期待感がすごい
お邪魔したのは、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の「第76回ティアラこうとう定期演奏会」。
当日は開場より少し早く到着したが、すでに入場待ちの人だかりができていた。普段のコンサートの開場前の様子を知らないのに、「みんな楽しみで早く来ちゃったに違いない!」と思った。楽しみでテンション上がってるのは自分の方かもしれない。
この日のチケットはもちろん完売。珍しい曲が聴ける(観られるというべきか)とあって、クラシックファン以外にもたくさんの人が来場したらしい。まさに老若男女といった感じの客層だった。
合流した西村さんと「やっぱりティンパニに突っ込むのにもうまい下手があるんですかね?」「うまく突っ込む練習ってするんですかね?」なんて話をする。疑問ばかりで何一つ答えにたどり着かない会話をしながら、ホールへ。
ステージの最前列に並んでいる、金属製の太鼓がティンパニである。ふだんなら一番後ろに配置される楽器だ。ハンバーガーのハンバーグがバンズの上に乗ってるみたいな非日常感。「いつもと全然違うぞ…」と期待が高まる。
そして開演。1曲目のモーツァルトの交響曲がおわり、ついにカーゲルの「ティンパニとオーケストラのための協奏曲」が始まる…。
特殊奏法のオンパレード
曲の序盤、弦楽器の演奏にのせて「ドーン、ドーン」と力強くティンパニの音が響く。まるで雷鳴のような迫力だ。
約20分ほどの曲で、問題のティンパニに突っ込むシーンはそのクライマックスに位置する。だが曲が始まると、実はそこに至るまでにもめちゃくちゃ見どころが多いことに驚いた。ティンパニの特殊奏法のオンパレードなのだ。
ティンパニはふつうマレットと呼ばれる、木や竹の棒にフェルトを巻いたばちで叩く。
だがこの日はジャズドラムでよく使われるブラシでシャ、シャ、シャと叩いたり、マラカスを使って叩いたりしている。前者は汽車が走っているような音だったし、後者は錫杖を持った修験者が歩いてくるようだと思った。
また拍子木のようなものをティンパニのうえで叩き、ボディで共鳴させることもあった。
手でじかに叩いて「バイーン」という長い音を出すこともある。そしてときには4つあるティンパニを素手であまりにあわただしく叩くので、空手の演武を見ているようでもあった。
そして極めつけがこれである。
でかい金属のメガホンを持って、奏者が歌っている。変わった音がするとかそういうレベルではない。もはやこれはティンパニ演奏といえるのだろうか!?
いよいよ「そのとき」が
そして曲はいよいよクライマックス!
カデンツァと呼ばれるティンパニのソロ演奏に入る。
他の楽器の音は全て止み、ダン、ダン、ダン、ドコドコドコドコ……というティンパニの激しい演奏だけが響く。その音に客席の意識が集中する。一気に空気が張り詰めてきて、みんな固唾をのんで聴き入っている。
そして緊張感がピークに達したとき……その力強さを増しながらティンパニの連打が終わる!そして…ほんの一瞬の休符をおいて…
そのまま奏者はピクリとも動かず……数秒ののち、指揮者が指揮台を降りて歩み寄り、奏者の肩をたたいて助け起こした。
そのタイミングでようやく会場の緊張が解け、拍手喝采が始まった。と同時に、他の曲では起きなかった、お客さん達のざわめきが聞こえた。みんな感想を言いあうのを我慢できなかったのだろう。
一連のようすは公式Youtubeにもアップされている。おそらく世界初であろう、ティンパニ内部から見た映像も入っているのでぜひ見てみてほしい。
↑権利の関係で曲中の音はありません(後半から出ます)
いやーしかし、すごいものを見た。
単にパフォーマンスとして面白くてワハハ、という話ではなかった。行為だけ取り出せばコミカルなのだけど、曲の中で行われるそれは、とにかく緊張感とエネルギーと気迫に満ちていたのだ。
休憩中は撮影会に
そのあとコンサートはいちど休憩に入り、他のティンパニはステージ横に移動されたが、破れたティンパニだけはそのまま展示されていた。
なかには破れたティンパニと並んで自撮りしている人までいた。
その後もう2曲の演奏があり、コンサートは終了。退場していくお客さんたちはとても満足げに見えた。
帰りのバス停に、コンサートのパンフレットを持った親子がおり、お父さんがまず発した言葉が「おもしろかったねー!!」だった。そういう感想で思い出に残るクラシックのコンサートもあるのだ。
もっと知りたい
……とここまでがコンサートのレポートである。めちゃめちゃに良かったし、面白かった。でも正直、あれで終われないというか、もっと知りたくなるコンサートでもあった。なぜあそこで、ティンパニに突っ込むのか。コントじゃないことはわかったけど、コントじゃないとしたらあれは何なのか!?
次ページでは奏者に直接お話を聞きました。