短い記事 2022年2月16日

「友達が遠くから近づいてくるとうれしい」を何度も確かめる

待ち合わせ場所に先に着いて、遠くから友達がこっちに向かって歩いてくる時、妙にうれしくてニヤけてしまう。

「ふふ。本当に来た」と、そりゃそうなのだが、毎度思ってしまう。すごく好きな瞬間である。好きなので、友達が遠くから歩いて来る時のうれしさだけを何度も味わってみた。

大阪在住のフリーライター。酒場めぐりと平日昼間の散歩が趣味。1,000円以内で楽しめることはだいたい大好きです。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーとしても活動しています。(動画インタビュー)

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世界がガラッと塗り替わる、その鮮やかな瞬間

以前、こんなことがあった。電車に乗って友人との待ち合わせ場所に向かっている時、「〇〇時〇〇分に着く電車だよ」「あ、たぶん俺も同じ電車に乗ってるわ!」とLINEでやり取りをした。

「何輌目に乗ってる?」と聞かれて返答したら、しばらくして自分のいた車輌の端のドアが開き、友人が現れた。その姿を見て笑ってしまった。ついさっきまで、知っている人の一人もいない電車に私は乗っていたのだ。そこに、ずっと昔から知っている顔が唐突に現れた。世界がガラッと塗り替わったような、その鮮やかな瞬間が今も心に残っている。すごくうれしかった。

あるいは、こんなこともあった。ここ数年はできていないけど、昔、桜の季節に友人数名と花見をしていて、トイレだったか買い出しか、私ひとりがその場から離れた。目的を果たし、改めて友人たちがいる場所に戻ろうと近づいていった。

そこは桜の名所で、見渡せばたくさんの人が花見をしている。当然みんな知らない人だ。その中に、私の友人たちがシートを敷いて酒を飲んで笑っているのが遠く小さく見えて、近づきながら笑いが止まらなかった。こんなに知らない人だらけの世界に、好きな人たちが集まっている場所があって、私はもうすぐそこに着く。なんとうれしいことだろう。

友達と近づく瞬間だけを味わう

友達が遠くからこっちに来たり、友達がいる場所に近づいていったりするのはなんとも幸せなものである。だから、その瞬間だけを何度も味わってみることにした。

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妙なお願いにつきあってくれるという友達が、電車に乗ってやってきた
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主旨は説明してあるものの「それ、楽しいの?」と友人はいぶかし気だ

しばらく川沿いを歩くと、橋が見えてきた。一度、橋を渡って川の向こう岸に行ってもらった。こんなことを頼めるのは友人だからだ。友人っていいよな。

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優しい友人が橋を渡って向こう岸へ移動
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あっちで手を振っている。こっちも手を振る

さっきまで近くにいた友人が、川の向こうで手を振っている。不思議だな。

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何がどうしたっていうわけでもないのに笑ってしまう
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川沿いに遊びに来ていた知らない子どもが友人を気にしているようだ
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何か、言葉を交わしているようにも見える

スマホが振動した。友人からメッセージが来ている。「どうしたらいいでしょう?」とのことだ。橋を渡って戻ってきて欲しいと伝えた。

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私のメッセージを受け取った友人が動き出した
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橋を渡って友人がこっちへやってくる
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近づいてくる
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来た

笑ってしまう。さっきまで対岸にいた友人が、今、目の前にいる。「子どもが『ねえ、何してんの?」って話しかけてきて、何て答えていいかわからなかったっすよー」と言っている。その子のお母さんも近くにいて、ちょっと怪訝そうな顔をされたらしい。悪いことをした。

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「最近ようやく仕事落ち着いてきたっす。年末まで激務過ぎてー!」と語る友人ともう少し歩く
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見晴らしのいい河川敷に来た

ひょっこりと友人の顔が見えたらどうだろう

土手の向こうからひょっこりと友人の顔が見えたらどんな気持ちがするだろうと思った。そうお願いすると、「OKっす!」と友人はどこまでも付き合ってくれるのだった。

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何もない土手
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思わぬ場所から友人がひょっこり現れた土手
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また誰もいない土手
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おっ友人!
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かなり友人!
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これは絶対に友人!
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近づいてくる友人!
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手を振っている!疑っていたわけではないが、やっぱり友人だ!
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遠くに立っている友人を眺める不思議な時間
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友人が走ってこっちにやってくる
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来るぞ来るぞ!
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来てる来てる!もうすぐだ!
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来た!

なんだろう。この楽しさは。私も友人も、二人とも笑っている。ただ向こうに行ってもらって、また来てもらっているだけなのだ。「ははは。なんか、いいっすね!」と友人。

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こちらから近づいていく気持ちも味わう

近づいていく気持ちを味わってみたくて、今度は私が土手にのぼってみた。

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カメラを構えて立っている友人のもとに私が近づいていく
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だんだん友人が近くなる
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わはは!

なんだか無性に照れる。友人との距離が近くなっていくそのだいぶ前からニヤニヤが止まらず、ちょっと目をそらしてしまったりした。なんだろう、この気持ちは。

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お腹が減ったので近所の中華料理店でご飯を食べることにした。
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さっきまであんなに遠くにいた友人が目の前でラーメンを食べている
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トイレに立った友人が残した革ジャンが、ちょっと友人みたいだった

大きな駅の大きな広場まで行って、また友人に遠くから近づいてきてもらった。

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あ、いた
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あれは友人だ
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近づいてくる
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エスカレーターに乗ろうとしているようだ
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電気の力でスーッとこっちに来る
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あれ?他人かな?
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いや、やっぱり友人だった!

友人がいる世界

近づいて遠ざかって、そんな遊びを繰り返した後、駅ビルの屋上の広場で色々話した。最近のこと、お互いの家族のこと、今年がんばりたいこと……。

2時間ほど話した後、友人が帰っていくのを見送ることになった。

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友人が改札に向かっていく
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改札を通った
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向こうで一度振り返った。私は手を振った
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友人の姿はすぐに見えなくなった

友人の姿をできるだけ目で追いかけようとがんばったけど、その姿は行き交う人の中に紛れてすぐに見えなくなってしまった。それでもしばらくの間、私はそこに立っていた。

気づけば、私の目の前に広がっていたのは、知らない人だらけの世界だった。たった一人の友人が、この場所を「友人がいる世界」にしてくれていたのだと、私は気づいた。

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