日本最大の「ろう石」鉱床
今回、岡山県と兵庫県の県境近くにある三石(みついし)という地域へ向かう。
この一体は古くから日本最大の「ろう石」鉱床を有する地域なのだ。
ろう石とは、一般的には溶鉱炉や陶芸窯などに使われる耐火煉瓦の原料として使われる石だ。また、ものによっては、食器や洗面台やトイレの便器など陶磁器の材料にも使われている。
人影は見えないが乗用車が何台も止まっていて、ここが現役の鉱山だということが分かる。
そしてこちらが今回、見学に誘っていただいた武部(たけべ)さんだ。武部さんとは趣味の街歩きの会で知り合って見学に誘っていただいた。
鉱山で働く人のイメージとは真逆で、人当たりが柔らかく、話好きで話も面白い。武部さんは鉱山マニアでもあって、全国の鉱山や廃坑跡を訪ね歩き同人誌にして発行もしている。
あとデイリーポータルZを読んでくださっているそうだ。
おそらく国内唯一!パズーが操作するアレ
うちに来たらこれを見て貰わないと。これが鉱山といえばシンボル的な存在の立坑櫓(たてこうやぐら)です。
これは要するに鉱山のエレベーターですね。地下113メートルまで上げたり下げたりします。
これは
鉱車と言って鉱石を運ぶもので、要するにトロッコです。こいつは
人形峠(岡山県北のウラン鉱山)から来たやつ。ウランを運んでいたから、ひょっとしたら放射能が出ているかもしれませんよ(笑)
あと、これはロッカーショベルですね。その先がバッテリーカーといって引っぱるやつ。
写真だと分かりにくいが、立坑櫓からこの建物へワイヤーが伸びている。
これをグルグル回してワイヤーでケージを上げたり下げたりします。
あれ、なんか既視感が…ラピュタのやつみたいですね。
そうですね。ラピュタのオープニングで男の子が親方から「やってみろ」と言われるのがこれです。これ手動なんで通り過ぎたりね。
ラピュタのやつより近代的な雰囲気があるが基本的な構造に違いはなさそう。
この機械自体は鉱山博物館で展示している場合があります。ただ現役で動いているのはうちだけじゃないかなあ。他に聞いた事ないんで。
このワイヤー切れてしまってね。やってくれる業者が見つかって、人が乗らないという条件で直してもらったんですよ。
そのため人が乗る事は出来ないが、今でも機材を運んだりするのに使っているそう。
1990年代以降になるとこの立坑ではなく斜めに掘り進んでトラックで搬出する斜坑が主流となり、現役で稼働しているものとしては国内で最後のひとつではないかとの事。
ドキドキ!坑内見学
つづいてその斜坑を通って坑内を見学させてもらう
中を簡単に説明させていただくと、これがうちの坑内図ですね。
こっちが横からの断面図です。こんなふうになってます。一番低いところが156メートル下で、ここが標高130メートルくらいなんで、20メートルくらい瀬戸内海より下に入っているんじゃないかと。
廃坑では車で坑内に入る事はあまり無い。現役の鉱山ならではだ。
写真が間に合わなかったが、武部さんは坑内に入る時に入口の横にある名札をクルっとひっくり返す。これにより誰が中にいるかが分かる仕組みだ。
斜坑には大きな起伏があり映画の自然とインディー・ジョーンズのテーマ曲が頭の中を流れる。
ちょっと道が悪いですよね。コンクリートしてたんですけど盛り上がってきちゃって...。
いやあ、死んでてくれればいいんじゃけど(笑)動かれると敵わないというかね(笑)
そして何回かカーブを曲がれば方向感覚は失われてしまう。
そして飛行機などと同じように耳がキーンとする。
やっぱり電話は繋がらないですね。もし中で迷ったら帰ってこれなくなる可能性もありますか?
うーん、まあ、初めて入る人は無理でしょうね。何カ所か常夜灯でずっと電気が点いている所がありますんで、そこで待っといて貰えば…
中は携帯電話は使えないんだけども、一応僕はPHSを持ってます。
ええ。アンテナ立てて何カ所かPHSを使える様にしているんですよ。
地下156メートルの世界
地下156メートル地点に到着し、車を降りる。
普通の生活で訪れる場所とは全然違う風景に、ワクワク感と共に少し心細いような感じがする。
車を降りるとまず感じるのは鉄と土のにおいだ。そして少し埃っぽい。工場跡の様な、農機具が放置された古い家みたいな匂いがする。
つづいて、雨の日に外に出た様にムワーっとした湿度が襲ってきて、空気が重くなったようにまとわりつく。その湿度の高さに一瞬、ウワッと思ったが慣れるとすごく快適だ。
中は常に17度くらいですので非常に快適な職場です。その代わり真っ暗で埃まみれですけどね(笑)
空気が無くなると暑くなる
そして、コーーーという機械音があたりに響いている事にも気づく。結構大きい音で少し声を張らないと聞こえないくらいだ。
ビニールの管は風管(ふうかん)といって空気を送っているんです。ここは地下の坑道なので空気が自然には来ないんですよ。そうしないと色んな機械が動いているし人間もいるので空気がなくなって、息が苦しくなる前に暑くなるんです。
そうですね。暑くて、暑くて、仕事にならないですよ。通気は大事ですね。もちろん全部法律で決まっています。
ボーリング
鉱山は、ここを掘るべきかどうか調べることから始まります。
この機械はグリグリやりながら穴をあけて、この先の鉱床が何になっているか調べます。この機械は40年以上前のやつなんで下手したら鉱山博物館にありますね。
湧水との闘い
地面の下を掘るとどうしても水が湧いてくるんですが、余りよろしくない水なんです。Phが2.5~3くらいの強酸性です。川なんかに流したらすぐに魚が浮いてくるような。
これを処理するというのも手間な作業なんですが地上に上げて処理しています。雨なんかが降ると湧水量が莫大に増えます。
こないだ(2018年7月西日本豪雨)の跡です。ここまで2メートル以上水に浸かったんですよ。
いえ、湧水です。もう、大変な目に会いました。僕はカヌーを漕いで点検に回りました。
あんな事になるとシャレにならないですよ。あ、そこ足元悪いんで気を付けてください。
これから掘る部分のことを鉱山用語で切羽(きりは)といいます。
これは削孔機ですね。ここにだいたい50本くらい穴を掘って、火薬を仕込んでドカンと。
手で触るとヒンヤリとしていて冷たく。粉のようなものをまとってスベスベだ。
取り出したろう石はダンプで運び出すそうだ。
思った以上に危険と隣り合わせ
黒いのは通常より厚い鉄板で、ここは落ちてくるんです。
上から石が落ちてきているそうだ。
ありますね。我々は勿論ここで仕事していますし、皆さんここに何の気なし来ていますけど、決して安全とは言えません。急にドーンということは可能性としては無くはないですが。少しづつメキメキ来て、そしてドーンと。
陶磁器に使う粘土の原料なんで弱いんですよ。水を含むとパカッと割れたり。
ということは中に閉じ込められることもあるんですか?
あちこちに道があるんで閉じ込められることはないんですけど、重機を置いていた手前の坑道が落ちて重機が一時的に回収できなくなったことはありますね。
地震は鉱山ではわからない
元々岡山は地震は少ないですけど、中では地震はほぼ感じる事はないですね。阪神大震災の時も分からなかったって言ってましたね。
僕はいなかったです。あれは早朝でしたから誰もいなかったですけど、余震の時に中にいた人は分からなかったって言ってましたね。
外は寒い
うわ、まぶしい。ずっと下で仕事していらっしゃって、外出たら滅茶苦茶まぶしくないですか?
もうモグラの生活なんで、めちゃくちゃまぶしいです。
ここに入っているのはインドネシアに行くやつですね。
元々、外国では陶磁器にうちのような石を入れる習慣がありません。必ず必要っていう訳でもないですが形を保つ力が強くなって薄くすることができます。窯で焼いた製品を指で弾くと「キーン」といった金属音がするのが磁器のうつわの特徴です。ぼってりした厚いうつわはこうした金属音はしません。
探せばあるんでしょうが、まだ良いのが出てこないみたいですね。
いやあ、めちゃくちゃ面白かったです。廃坑跡の博物館みたいな所とは全然違いました。
ウケなかったら僕のせいだ。プレッシャーですね(笑)
古い坑道はもっとインディー・ジョーンズ
あと古い坑道も見学させてもらった。古い坑道にはトロッコの線路も残っていて、もっとインディー・ジョーンズ。
取材協力:土橋鉱山