤンゴン(ミャンマー)間。その部分、『猿岩石日記』ではどうなってるんだろう、と見てみると……。

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40日目。バンコク最終日。現地の日本料理店で5日間バイトして、スタッフとすっかり仲良くなってしまい、涙涙のお別れ。
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41日目。ミャンマー。「ミャンマー好きじゃない」とバッサリ。

「ヒッチハイクをした」とも「飛行機を使った」とも書いていない。急にワープしたみたいになっていた。大人の事情である。

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Part1の終盤、88日目にはインドのデリーに爆風スランプが応援にやってくる。二人の目の前でオリジナルの応援歌「旅人よ」を披露し、これもヒットした。カラオケで歌ったなー。
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土曜の22時にタレントの性を暴く「ココロジー」

『猿岩石日記』よりもっと売れた本が日テレにある。『それいけ×ココロジー』だ。売上部数はシリーズ累計400万部。平成4年(1992年)の年間ベストセラー1位である。

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『それいけ×ココロジー』(青春出版社) 。1巻から3巻までの累計で、平成4年(1992年)の年間ベストセラー1位! このときの2位がさくらももこ『さるのこしかけ』

「それいけ!!ココロジー」(日本テレビ)は、当時テレビではまだ珍しかった「心理テスト」を扱った番組だった。

なんでもない質問から出演者の深層心理が暴かれるのがうけ、心理テストブームの先駆けとなった「ココロジー」。司会は所さんで、心理テストは美輪明宏さんが白バックのセットでオーラたっぷりに出題していた。

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もちろん書籍は番組で紹介した心理テストを集めたものである。

例えば最初に乗っている「ドライブは誰と」はこんな感じ。

  1. あなたは車で道を走っています。誰とどんな道を走っていますか。
  2. しばらく走っていると、あなたの車の横に一台の車が来ました。どんな車ですか。あなたはどう対処しますか。
  3. さらに走ると、“目的地まであと半分”の標識がありました。感想を一言。
  4. さあ、もうすぐ目的地です。途中で出会ったヒッチハイカーはどんな人でしたか。
  5. ついにあなたは目的地に到着しました。そこはどこですか。どんなところですか。

この質問でわかることは「あなたの人生」だという

  1. どんな道を誰と走るか……あなたの人生の象徴とパートナー
  2. 隣に来た車と対処の仕方……ライバルとその付き合い方
  3. 標識を見て一言……今まで活きてきた感想
  4. ヒッチハイカー……浮気したいタイプ
  5. 目的地……人生の終わり

ドライブを人生に例えるのはなんとなくイメージできる。でもヒッチハイカーって浮気の象徴なの? とかはよくわからない。ネットに慣れた身だと「ソースは?」と発してしまう。

そして読み返してみてわかるのは、かなりお色気な心理テストが多いこと。放送してたのは土曜の22時だけど、そんなに下ネタでいいの!? とビックリする。

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「電話の秘密」より。「電話は非常に性的な意味合いが強い」らしく、一日に電話する平均時間は「性行為の時間」を表すという。結果発表のときに「え~そんなつもりじゃ~」ってなる設問。
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番組放送時の出演者の回答も一緒に載っている。「皆さん意外に淡泊ですね」って。
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「体育祭のときめき」より。テストでわかるのは「デート中のあなたの本音」。好きな競技は「望んでいる性態度」を表すというのだけど……
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もうこれ完全にこじつけじゃないのかな。

「電波少年」とはまた違う意味で、これはいま放送する内容じゃないな……と思うのだった。

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とんち系クイズブーム到来「世紀末クイズ」

昭和から平成にかけて「10回クイズ」「究極の選択」といった引っかけクイズが流行った。

さらに『マジカル頭脳パワー!』(日本テレビ)が平成2年(1990年)にはじまって、知識ではなく“とんち”のクイズがブームになる。

そのブームに乗ってベストセラーになったのが、『笑っていいとも』(フジテレビ)発の『世紀末クイズ』。第1弾が93万部、第2弾が73万部売れた。

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『タモリ・ウッチャンナンチャンの世紀末クイズ“それ絶対やってみよう”』(フジテレビ出版)。平成3年(1991年)の年間ベストセラー7位。この年の1位は宮沢りえの『Santa Fe」。
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まえがきで挙げられている「大ボケ」を代表する芸能人に時代を感じる。

『世紀末クイズ』は、もともと『笑っていいとも』の「タモリ・ウッチャンナンチャンのそれ絶対やっちゃダメ!」というコーナーで、視聴者からのクイズにレギュラー陣が答える企画だった。

これが好評で、曜日レギュラーがダウンタウンになってからも「タモリ・ダウンタウンのそれ絶対やってみよう!」と名前を変えて続いたんですよ確か(うろ覚え)

なので、書籍も第2弾は『タモリの、ダウンタウンも世紀末クイズ“それ絶対やってみよう”』という書名になってる。

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こういうやつです。2の問題は最初に「あなたはバスの運転手です」と書いてあるので、自分の年齢を答えるのが正解。
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「あるなしクイズ」とか流行りましたよね。

「世紀末クイズ」が面白かったのは、コミュニケーションをとりながら法則を探るタイプの問題が多かったこと。例えばこういうやつ。

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タモリ&ウッチャンナンチャンが何も知らないターゲット(右端)を引っかけているマンガ。コップを見たときは「ミルク(見るく)」、見ないときは「水(見ず)」、という法則がある。
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売れ始めたころのジャルジャルみたいな格好をしているウッチャンナンチャン。まだアナログ放送なのでテレビ朝日が10チャンネルになってますね。
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この問題、担任に出題されたことがある。先に分かった人が自慢をはじめて、すっごいイライラした。消えかけてた記憶が次々よみがえる。

世紀末クイズ、いまやってもウケそう。上記2冊に比べるとその穏便さにホッとする。


時代は「番組本」から「芸人本」に

今回挙げた3冊以外にも、『SMAP×SMAP』『SmaSTATION!!』『トリビアの泉』の番組本が年間ベストセラートップ10に食い込んでる。

  • 『ビストロスマップ完全レシピ』(平成9年)
  • 『ビストロスマップKANTANレシピ』(平成10年)
  • 『ベラベラブック vol.1』(平成14年)
  • 『ベラベラブック vol.2』(平成15年)
  • 『トリビアの泉 へぇ~の本』(平成15年)

ただ、『トリビアの泉』以降は番組本がトップ10に入ることがなくなって、代わりに「芸人が書いた本」がベストセラーになっている。

  • 『ホームレス中学生』(田村裕:平成19年)
  • 『ハローバイバイ・関暁夫の都市伝説』(関暁夫:平成19年)
  • 『火花』(又吉直樹:平成27年)
  • 『大家さんと僕』(矢部太郎:平成30年)

図らずも「集団から個の時代へ」みたいな話になってきた。令和になったら「ネット番組本」がヒットしたりするのかなー。

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『世紀末クイズ』のタモリさんのかわいさ!

 

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