特集 2019年1月7日

多摩川で七草摘み、東急沿線なら十九草を摘めるはず~東急沿線さんぽ

今年の七草粥はインド風でした。

1月7日といえば七草粥。この行事は平安時代から続くものだそうで、一年の無病息災を願うとか、疲れた胃を休めるためとか、様々な謂れが存在するようだ。

七草粥に入れる草といえば、セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロと暗記したものだが、地方によって入れる食材は変わってくるそうだ。

そりゃそうだ、1月に生えている草なんて土地によって違うんだから。ならばもっとフリースタイルに七草粥を楽しんでもいいのではないだろうか。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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コラボ企画

七草を摘みに多摩川へ

私にとって七草摘みは、毎年恒例という程でもないけれど、暇で好天の正月休みがあれば、近所だったり出先だったりで、なんとなく実行している行事。運動不足になりがちな時期なので、一年の準備運動としてなかなかいいもんである。

2019年の七草は、「大真面目にカレーラーメンを考える会」という記事でお世話になった南インド料理店の沼尻さんが、多摩川で七草摘みの会を開くというので、そこにお邪魔させていただいた。

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1月5日、東急東横線の新丸子駅に集合。まずは改札を出てすぐのところにある東急ストアで飲み物などを買いつつ、七草の販売状況をチェック。

多摩川には何度か野草探しに来ているが、一般的な七草を揃えようとすると難しいけれど(スズナ=カブがある時点で無理)、食べられる草の種類はけっこう多い。

今回の集合場所である新丸子駅は東急沿線だけに、七草と言わず十九(とーきゅー)草くらい集められるかも。

そんな話を沼尻さんにしたら、「東急なら109草じゃないの?東横だったら1045草だよね」と言われた。多いな。

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店頭に貼られていたチラシ。店内には栽培した七草の詰め合わせだけでなく、ベビーリーフをサラダ七草として売っていた。これぞ七草の多様性である。

新丸子駅から多摩川まではたいした距離じゃないのだが、その間にも植物はたくさん生えており、10メートルごとに沼尻さんによる解説が始まる。なかなか前に進まないが、だからこそ楽しい時間だ。

これぞ道草だなと思いながら、貴重な話や熟練のダジャレを伺った。

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サザンカは花弁がパラパラと落ち、ツバキは花ごとボトっと落ちるそうです。ちなみにサザンカのほうが南に分布している。「ノースではなくサザンか…」と沼尻さん。
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こんな植込みにも、よく見れば七草のうち1つくらいは生えている。

多摩川の河原には大根が生えている

そんなこんなで目的地である多摩川の河原へと到着。まさに最高の七草摘み日和である。ちなみに去年の正月はホウキを作りに来ていたな(こちら)。

基本的に河原に自然と生えている草(植えてある植物ではなく、いわゆる雑草)や木の実(クワとかクルミとかギンナンなど)を採ることは問題のない行為。もちろん常識と節度を持って、というのが法律以前の大前提だが。なんでもそうだけどね。

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空も信号も青かった。

多摩川でまず最初に摘むのは、七草でいうところのスズシロ、ダイコンである。鈴木史朗さんの略ではない。

知っている人も多いと思うが、多摩川の河川敷にはハマダイコンと呼ばれる野生化したダイコンがそこらじゅうに生えているのだ。

それにしても、なんでダイコンとかカブが七草なんだろうね。野草としてではなく、正月に贅沢したんだから今日くらい菜っ葉でも食べなさいよということかな。

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沼尻さんの前にあるモサモサした草、これが全部ハマダイコン。

土が固いので売り物みたいな太いダイコンには育たないようだが、葉っぱを食べる分には充分すぎる質と量である。おそらく平安時代には生えていなかっただろう。

お粥の具は、このダイコンの葉っぱだけでいい気がしてくる育ち具合だ。

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本当にダイコンなんですよ。
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ほら、ダイコンだ。「このサイズだと大根というか小根だけどな」と沼尻さん。
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発芽したばかりのダイコンの芽。野生のカイワレダイコンだ。
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ちょっとランっぽいダイコンの花が咲いていた。「ダイコンの花がランに似ているとダイコンランだね」と、沼尻さんではなく私が小声でつぶやいた。ハマダイコンは5月頃に収穫できるサヤがうまいよ。詳しくはこちらのブログで。

 

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探してみよう、食べられる十九草

食べる分だけのハマダイコンを収穫したところで、詳しい人に教わりながら、各自で食べられる野草を探していく。

七草とか十九草とかいっているが、今回は見つけた食べられる草をすべて食べるのではなく、持ち帰るのは味が気になる草、状態が良くて美味しそうな草だけとしよう。「食べれば食べられる草」と「食べたい食べられる草」は少し違うのだ。

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名前がはっきりとわかり、食べたい草だけを持ち帰る。

自ら体を動かして、野草を観察することが主な目的であり、十九草粥は「十九草見つけたうちの中から選りすぐった草の粥」となればいいかなと思っている。草は何種類入れても草だしね。

ということで、以下が多摩川の河川敷で見つけた食べられる草である。同定は沼尻さん、そして多摩川の草を毎日のように少しずつ食べている365日野草生活さんにご協力いただいた。

まずは一般的な七草に関連するものからどうぞ。

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この時期は特徴が分かりにくいナズナ。
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ナズナの葉っぱはセリやパクチーに少し似た良い香りがあり、根っこは柔かいゴボウのようで、七草の中でも味の人気が高い。
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ナズナはぺんぺん草とも呼ばれる。この状態だとわかりやすいけれど、食べても硬くて美味しくない
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マメグンバイナズナは北アメリカ原産の外来種。一説によると多摩川の植物は9割が外来種(国内移入種含む)だとか。
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ミドリハコベ。ハコベにもいろいろと種類があるそうだ。
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茎が紫色のコハコベ。
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全体的に大きいウシハコベ。名前にウシがつくとだいたい大きい。
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七草でいうところのゴギョウであるハハコグサっぽいけどチチコグサか、いやチチコグサモドキではと意見の分かれた草。もう少し成長して特徴がでないと同定は難しい。なので野草マニアは一年通って、その変化を把握する。

今回は見かけなかったが、数年前に少し違う場所でセリもあったので、七草のうち五草くらいは多摩川で揃うと思われる。

十九草を無事達成

他にもいろいろ見つかって、無事に東急沿線で十九草を達成。全部で25種類くらいかな。

だからなんだという話なのだが、やっぱり目標達成は嬉しいじゃないですか。こういうのは縁起担ぎと自己満足なんだから。

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ハルノノゲシはレタスの原種とも言われている草で、確かにレタスの芯っぽい独特の苦みがある。
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オニノゲシはヨーロッパ原産だそうです。食べたら喉がチクチクしそうだ。
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マスタードシードがとれるカラシナ。新芽がピリリとして美味しい。
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タイムのようなスパイシーな香りが特徴のカキドオシ。見た目よりも香りで覚える植物。
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ヌメヌメする新芽がオカジュンサイとも呼ばれるギシギシ。
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この時期でも花を咲かせるセイヨウタンポポ。
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クリーミーな味がするという人もいるオオバコ。
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左の丸い葉っぱの三つ葉がシロツメクサ(クローバー)で、右のハート形がカタバミ。
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クレソンのような辛味が人気のタネツケバナ。ちなみにクレソンもよく探せば生えている。
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杏仁豆腐にトッピングされている赤い実が有名だけど、葉っぱもお茶などに利用できるクコ。意外とたくさん生えている。

 

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お粥よりは草餅でおなじみのヨモギ。
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おままごとでよく使ったという人も多いカラスノエンドウ(ヤハズエンドウ)。

 

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オートミールの材料にもなるカラスムギ。実を取り出すのが面倒臭くてなかなか手が出ない。
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利用する人の多いノビル。
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ノビルっぽい草も多いけど、ニラのような匂いがあるので嗅げば間違えないはず。図鑑だけではなく五感で覚えたい。
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スイセンは毒があるので絶対に食べちゃダメ。
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繁殖力が凄いアップルミント。場所によっては一面に生えている。
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セイタカアワダチソウも食べようと思えば食べられるそうです。
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道端に生えていたのはオニタビラコっぽいとのこと。七草のホトケノザはコオニタビラコ。惜しい。

「十九草集まった?足りなければ『ものぐさ』とか、『あほくさ』もいるから」と沼尻さん。

新丸子駅を出て、また戻ってくるまで約2時間。歩数にしてだいたい7,000歩の道草となった。

もちろん「買った方が早い」というやつだが、現地に行かなければ知れない知識や聞けないダジャレがあるよな思う訳だ。

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バッグからダイコンの葉っぱがはみ出ていると、買い物帰り感が強いけど河原帰りだ。
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何となくいいなと思ったコレクション。

 

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インド風の七草料理

野草をほどほどに摘んだあとは、大森にある沼尻さんのお店へと移動し、野草料理を食べるという嬉しいコースとなっている。

南インド料理のお店なので、きっと普通のお粥ではないメニューが出てくるはず。この特別料理を目当てに参加している人も多かったようだ。

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東急多摩川線がかっこよかった。
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南インドの定食であるミールスを出していた「ケララの風II」は、サンドイッチやティファン(軽食)を提供する「ケララの風モーニング」に変わりました。
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みんなで摘んだ野草を確認しつつ料理する沼尻さん。普段のお店では出していませんよ。
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野草洗いのお手伝い。摘むのは楽しいんだけど、食べるためには下処理が大変なんだよね。

伝統的な七草粥の代わりとして、出てきたインド風の野草料理がこちらである。

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多摩川産七草(ハマダイコン、コハコベ、ミドリハコベ、タネツケバナ、ナズナ、カラシナ、ヨモギあたり)のキチュリ(豆の入ったインドのお粥)。野草の香りが強く、長粒米がホクホクしてうまい。
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ハマダイコンの葉っぱのトーレン(炒め煮)。あのゴワゴワした葉っぱをよくぞここまで仕上げてくれましたという美味しさ。丼でモリモリ食べたい。
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ニンニクでマリネした鶏とヨモギのオーブン焼き。ヨモギの風味が加わることで、一気に野趣が溢れてくる。
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塩揉みしたハマダイコンは味が濃く、バリっとした歯ごたえもよかった。育つほどに筋っぽくなるが、この時期ならまだギリギリ美味しく食べられるようだ。
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最後はカキドオシのお茶。なんだかリラックスできる味と香り。

そんなこんなで、今年は今まで以上に充実した七草イベントとなった。

野草にかかわらず天然の食材は、誰もがわざわざ自分で獲ってきて食べる必要はないし、健康的にも金銭的にも大きなメリットはないと思う。交通費とか掛かる時間を考えればマイナスの面が断然多いので、私も別に毎日食べている訳ではない。

それでも獲るという経験やそれを食べることで得られる刺激が、私には日々の生活にスパイス的な役割を果たしてくれている。人によっては生理的に合わないスパイスだとは思うので、おすすめは全然しないんですけどね。


持ち帰ったハマダイコンを使って、家でもオリジナルのお粥を作ってみた。根の部分を良く洗って丸ごと入れたお粥を炊き、その上に葉っぱとカニカマ(紅白でめでたいから)をショウガと胡麻油で炒めて乗せた一草粥だ。どちらかといえば大根飯か。

来年はもう少し美味しくできるといいかなという出来栄えだったけど、今年もよろしくお願いいたします。

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お粥と炒め物、別々に食べた方がいいかなという味がした。

 

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