間違いじゃなければ、しゅんとしない
駅名を勘違いして、行くはずじゃなかった所に行ってしまうのは、きっと多くの人にとって悲しい出来事だ。なぜなら、田町と町田、赤羽橋と赤羽など、似ている名前の駅同士は離れていることが多い。
…いや、ちがうな。距離の問題じゃない。
甲子園駅と甲子園口駅の間なら、ちょうどいいバスがあれば10分程で移動できるけど、着いたと思った駅に着いてなかったら、それだけでもう、たちまちにしゅんとしてしまう。
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ましてや青梅と青海のあいだは片道2時間弱もある。長い。
もし間違ったら、急いでヘリコプターをチャーターでもしないと遅刻はさけられないだろう。ああ、想像しただけで胃がヒュンッとなる。こわすぎる。自分だって、いつ何時やらかすかわからない。
だけど、もしこれが「間違い」じゃなかったら。
ただ「青梅」から「青海」まで移動するだけだったら。
泣きたい気持ちにならなくていい。
どの景色もぐっと輝いてみえるのではないか。
青梅駅周辺、空の面積が広い
というわけで冬の午前10時、青梅駅に降り立った。
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青梅。名前は何度も見たことがあったけど、改札の外には出たことがなかった駅。なにがあるのかまったく知らない。
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改札を出たら、遠くの山々がよく見えた。
ビルの背は軒並み低くて空の面積が広い。酸素の量が心なしか、いつもより多い気がするけど、実際はどうなんだろう。
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突如あらわれた少し背の高いビルは、圧はつよめだけど、妙な味わい深さがある。
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空がよく見える場所は、風通しもいい。つまり寒さが割としっかりめに降りそそいでくる。
胃が、あったかい汁物を欲しはじめたのでなんか食べたい。
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入店してしばらくすると、お店の人が「寒いですね〜」と言いながらテーブルにお茶を置いてくれた。
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思わず、「お茶、あったかいですね」とつぶやいたら、「これで、手をあたためてくださいね」とお店の人。ありがてえ。そうやってお茶で暖をとっているうちに、さらにあったかい奴も来た。
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麺のちぢれ具合をみているとより一層あったかさが染み渡る。この一杯ですっかりたっぷり大満足だ。
だが、ふと気づいてしまった。周囲にいたおじいちゃんおばあちゃんたちが、「中華麺と酢豚」「ラーメンと餃子、ライス」など、元気いっぱいなメニューを平らげていることに。
思わず、40年後の自分にもこのくらい胃のキャパシティがあることを願わずにいられなくなる。
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初めて見る特産物をみつめながらふと、だいぶ遠くまで来たような気持ちになった。非日常感。でも、訪れたどの店にもPayPayがあったことで、なんとなく現実に引き戻される。
PayPayの浸透率の高さがこわい。
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河辺(かべ)駅のイオンには穏やかな時間が流れていた
青梅線に次回来るのはいつになるかわからない。ならば、ここぞとばかりに途中下車をしておきたい。
まずは河辺駅だ。「かべ」と読む。ずっと「かわべ」だと思っていたが、さっきアナウンスに教えてもらった。
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ひとやすみしようとイオンのソファに腰掛けてのんびりしていたら、館内放送が、長い横文字の食品名をしゃべる途中で、ちょっとだけ噛んだ。 でもこの世界では、それを責める人は誰もいないような気がした。なんとなく。穏やかな時間が流れていた。