単純にいい宿だった
現役時代を知っていて思い入れがあれば喜びもひとしおなのだろうが、鉄道ファンじゃなくても1泊1人あたり3,000円の安宿として使えるのがいい。
設備は整っていて高千穂市街からのアクセスも悪くないし、大通りからは離れているので外は静か。朝には大きな窓から陽の光が部屋全体に射し込み気持ちよく起きられる。楽しく過ごすことができた。
かつて宮崎県の高千穂町には鉄道が通っていた。陸の孤島とも言われる宮崎県北の山間部と、海沿いの都市である延岡市を繋ぐ高千穂鉄道だ。
そんな高千穂鉄道は平成17年の台風の被害で鉄橋が流されたあと、復旧を果たすことなく廃線となったが、一部線路や車両は観光誘致のために現在も活用されている。
高千穂と延岡の間に位置する日之影町には、当時運行していた車両の内部を改装した宿泊施設があり、その名をTR列車の宿という。
このたび鉄道好きの友人が遊びに来てくれたので列車の宿に泊まってみることにした。
今回の記事の舞台。左から高千穂町、日之影町 TR列車の宿、延岡駅。
約20年前に猛威を振るった台風14号によって全線廃止となった高千穂鉄道。
かつての駅や線路は今でも観光面で有効活用されており、日之影温泉駅はその最たる例である。元は国鉄高千穂線の日之影駅として開業したが、第三セクターに移管してのちに温泉施設が併設されて日之影温泉駅と改称された。
廃駅となった現在も温泉に入ることができ、部屋数は限られているが列車を改装した宿に泊まることもできる。
清流が眼前に流れる駅舎のそば、外観を保ったままのTR-100形気動車が宿として線路の上にデンと構えている。どこか古ぼけたデザインが周囲の風景にあっていた。
列車の宿は1人部屋、2人部屋、4人部屋の3タイプの客室が用意されている。
今回は定員2名の洋室に泊まることにした。料金は1室6,000円。1人あたり3,000円である。安い。高千穂の市街地から車で20分とアクセスもよく、温泉施設がすぐ隣に併設されていることを考えれば破格の値段である。
中に入ってみるとベッドや洗面台、冷蔵庫やテレビも設置されている。
もともと運転席があった場所はトイレに改装されていたが、鉄道好きの友人は少し喜んでいるように見えた。運転室がトイレでなにがいいのか。いまいちツボが分からず、運転室って意外と狭いんだなぁとボンヤリ思った。
運転室に入ってみると普通の水洗トイレが設置されていた。運行当時を感じさせるものはないかと探したが何も見つからない。ダメもとでゴミ箱のフタを開けて確認したら中身はちゃんと空だった。ゴミ袋の取替え、ヨシ!
車両のドアを開けて中に入ったときには非日常を感じたが、目が慣れると縦に長めで窓がでかいだけの部屋になってしまった。それでもなお違和感のあったポイントをいくつか紹介したい。
僕がいちばん楽しんだのは玄関である。普通の宿と比べると狭すぎておもしろい。ドアは中に折れるタイプなので靴が置いてあると開閉もままならないのだ。
靴が潰れるがおもろいな~と笑いながらドアの開け締めを何度も繰り返した。
久しぶりに会った友人は酔っ払って朝まで床で寝ていた。
それもそのはず、大阪から宮崎までの長旅をしたうえに、紆余曲折あって日中は神輿を担いだので疲れていたのだ。ここで言う神輿とは比喩ではなく本物のお神輿である。
いきなり神輿とか言いだして申し訳ない。奥行きのない単純な話なのだが、僕が勤める神社の祭典日と友人が遊びに来る日がバッティングしてしまったのである。せっかくなのでお神輿の奉仕はどうかと打診したところ、友人は参加したいと快く応えてくれたというわけだ。
友人は肩が真っ赤になるほど一生懸命に神輿を担いだあと、僕の職場の飲み会に参加させられた挙げ句にチャーハンを取り分けるなどして場に馴染んでいた。
現役時代を知っていて思い入れがあれば喜びもひとしおなのだろうが、鉄道ファンじゃなくても1泊1人あたり3,000円の安宿として使えるのがいい。
設備は整っていて高千穂市街からのアクセスも悪くないし、大通りからは離れているので外は静か。朝には大きな窓から陽の光が部屋全体に射し込み気持ちよく起きられる。楽しく過ごすことができた。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |