特集 2019年7月22日

東急沿線 古墳めぐり

東急沿線といえば古墳です

東急の多摩川駅から二子玉川駅にかけて、古墳が並んでいる。

あのあたりの東急線は東急古墳線と呼んでも過言ではない。今日からそう呼ぼう。きっと古墳沿いに線路を敷いたのだろう。

そんな東急古墳線から魅力的な古墳を3ヶ所満喫してきた。

※この記事はデイリーポータルZの運営元であるイッツコムのサービスエリアの魅力を紹介するつもりで作りました。

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

前の記事:ドメインガールと冗談がタスクになることについて

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古墳の横を東急が通っている

冒頭でも書いたが、多摩川の東側、大田区~世田谷区は古墳エリアである(荏原台古墳群と呼ばれている)。その横を東急線が通っているのだ。
今回はまず多摩川駅近くの古墳に行き、北上して別の古墳を満喫しよう。
 

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今回のルート。マンションの広告のように古墳を光らせてみた

メンバーは僕のほかにデイリーポータルZのライター、西村まさゆき、伊藤健史、きだてたくの合計4名である。4月に廃線跡を見てはしゃいだDPZ郷土史クルーだ。そこに動画撮影の西垣Dも同行している。

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この華のないメンバーの華のない企画の動画を撮ってもらうのじゃ

スタートは東急多摩川駅。田園調布にも近い高級住宅街だが、駅前の案内図で指さしているところは

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古墳があるのだ。超クール、アガる~

田園調布という地名のなかにおなじみの鍵穴のシルエット。亀甲山古墳は「かめのこやまこふん」と読む。声に出してみると駒大苫小牧ぐらいかわいい響きである。

まず目指すのはこの かめのこやまこふん である。多摩川台公園という公園のなかにある。

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公園にあった大田区のキャラクターがなんの要素かもりあがって10分足止め

このペースだと今日の取材は12時間ぐらいかかるのではないかと思ったころ、古墳らしきこんもりした山が見えた。

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「お、あれは!」ドイツ兵のジオラマみたいになった3人
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あの茂みが亀甲山古墳か

手前は浄水場跡で現水生植物園である。ザリガニ釣りをしている人の横を通り抜けて古墳の脇に出る。
 

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亀甲山古墳!

正直………どこが?と思うだろう。現地でも我々も大いに戸惑った。(でも大丈夫。今回の原稿は古墳を紹介しながら、徐々に古墳を見分けられるようになるという成長物語もあるのです。)
 

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写真の上に線を引くとこういうことらしい

茂みに沿って歩いているとなんとなく窪みのようなところがある。気がする。円墳と方墳の境目である。
 

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「ここだ。ここ!」

現場では見えた気になっていたのだが、写真だとまったくわからない。よく見ると右のほうが地面が盛り上がっているだろう。

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こうです

しかし現場で伊藤さんが古墳を見るいい方法を見つけた。

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フェンスですよ!
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フェンスが古墳の形になっているのだ
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古墳と我々の位置関係

「やっぱり人工物だなー」と伊藤さんになるほどという気持ちと結局フェンスか…という気持ちが混ざる。

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このあと訪れる多摩川台古墳群でも伊藤さんはひたすら輪郭の写真を撮っていた
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古墳を身体で感じる

亀甲山古墳の隣には小規模な古墳が7つ並んでいる。多摩川台古墳群だ。

となりにあるが、2つの古墳のあいだには100年以上の時間の隔たりがある。
亀甲山古墳の後の時代、この地域の豪族の勢力は世田谷・上野毛あたりに移り、それからまた大田区に戻ってくるのだ。

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4世紀~6世紀、田園調布と上野毛で勢力争いをしていた、と言われている

その2つの地域をいまは東急大井町線と東急バス園01系統が結んでいる。
で、古墳が世田谷から戻ってきたら亀甲山古墳よりも小さい古墳をたくさん作り始めるのだ。

オレンジの玉が古墳

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しかしなんというか、やっぱりわかりにくい

しかしここで古墳のシルエットを体感する方法をあみだした。

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円墳のもりあがりを示すと見えてくるのだ

こうすると円墳の存在を身体で感じることができる(伝わってますよね?)。古墳しぐさと名付けたい。

ただ気になるのはこのとき撮影してくれた西村さん西垣さんが「よくわかります。すごいすごい」と接待ゴルフの「ナイスショット!」のようなテンションで声をかけていたことである。

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接待古墳

いったいどんな人が埋葬されているのか思いを馳せたり、いまおれは気遣われていないか心配したり、気分は1500年の時間を行き来する。

ほかにも

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方墳の四角い部分を表現したり
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二人で円墳の輪郭を強調してみたり
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埴輪のように立ってもらったり(古墳の上には埴輪がいた)

工夫していると、だんだんなにもしなくても古墳の形がわかるようになってきた。8つもあると徐々に分かってくるのが面白い。体験型である。

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3号墳のまるみ、最高
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6号墳は草が生えてなかったので形が分かりやすい。初心者にもおすすめ

なんとなくの膨らみを古墳見えてきた!と盛り上がっていたが、公園にあった前方後円墳型滑り台の分かりやすさに言葉を失った。

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勾玉が貼ってある

でも古墳群の北にある蓬来山古墳(ここでまた時代が100年以上ほど遡る)は古墳に登れるため、古墳のもりあがりを堪能できた。

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ほら、きれいな丸み。もう古墳慣れしたメンバーからは「艶めかしい」との感想が出るほど
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これが古墳に登る道、こちらも艶めかしい

上野毛の古墳へ

大田区編はこれで終了、世田谷の古墳に移動する。古墳群からそれるともうそこは田園調布の超高級住宅街である。

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いつの時代も富を持っている人は高台に墓を作ったり家を作ったりするのだ
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そして市井の我々は地方のゴミ袋に歓喜の声を上げるのだ(ふたりともゴミ袋マニア・西垣さんが出張みやげで買ってきてくれた)
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「あ、古墳を間違えた」って人生初のセリフ

次に向かうのは野毛大塚古墳。古墳が復元されているらしい。大田区の野趣あふれる古墳とはまた違った味わいだろう。

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あれ…思ってたのと違う

住宅の隙間にあるちんまりとした山である。鉄の柵で覆われているし…。「次の古墳はちょっとすごいですよ」とメンバーに期待させて連れてきてこれはない。
 

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しかし「こういう古墳ですか~」とすぐ受け入れる郷土史クルー

入口に戻って看板を見てみると、

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あ、古墳の名前が違う

「あ、古墳間違えた!」

人生でこんな珍しいセリフを言うとは思ってなかった。野毛大塚古墳に行こうとして、上野毛観音塚古墳に行ってたのだ。グーグルマップで違う古墳を指定していた。

つまりこのあたりにはそれぐらい古墳が多いということである。行きたかった古墳まで近いので歩いて移動する。

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途中、でかいインプラントの看板があったので
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記念写真を撮った。

古墳も文字もでかいのはよい。すっかり気分は古墳時代である。(古墳時代に文字はないけど)

バックネット裏に古墳

間違えた末に到着したのが野毛大塚古墳である。この古墳は公園のなかにあり、野球場の横にあるらしいのだが…。

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あった

ホームベース側。バックネット裏が古墳である。言ってみればこの球場は古墳の前でいつも野球をやっているのだ。奉納野球である。

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古墳の全景

作られた当時の形に復元されている。第二次世界大戦前はこのあたりがゴルフ場で、古墳の山のまわりにゴルフコースが並んでいたという。それもすごい。今は野球だけど。

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ミニチュアつきの解説板があった。至れり尽くせりだ

この形は帆立貝形古墳と呼ばれている。前方後円墳より四角の部分が短くてかわいい。

当時日本を治めていたヤマト王権に前方後円墳を作ることを許されなかった首長の墓だと言われている。「お前大したことないから前方後円墳じゃないやつな」ということだろうか。
変形学生服を着られるのは上級生だけ、みたいな話である。

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遺跡の説明書きをエンジョイする4人
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もりあがっていたのは西村さんが指摘したここ
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地名の釧路でしか使われない「釧」の文字があった!

岐阜の「阜」や、シークヮーサーの小さい「ヮ」と同じだ!とエキサイトしている。石丸電気の「でっかいヮ~」も小さいのではないかという意見が出たが結論は出なかった。
 

カクカクしている古墳

古墳は作られた当時の姿になっているので、角がしっかりしていて気持ち良い。

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古墳の途中のキャットウォークのような部分も再現されている

平らな部分にはハニワが立っていたので再現してみたが、実際は人の形ではなく円筒形のハニワだったらしい。なので再現ではなくただのアーティスト気取りの写真となった。

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帆立貝の由来となっている小さな出っ張り部分の角もパキッとしている

古墳はロックフィルダムのように表面に石を敷いていたそうだ。雨に濡れて滑りやすくなっていた。きっと昔の人も滑っただろう。
この出っ張り部分から古墳の頂上を見るとこんな感じ。

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上に立つメンバー。大きすぎると全体が想像しにくいが、丁度いい大きさである

古墳の上で儀式をしていたらしいのでこのように見えたのだろうか。ちなみに上から見た景色はこう。
 

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見守る民

経年変化をそのまま活かす大田区と、できた当時の形にこだわる世田谷区。好対照の古墳である。

東急古墳線を満喫するツアーの最後に古墳の前で記念写真を撮った。その写真が冒頭の写真だ。


おまけ

スタート地点の多摩川駅と多摩川のあいだ、東横線・目黒線が切り通しを通る。ここも浅間神社古墳の一部なのだ。

そう言われてみると法面の形が古墳っぽい。

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前方後円墳の方墳の一部を線路が通っている

東横線いちばんのみどころである。

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