文化が違うと地味のとらえかたも違うのか
ぼくは、伝説の第1回に参加したが(しょうもない自慢)まさか海外で開催されるほどになるとは考えが及びもしなかった。
台北市の大直という町にあるイベントスペースにやってきた。
主催の陳さんは、地味ハロウィンをネットニュースで見かけ、台北での開催を思いついたという。
日本語でインターネットをしていると、つい、ネットが世界につながっていることを忘れがちだが、こうやって、連絡を取り合って実際に会うと、インターネットが、まさにインターなネットであることを実感してしまう。
上の写真は、陳さんとの記念写真だ。左側のぼくの仮装については、後ほど述べることにして、右側の陳さんの仮装は「タピオカミルクティーを頼んだけどストローの太さを間違えた人」らしい。うっかり、写真におさえ損ねてしまったが、タピオカミルクティーを飲むには細すぎるストローも手に持っている。
いきなり、ハイレベルな地味さで、まじで吹き出してしまったうえに、感心してしまった。これは気を引き締めて取り掛からなければならないことを悟った。
台湾の地味ハロウィンいっきに見る
というわけで、会場で話を聞けた人、写真を取らせてもらった人の地味仮装を、いっきに紹介しようと思うが、まずは、台湾ならではという仮装から。
通訳をしてくれた台湾人のTさんが「あ、町でよく見かける感じの人!」と、やたらウケていた。
西門町という、歌舞伎町と渋谷センター街を混ぜ合わせたような町が台北にあるのだが、そこで「くじ付きレシート」を集めている大学生の仮装である。
台湾では、レシートの破棄を防止するため、レシートにくじがついている。そのレシートを集めて当たりのレシートがあれば募金するという活動が台湾では行われているらしい。
ただ、日本人のぼくにさえ「あぁ、いそうだな」と思わせてしまうオーラが、彼にはあった。
台湾全土で使える(たぶん)悠遊カードというIC乗車券があるのだが、それの古いバージョンを持っている。で、改札での反応がちょっと悪いのだそう。
これ、古い悠遊カードを持っているだけで、成立する仮装である。台湾、地味ハロウィン初開催でこれだけハイレベルな仮装が出てくるのがすごい。
この仮装「友達の結婚式に行く人」でも良かったわけだけど「ご祝儀を600台湾元しか包まない」というストーリーを上乗せしてきた。台湾では、結婚式のご祝儀相場の最低ラインが、600台湾元(2000円ちょっと)らしい。
あと、男性の(女性もだが)服装が、結婚式というわりにはカジュアルすぎやしないか、と思ったが、きくと台湾の結婚式の出席者の服装はこれくらいラフでいいそうだ。
台湾では、日本と同じくプロ野球が人気なんだな。ということがよく分かる仮装。感心したのが、野球終わりなので、他の観戦者で席が埋まっているため、席を探している。という設定に芸の細かさを感じる。
ちなみに、兄弟は、台湾の老舗野球チームで、日本でいえば巨人の存在に近いかもしれない。(異論はみとめます)
この仮装も台湾ならではである。日本だと学校の部活動はひとつだけ、といったイメージがあるけれど、台湾の部活動は、複数の部に参加するのが珍しくないらしい。
手に持っているのは、後輩からのメッセージボードである。複数の部活動に参加しているので、複数持っている……というところを再現している。
まったくわからないと思う。ぼくもわからないけれど、この人達が持っているのが「桂格 養氣人參」という台湾ではよく知られた栄養ドリンク(?)だ。さしずめ「ウコンの力」みたいなものだろうか?
台湾の人からみた「日本人観光客」という仮装である。
とくに、帽子の方のこだわりがすごかった。手に持っている台湾のガイドブックには無印良品の付箋。暑さを警戒して帽子をかぶりがちだが、エアコンが効きすぎているところに備えてストールも装備。
そして、迪化街(台北にある観光地)で買った漁師網バッグを持っている……。という完璧さ、観察力がすごい。
漁師網バッグ、たしかに家族旅行で台湾に行ったとき、妻も買っていた。帽子もかぶっていたし、あんたうちの家族旅行みたんか? と思わず唸ってしまうほどの再現度だった。
日本人観光客の仮装だとこんなのもあった。アジアで最初に同性婚を法制化した台湾。この地味ハロウィンが行われた10月26日も、市内で大きなパレードが行われていた。
ぼくもインドに行ったとき、選挙運動のパレードに遭遇したことがあったが、旗やタスキを渡され、よくわからないまま候補を一緒に応援したことがあった。
将棋といっても、シャンチーと呼ばれる中国象棋だ。この二人、別に示し合わせたわけでもなく、偶然同じテーマの仮装をしてきた他人同士だった。テーマがカブるという、地味ハロウィンによくあるやつである。
どっちも、いかにも台湾の公園で将棋をやってそうなおじさんっぽい地味なかっこうである。
帽子の方は、おじさんがよくかぶっている、適当な文字が書いてあるキャップを、わざわざ手作りしてきたという。
国軍の兄弟が遊びに来た。という仮装である。
台湾にはつい最近まで徴兵制があった。(今は志願制に移行)そのため、軍隊勤務の経験がある人が多い。
ただ、そんな事情をしらなくても、軍隊勤務の兄弟が遊びにきたんだな。ということはなんとなくわかるきがしないでもない。
丸刈りとモスグリーンのTシャツの説得力たるや、である。
グローバル化する地味の概念
台湾の事情を知らなくても「あー、はいはい」となる仮装もやはり多い。地味の概念のグローバル化である。
こういう感じになっている人、日本でも見かける。デパートのトイレの前とかによくいそうである。
台風の中、というシチュエーションがポイントである。この人の仮装はすごくて、ヘルメットに木の葉っぱを差し挟むという芸の細かさ。
日本も台風がたくさん来る国だが、台湾もまけないぐらい台風が多い。台風に関する描写にはつい力が入ってしまう気持ち、わかる。
名刺交換のとき、ついニヤニヤしてしまう人、ぼくもそうだが、この機微を仮装にしてきたかーと、恐ろしくなる。あと、台湾にも名刺あるんだなという気づきも。
猫カフェにうっかり黒い服で行っちゃった人、である。台湾の地味概念のレベルの高さが窺い知れる。すごくないですか。
誕生日の人の方は、髪の毛や顔にクリームがついているが、これは誕生日会の余興でついたクリームを表現しているそうだ。ちなみにこれはシェービングフォームだったので、ちょっと、さわやかな匂いがしていた。
なお、メッセージボードは実際の誕生日会でもらったものらしい。複数の部活に入っている卒業生の人もそうだったけれど、台湾の若者の間では、こういった寄せ書きをするメッセージボードを贈り合う文化があるのかもしれない。
こういうのは偏見になってしまうかもしれないが、あえていう。いかにも選挙に出てそうだ。日本だと「女性が輝ける社会を実現」みたいなスローガンを入れちゃったりするところだが、「正義戰將」というところに台湾感が出ている。
マンションなのに、マンションの絵ではない。これは、台湾のネットミームのネタが元ネタらしい。台湾のネット好きがみると「あー、はいはい」となる(はず)
中二病である。「人間失格」の文字。「中二病」の概念は、台湾でもよく知られているという。
いっけなーい、ちこくちこく! というやつだ。この仕上がり方はカタギじゃねえぞ、と思っていたが、この方、コスプレイヤーさんらしい。納得。
このトーストをくわえた少女というネタは、日本の漫画でよく見かけると言われるが、その存在が疑問視されている「マンガあるある」である。
実在云々は置いとくとしても、このマンガあるあるが、台湾でも通用するというのは驚きだ。
この方、本物のトレーや受付番号札を、モスバーガーに借りるため、貴重品を店に預けたらしい。
「駐車場のボタンが遠い」というシチュエーションの強さである。確固たるシチュエーションの強さが、ハンドル、ボタンの小道具の雑さをかき消している。
送迎サービスの人、空港によくいますよね……。
服屋の試着室を探している人。この方、服のタグを自作してきていた。既存のやつを適当につけるとかではなく、自作してしまう心意気に敬意を評したい。
地味ハロウィン、仮装が地味であるだけでなく、こういったディティールの努力も地味である。
眼鏡の曇りの表現がすごい。メガネを見せてもらったところ、薄い紙を水で濡らして貼り付けただけらしい。
環境箸、つまりマイ箸のことだ。割り箸ではなく、持参した自分の箸を、今、まさに、うっかり捨ててしまう……というシーンだ。かつて、こんなに悲しいシチュエーションの地味ハロウィンはあっただろうか。
プロパンガスの配達員をやるのにプロパンガスボンベを自作しちゃう。ボディが若干凹んでいるのは、ミネラルウォーターの空タンクをベースにしたからだそう。
イベントに来た人は、最終的に230人ほどにもなったという。つまり、9割方は紹介しきれていない。
ちょっとキリがないので、この辺でひとまず〆させていただきたい。
ぼくの考えた地味仮装について説明させてください
さて、冒頭でチラッと紹介したぼくの仮装についてである。
これを見て、一発でなんの仮想かわかったひとは相当にかんがよろしい。
これは「うっかり体育の授業のかっこうが統一麺みたいになっちゃった人」である。
統一麺とは、台湾に行くと、どこでも売っている、昔からあるインスタントラーメンのひとつだ。
パッケージに描かれている兄ちゃんのかっこうがこちらだ。
台湾の人なら(たぶん)誰でも知っているけれど、誰も仮装しないだろう……というラインを狙わなければならない。
さいわい、統一麺の兄ちゃんだったら、白シャツと青い短パンを準備すればできそうで、仮装のハードルも高くなさそうだったので、仮装のための衣装を日本で購入し、台湾に持っていった。
通訳を担当してくれたTさんに、事前に台湾の事情をいろいろと伺う。
まず、台湾では、統一麺を知らない人はいないだろう、その点は心配しなくていい。しかし、解説文について懸念が示された。最初にぼくが考えていたのは「部屋着が統一麺みたいな人」である。
しかし、台湾には「部屋着」という概念がないらしい。家では外用の服を着て過ごし、寝る前にパジャマに着替えるという。
そこで「体育の授業でスポーツウェアに着替えたらうっかり統一麺みたいになっちゃった人」で行くことになった。
果たして、統一麺はウケるのか……
イベントでは、舞台上で自己紹介したいひとは、自ら名乗り出て紹介するというシステムになっていたのだが、最後に滑り込みで自己紹介をさせてもらった。
自分の仮装を、通訳のTさんに訳してもらうあいだ、台湾のひとたちに「こいつはなんのかっこうをしているのか……」と、固唾をのんで見守られている緊張感はやばい。
通訳のTさんが、紹介をいい切ったタイミングで準備していた統一麺を取り出すと、一瞬で理解してもらえたようで、会場はどっと沸いた。
そうこうしているうちに、上で紹介した「カップラーメンを食べる人」の女子と「カップ麺に入れるお湯を探す大学生」が舞台上に飛び入りしてきて、記念撮影タイムと相成った。
なにがなんだかわからないが、台湾の人たちに喜んでもらえたのであれば、本望である。
日本と台湾、そんなに差はない
しかし、こうやって、台湾の人たちが考える「地味」をざっとみわたしてみると、台湾も日本も、基本的な地味の概念は同じゃないだろうか、という気がしてきた。その上で、お国柄が出てくるのだ。
人間、だれしも考えることは同じではないか。
昔、豊臣秀吉は天下統一したのち、盛大な花見大会を催し、従えた各大名にコスプレをさせたことがあった。秀吉自らは瓜売り、伊達政宗は山伏、蒲生氏郷は茶売り、徳川家康はあじか(木のザル)売り……と、まさに地味ハロウィンのようなことを行っていた。
戦をしていては、地味な仮装で楽しむなどということはできなかったはずだ。
地味な仮装ができる、それは平和であることの証拠である。
※当記事は『デイリーポータルZをはげます会』のサポートによって取材しました。