もうそういう目でしか見れない
通り抜けQRコードに気づいて以来、僕にとってQRコードはただ読み取るだけのものではなくなった。もう、通り抜けられるかどうかを気にせずにはいられないのだ。
ぜひ一度、QRコードをそういう目で見てみてほしい。そして、通り抜けていたときの嬉しさを味わってみてほしい。
四つ葉のクローバーとか、顔みたいに見えるマンホールとか、普段の生活の中で見つけるとちょっと嬉しいものってありますよね。
そんな、見つけるとちょっと嬉しくなるもの。なんとQRコードの世界にもありました。
その名も、「通り抜けQRコード」!
「通り抜けQRコード」とは何なのか。それを説明するために、まずはその発見のいきさつからお話しさせてください。
僕は以前から、QRコードのことを「迷路みたいだなぁ」と思って見ていた。
黒い部分を壁、白い部分を通路と思うと、どこかから入ってどこかへ出られそうな気がして、ヒマなときに見かけると何となく白い部分をたどっていた。
そんなある日、僕の前に現れたのがこちら。
ガストにあった、食品アレルギー情報のサイトにつながるQRコードだ。
いつものように何気なく白い部分をたどる。
なんと、上の辺から下の辺に通り抜けることができたのだ。
なんと!と言われても全然ピンとこないと思うのですが、普段から眺めてきた僕にとって、これは初めての体験だった。
こんな風に、上か下の辺から入って左右の辺から出ていくといった、90度方面に抜けられるものはよく見かけていた(あとで調べたら、QRコードは全部こうなっているのだそうだ)。
オムライスを食べていたスプーンをいったん置いて、確かに通り抜けられることをもういちど確認。そして、静かに興奮した。今まで見たことがないという主観的な理由しかないけれど、これはきっと珍しいぞ!
森の中でたまたま新種を見つけた生物学者って、きっとこういう気持ちなんだろうと思う。
そしてその生物学者は、見つけた新種に名前をつけるだろう。僕もそれにならって、これを「通り抜けQRコード」と呼ぶことにした。
この通り抜けQRコード、もしかしたら他にもどこかに隠れているかもしれない。そう思うと、少年マンガ的な冒険心をくすぐられる。
実際どれくらいあるのか、街でさがしてみることにした。
やってきたのは新宿の東口。Webやアプリに誘導したいことが多そうなこの街で、通り抜けQRコードをさがしたい。
お目当てのQRコードをゲットするために街を歩きまわる。これは、「ポケモンGO」ならぬ「QRコードGO」だ。
さがし始めてすぐ、幸先よく3つのQRコードを見つけたが、どれも通り抜けられるものではなかった。
本来であれば残念がるところだが、もともと個人の感想でしかなかった「通り抜けQRコードは珍しい」ということの確かさが増したことに嬉しさを感じる。と同時に、そんなレアなQRコードが今日どこかで見つかるかもしれない、ということへの期待も高まる。
その後も、通り抜けQRコードをさがして歩く。
通り抜けQRコードはなかなか見つからないが、そもそもQRコードに注目して街あるきをすることが楽しかった。
「あぁ、惜しい・・」と残念がったり、思わぬところにQRコードを見つけたり、珍しいものに出会ったり、「ここいっぱいあるぞ!」と興奮したり。そこには、宝さがしのような楽しさがある。
ちょっとしたあき時間をつぶす手段としてすごくいい。新たな趣味の扉が開かれた気がする。
そんなQRコード散歩を楽しむこと4時間半。ここまで25個のQRコードを見てきたが、肝心の通り抜けQRコードはまだ見つかっていない。
通り抜けQRコードが珍しいということは十分に分かったが、ここまできたら見つけたい。
あたりは暗くなってきて、寒いし心細くもなっていたけど、もう少しもう少しと思いながら捜索を続ける。
頭の中には、山崎まさよしさんの「One more time, One more chance」が流れる。
そうこうしているうちに6時間が経過。今日はもうダメかなと思いかけたその時、歓喜の瞬間は紀伊國屋で待っていた。
「ゴーーーーール!!」
頭の中で、サッカーのゴール実況が鳴りひびいた。ついにあった。ほぼ横一直線に道ができている、きれいな通り抜けQRコードだ。
いやー、これは嬉しい。
本当であれば、3回ぐらいガッツポーズをして、ゴールパフォーマンスの1つでも踊りたいぐらいの気持ちだった。でもここは本屋だ。静かにしないといけない。グッとこらえて、でもこの興奮をどうしたらいいか分からず、とりあえずフロアを早足にひとまわり歩いてから写真を撮った。
ここまでかかった時間は6時間。37個のQRコードを見てきて、ようやく1つ見つけられた。通り抜けQRコードはなかなかレアだし、見つけるとすごく嬉しいということが分かった。
通り抜けQRコードをさがす楽しさと、見つけたときの嬉しさ、これはすごいものを発見してしまった。僕だけのものにしておくのはもったいない。
みんなにも教えてあげようと思い、友人たちにガストに来てもらった。
友「ん?それだけ?」
私「えっ?あぁ、うん」
思っていた反応と違う。
僕が想定していた反応は、「うわっ、マジで!?これすげー!よく見つけたね!」だ。
でも実際は、「ん?それだけ?」「おみくじだったら小吉」だった。おかしいな。
やはりこれは実際に探してみないと分からないのだろう。「わざわざこれを紹介したかったの?」という雰囲気がただよう友人たちを、外に連れ出した。
すると、だんだん雰囲気が変わってくる。
実際に野良のQRコードをいくつか見ていくことで、通り抜けQRコードの珍しさにだんだん気づいていく一同。
競争心にも火がついていく。
そして、
最初は面白さがいまいち伝わらず心配だったが、いざ探し始めてみると、最終的にはものすごい熱狂を生み出していた。
通り抜けQRコードは、1人で探してもみんなで探しても楽しかった。
通り抜けQRコードに気づいて以来、僕にとってQRコードはただ読み取るだけのものではなくなった。もう、通り抜けられるかどうかを気にせずにはいられないのだ。
ぜひ一度、QRコードをそういう目で見てみてほしい。そして、通り抜けていたときの嬉しさを味わってみてほしい。
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