特集 2023年7月18日

北海道・天売島にて、子育てするウミネコの大群に感動した話

今年の6月、北海道の西に浮かぶ天売島(てうりとう)という島に行ってきた。島民300人弱に対して推定で100万羽超の海鳥が飛来するという、ヒッチコックも真っ青になるくらいの鳥の楽園である。

わざわざそんな島に行ってきたのだから、本州では見ることができない珍しい海鳥に目移りしたかと思いきや、一番感動したのは見慣れたウミネコだった。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

前の記事:むしろエスカレーター?なミュンヘンの古いエレベーター「パタノスタ」は、少し怖いがかっこいい

> 個人サイト 海底クラブ

 

天売島まで行かなくても見られる鳥、ウミネコ

ウミネコという、猫の名を冠した海鳥がいる。目つきの悪い、ずるそうな顔の鳥である。このウミネコという鳥は日本各地の海に近い地域では普通に見られ、それこそ野良猫と同じくらいありがたみの乏しい鳥である。

 

今年の6月、旭川に住む友人に誘われて北海道に行ってきた。6月といえば北海道旅行におけるベストシーズンだ。浮かれた我々は「夏といえば離島だ!」とはしゃぎながら天売島へ鳥を見にいくことにした。

1.jpg
我々を天売島に運んでくれたフェリー「おろろん2号」。ウミガラスの別名であるオロロン鳥からとった名前だ。

島へは羽幌の港からフェリーに乗って行く。フェリー乗り場には島で観察可能な鳥を紹介するパンフレットがたくさん用意されていて、いろいろな海鳥たちが観察難易度つきで解説されていた。

まず、出会うのがもっとも難しいのがウミスズメ。こいつらは日中は基本的に沖の海に浮かびながら過ごすので、フェリーで移動中に「運が良ければ」見られるらしい。

その次がウミガラス。断崖絶壁に開いた穴で暮らし、その付近の海上に浮いていることもあるという。いずれにせよ崖の上にいる観察者にとっては死角からめったに出てこないシャイな鳥である。確実に見たいならば漁船に乗って海側から観察するのがよいだろうと書かれていた。

私は呆れてしまった。鳥を見るためだけに船に乗れと言うのである。なんという贅沢だろう。まるで王族の遊びのようだ。

2.jpg
結局ウミガラスは一度も見られなかったが、島中に飾られたウミガラスの模型は何回も目撃した。

もっと手軽に、庶民でも観察できるものはないものか。

目を下に滑らせていったところ、「営巣地に行きさえすれば確実に見られる」鳥としてウトウとウミネコが紹介されていた。

ウトウというのは日本では天売島などの一部地域でしか観察できない鳥である。そんな珍鳥が「確実に見られる」のだから、はるばる遠くまできた甲斐があるというものだ。

逆に、何度も見たことのあるウミネコにはそれほどの関心は湧かなかった。この鳥は日本中どこにでもいる上に、こんな最果ての島でも「いつでも見られる鳥」扱いされているのかと不憫になったほどだ。

この段階ではおまけ程度に感じていたのである。

いったん広告です

港から海岸線を歩いていくとウミネコの営巣地に出る

ウトウは日中は遠くまで魚を捕りに出かけていて日没まで帰ってこないため、それまでは島を散歩したり「おまけ」のウミネコを見たりして過ごすことにした。

港で宿の送迎バスに荷物をたくし、海岸沿いの道を歩いていく。

3.jpg
港でレンタサイクルを借りることもできたのだが、子連れの同行者がいたので徒歩で移動した。島を一周しても10kmちょっとの道のりなので助かる。

連れだって道を歩いていると、自転車に乗ったティーンエイジャーたちが「こんにちは!」と元気よく挨拶をして駆け抜けていった。びっくりしてこちらも負けじと「こんにちは!」と叫び返した。

人影はまばらだが道を歩いていると何度か若い人とすれ違ったし、港や商店でも若い人たちが働いているようだった。人口300人足らずの北国の島と聞いて、私はてっきりジジとババと鳥しかいないような寒村を想像していただけに、これは意外だった。

4.jpg
小・中・高と全て島内でそろう。

あとで宿の人に聞いた話だが、島の方針として学校は意地でも維持しようということになっているらしい。移住者を呼ぼうにも学校がなければ子育て世帯は来てくれないからである。

ただ、そうはいっても島生まれの子供はやはり少ないので、高校の生徒は「島留学」として日本中から集めているのだそうだ。

5.jpg
そうこうするうちに市街地を抜けた。

天売島の街は港がある島の東海岸に集中していて、そこを抜けるとあとはひたすら原野が続いている。そこを覆うように茂っているのはおもにイタドリだ。

視界を横切る鳥の数が俄然多くなった。

6.jpg
向こうが何やら騒がしい。
7.jpg
う、うわあ!

イタドリの林が途切れて視界が開けると、そこはまるで絵本の「ウォーリーを探せ」を開いたみたいに陸も空もウミネコたちでいっぱいだった。

8.jpg
視界の端から端までウミネコでびっしりと埋まっている。
9.jpg
遠目にはわかりにくかったが、双眼鏡で見ると海の上に突き出た岩の上にもたくさんのウミネコがいた。岩の上は彼らの糞で白く汚れており、そこに立つと体の色が背景にとけ込んで目立たない。衝撃の事実に気づいて後ろによろけそうになった。「自分のうんこの中に隠れるための色だったのか!」
10.jpg
翼を広げるとウミネコの特徴である尾羽の黒い帯がわかりやすい。日本で観察できるカモメの仲間で、成鳥の尾羽に黒い帯があるのはウミネコだけである。
11.jpg
立っているところもかっこいいが、飛んでいるところは輪をかけてかっこいい。
12.jpg
遠くだけではない。足下だってウミネコでいっぱいだ!
13.jpg
この顔も歌舞伎の隈取のようでなかなかかっこいいではないか。

私たちは感動していた。

言葉にしてしまえば、とにかくたくさんの鳥に囲まれているというただそれだけなのだが、なにかすごいものを見ているのだという感慨がひしひしと湧きあがってきた。

ウミネコたちは私たちの上を渦を巻くように飛んでいて、そのうち頭の上に一発ひり出してくるかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

あまりに感動しすぎて、「こんなに感動したのはいったいいつ以来だろう」と感動している自分にまで感動し始める始末だった。

鳥の言葉がわかれば

「おまけ扱いしてごめんなさい。こんなにすごいものを見せてくれてありがとう」

と伝えられるのに、それができないのが悔しかった。

ウミネコたちはそんな我々の情動などいっこうに意に介さず、ミョーミョ―と鳴きながらあたりを行ったり来たりしていた。

14.jpg
ウミネコのテリトリーだから、人間は遠慮しないといけない。
15.jpg
道の上だっておかまいなしに歩き回る。そしてほとんど逃げない。

 

⏩ ひな鳥はフワフワ!

▽デイリーポータルZトップへ つぎへ>

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ