雛はふわふわで目つきもかわいい
感動でボーっとなった状態から冷めてくると、あたりを細かく観察する余裕が出てきた。だれかが足下に茶色っぽいふわふわが動いているのに気がついた。
足下の草むらを出たり入ったりしてうろついているのはウミネコの幼鳥だった。白い親鳥に気を取られていたからなかなか気づかなかったのだ。
これがまた、見ているだけで全身の力がへなへなと抜けていくほどかわいい。親鳥の悪そうな姿からは想像できないくらい、かわいい。
親ウミネコの顔もかっこいいなどと言った舌の根も乾かぬうちから言うのもなんだが、このフワフワにぱちくりおめめをくっつけた生き物があの目つきの悪い鳥に変貌してしまうのだから、やはり時の流れというものは残酷である。
みんなで座ったりしゃがんだりして、時がたつのも忘れて観察した。
学生時代に学生寮でニワトリを飼っていた正真正銘の鳥好きの友人は、ヨチヨチ歩くフワフワに囲まれて胸が一杯になったようで
「これだけで満足だ、もう何もいらない」
などと虚ろな目で言い出したので、このまま鳥で埋め尽くされた目の前の崖に飛び込んで帰ってこないのではないかと周囲をひやひやさせた。
ウミネコたちは親子そろってあまりに人間に対し無警戒なので、見ているこっちが心配になった。
絶対にやってはいけないことだが、その気になれば素手で雛をさらってしまうことだってできてしまうはずだ。
「人間から逃げなかったせいで狩りつくされそうになった上に馬鹿みたいな名前までつけられたアホウドリという鳥もいるんだよ。もう少し警戒した方がいいんじゃない?」
と説教をしてやりたくなったくらいである。
それでもしばらく観察していると、一応彼らなりにできることはしているのだということがわかってきた。
保護色の効果がすごいのはさっきも書いたが、卵や雛鳥は隠れる場所の多い藪のそばにいて、丸見えになる砂地の上に出ているのはある程度の大きさに成長したものたちだけだったのだ。
細かな対策をおろそかにしないその姿勢は我々も見習わねばなるまい。