未知のお弁当を尋ねて
コロナ禍、飲食店のテイクアウトやウーバーイーツの恵みに触れ、あらためて感じ入ったのが「お弁当というフォーマットの自由さ」だ。
お弁当とはつまり「専用の容器に詰められた食べ物」だが、それ以外には、そこまでがっちりした定義がない気がしている。
お店ごとに違う顔があって、あるときには、自分では到底揃えられない数のおかずがぎゅっと詰まっていたりする。組み合わせ方も豊かだ。なんといっても、食べる場所を自分で選べるのもすばらしい。
そんなお弁当、しかも駅弁とかじゃない、地元の人が日常的に楽しんでいるお弁当をあえて旅先で食べてみたいのである。
やってきたのは宮城県気仙沼市。近年朝ドラ『おかえりモネ』の舞台になったことでも知られている。
サメグルメの数々に触れ、「今回の記事、『サメグルメの豊かさを堪能する』に切り替えたほうがいいんじゃないのかな?」とも思った。だが、初心貫徹して今回はお弁当を探していきたい。
Googleの地図アプリに「弁当 気仙沼」と入力してみたところ、いくつかのお弁当屋さんがヒットした。まずは宿泊先から車で5分くらい走ったところにある「味ロマン」というお店に向かう。
「ギョーザランチ」
運転に慣れてない人がカーナビやスマホの地図に頼らず運転すると、うっかり大冒険になることがわかった。もし昭和中期にタイムスリップすることになったら、カーナビはマストで連れていきたいと思う。
お店に入ると、店員さんが「注文が決まったら呼んでください」と声をかけてくれた。さてどうしようか。種類がたくさんあって迷う。
ふと「ギョーザランチ」という名のお弁当に目がとまった。
餃子もごはんも野菜炒めも、食べたこと自体はあるけど、この組み合わせで目にしたのははじめてな気がする。
注文すると、「15分ほど待つけど大丈夫ですか?」と尋ねられた。ほとんどのお弁当は、注文を受けてから作り始めるようだ。
「はい、大丈夫です。」と答えたあとに、「1時間かけてやっとたどり着いたんだもの。もう、待てるだけ待ちますとも!」と心のなかで付け加えた。できたてほやほやが味わえるのは、むしろうれしい。
そして15分くらいが経過。出てきたその姿には驚いた。とにもかくにも大きいのである。自分が知っているお弁当箱の2〜3倍くらい。いや、お弁当箱というよりも、ケータリングで頼んだオードブルが入っているような容器だ。
思わず「お、大きいですね」と声が漏れた。
店員さんは即座に「うちのはそうなのよ。味噌汁はサービスです」と伝えてくれた。
ホテルでさっそく開封する。
写真でこの大きさがきちんと伝わりきるのか不安なのだけど、ちらっと写り込んでいるホテルの電話機と比較してみてほしい。
自分とは違う誰かの生活を想像することは正直、あんまり得意じゃない。だけど、こうやってくたくたに煮込まれた白菜を食べていると、この味噌汁を作った人が、白菜を刻んでいるところ、味噌汁を煮込んでいるところが、なんとなくだけど想像できた。 その晩はぐっすり眠れた。
エビフライ弁当
エビフライは揚げたてほやほや。手のひらのうえに弁当を置いたら、お弁当の熱さが伝わってきた。
どこで食べようか悩むよりも前に食べたくなってしまい 、車のなかでさっそく頬張った。
そうか。車ってこういうところが自由なんだ。