自作ツールを紹介するリレー連載「工夫の鬼」 2022年9月1日

低温調理器具、熱帯魚用品で作ってみた

60度の湯の中を泳ぐ肉。

狩猟者の体験談などを聞いていると「肉は生で食べるのが一番うまい」という話が出てくることがある。

私も狩猟をするので「あなたも肉を生食するのか」などと人に聞かれることがたまにあるのだが、とんでもない話である。食中毒が怖くて、とてもじゃないが真似できない。

そんなとき、代わりにオススメというか、紹介するのが低温調理という料理法だ。

この記事では、あえて専用品を買わずに自作した低温調理器具について紹介したい。材料は、主に熱帯魚の飼育に使われる道具たちだ。

(編集部より)自作ツールを紹介するリレー連載「工夫の鬼」第3回です。ライターや編集部員が、ふだんから実際に活用している自作のツールをご紹介します。不定期連載。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

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低温調理とは

50℃~70℃くらいの低い温度で肉や魚を料理して、雑菌や寄生虫は死滅しているけれどタンパク質は固まりきっていない絶妙な状態を作り出す調理法。煮え切らないというとたいていネガティブな意味でとられるのだが、あえてそれを作り出すんである。

火は通っているので生ではないけれど、温度次第では比較的それに近い食感で食材を賞味することができる。

やり方は簡単で、調理したい肉をジップロックなどに密封して、一定の温度に保たれたお湯に入れておくだけの単純な調理法である。単純なくせに、専用の調理器具はなかなかに高い。

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Amazonで低温調理器を調べるとずらずらと商品が表示される。数年前に比べるとだいぶ値段が下がってきたように思う。

最近でこそ安価な後発品が普及し始めているけれど、私がこれを自作した数年前はこの「湯の温度を一定に保つ」器具が2万円くらいしていた。

とにかく安く済ませたかったというのが自作の動機だったのである。

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そしてこれが自作の低温調理器だ!

サーモスタット(と付属の温度計)、電源コード、ヒーター、ウォーターポンプ。電源以外は全て熱帯魚の飼育に使う製品。自作と言いつつ、やったことは実質これらをつないだだけである。費用はたぶん3000円くらい。

あまりに簡単すぎて自分で作っていて不安になるくらいだったので、サーモスタットと各々の機器をつないでいる部分が水に濡れないように百均で買ったタッパーに埋め込んでみた。

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設定温度60℃で動かした場合、水温が60℃未満になるとサーモスタットの回路がオンになってヒーターとポンプが作動し、水を温めてくれる。ポンプをつけたのは、水をかき混ぜて水温を均一にするためだ。
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低温調理した肉はジューシーで美味しい

低温調理では食材にゆっくりと熱が通っていくので時間がかかる。でも準備さえしてしまえばあとはほっておくだけなので、忙しい人や無精者に最適な調理法である。

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塩と胡椒で下味をつけた鹿のモモ肉。
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ジップロックに入れて空気を抜いてお湯にドボン!あとは2時間くらい放置だ。

自作低温調理器の構成は熱帯魚の飼育設備のそれとほとんど同じなのに、今は水槽の中を肉が泳いでいる。これで火事でも起こそうものなら立派な「現場猫案件」として報道されるのかしらと、ふと思ったりした。

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サーモスタットに付属していた温度計を信用しきってしまっていいか不安なので、最近はタニタの調理用温度計を併用している。自作と言いつつ、中途半端にブランド信仰なところがある。
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ちゃんと60℃をキープしていて安心。

写真は撮り忘れたけれど、2時間たって取り出した肉に温度計を刺してみたところちゃんと中まで60℃になっていた。とりあえず、滅菌完了とみなした。

後から知ったことだが、厚生労働省が出している基準では中心部が63℃以上の状態を30分以上維持すれば安全とみなされるそうだ。本来はもう少し温度を上げた上でこまめに肉の温度を測定した方がよいだろう。 

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2時間たって引き上げられた肉。最後に表面をさっと焼いてやると、食感にメリハリが出てさらに美味しくなりますよ!
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あー、これは良い赤っぽさですね。

完成した料理は芯までちゃんと温かいのにネトッとした生っぽさを維持しており、なんとも背徳的な美味さだ。

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ねっとりとしたジューシーな食感がたまらない。

友人にご馳走したところ
「美味しい!オオカミになってシカの後ろ足にかじりついてるみたい!」
と言って喜んでいた。野生に戻ったかのような感想なので笑ってしまった。

飼い猫におもちゃを与えると、野生の狩猟本能をむき出しにして夢中になることがあるだろう。低温調理器はあれと同じ状態に人間を導いてくれる、夢の先祖返りツールなのである。

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