密集地帯に8文字を追加するという無茶
2018年12月に新駅が「高輪ゲートウェイ駅」だと決まり、JR東日本の東京近郊路線図を真っ先に確認した。
新駅ができるのは品川駅と田町駅のあいだ。JRや地下鉄が密集する地帯だ。あそこに「高輪ゲートウェイ」って入るスペースあったっけ……?
ここに「高輪ゲートウェイ(Takanawa Gateway)」をねじこむのである。絶対どこかにぶつかっちゃう。
スペースを空けるため、田町を上に動かすと、浜松町も一緒にずれるから、東京モノレール(赤の線)も動かす必要がある。あっちを動かすとこっちがズレる。これは大変だ……!
大変なのはJR東日本だけじゃない。地下鉄や私鉄にも「近郊路線図」として、JRを含めた路線図を提供しているところがある。そっちも更新しないと!
例えば都営地下鉄。高輪ゲートウェイができるのは、都営浅草線の泉岳寺駅のそば。
高輪ゲートウェイと泉岳寺は「乗換駅」となるので、駅名を枠で囲ってひょうたんみたいにつなげないといけない。
あれもこれも直さないと……と、駅名が発表されたその日のうちに手持ちの路線図を調べ、「『高輪ゲートウェイ駅』を路線図にどうやって入れるか」というnoteを書いたりした。それはそれはあわあわした。
あれから1年3ヶ月。ついに答え合わせのときが来た。
2020年3月14日、高輪ゲートウェイ駅開業。デザイナーの方々がどんな解決策を生み出したのか見に行こう。
高輪ゲートウェイ本人を直撃
到着したのは朝の9時ごろ。高輪ゲートウェイ駅は既に多くの人で賑わっていた。
開業の様子は各種ニュースサイトに任せて、そんなことより路線図である。どこ?どこにある?
新しい家具を部屋に入れるとき、スペースが足りないからって部屋ごと広くするわけにはいかないだろう。「高輪ゲートウェイ」を路線図に入れるのも同じだ。
周りを片付け、なんとかしてスペースを確保する。新旧を比較するとその苦労が見て取れる。すごい。両手を合わせて拝もう。
ちなみに、冒頭に紹介した「路線ネットワーク」も同じように更新されている(JR東日本公式HP)
さて、次はきっぷ売り場にある運賃表である。改札を出よう。現状、高輪ゲートウェイ駅に改札はひとつしかない。
券売機の上の運賃表を見たいだけなのだが、きっぷ売り場にめちゃめちゃ人が並んでいて近づけない。150分は待てないな……。
……と思っていたら、Suicaのチャージはチャージ専用機からすぐできるとのこと。
まだ残額には余裕があるけど、近づくためにチャージだ。運賃表を見るためだけに1000円を投入する。
きっぷ運賃表は駅ごとの「一点もの」だ。高輪ゲートウェイが「当駅」として示されている運賃表は、高輪ゲートウェイ駅にしかない。
つまり、山手線の上に「高輪ゲートウェイ」が横たわっている姿を見られるのはここだけ。このせいで山手線が横長の楕円になり、円の上半分は駅間がゆったりしているなぁ、と趣を感じよう。
さて運賃表が「一点もの」ということは、他のJRの駅にはまた別のデザインの運賃表が掲出されている。
他の駅では「高輪ゲートウェイ」がどう入ってるか見に行こう。
半年前に既に準備ができていたJR
実は、JR各駅に掲出されているきっぷ運賃表は、2019年10月にすっかり変わっている。消費税増税にともなって、運賃を改訂したためだ。
で、2019年10月に変えたばっかりなのに、2020年3月に高輪ゲートウェイ駅を追加するから、とまた全部変えるのは面倒くさい。
というわけで、10月の段階で既に「高輪ゲートウェイ」を入れるスペースがこっそり用意されていた。
こうやってあらかじめスペースを作っておけば、あとから駅名を書いたシールをペタッと貼るだけで作業完了である。
2020年3月14日は「JRの運賃表にシールが貼られる日」でもあったのだ。
JRの各駅で「高輪ゲートウェイ」が他とぶつからないように、と心が配られているのがわかるだろう。
それなのに、フォントサイズを小さくしたり、2行に改行したりという小細工はしない。ハードボイルドだ。
ちなみに個人的に一番気になっていたのは池袋。駅構内の天井が低いので、きっぷ運賃表の高さがかなり狭い。いったい、どうなってるんだ?
JRついでにもうひとつ。
JR秋葉原駅にあるインバウンド向け路線図にも高輪ゲートウェイの姿がある。
できたてホヤホヤの路線図をもらう
続いて地下鉄。高輪ゲートウェイから歩いて数分のところにある、都営浅草線の泉岳寺駅はどうか。
泉岳寺は赤穂浪士ゆかりの地。高輪ゲートウェイ駅のフィーバーぶりに比べると、街はすっかり落ち着いていた(路線図に気を取られて街並みの写真を撮るのを忘れた)
ただ、泉岳寺駅には都営地下鉄全体の路線図が見当たらなかった。あれが一番見たいのに。
どこにあるのかとさまよって、新橋駅まで来てやっと見つけた。
なんだか息子の合格発表に付き添いできた親の気持ちである。あの子は1年間よくがんばったわね……みたいな感慨深さがある。
ちなみにこの柱をバシャバシャ撮っていたら、近くにいたインフォメーションの駅員さんから「これ新しい路線図なのでどうぞ~」とできたてホヤホヤの路線図をもらった。わーい。
東京を走るもうひとつの地下鉄網、東京メトロはどうか。
同じ新橋駅で東京メトロ銀座線乗り場まで行ってみる。
私鉄はドライ
こうなると私鉄各線も気になる。だが、そもそも近郊路線図がなかったり、あっても品川周辺が含まれていなかったりするので、数は少ない。
山手線周辺を回った限りで変わっていたのは、京浜急行くらいだった。
惜しかったのがつくばエクスプレス。
「高輪ゲートウェイ」が命名される前から、近郊路線図に山手線新駅の場所が空けてあったのだけど……。
デザイナーのみなさんお疲れ様でした
路線図の数だけ、それを手がけたデザイナーがいる。「高輪ゲートウェイ」を追加するために、四苦八苦してスペースを確保した方も多いだろう。皆さまお疲れ様でした……!
新しく駅ができたり、駅名が変わったりして、路線図は時と共に形を変えていく。まさに生き物。記録を残しておかないと、以前の路線図は二度と見られなくなる。
……というわけで、路線図を記録した本が出ます。その名も『日本の路線図』(三才ブックス)。
当サイトのライター・西村まさゆきさんと、エッセイストの宮田珠己さんとの共著です。デザインは『もじ鉄』の石川祐基さん。
全国149社の路線図を集めた「路線図図鑑」になっています。ぜひお手元にどうぞ……!
また、発売に伴い書店でのイベントも開催します。こちらにもぜひお越しください……!
日時:3月23日(月)19:00~
場所:書泉グランデ(神保町)
出演者:宮田珠己 、西村まさゆき、石川祐基、井上マサキ
詳細は書泉グランデのHPで。